67 / 67
66 婚約
しおりを挟むリュールが保健室で襲われてから一月以上が経った。
もともとそんなに酷い怪我ではなかったが、周りが過保護になっており、屋敷の外に出ることがなかなか許されなかった。それでもやっとリュールは学院に通うことが出来るようになった。
病み上がりということもあり、ジージャ公爵家から直接学院に行こうと思ったのだが、王宮から馬車がやって来た。
今まではリュールが王城に行って、王家の馬車に乗り換えていたのだが、王子兄弟の乗った馬車が迎えに来てしまったのだ。
リュールが王城を経由しないことを見越したのだろう。
チッ。
隣でダリアスがタヌキ顔に似合わない舌打ちをしている。
「やっと一緒に学院に通えるな。嬉しいぞ」
「また一緒に過ごせるようになれて、嬉しいです」
満面の笑顔のクラウスとエルヴィンに文句も言えない。
分かっているんだよなぁ……。
リュールは遠い目をする。
エルヴィンとクラウスが、リュールのことを好きだということは。
リュールが二人に感じているような、保護者や友人としての愛情とは違う感情だということも。
昨日、リュールは父親であるジージャ公爵に聞いてみたのだ。
王家からリュールに対して、何か言われていないか。
ジージャ公爵は、渋ったが教えてくれた。王宮から正式に婚約の打診が来ていることを。
いいのか?
王家からの話を保留にしていても。
断っていないとはいえ、受け入れてもいないのだ。そんなことをして王家から睨まれるかもしれないのに。それほどの愛情を父親が持ってくれていることが分かって、リュールは嬉しくなってしまった。
自分のあやふやな態度が周りにどれ程の迷惑をかけていたか、改めて分かった。
ベッドに寝ていた間、考え続けていた。リライラの事件は、自分が引き起こしたようなものだと。
リュールがこのままだと、次々と同じような事件が起こるかもしれない。
「なあ、お前達ってさぁ、俺と婚約したいの? 俺のことがそういう意味で好きなの?」
「へ」
「え」
リュールを真ん中にして、ご機嫌に座る王子兄弟にストレートに聞いてみる。
王子兄弟は一瞬、固まった後に、一気に顔を赤くする。
「う、う、うん。す、好きだよ」
「えっと、はい。好きです」
どちらも即答だ。
「そうかぁ、しぁないよなぁ」
腹を決めるしかないのか。
いくら仲がいいと言っても相手は男だ。前世で異性愛者だった自分がやっていけるのか。腹を決めると言っていながら割り切れない思いがある。
その上、王家に嫁げば、嫌でも世継ぎを産まなければならない。
リュールの顔はちょっと青ざめる。
「えー、リューちゃん止めときなよぉ。こいつらしつこそうだよ」
対面に一人で座っているダリアスが、尊い王子様達をこいつら呼びしている。
「うーん」
考え込んでしまうリュールだった。
「し、失礼なっ。しつこいとはなんだっ」
「私の愛を粘着のように言うのは止めてもらおうか」
「だって、そうじゃぁん」
両王子が、ダリアスへと文句を言い、ダリアスは果敢に言い返している。
馬車の中が煩い。それでも止めることなく考え込んでしまうリュールだった。
後日、リュールは父親と一緒にちゃんと国王陛下に面会の連絡をいれて王宮を訪ねた。
婚約の話をするために。
大人だけで婚約を結んでほしくなかった。自分の将来のことだから、自分がちゃんと納得して決めたかった。
当事者の王子兄弟は抜きだが。
リュールは婚約者になることを了承した。
そのかわり、婚約の条件として但し書きを入れてもらった。
王子兄弟から望まれる形でリュールは婚約者になるのだが、いかんせん相手は10歳と11歳。まだまだ子どもだ。成長するにつれ心は変化する。
だから成人(18歳)になった時、リュールと結婚を望まないのなら、その時は婚約を解消することができることにしてもらった。
そんなことがあり得るのか? 父様が呟いていたし、国王陛下にいたっては、頭を振っていた。
人の心は移ろいやすいんだよ。
俺みたいな地味な色味の奴より、可愛い子が現れる可能性が大いにあるじゃないか。
それに行かず後家になっても責任を取ってもらわなくてもいい。
8年分の拘束料は請求すると思うけど。
そして将来、もし婚約者と結婚することになったなら了承してもらうことがある。
将来国王になるかもしれない相手だから側妃や愛妾を持つかもしれないけど、リュールは認めることはできない。
国のために我慢してくれと言われたなら、離婚やむなし。
リュールが産んだ子の魔力量が少なかったなら、その子の扱いをどうするか。蔑ろにされるようなら、やっぱり離婚やむなし。
その子を連れて実家に帰る。
それを踏まえてしか結婚しない。
まあ、先のことだし、結婚自体まだ分からないから、今は言わないけど、結婚となったら、バリバリの契約書を作ってやる。
そして最後にリュールは国王陛下に言った。
どっちの婚約者になるのかは、そちらで決めろ。リュールに丸投げするなと。
ジージャ公爵家に婚約の打診は王宮から来たのだから、リュールにどちらの王子かを選べというのはお門違いというものだ。
国王は渋い顔をしていたが、知るか。
こうして、リュールは王子(どちらか)の婚約者になったのだった。
王宮で王子達による上を下への大騒動が勃発し、国王ですら収集をつけることはできなかった。
結局リュールは二人の婚約者となったのだった。
「違う。そうじゃないっ!!」
そのことを知ったリュールが知らせの紙を足元に叩きつけるのは、婚約を了承してから一週間後のことだった。
*** *** *** ***
これで『初等学院編』は終了となります。
お付き合いを頂きまして、ありがとうございました。
次からは、やっとこさ『高等学院編』になる予定です。
ですが、私事が立て込んでいるのと(転職しました!)、違うお話も少しは書きたいという思いから、『高等学院編』のスタートは少しお時間を頂きます。
いつになるのかは未定です。
申し訳ありませんが、気長にお待ちいただければと思います。
宜しくお願いします。
83
お気に入りに追加
480
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
いつも更新を楽しみにしていました。
高等学院編、首を長〜〜くして待ってます✨
また元気なリュールと仲間たちに会いた〜い💕
お仕事も頑張ってくださいね🥰
感想をありがとうございます。
なかなか私事で手が回らず、お話を書くことが出来ない状況です。
またリュール達をお届けできるよう、頑張ります。
気長にお待ちいただければと思っています。
転職おめでとうございます。無事新しい職場に馴染める事を祈りつつ、更新待ちしたいと存じます。両方の婚約者か。黒幕は一体誰でどっちを狙ってるのかなぁ。まぁ2人と結婚しても産んだ子は王家の血筋よね。などと思いながら読み返して待ちたいと思います。なかなかに厳しい病が流行してる模様 ご自愛下さいませ
感想をありがとうございます。
黒幕が、熊も虐めも出てこないままになっております。
何とか続きが書ければと思っています。
広い心でお待ちいただければ嬉しいです。
両方から送られてきた服をコーディネートして着る。普段の母からのに比べたらマシになるかも。デザイナーさんは泣くけど。
案外息子達が家に押しかける呼び出されて城に行ったりするときの護衛用?貸し出し従業員なら城関連にも行きやすいしね。
感想をありがとうございます。
貸し出し組が何のためかは、後々出てくる予定です。
母の服を着ることが後々あるのか?
これは謎です。
学院編とはいいながら、まだ学院に入学していません。
お付き合いください。