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66 婚約

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リュールが保健室で襲われてから一月以上が経った。
もともとそんなに酷い怪我ではなかったが、周りが過保護になっており、屋敷の外に出ることがなかなか許されなかった。それでもやっとリュールは学院に通うことが出来るようになった。

病み上がりということもあり、ジージャ公爵家から直接学院に行こうと思ったのだが、王宮から馬車がやって来た。
今まではリュールが王城に行って、王家の馬車に乗り換えていたのだが、王子兄弟の乗った馬車が迎えに来てしまったのだ。
リュールが王城を経由しないことを見越したのだろう。

チッ。
隣でダリアスがタヌキ顔に似合わない舌打ちをしている。

「やっと一緒に学院に通えるな。嬉しいぞ」
「また一緒に過ごせるようになれて、嬉しいです」
満面の笑顔のクラウスとエルヴィンに文句も言えない。

分かっているんだよなぁ……。
リュールは遠い目をする。
エルヴィンとクラウスが、リュールのことを好きだということは。
リュールが二人に感じているような、保護者や友人としての愛情とは違う感情だということも。

昨日、リュールは父親であるジージャ公爵に聞いてみたのだ。
王家からリュールに対して、何か言われていないか。
ジージャ公爵は、渋ったが教えてくれた。王宮から正式に婚約の打診が来ていることを。
いいのか?
王家からの話を保留にしていても。
断っていないとはいえ、受け入れてもいないのだ。そんなことをして王家から睨まれるかもしれないのに。それほどの愛情を父親が持ってくれていることが分かって、リュールは嬉しくなってしまった。

自分のあやふやな態度が周りにどれ程の迷惑をかけていたか、改めて分かった。
ベッドに寝ていた間、考え続けていた。リライラの事件は、自分が引き起こしたようなものだと。
リュールがこのままだと、次々と同じような事件が起こるかもしれない。

「なあ、お前達ってさぁ、俺と婚約したいの? 俺のことがそういう意味で好きなの?」
「へ」
「え」
リュールを真ん中にして、ご機嫌に座る王子兄弟にストレートに聞いてみる。
王子兄弟は一瞬、固まった後に、一気に顔を赤くする。

「う、う、うん。す、好きだよ」
「えっと、はい。好きです」
どちらも即答だ。

「そうかぁ、しぁないよなぁ」
腹を決めるしかないのか。
いくら仲がいいと言っても相手は男だ。前世で異性愛者だった自分がやっていけるのか。腹を決めると言っていながら割り切れない思いがある。
その上、王家に嫁げば、嫌でも世継ぎを産まなければならない。
リュールの顔はちょっと青ざめる。

「えー、リューちゃん止めときなよぉ。こいつらしつこそうだよ」
対面に一人で座っているダリアスが、尊い王子様達をこいつら呼びしている。

「うーん」
考え込んでしまうリュールだった。

「し、失礼なっ。しつこいとはなんだっ」
「私の愛を粘着のように言うのは止めてもらおうか」
「だって、そうじゃぁん」
両王子が、ダリアスへと文句を言い、ダリアスは果敢に言い返している。
馬車の中が煩い。それでも止めることなく考え込んでしまうリュールだった。


後日、リュールは父親と一緒にちゃんと国王陛下に面会の連絡をいれて王宮を訪ねた。
婚約の話をするために。
大人だけで婚約を結んでほしくなかった。自分の将来のことだから、自分がちゃんと納得して決めたかった。
当事者の王子兄弟は抜きだが。

リュールは婚約者になることを了承した。
そのかわり、婚約の条件として但し書きを入れてもらった。

王子兄弟から望まれる形でリュールは婚約者になるのだが、いかんせん相手は10歳と11歳。まだまだ子どもだ。成長するにつれ心は変化する。
だから成人(18歳)になった時、リュールと結婚を望まないのなら、その時は婚約を解消することができることにしてもらった。

そんなことがあり得るのか? 父様が呟いていたし、国王陛下にいたっては、頭を振っていた。
人の心は移ろいやすいんだよ。
俺みたいな地味な色味の奴より、可愛い子が現れる可能性が大いにあるじゃないか。
それに行かず後家になっても責任を取ってもらわなくてもいい。
8年分の拘束料は請求すると思うけど。

そして将来、もし婚約者と結婚することになったなら了承してもらうことがある。
将来国王になるかもしれない相手だから側妃や愛妾を持つかもしれないけど、リュールは認めることはできない。
国のために我慢してくれと言われたなら、離婚やむなし。
リュールが産んだ子の魔力量が少なかったなら、その子の扱いをどうするか。蔑ろにされるようなら、やっぱり離婚やむなし。
その子を連れて実家に帰る。
それを踏まえてしか結婚しない。
まあ、先のことだし、結婚自体まだ分からないから、今は言わないけど、結婚となったら、バリバリの契約書を作ってやる。

そして最後にリュールは国王陛下に言った。
どっちの婚約者になるのかは、そちらで決めろ。リュールに丸投げするなと。
ジージャ公爵家に婚約の打診は王宮から来たのだから、リュールにどちらの王子かを選べというのはお門違いというものだ。
国王は渋い顔をしていたが、知るか。

こうして、リュールは王子(どちらか)の婚約者になったのだった。


王宮で王子達による上を下への大騒動が勃発し、国王ですら収集をつけることはできなかった。
結局リュールはの婚約者となったのだった。

「違う。そうじゃないっ!!」
そのことを知ったリュールが知らせの紙を足元に叩きつけるのは、婚約を了承してから一週間後のことだった。






*** *** *** ***

これで『初等学院編』は終了となります。

お付き合いを頂きまして、ありがとうございました。

次からは、やっとこさ『高等学院編』になる予定です。

ですが、私事が立て込んでいるのと(転職しました!)、違うお話も少しは書きたいという思いから、『高等学院編』のスタートは少しお時間を頂きます。

いつになるのかは未定です。

申し訳ありませんが、気長にお待ちいただければと思います。

宜しくお願いします。

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みんなの感想(5件)

るるるるる
2024.01.28 るるるるる

いつも更新を楽しみにしていました。
高等学院編、首を長〜〜くして待ってます✨
また元気なリュールと仲間たちに会いた〜い💕

お仕事も頑張ってくださいね🥰

棚から現ナマ
2024.01.28 棚から現ナマ

感想をありがとうございます。

なかなか私事で手が回らず、お話を書くことが出来ない状況です。

またリュール達をお届けできるよう、頑張ります。

気長にお待ちいただければと思っています。

解除
リリスモン
2024.01.28 リリスモン

転職おめでとうございます。無事新しい職場に馴染める事を祈りつつ、更新待ちしたいと存じます。両方の婚約者か。黒幕は一体誰でどっちを狙ってるのかなぁ。まぁ2人と結婚しても産んだ子は王家の血筋よね。などと思いながら読み返して待ちたいと思います。なかなかに厳しい病が流行してる模様 ご自愛下さいませ

棚から現ナマ
2024.01.28 棚から現ナマ

感想をありがとうございます。

黒幕が、熊も虐めも出てこないままになっております。

何とか続きが書ければと思っています。

広い心でお待ちいただければ嬉しいです。

解除
リリスモン
2024.01.03 リリスモン

両方から送られてきた服をコーディネートして着る。普段の母からのに比べたらマシになるかも。デザイナーさんは泣くけど。
 案外息子達が家に押しかける呼び出されて城に行ったりするときの護衛用?貸し出し従業員なら城関連にも行きやすいしね。

棚から現ナマ
2024.01.03 棚から現ナマ

感想をありがとうございます。

貸し出し組が何のためかは、後々出てくる予定です。

母の服を着ることが後々あるのか?
これは謎です。

学院編とはいいながら、まだ学院に入学していません。
お付き合いください。

解除

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