上 下
66 / 67

65 処罰

しおりを挟む



俺は何個ものガラス瓶が割れた上に気を失って倒れていたらしい。
制服をきていたおかげで、そこまで酷い怪我を負うことはなかった。
だが、左耳と左側頭部に裂傷。左の手首と掌、両足のズボンと靴の間に無数の切り傷が出来てしまった。
保健室が使える状態ではなかったので、学校から一番近い診療所に送られ、それからは自宅療養を余儀なくされている。

「リュール、来たぞ」
ジージャ公爵家にあるリュールの寝室に、当たり前の顔をしたクラウスがやってきた。
“熊襲撃事件”の時に準備された、ベッド脇のクラウス専用となっている椅子に、これまた当然のように勝手に座る。
椅子を片付けておくべきだった。

「毎日こなくてもいいのに」
あの事件から、もうすでに何日も経っているのだが、クラウスは皆勤賞でリュールの見舞いに来ている。

「これはエルヴィン兄上からだ」
「ありがとう。エルヴィンにお礼を伝えておいて」
「分かった」
体調が良くなってきてはいるが、まだリュールの見舞いに来ることの出来ないエルヴィンは、ジージャ公爵家を訪れるクラウスに毎回リュール宛ての手紙と見舞いの品を託している。
手紙は毎回分厚い。

「リライラの処罰が決まった」
「そうか……」
子どもだからと父様は何も教えてくれないが、クラウスは事件の被害者であるリュールにちゃんと事件の事を教えてくれる。

俺を助けてくれたのは、保健室前を通りかかった人で、保健室の中から大きな音がしたのを不審に思い、中を覗いて、倒れていた俺を見つけてくれたらしい。
ありがとう。通りすがりの人。
リュールは元気になったら恩人に菓子折りでも持って行こうと心に決めている。

そのことを話すと、慌てたようにクラウスから止められた。
なぜだ?
クラウス曰く、通りすがりの人は、助けを呼ぶと、すぐにいなくなってしまったとのことだ。
保健室の扉はリライラの魔法で開かなくなっていたはずだった。それを無理やりこじ開けて、助けまで呼んでくれたのに救助活動はしないでいなくなるなんて、なんだか不自然だな。

リュールが火をつけた男は、セルジュ=デンター。スーリャ公爵家の分家のそのまた分家の男爵家の三男だそうだ。
両足太もも部分まで火傷を負って、リュールと同じ診療所に送られたそうだ。
2週間ほどで皮膚が再生する程度の傷だが、治癒魔法をかけてもらわないと痛みが酷いらしい。
隔離されていたからリュールと会うことはなかったけど、会えたら言えたのに、ザマアミロと。

そして主犯であるリライラは捕まった。
リライラは保健室にリュールを閉じ込めた後、平気な顔をしてクラスに戻り授業を受けていたそうだ。
その日の授業が終わり、自宅に帰る馬車に乗り込もうとした所を騎士達によって捕縛された。
馬車へエスコートしていたダリアスは目の前で婚約者が捕まる所を見ることになってしまった。

陛下は異例の速さで処罰を下した。
保健室が破壊されるという隠すことの出来ない事件の為、被害者のリュールに不名誉な噂が広がらないよう、早急に事件を終息させることにしたのだ。
保健室で何があったかなんて当事者にしか分からない。リュールが傷物になったという噂が必ず流れるだろうから。

いくらリライラが未成年だとしても、犯した罪が重すぎた。
リュールの尊厳を踏みにじり、最悪死に至ったかもしれないのだから。
父親であるスーリャ公爵夫妻とリライラは貴族籍の剥奪、平民に落とされた。
スーリャ公爵家は領地のほとんどを没収され、男爵へと降格させられた。
この罰を言い渡された時、スーリャ公爵は嫡男に土下座をして謝罪をしたそうだが、嫡男はそんな父親の頭を踏みつけたという。
そして、着の身着のまま荷物を何一つ持つことを許されずスーリャ親子は屋敷を追い出されたそうだ。
その後のことは分からない。

セルジュは、怪我がある程度治ったら、未成年者が入る監獄に送られる予定だ。不定期刑で、監獄の中での態度で刑期は決まる。
家族全てが平民に落とされ、全ての財産は没収された。
ただ元が平民に近い家柄だったため、暮らしがそこまで変わることは無い。ただ父親は職場を追われてしまい、再就職が難しい状態のようだから、生活は苦しくなるだろう。

公爵家の息子であるリュールに危害を加えた割には、とても軽い処罰だといえる。
本来ならばスーリャ公爵家とデンター男爵家は問答無用で一族郎党処刑されるか強制労働所に送られるのが相当と思われた。

罪が軽くなったのはリュールが国王陛下に願い出たからだ。
この事件を11歳のリライラが主犯として起こしたとは考えられないから。
それにセルジュは分家の子だが、リライラと接点がまるで無い。いつ知り合ったのか分からないままだ。
リライラから虐めをするよう直接指示されていた他の分家の子達は、手紙を机に入れたり、離れた場所から水をかけたりと、リュールに知られないように虐めを行っていたが、それでも恐ろしさに泣いたり震えていた。それなのにセルジュは、直接リュールを襲っている。
セルジュはジージャ公爵家が恐ろしくなかったのか?
子どものリライラの言うことを真に受けて、何をしてもスーリャ公爵家の力でもみ消せると信じていたのか。男は5年生、15歳にもなっていたというのに。

あの時、養護教諭は金で買収されて、わざと保健室を無人にしていた。
だいたいいくら公爵令嬢とはいえ、養護教諭を買収するほどの現金を持っているわけは無いし、子どもの言うことを養護教諭が聞き入れるのもおかしい。
養護教諭は取り調べ途中に自ら命を絶ち、真相は分からないままだ。

リライラとセルジュは取り調べを受けていた中では、話が支離滅裂で、まるで洗脳されたかのように記憶障害を起こしていたとのことだった。
余りにも不可解な点が多すぎる。

リライラがリュールのことを憎んだのは本当だろう。
リュールがいなくなればいいと思ったのも事実だろう。
だけど、やろうと考えて出来ることじゃない。
もしかしたら、リライラは利用されたのかもしれない。
それが誰で何のためなのかは分からないままだけど。

リライラが被害者だなんて決して思わない。
自分に意地悪をする相手を好きになどならない。
それでも、リュールは国王陛下に願い出た。
ベッドから出ることは出来ないから、見舞いに来たクラウスに手紙を託した。

どうか、恩情をお願いしますと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。

BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。 『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』 「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」 ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!? 『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』 すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!? ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

死に戻り悪役令息が老騎士に求婚したら

深凪雪花
BL
 身に覚えのない理由で王太子から婚約破棄された挙げ句、地方に飛ばされたと思ったらその二年後、代理領主の悪事の責任を押し付けられて処刑された、公爵令息ジュード。死の間際に思った『人生をやり直したい』という願いが天に通じたのか、気付いたら十年前に死に戻りしていた。  今度はもう処刑ルートなんてごめんだと、一目惚れしてきた王太子とは婚約せず、たまたま近くにいた老騎士ローワンに求婚する。すると、話を知った実父は激怒して、ジュードを家から追い出す。  自由の身になったものの、どう生きていこうか途方に暮れていたら、ローワンと再会して一緒に暮らすことに。  年の差カップルのほのぼのファンタジーBL(多分)

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...