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57 エルヴィンの誕生パーティー①

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「あ、そうか」
目の前に出された封筒を見て言葉が漏れる。

もうすぐ6月だ。
エルヴィンの誕生日が来る。
今までエルヴィンは身体が弱かったから、誕生パーティーを王宮で開くことはなかったが、今は学院に通えるほどに回復した。
今年の誕生パーティーは、今までの分も含めて盛大に開かれるのだそうだ。
その招待状をエルヴィンから直接手渡された。

「ありがとう。ぜひ出席させてもらうよ」
笑顔を浮かべてはいるが、顔が引きつってしまう。
なんだか嫌な予感しかしない。

まず、パーティーに何を着て行くか。
これが一番の問題かもしれない。
母様の浮かれ具合が目に見えるようだ。
ここぞとばかりに学院の入学式に着せたかった花柄の礼服を持ち出して来るだろう。それとも新しいな服を準備するのかもしれない。
頭が痛い。
エルヴィンとクラウスには釘をさしている。入学式のことがあるから服を贈るなと。
それなのにエルヴィンからは、自分の誕生日なのだから、自分が贈った服を着てくれと煩い。

次に、パーティーに誰と行くか。
残念なことに俺は嫁側男子認定されている。エスコートする側ではなくて、エスコートしてもらわないと、パーティー会場に入れない。
ムカつくのだがしょうがない。
まあ、それ以前に子どもだけど。
ダリアスに頼もうかとも思ったが、兄とはいえダリアスも子どもだ。
子どもなのだが、ダリアスには婚約者ができた。子どもながらにリライラ嬢をエスコートするようだ。
ダリアスに引っ付いていると、ただのお邪魔虫になってしまう。
母をエスコートする父に頼んで、家族での入場にしてもらうしかないか。

それなのにクラウスが俺をエスコートしたいと息巻いている。
エルヴィンは主役だから王宮から離れることができない。そのためにジージャ公爵家に俺を迎えに行くことができないから、今回はクラウスに譲ると言っていた。

お前ら兄弟は人の話を聞いていないのか。
俺はお前達兄弟からエスコートしてもらわなくてもいいんだよ。家族枠で入場するんだから。

それこそクラウスにエスコートされて入場すれば、クラウスの婚約者だと思われるだろう。それなのにエルヴィンから贈られた服を着ていれば、周りはどっちの婚約者か分からずに混乱してしまうだろう。
どっちの婚約者でもないし。

俺は考える。
そろそろ腹を決めないといけない。
わずか10歳だが、貴族の息子として生まれてきた。自分では嫁に行きたくないと思っているが、そのことをまだ誰にも言っていない。
18歳になったら家出しようと考えているなど、言えるはずがない。
だけど、宙ぶらりんのままでは居られない。兄ダリアスは婚約した。次は俺の番だ。
ジージャ公爵である父が何を考えているか分からないが、このまま父から何かを言われるのを待っているべきか……。

そしてエルヴィンとクラウスにも婚約者がいない。
もしかしたら俺が二人の婚約に関りがあるのかもしれない。俺は鈍いが二人から好かれているのは分かっている。

俺が考えているように、王宮は俺を婚約者候補のままにして、ズルズルと時が経って行き遅れになるのを待っているのだろうか? それとも、どちらかの婚約者にしようと思っているのだろうか? 魔力量さえ考えなければ、俺は力のあるジージャ公爵家の息子だから。
でもそうなると将来は王妃もあり得る……うん、ないな。無い。
魔力量3の王妃は無い。

王宮と関わらないために、エルヴィン、クラウス以外と早急に婚約すべきだよな。
だけど嫁側を受け入れたくないんだよ。
もし婚約者を決めるとするならば、早くしないと相手がいなくなってしまう。
うんと年下か、外国の相手しか残らない。

「外国に行くのもいいかもなぁ」
思わず遠い目をして呟いてしまう。

「え、なにっ。外国に遊びに行きたいのか? 待て、そうなると宰相クロイツに相談すべきか、陛下父上に許可を貰うべきか」
「すまないリュール。もう少し待ってくれないだろうか。私の体調がもう少し調ととのったら、いくらでも共に行くから」
「えー、リューちゃんってば、どこに行きたいの? お兄ちゃん予定を空けるよ」
両王子が煩いし、ダリアスも一緒に行くことを決めているようだ。その隣からアレスが冷たい目をしてこちらを見ている。

「ただの独り言に騒ぐな」
クラウス、旅行パンフレットを取り寄せようとアレスに指示を出すな。アレスが迷惑しているぞ。
エルヴィン、もう今は付き添うことがなくなって王宮にいるゴーイル医師を呼びつけようとするな。ゴーイル医師に相談すれば旅行に行けると思うな。
兄様、俺と旅行に行くよりもリライラ嬢を優先しろ。

ウンザリと煩い奴らを見ていた俺の頭の中に光る電球が浮かび上がる(イメージ)

「そうだっ。うんと幼い子を婚約者にすればいいじゃないかっ!」
俺はグーにした手をポンと叩く。
そうだ。そうすれば問題が解決する。

俺が18歳になって家出してしまう頃に、相手の子が10歳前だといい。
そうすれば、婚約解消したとはいっても、その子は新しい婚約者をすぐに見つけることができる。なんせ本来なら10歳の魔力判定後に婚約者を決めるから。
俺が家出をして婚約解消になっても、その子の時間を奪うことにはならない。
もちろん、その子の家には俺の不始末での婚約解消だから、賠償金は払う。俺は将来家出をするために向けて、金を貯めればいいだけだ!

8年後に10歳前と言うならば、現在2歳以下。
すごいな1歳児との婚約か。
幼児を婚約させようという親はいないよな。ジージャ公爵家の力を持っての無理矢理の婚約になるだろう。
ジージャ公爵父様にお願いするか。なんとか願いを聞き入れてもらいたい。

「1歳児のいる貴族家を探して、無理やり婚約。フフフ……」
俺は自分の考えに悦に入る。
まさか俺の独り言を王子兄弟が聞いているなんて考えてもいなかった。

「リュールッ、何を言い出すんだっ。そんなことを許せるはずがないだろうっ!」
「え、リュールは婚約しようとしているのですか? 先に婚約者の家を知らせて下さい。完璧に消滅させてみせますから」
「えー、お兄ちゃんは賛成だなぁ。小さい子はいいよねぇ、リューちゃんに近づかせないようにするのが簡単そうだもんねぇ」
「リュール……何でそうお前は考え無しのことを口にするんだ」
「え、え、え?」
いつも煩い王子兄弟とダリアスはどうでもいいが、アレスにため息を吐かれてしまった!

アレス、何かゴメン。
なぜアレスにため息を吐かれたのか分からないが、アレスに謝る俺だった。

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