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55 アレス視点①

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「あ゛―」
移動教室から戻ると、リュールが変なうめき声を上げていた。

「どうした?」
リュールへと近づいて行くと、リュールが手に持っている物に気が付いた。
午後には体育の授業があるため、着替えなければならない体操服。

いや、元体操服か。
ボロボロになっており、洗えば着られる状態ではない。汚れてもいるが、所々切られている。
もう復元は無理だろう。

「油断した……」
リュールは肩を落としている。
その背中には今日の授業道具全てが入っているリュックを背負っている。

入学して1月が経つ頃から、リュールに対して虐めらしきものが始まった。
初めは机の中に『死んじゃえ』とか『邪魔だ』とかのメモが入っているぐらいで、それほど実害は無かった。
誰が書いたのか、誰が入れたのか。
メモは、わざわざ定規で引いたような文字で書かれており、筆跡は分からなかった。
リュールも気にはしていないようで、誰にも相談はしていないみたいだった。

放置していたからなのか、残念なことに、虐めは徐々にエスカレートしていった。
ノートを破かれたり、教科書が無くなったり。
仕方なしにリュールは、自分の教室から移動する際には、持ち物を全て背負って移動するようになった。
毎回移動の度にリュックを背負うのは、リュールのメンタルを少しずつ削っているようだった。

リュールが手を打たないから、相手は未だに分かっていない。
C組クラスメートではない。
今のように移動教室の後や体育の授業など、教室を空けた後に被害が出ているからだ。
他のクラスとは昼休み以外の休み時間が異なる。その時に犯行をしているのだろう。

「そろそろ相談したほうがいい」
「だなぁ。でも犯人は俺を虐めて何がしたいのやら」
リュールは不思議だといわんばかりに頭を捻っている。

なぜ分からないのだろう。
リュールは目立っている。いい意味でも悪い意味でも。
リュールは燃えたつような赤い髪に美しい顔立ちをしている。口を開かなければ、それこそ近寄りがたい程に。
そして金髪碧眼の美麗な両王子を従えている様は、まるで絵画かいがのように煌びやかで、周りの者達は見惚れてしまう。リュールはまるで尊い女神様のようだ。
本人に言うと、何で女神なんだよっ! て、怒るけど。

憧れられるか、妬まれるか。
リュールがC組だと分かると、魔力量が自分よりも少ないのに、なぜ? と、妬みが憎しみになっているのかもしれない。

それでもリュールに虐めをする者がいるということが驚きだ。
リュールは高位貴族。それも公爵家の息子だ。それだけでも手を出していい相手ではない。そのうえ殿下達がリュールを寵愛しているのは、誰が見ても明らかだ。
そのリュールに虐めをするなんて、普通なら考えられない。
バレたら自分だけの罪では済まないだろう。
子どもの虐めだからなんて言葉は通用しない。それが分からないのだろうか。

犯人をどうやって捕まえるか。
現行犯で捕まえるしかないが、誰か教室に忍ばせておくしかないか……。
どうしても対策はになってしまう。

この学院は初等科ということもあり、年齢的に自分の持つ魔力を上手く使えない者が多い。
それに、どうしても考えが幼いと、魔力を使っていたずらをしようと考える者や、平民の生徒や、貴族とはいっても自分よりも身分が低く抵抗できない者に対して、魔力を使って虐めをする者が出てくる。
不可抗力だとしても、感情が高まってしまい、魔力暴走を起こす者がいれば、死傷者が出てしまうこともある。
そのため、学院全体に魔力防止の結界が張られている。
どんなに魔力量が多くても、学院内では魔法を使うことができなくしてあるのだ。
結界が施されていないのは、魔力訓練などを行う魔力関連の教室だけとなっている。

魔法を使って、犯人を特定することも、捕まえることもできない。
まあ、魔力量3のリュールと、魔力量ゼロの俺では、どうしようもないのだが。
逆に魔力を使っての虐めができないから、直接手を出さなければならなくなり、虐めがで済んでいるのかもしれない。

「しかたないなぁ。午後の体育の授業には出なきゃならないから、あいつらに借りるか……」
リュールの呟きに俺は頭痛がする。

クラウス殿下は王族特有の尊大な所もないし、礼儀正しい素晴らしい方だ。
側近に対しても蔑ろなことをするような方では無い。
側近になれたことはほまれだし、嬉しいと思う。
……でも辞めたい。
クラウス殿下は、リュールの一挙一動に大騒ぎして暴走する。そして、それを止めるのは側近の仕事とされている。
無理だし。

それでなくてもリュールと自分が同じクラスというだけで、嫌味を言われたり、睨まれたりしているのに。
リュールもリュールで、殿下達と一緒の時に、俺に話を振るな。笑いかけるな、近寄って来るな。
リュールの後ろから殿下達に睨まれるのは俺なんだ。
そして、そんなことにリュールは丸で気づいていない。
問題を起こすのは何時だってリュールだし、問題を大きくしているのもリュールだ。
リュールが何かをすると、殿下達を巻き込むと、なぜ学習しない。

今日、体育がなければよかったのに。俺は、これからの騒動を思い、こめかみを押さえるのだった。

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