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54 大人の事情
しおりを挟む「で、今週は無事だったのか?」
国王陛下の問いかけに、宰相クロイツは頭を振る。
「いえ、昨日、登校時に賊が出たそうです」
「そうか……」
クロイツの返答に国王はため息を吐く。
リュールには、国王からの報奨として8名の人員を貸し出しているが、リュールの身を守るために遣わされているとは気づかれてはいない。
もしリュールに少しでも傷がつくようことがあれば、ジージャ公爵家から、どれ程の怒りを向けられるか分かったものではない。
国王からジージャ公爵へは直々に話をしてある。
リュールをどちらかの王子の婚約者にしたい。勿論、正妃として迎え入れるからと。
ジージャ公爵は直ぐには頷かなかった。リュールの魔力量は3しかない。将来王家に嫁がせることを躊躇ったのだ。
それはそうだろう。
可愛い息子が王家に嫁げば、肩身の狭い思いをすることは分かっている。
この国は魔力至上主義だ。特に王家は魔力量を重視して婚姻を繰り返してきた。いくら王子達に望まれたからと言っても他の王族や貴族達からリュールは皮肉を言われるだろうし、あてこすりもされるだろう。蔑ろな扱いをされてしまうかもしれない。
自分の子どもに苦労をさせたい親はいない。
それにリュールが初等学校に行きたいと言い出した時、リュールの両親は息子が魔力量の少ないことを苦にして悩んでいることに気づいてやれなかったと、負い目を持っている。
王子達にはリュールを正妃として娶ったとしても、産んだ子どもの魔力量が少なかったならば、すぐに側妃を娶り、子をなすことを了承させている。
このことをジージャ公爵が知ったならば、絶対にリュールを王家に嫁がせようとはしないだろう。
王子達は二人ともリュールを望んだ。
どちらともリュール以外とは婚約しないとだだをこね続けている。
どちらか片方ならば、もう片方に国の選んだ婚約者をあてがうことができたのに。
困った国王は、当事者であるリュールに選択権を与えた。
王子達には別々にリュールへと礼服を贈り、リュールに選んでもらうことにした。リュールにどちらの王子かを選ばせたのだ。
リュールの選択に文句は言わない。リュールから選ばれなかったならば、国が選んだ者との婚約をする。そう約束させた。
それなのに……。
リュールは国王からの指示を逆手に取り、どちらも選ばなかった。
国王はしてやられてしまったのだ。
おかげで王子達は、どちらもリュールを諦めないままなので、婚約者がいない状態になってしまっている。
頭が痛い。
初等学院に入学したのに両王子に婚約者がいないなど、前代未聞だ。
両王子は、リュールを王家の馬車に同乗させ、初等学院へと毎日通学している。
そして周りに見せつけるように、王子達はリュールをエスコートしている。
もちろん学院の中でも、リュールを婚約者として扱っているし、クラスは違うというのに、片時も離れたくないといわんばかりにリュールにベッタリだ。
学院の中のことは、教師や学院関係者から事細かに連絡がくる。王家の暗部と言われる者達も多く入り込ませ、護衛と監視をさせている。
いくら婚約者と公表していなくても、王子達のリュールへの扱いを見て、周りの者達はリュールを王子の婚約者と思っているだろう。
それも、二人の王子に一人の婚約者だ。
自分の子どもを王子の婚約者にしたい親は多い。
未だに傍系の王族や貴族家、それこそ外国の王家からも、王子達に婚約の打診が多く寄せられている。
エルヴィン、クラウス共に、婚約者の正式な発表はされていないから。王子達がリュールを婚約者扱いしていようとも、諦めきれない家も出てきてしまう。
今のうちにリュールを処分すればいいと思う輩が出て来てしまうのだ。
「ミルが、屋敷の中にまで、賊が入り込んだと怒っておりました。入り込んだ時点でミルに瞬殺されたようですが。護衛騎士達がたるんでいると、鍛え直してやると意気込んでいましたよ」
クロイツが苦笑いをしている。
屋敷の中に入って来た賊や通学途中に襲って来た賊達を捕まえたとしても首謀者を吐かせることは、とても難しい。
ほぼ全ての者達が、自分が大元は誰に雇われたのかを知らない。
実行犯に指示を出すのは、ただの下っ端で、その上、またその上と、何人もの人間を介して指示は出されており、どれだけ捜査をしても、大元まで辿り着けることは決して無い。
トカゲのしっぽ切りで終わってしまうのだ。
少しでもリュールが襲われないようにと、目に見える護衛として近衛騎士達が周りを囲んでいる。それでも屋敷の中に入り込む者達に対しては、ミルとシンがリュールを護っている。
シンは毒のスペシャリストで、リュールの食事や身の周りに毒が入り込むのを防いでいるし、あの可愛らしい顔をしたミルは、賊が入り込もうとも、リュールが気付かないうちに、確実に葬り去っている。ミルとシンは暗部の中でも凄腕と言われる者達だ。
近衛騎士達は、ミルからそうとうしごかれることになるだろう。
いつ襲ってくるか分からない賊に気を抜くこともできない状態のうえに、ミルからの地獄のしごきが追加されるのだから、近衛騎士には耐えてもらうしかない。
それでも期間を満了して無事戻ってくれば2階級特進だ。皆頑張ってくれることだろう。
ジージャ公爵が “うん” と言わないためにリュールを正式な婚約者と公表することができない。
王家から命令を出そうにも、どちらの王子の婚約者か指定できない。
リュールを正式な婚約者にできれば、こんなまどろっこしいことをしなくても、準王族として王家が護ることができる。
王宮に呼びこむことも出来る。
今はそれが出来なくて、派遣した者達に護らせている状態だ。
さてどうするべきか。
国王は痛むこめかみを押さえるのだった。
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