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53 学院生活③

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毎回の食事の席順は、何時の間にか決まっていた。
リュールの右側にはエルヴィン。左側にはクラウス。
クラウスの隣にはダリアス。他の側近アンド側近候補も決まった位置に座るようになった。

で、ダリアスの隣にはスーリャ公爵家令嬢のリライラ=スーリャ。
エルヴィンの側近候補の一人、ジーン=ダット伯爵家の嫡男。ジーンの隣の席にはイザベラ。
他にも側近アンド側近候補の隣には嫁側男子が座っている。

リュールと王子兄弟。
クラウスの側近2名プラスリライラ。
エルヴィンの側近候補は日替わり2から3名プラスその連れ2から3名。
総勢12名ぐらいにもなる大所帯だ。
レストランのテーブルの席は8名。レストランの好意でテーブルを2つ寄せてもらっている。

側近候補アンド側近達の連れ。
連れとは婚約者だ。
王子兄弟が学院に入学したため、今まで婚約者候補としてお茶会に呼ばれていた子や、王家を慮って子どもの婚約者を決めるのを止めていた貴族家が一斉に年頃の子ども達の婚約者を決めた。
リュールの兄ダリアスもそうで、スーリャ公爵家のリライラが婚約者になった。

スーリャ公爵家はジージャ公爵家と並ぶ2大公爵家で、このゾイアーク王国では、両公爵家とクラウスの側近、アレスのストレーナ辺境伯家が3強として勢力を持っている。
2大公爵が婚姻を結ぶということで、力をつけすぎるのではないかと周りからは危惧されたが、王家からはすんなりと婚約の許可が下りたらしい。

リライラは銀髪に近い淡い金髪の黄色みがかった茶色い瞳をした、お人形のような可愛らしい女の子だ。
4兄妹の末っ子の一人娘で、両親からは溺愛されている。
タヌキ顔のダリアスとフワフワフリルてんこ盛りのリライラが並ぶと、ダブル可愛いだ。可愛いが渋滞している。
それでいいのかダリアス。
なんならダリアスの方が可愛く見えるぞ。リュールの兄への欲目かもしれないが。夫側になるダリアスが可愛く見えるのは欲目になるのか?
ダリアスのこれからの成長に期待しよう。

「オーホッホッホ。本日のお料理はジーン様のお苦手な物が入っているのではなくって?」
少し離れた所からイザベラの声が聞こえてくる。

イザベラはダット伯爵家の嫡男ジーンと婚約した。
イザベラは宰相クロイツの孫ではあるが、兄が大勢いるので、ジーンは入り婿になるわけではないし、宰相職を継げるわけでもない。エルヴィンの側近候補ではあるが、伯爵家と爵位が低いため、エルヴィンに気に入られるか、他の側近候補よりも有能でなければ、側近になるのは難しいだろう。将来は王宮の文官になるのかもしれない。

それでも高笑いをしているイザベラを見ながらリュールは思う。
イザベラ、頑張っているじゃないか。
この席には王子兄弟が認めた者しかいないため、イザベラの取り巻き達はいない。それでもイザベラは一生懸命ジーンに話しかけているし、イザベラなりにジーンに気を使っている。
イザベラは悪役令嬢もどきちゃんだが、ちゃんとした貴族令嬢として、婚約者と良好な関係を築こうと頑張っているみたいだ。
ちょっと高飛車言葉遣いだが。
相手のジーンもニコニコと相槌を打っているから、仲は良さそうだ。

ダリアスが言うには、側近は王子のお世話が終わってから食事をとるのだが、食事は婚約者と一緒にとることになっているので、婚約者は食事をせずに相手が来るのを待っているのだと聞いた。
それは面倒だよね、と思ったリュールが婚約者も一緒にと言い出したのだ。
もとが大所帯での食事なのだから、何人増えても一緒じゃん、と。

両王子はリュールが一緒に自分の隣で食事をしてくれるなら、後はどうでもいいようなので簡単に許可したから、婚約者のいる側近達は自分の婚約者を連れてくるようになった。
婚約者達も、王族と食事をする機会などそうそうないから、いい思い出になると、喜んで参加してくれている。

婚約者がいないのはアレスとリュール、王子兄弟だけだ。
アレスはまだ妖精の愛し子としての力が発現していないので、婚約者を決められないらしい。
どれ程の力を妖精から授けられるのか分からないから。
国の根幹に関われるような強い力を持てたなら、高位貴族は勿論、外国の姫や王子様すら嫁に貰えることになるから。

そしてリュールにも婚約者はいない。
リュールは長男ではないが公爵家の息子。
いくら魔力量がレベル3とはいえ、相手は出てきそうなものだ。

しかし、親には聞けない。
怖くて聞けない。
下手に自分の婚約者のことを聞いて、それならばと誰かを連れてこられたら嫌だ。
もし婚約してしまったら、相手に申し訳ない。リュールは18歳で家出をしようと思っているから、婚約者がいたら、相手の8年間を奪ってしまうことになる。
8年後にリュールがいなくなった後、相手にいいお相手が見つからなかったら、それはリュールのせいだ。相手の人生を狂わせることになる。

そしてもっと聞けないのが王子兄弟の婚約だ。
アレスのように理由がはっきり分かっているならいざしらず、なぜか王子兄弟にはいまだ婚約者がいない。
身体の弱かったエルヴィンはまだしも、クラウスは『小さなお茶会』をやっていたのに。
王宮国王は何をやっているのか。
王家の者が初等学院に入学したのに婚約者がいないのは異例のことではないだろうか。

王子兄弟がリュールのことを好きなのは分かる。
さすがにリュールも分かっている。二人のリュールへの態度で嫌でも分かる。
しかし魔力量3のリュールを王家が望むことが無いだろう。
だが、怖くて聞けない。それこそ藪を突きそうだ。
あの国王のことだから、リュールが聞こうものなら、何かしらの難題をふっかけてきそうだ。
それに、小学生男子の王子兄弟は突拍子も無いことをしでかしそうだ。

凄く引っかかったまま、毎日を過ごすしかないリュールなのだった。

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