53 / 67
52 学院生活②
しおりを挟む現在のリュールのお昼ご飯は、大所帯になってしまっている。
各クラスの休み時間は微妙にズレているのだが、昼休みだけは一緒だ。
そして初等学院に給食制度は無い。
自分で食堂に行くなり、購買で昼食を買うなどしなければならない。
リュールは別にどこで食事をとろうが気にしない。
いくら大貴族の令息だとはいえ、C組の皆が利用している学生食堂でかまわない。
いや、できれば学生食堂がいい。
高位貴族のリュールがC組ということは全校中に知れ渡っているから、リュールの魔力量がショボいことは知られてしまった。
貴族の使うレストランに行くと、視線や噂話がウザイ。
これだから初等学院には来たくなかったんだよと思ってしまう。
まあ、初等学校に行っても、貴族のリュールは浮いていただろうけど。
薄々は分かっていたが、昼休みになると、王子兄弟がC組に突撃してくる。
エルヴィンは最初、保健室登校だったが、少しずつ授業に出ることができるようになり、今では昼食を一緒にとることが出来るようになった。
日に日にエルヴィンの体調は良くなって来ており、心なしか肉付きも良くなっているようだ。
とても喜ばしいことだが、リュールは王族と一緒に食事をとりたくない。
王子達はリュールの考えを考慮してはくれないが。
王子兄弟に引っ張られてA組専用のレストランに連れて行かれる。
校内にあるのに贅沢な作りの広々としたレストランだ。
本来ならばA組以外の生徒は入ることは出来ないのだが、王子兄弟が許可した者達は、このレストランで食事することができる。
リュールはA組ではないから遠慮しようとしたのだが、それなら王子兄弟も学生食堂で食事をするといいだした。
現在、学院内に王族は王子兄弟だけしかいない。その王族達がA組専用レストランを使わないとなると、A組専用というレストランのステータスが危ぶまれてしまう。
リュールはレストラン側から泣いて縋られるという事態になってしまい、リュールが大人な対応をするしかなかった。
おかげでレストランからリュールは下へも置かない扱いを受けることになってしまっている。
そしてリュールの他に王子達の側近達もレストランで食事を一緒に摂っている。
本来側近は、自分の主と同じテーブルにはつかない。
王子のお世話をしなければならないから。
実際に動くのは侍従達だが、その侍従達に指示をだすのが側近の仕事だ。
自分の主が何を考えているのか常に推察し、主の視線や小さな動きを見極めて、主から指示される前に動かなければならない。
なにその高度な読心術。
リュールは側近の在り方に驚いた。10歳前後の子ども達に何を求めているんだか。
「なあ、皆はいつ食事しているんだ?」
王子達の後ろに控えている側近に思わず話しかける。
リュールの一番近くにいたクラウスの側近アレスが驚いた表情でリュールへと視線を向ける。
まさか自分が話しかけられるとは思っていなかったのだろう。
「交代で食べるんだよぉ。リューちゃんは心配しなくても大丈夫」
無口なアレスの代わりにダリアスが答えてくれる。
「いや、わざわざ別に食べるのは面倒だろう」
側近達が大変な職務だということに、リュールはやっと気が付いた。
側近になることは自分の将来のため、家門のために、とても有利なことだとは分かっている。
それでも、なんだか嫌だと感じてしまう。
自分の傍に控え、側近達が努力するのは当たり前、苦労するのが当然だと王子達に思ってほしくないのか……。
いや、違うな。
リュールにすれば、王族と貴族は違うということは分かっている。
王子達に側近が付くのも分かっている。
そうじゃなくて、リュールは王子達に友人ができないのが嫌なのだ。
側近はあくまでも王子達に仕える者達だ。対等では無い。
リュールはエルヴィンとクラウスに対等に接することができる、心から信頼する友人を作ってもらいたい。
せっかく学院に入学して、歳の近い子ども達と一緒に過ごしているのだから。
リュールの気分は、すっかり保護者だ。
側近が悪いというわけじゃない。側近達が控えているから他の生徒達が近づきにくいということはあるだろう。
だから、まずは側近達との垣根を無くそう。
「皆一緒に食事しようぜ。テーブルは広いし席は空いているから問題ないじゃん。俺は我がままだからな。兄様やクラスメートと一緒に食事したい。皆が見ている前で自分だけ食事なんかしたくないよ」
リュールは側近達とも同じテーブルで食事をしようと提案した。
側近達は、それはできませんと固辞するが、それは大人から言われたことをしなければと思っているだけだ。
大人達にこんなことをしていると連絡が行くかもしれないけど、その時は言い出しっぺのリュールが怒られるか、排除されるだけだろう。
「じゃあ僕はリューちゃんの隣で食べるぅ」
「いや、リュールの隣は私だからダリアスは反対の隣に行くといい」
「え、こっちは私が座るから無理」
「酷い。リューちゃん何とか言って」
ダリアスと王子兄弟が席順で喧嘩している。
エルヴィンもクラウスも側近達と一緒に食事をするというリュールの提案に、すんなりと応じてくれている。
今はレストランの従業員達しかいない。王族のやることに注意なんかできない。
自由にしてもいいということだ。
この日からリュール達は、皆で同じテーブルで食事をするようになったのだった。
12
お気に入りに追加
480
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる