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52 学院生活②

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現在のリュールのお昼ご飯は、大所帯になってしまっている。

各クラスの休み時間は微妙にズレているのだが、昼休みだけは一緒だ。
そして初等学院に給食制度は無い。
自分で食堂に行くなり、購買で昼食を買うなどしなければならない。

リュールは別にどこで食事をとろうが気にしない。
いくら大貴族の令息だとはいえ、C組の皆が利用している学生食堂でかまわない。
いや、できれば学生食堂がいい。
高位貴族のリュールがC組ということは全校中に知れ渡っているから、リュールの魔力量がショボいことは知られてしまった。
貴族の使うレストランに行くと、視線や噂話がウザイ。
これだから初等学院には来たくなかったんだよと思ってしまう。
まあ、初等学校に行っても、貴族のリュールは浮いていただろうけど。

薄々は分かっていたが、昼休みになると、王子兄弟がC組に突撃してくる。
エルヴィンは最初、保健室登校だったが、少しずつ授業に出ることができるようになり、今では昼食を一緒にとることが出来るようになった。
日に日にエルヴィンの体調は良くなって来ており、心なしか肉付きも良くなっているようだ。
とても喜ばしいことだが、リュールは王族と一緒に食事をとりたくない。
王子達はリュールの考えを考慮してはくれないが。

王子兄弟に引っ張られてA組専用のレストランに連れて行かれる。
校内にあるのに贅沢な作りの広々としたレストランだ。
本来ならばA組以外の生徒は入ることは出来ないのだが、王子兄弟が許可した者達は、このレストランで食事することができる。

リュールはA組ではないから遠慮しようとしたのだが、それなら王子兄弟も学生食堂で食事をするといいだした。
現在、学院内に王族は王子兄弟だけしかいない。その王族達がA組専用レストランを使わないとなると、A組専用というレストランのステータスが危ぶまれてしまう。
リュールはレストラン側から泣いて縋られるという事態になってしまい、リュールが大人な対応をするしかなかった。
おかげでレストランからリュールは下へも置かない扱いを受けることになってしまっている。

そしてリュールの他に王子達の側近達もレストランで食事を一緒に摂っている。
本来側近は、自分の主と同じテーブルにはつかない。
王子のお世話をしなければならないから。
実際に動くのは侍従達だが、その侍従達に指示をだすのが側近の仕事だ。
自分の主が何を考えているのか常に推察し、主の視線や小さな動きを見極めて、主から指示される前に動かなければならない。

なにその高度な読心術。
リュールは側近の在り方に驚いた。10歳前後の子ども達に何を求めているんだか。

「なあ、皆はいつ食事しているんだ?」
王子達の後ろに控えている側近に思わず話しかける。
リュールの一番近くにいたクラウスの側近アレスが驚いた表情でリュールへと視線を向ける。
まさか自分が話しかけられるとは思っていなかったのだろう。

「交代で食べるんだよぉ。リューちゃんは心配しなくても大丈夫」
無口なアレスの代わりにダリアスが答えてくれる。

「いや、わざわざ別に食べるのは面倒だろう」
側近達が大変な職務だということに、リュールはやっと気が付いた。
側近になることは自分の将来のため、家門のために、とても有利なことだとは分かっている。
それでも、なんだか嫌だと感じてしまう。
自分の傍に控え、側近達が努力するのは当たり前、苦労するのが当然だと王子達に思ってほしくないのか……。
いや、違うな。

リュールにすれば、王族と貴族は違うということは分かっている。
王子達に側近が付くのも分かっている。
そうじゃなくて、リュールは王子達に友人ができないのが嫌なのだ。

側近はあくまでも王子達に仕える者達だ。対等では無い。
リュールはエルヴィンとクラウスに対等に接することができる、心から信頼する友人を作ってもらいたい。
せっかく学院に入学して、歳の近い子ども達と一緒に過ごしているのだから。
リュールの気分は、すっかり保護者だ。

側近が悪いというわけじゃない。側近達が控えているから他の生徒達が近づきにくいということはあるだろう。
だから、まずは側近達との垣根を無くそう。

「皆一緒に食事しようぜ。テーブルは広いし席は空いているから問題ないじゃん。俺はだからな。兄様やクラスメートと一緒に食事したい。皆が見ている前で自分だけ食事なんかしたくないよ」
リュールは側近達とも同じテーブルで食事をしようと提案した。

側近達は、それはできませんと固辞するが、それは大人から言われたことをしなければと思っているだけだ。
大人達にこんなことをしていると連絡が行くかもしれないけど、その時は言い出しっぺのリュールが怒られるか、排除されるだけだろう。

「じゃあ僕はリューちゃんの隣で食べるぅ」
「いや、リュールの隣は私だからダリアスは反対の隣に行くといい」
「え、こっちは私が座るから無理」
「酷い。リューちゃん何とか言って」
ダリアスと王子兄弟が席順で喧嘩している。
エルヴィンもクラウスも側近達と一緒に食事をするというリュールの提案に、すんなりと応じてくれている。

今はレストランの従業員達しかいない。王族のやることに注意なんかできない。
自由にしてもいいということだ。

この日からリュール達は、皆で同じテーブルで食事をするようになったのだった。
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