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48 初登校②
しおりを挟むウダウダと何か言っている両王子を無視して馬車に乗り込む。
さすが王家の馬車というだけあり豪華な作りだ。広々としており座席はフワフワだ。
ジージャ公爵家にも豪華な馬車は何台もあるが、子どもの通学用に豪華な馬車は出してくれない。
侍従がエルヴィンを抱き上げて馬車に乗せ、リュールとクラウスが続いて乗り込み、最後にゴーイル医師が馬車に乗って完了だ。
車椅子はそのまま残しておく。学院にはエルヴィン専用の車椅子が準備されているから。
リュールの隣にエルヴィン。向かいにクラウスとゴーイル医師を指定して座らせる。
「私もリュールの隣がいい」
クラウスが頬を膨らませて抗議してくる。
金髪碧眼のキラキラ美童のすねた顔は可愛らしい。ゴーイル医師はニコニコと相好を崩している。
クラウスの子どもらしい表情に、中身がアラサーのリュールは胸キュン、とはならない。よく家でダリアスも拗ねた時にしている表情だから見慣れている。なんならタヌキ顔の方が可愛い。
馬車の中は広いから、両王子に挟まれてリュールが座っても狭いことはない。
だが、あえてリュールはクラウスを対面の席に座らせた。
「エルヴィンは初めて馬車に乗るから、できるだけ負担をかけないようにしたいんだ。到着前に具合が悪くなってUターンしなきゃいけなくなったり、入学式に参列できなかったら嫌じゃないか」
「私がリュールの隣に座っても、エルヴィン兄上の具合が悪くなることはない」
「まあ、そうだけどね」
リュールは膨れたクラウスに苦笑いを見せると、自分の膝をポンポンと叩く。
「エルヴィン、ここに頭を置いて」
「え?」
言われたエルヴィンは意味が分からず戸惑っている。
「ほら膝枕。寝ながら移動した方がいいと思うんだ」
リュールはなおも自分の膝を叩いている。
「え、でも、あの……」
意味が分かって、一気にエルヴィンの顔は赤くなる。
「ゴーイル先生にお願いしようかとも思ったけど、先生の膝は頭を置くには高すぎるから、俺ぐらいが丁度いいかなって」
「ハハハ、さようでございますね。座って移動するよりも、寝た状態の方が負担は少ないでしょう。それに、この年寄りの膝よりも、リュール様の柔らかいお膝の方が、何倍も寝心地がよろしいでしょうし、なにより活力が湧くでしょう」
ゴーイル医師も笑顔で膝枕を勧めてくる。
「そ、それならば、あの、お言葉に甘えて……」
モジモジしていたエルヴィンが、リュールの方へと身体を傾けようとする。
「だめーっ! 絶対駄目。なぜリュールが膝枕をしなければならないんだっ」
「いきなりの大声は止めろ。いや、エルヴィンの体調がだな……」
クラウスの大声にリュールは戸惑う。
「クラウス。リュールが私の体調を気遣ってくれているのだ、私は好意をありがたく受け取る」
クラウスの制止も聞かずに、エルヴィンはコロリと寝転ぶ。
「駄目だったら駄目っ。それだったら私の膝をエルヴィン兄上にお貸しする。私の膝枕でいいじゃないか。リュールは駄目だ」
「フフフ、せっかくリュールがしてくれるって言っているのだから、私はチャンスを無駄にしない」
クラウスの申し出に、エルヴィンが勝ち誇ったような顔をしている。
エルヴィンとクラウスは仲の良い兄弟だと思っていたけど……違うのか?
「はー。リュールの膝は柔らかいし、とても気持ちがいいです」
うっとりと目を閉じるエルヴィンは頭をリュールの膝にスリスリと擦り付けている。
「ぐぐぐ……」
握りこぶしで何かに耐えているクラウス。
なんだかエルヴィンの態度もクラウスの様子も思ったのと違う。リュールは困惑する。
「もう終わり! エルヴィン兄上はリュールから離れて。膝枕は終了だってば!」
「煩いなぁ。学院に着くまで、このままに決まっているじゃないか。ねぇリュール」
「へ、あ、ああ」
「リュール、何で返事をするんだ! もう止めていいからっ」
「ハハハ、殿下達はお元気でいらっしゃる」
馬車の中が煩い。
「もしかしてクラウスも膝枕されたかったのか?」
リュールはクラウスへと問いかけてみる。
考えてみればエルヴィンとクラウスは王族だから、幼い頃から甘やかされることが無かったのかもしれない。お忙しい王妃様とは、お会いするのでさえ難しいだろうから、膝枕の経験など無いだろう。
自分が体験したことが無いことを兄が目の前でするならば、自分もしたくなるよな。
いくら王子とはいえ、クラウスはまだまだ10歳なのだから。
「ぐっ。い、いやっ、そっ、それは」
クラウスはリュールの問いかけに、赤い顔をして、バタバタと両手を顔の前で振っている。
「ハハハ、そうですよね。クラウス殿下もリュール様に膝枕されたいですよね」
「せっ、先生っ! 何を言うんですかっ。いや、でも、あのっ」
「先生、要らないことを言わないで下さい。リュールが真に受けてしまったら困ります」
やっぱり馬車の中が煩い。
エルヴィンが馬車酔いして体調を崩さないようにとリュールは気遣ったのだが、取り越し苦労のようだった。
お節介すぎたかな?
明日からは、わざわざ王宮経由で学院に行かないでいいかもしれない。
そう思うリュールなのだった。
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