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26 小さなお茶会第3回③

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「私は兄上よりも先にリュールに服を贈りたいと思います。私は、私が贈った服でリュールに茶会に出てもらいたいのです」
クラウスはきっぱりと言い切った。
兄弟の話を周りで聞いていた者達全員が、その場で固まってしまった。

クラウス、何を言い出す。
動きを止めた人たちの中で、リュールだけが、ゲンコツを作る。
この王子様は、自分が何を言ったのか分かっているのか。絶対分かっていないだろう。
このお茶会の主旨は、クラウスの側近候補と婚約候補を決めることだ。
そんな中でクラウスが贈った服を着たリュールが現れれば、婚約者候補確定と言っているようなものではないか。
それでなくても『小さなお茶会』は、まだ続くというのに。

リュールは気を抜きすぎていた。何も考えていない小学生男子が突飛な行動に出るのは、よくあることだというのに。
なんとかクラウスの発言を撤回させなければ。
王家はリュールのことを王家に迎え入れる気は無いはずだ。これはリュールの魔力量が変えられないから決定事項だろう。
それにリュールも婚約者候補になろうとは思わない。
もし、まかり間違ってクラウスの婚約者候補にでもなってしまえば、準王族扱いになってしまう。今までの貴族令息の生活とは変わってしまうのだ。一挙一動に監視が付けられ自由は無くなる。成人になりましたからと、簡単に婚約破棄して家出ができなくなってしまう。

なんとかしなくては。
幸いなことに、周りにいたのは子ども達だけだ、誤魔化しがきく。はずだ。

「クラウスのお茶会は来年まで続くのだろう。それなら今服を贈る必要はないじゃないか。一人だけ特別扱いしてはいけないと思うよ」
「茶会は来年まで続きますが、別に最後まで候補選びをする必要はないのです。一人だけ来てもらえれば、それでいいのですから」
「あまり早くに他の家を切ってしまうのはどうかな。どの家にもメンツがあるからね」
王子様達は、にこやかに会話しているが、なぜか辺りには冷気が漂っている。
クラウスの魔力は雷が得意だが、もしかしてエルヴィンの魔力は、氷が得意だったりするのだろうか。

「クラウスもエルヴィンからも、俺は服を贈ってもらおうとは思わない。母が俺の服を選ぶのをとても楽しみにしているからな」
リュールは何故か意地になっている兄弟を止めに入る。
母の服を着たくないリュールだが、そんなことは言っていられない。

「兄上はリュールに服を贈ると仰っていますが、リュールの好みを知らないでしょう。その点私はリュールの好みを知っていますから、私が贈るべきなのです。リュールはピンクやオレンジのドレスシャツが好きなのですよ。それにフリルやコサージュも多く付いているのが好きです」
胸を張るクラウス。

次の日にはリュールの着ていた服装のことなんか忘れていると思っていたが、そうじゃなかったんだなクラウス。
1回目の茶会の時や、ピクニックの時のドレスシャツも憶えていただなんて凄いじゃないか。
って、ちっがーうっ!!
奇抜なドレスシャツを着てきたからといって、それが当人の好みとは限らないと気づけ。あのドレスシャツを着ていた時の死んだような目が分からなかったのか。

「ほう、そうなのか。暖色系が好みなのか」
エルヴィンが頷いている。
真に受けるな!
この赤黒い髪に、暖色系が合うわけはないだろうが。

「服はいらない」
思わずリュールは地の底から出たような声をだす。
王子様達の好意に対して、不敬な発言だが、周りは何だか哀れな者を見る目をリュールに向けている。

「大丈夫だ。リュールの好みの服を贈るから、任せておけ」
「私もリュールの好みに合った物を選ぼう」
この兄弟は人の話を聞きはしない。

「服は貰わないって言っているだろうがっ。お前達兄弟はもう喋るな! これ以上トンチンカンな服を選ぶって言い続けるのなら、その口を縫い付けるぞっ」
「「なぜだ、リュール」」
兄弟がハモって、困惑した声をあげるが、とうのリュールは鼻息が荒い。
不敬だろうが何だろうが、絶対に服は貰わない。そうリュールは心に決めた。

「ま、まあまあリューちゃん」
とうとう王子達を怒鳴りだしてしまった弟を、慌ててダリアスが止めに入る。いくらポンヤリとしているとはいえ、ジージャ公爵家の嫡男、弟を修めるときは修める。

「王子殿下達も、初めて服をプレゼントしようとしているのだから勝手が分からないんだよ。どうせオーダーメイドなんだから、デザインの時からリューちゃんと一緒に考えてもらったらいいんじゃないの。母様の時とは違って、リューちゃんの好みに合わせてくれるよ」
「「それだ!!」」
ダリアスの提案に王子達が身を乗り出す。

「違う。兄様違うんだ。俺は服を貰いたくないって言っているんだよ……」
ガックリと力が抜けているリュールに、何がいけないのか分からないダリアスが小首をかしげている。
いくら可愛い垂れ目なタヌキ顔とはいえ、そんな表情をしても駄目だからな!
でも、それ以上兄には強く言えないリュールだった。

「そうと決まればデザイナーを探す必要があるな!」
「リュールの好みのデザインの服を作ってみせよう」
王子兄弟の鼻息が荒い。
何だかすぐに王宮に呼ばれそうだ。

こいつらもう嫌だ。
嫌なことから目をそらすリュールだった。

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