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14 王宮へ③
しおりを挟む「分かりました。私もリュールと一緒に町の初等学校へ通います。私はリュールと一緒に学校に通うと決めているのですから」
クラウスは、高らかに宣言する。
クラウスはリュールと一緒に初等学校に通うことになれば、高等学院に進学できないということは、分かっていないのだろう。ただリュールと一緒に学校に通いたい、その一心だ。
将来のことを思わない子どもの考えだ。子どもだからしょうがない。小学生男子だし。
クラウスは梃子でも動かない雰囲気を出している。だが、王子様が庶民と一緒に初等学校に通うなどありえない。もし仮に初等学校に通ったとするならば、高等学院に進学する際に、下手な特例を作ることになってしまう。
まあ、クラウスの初等学校入学は無理だな。
かといって、国王も望みを叶えると言った手前、簡単にリュールの望みを駄目とは言いづらい。
さてどうする?
クラウスは、絶対やってやるマンの意気込んだ顔。
クラウスの隣には “うぜー” が顔に出てしまっているリュール。
リュールのクラウスとは反対側に並ぶジージャ公爵夫妻は、リュールの願いが思わぬ波及を呼んでしまい、どうしたものかとクラウスと国王の顔をオロオロと見ている。
「リュールちゃん聞いて頂戴。クラウスは今迄、本当にいい子だったのよ。エルヴィン様が臥せていらっしゃるから、自分がしっかりしなければと、いつも気を張っていたの。自分が周りの手本にならなければと思っていたのね」
リュールは面食らう。
それまでは、ただ微笑んで、一言も喋りはしなかった王妃が、いきなり話しかけてきたのだから。
「そんなクラウスが、無理だと分かっているのに我儘をいうなんて……私は嬉しいのですわ。クラウスの子どもらしい一面が見られて。我儘を言うほどにクラウスはリュールちゃんのことが好きなのね」
王妃様は、涙ぐんだ笑顔をリュールに向ける。
圧力キターッ! 王妃様ナイスアシスト。
俺に折れろという王妃様からの、分かっているでしょうね攻撃だ。この状態ではリュールが折れるしかないのだろう。だが、空気を読めといわれても、こちとら10歳のお子様だ、知らぬ振りを押し通してもいい。
リュールはチラリと両親へと視線を向ける。
両親は隣でオロオロとしているだけだ。決してリュールの意見を無理に取りやめさせようとはしない。このままリュールの願いを止めなければ、自分たちの立場が悪くなるだろうに。
いい親だ。リュールのことを嫁にやろうとは思っているみたいだけど。
しかたがない。
両親の王宮での立場もあるだろう。リュールは自分のために、決して両親に迷惑をかけたいとは思っていない。
兄のダリアスの将来もある。
リュールは家族全員が大好きなのだから。
「分かりました。私の我儘のためにクラウス殿下にまでご心痛をかけてしまい誠に申し訳ありません。私は予定通り初等学園に入学したいと思います。陛下よりいただけるのでしたなら、褒美はフロラージュのチョコレートでお願いいたします」
リュールは頭を下げる。
フロラージュというのは、王都の有名な菓子店だ。行列の出来る店で、なかなか買うことができないという話を聞いたことがある。
リュールにすれば、そこまで食べ物にこだわりは無いので、知っている菓子店も、侍女達が噂話していたこの店だけだ。
まあ、子どものおねだりは、波風立てないお菓子ぐらいが丁度いいだろう。
わざわざ王宮に呼び出されて、お菓子一箱もらって帰るのも社会勉強というものだ。
「え、フロラージュって、私が昨日持って行ったチョコケーキの店だよね。気に入ってくれたの?」
初等学院に進学するとリュールが言ったことに大喜びで、リュールに抱き着こうとして、頬っぺたを押し返されているクラウスが、嬉しそうに問いかけてくる。
「嬉しい。明日また待って行くよ。今度はブラウニーがいいかな。それとも少し前に持って行ったチョコレートボンボンにする?」
クラウスは、ご機嫌だ。
リュールは元気になったというのに、また明日もジージャ公爵家に押しかけるつもりのようだ。
いや、今はそれじゃない。
そうじゃないクラウス。なぜ空気を読まない。リュールは、心の中で舌打ちする。
せっかくこの話が終わって、家に帰れると思っているのに、いらない口を挟むな。
こちとらフロラージュの菓子箱1つで手打ちにするって言っているのだ。フロラージュの菓子をポンポン貰っていることが分かったら、褒美にならないだろうがっ!
リュールは、クラウスに向けて、ニッコリと笑いかける。
右手を拳にして、曲げた人差し指だけを少し出し、左手も拳をつくり、こちらも曲げた人差し指だけを出す。
そして……。
「痛いっ、痛いっ、痛いっ、リュール何をするっ。痛い、痛いっ!」
クラウスの両方のこめかみを、グリグリと思いっきりしてしまうリュールだった。
もちろん魔力は流していないので、小学生男子同士の可愛らしいじゃれ合いだ。
王子様に思いっきり不敬を働いてしまっているが、国王と王妃からは咎められることはなかった。
それどころか国王は腹を抱えて笑っている。
ジージャ公爵夫妻は、青い顔をして倒れそうになってはいたけど。
後日、リュール宛に王宮から褒美が届いた。
フロラージュ本店と支店3店舗分の権利書だ。もちろん全ての権利者はリュールになっていた。
「違うっ、そうじゃないっ!!」
権利書を床に叩きつけながら、リュールが猛っていたが、誰も止める人はいなかった。
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