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12 王宮へ①
しおりを挟む医者や両親からの許可が下り、やっとリュールがベッドから離れることができるようになると、すぐに王宮からお呼びがかかった。
リュールには、なぜ呼び出されたのか、まるで予測がたたない。
熊に襲われた慰労のためか。
自分達の息子をパシリに使うことへの苦言なのか。
リュールの怪我が治ったことへの祝いか。
王家に目を付けられた? リュールも被害者だが不安は残る。
国王陛下からの呼び出しに拒否できるわけもなく、リュールは両親揃って王宮へと行くことになったのだった。
母よ。
リュールはまたもや遠い目をする。
いつ準備したのか、母の手には真っ赤な小児用ドレスシャツが握られている。
ものすごく上等で、可愛らしいデザインなのは見て取れるが、赤髪に赤いドレス。なぜそのコーディネートになるのか……。
父よ、何か一言いってくれ。
リュールの願いは、目を逸らす父親によって、叶えられないことが分かってしまった。
全身赤い塊となって王宮へと到着したリュールを、クラウスが待っていてくれた。
すごく楽し気にエスコートしてくれる。
全身が真っ赤だがクラウスは気にした風ではない。まあ、小学生男子に相手の装いを気にかけろという方が無理だった。
すぐに国王陛下と謁見することになったのだが、国王陛下と正妃様までお揃いで、リュールはビビる。
どちらとも初めてお会いする。
小さなお茶会に正妃様はいらしていたらしいが、木登りに行っていたリュールは、挨拶をしたのかすら憶えてはいない。
今現在、国王陛下には3人の妃と5人の子どもがいる。
妃は全てが女性だ。
女性は男性よりも多産で、子どもを作るのに手間がかからないと、王族の妃は女性が多い。もちろん魔力量が男性と同じ時の場合だが。
王子2人に王女が3人。この女性の生まれにくい世界で、女の子の方が多いというのは……陛下凄いな。
この国は魔力至上主義で、女性の地位は高くないが、数少ない女性を尊ぶ国もある。王女はそんな国との政略結婚の駒には最適だ。
現に全ての王女には外国の婚約者がいる。
第2王子であるクラウスと、第1、第2王女は正妃ノーラの子どもで、第1王子と第3王女は、側室マーガレットの子どもだ。
ちなみに近頃、国王陛下は隣国の王女マリアンヌを側妃として娶られたが、まだ子どもはできていない。
二人の王子は母親が違う。
正妃と側室が別々に産んだ子どもともなれば、王位継承で揉めそうだが、第1王子のエルヴィンは、身体が弱く、成人までは生きられないだろうと医師からは告げられている。
生母である側室マーガレットは、エルヴィンにつきっきりで、ほとんど子ども部屋からは出てこない。社交界で人脈を作ることは一切できていないし、もともとマーガレットの実家は、歴史はあるが力のない侯爵家だ。第1王子エルヴィンが王位を継ぐことは、ほぼあり得ないだろうと言われている。
「この度は、クラウスを助けてくれたこと、礼をいう」
挨拶の後に、国王陛下がリュールに感謝の言葉を述べる。
「もったいないお言葉でございます。クラウス殿下の魔法の力があったからこそ熊を打ち倒すことができたのです。私の方こそ、クラウス殿下に助けていただいたのです」
リュールは、家出していた猫を、なんとか被りなおす。
これでも公爵家の息子なのだ、なんとか令息らしい振る舞いをしなければ、家名に泥をぬることになってしまう。
「ほう。リュールは奥ゆかしいのだな。だがリュールがクラウスを助けてくれたのは事実。国王として、いや父親として、我が息子を助けてくれた礼がしたい。何か望みはあるか?」
国王の言葉に、リュールは驚いてしまう。
熊はリュールとクラウスの二人がかりで倒した。リュールだけで倒したわけでは無い。
そのことは、助けに来たザッファや侍従達にも、ちゃんと話したはずだったのだが……。
もしやクラウスが話を盛ったのか? 小学生男子だったら、俺が俺がと言うところだろうが、相手はナイスガイ・クラウス。人を立てることを知っている。
侮れないな。
自分の横で、忠犬のようにキラキラとした目でこちらを見ているクラウスへと、チラリと視線を向ける。
毎日クラウスは公爵家に押しかけて来ているから、随分と親しくなった。
公爵家の家族とも仲良くなっており、兄のダリアスは、このままいけばクラウスの側近になることは間違いないだろう。
両親も、リュールのクラウスへの態度を咎めない程度には気安くなっている。
だが、いくらリュールとクラウスが仲良くなったからといっても、クラウスは王子様であることには変わりない。
リュールも元気になったのだから、そろそろ線引きをしなければならないのかもしれない。
リュールは少し考え込む。
何を国王に望むべきか。何もいりませんと言ったところで、無欲で好ましいとは思われない。国王陛下からの好意を無視することになってしまうから。
リュールは王家からすれば、高位貴族の令息だが、魔力量の少ない関わりを持ちたくはない相手だ。クラウスが入れ込むのを好ましくは思っていないだろう。
クラウスも王家から無理やりリュールから引き離されるのは嫌がるだろう。
それならば……。
「それでは国王陛下に、お願いしたいことがございます」
リュールは、ゆっくりと口を開いたのだった。
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