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7 ピクニック②
しおりを挟む無事に泉のほとりに到着することができた。
道中リュールは、クラウスと、まあまあ仲良くできたと思う。
リュールにすれば小学生男子の相手も、そうまで苦手ではない。前世の仕事関係で、小さい子どもの相手をしたこともある。
まあ、小学生男子は、いきなり『ウンチー』とか言って騒ぎだすから、その時は拳骨をお見舞いしていたが。
「まあ、なんて美しい泉なのでしょう。クラウス殿下、連れて来て下さって、ありがとうございます」
目的地に到着すると、リュールはクラウスから手を離し泉へと駆けよる。
リュールは花もそうだが泉にも、そこまで興味は無い。しかし貴族たるもの、キチンと令息らしい感想を述べなければならない。
「あ、ああそうだな。気に入ってもらったなら良かった」
離した手が気になるのか、クラウスは手をモゾモゾと動かしている。ずっと手を繋いでいたから、手汗をかいてしまったのかもしれない。
泉の近くには、登れそうな木はなかったが、追いかけっこをしたり、花を摘んだりと、それなりに楽しめた。
ナイスガイ・クラウスは、そこいらの小学生男子とは違い、虫を捕まえて、ワザと近づけて見せたり、花を踏み散らかしたりなどしなかった。それどころかレディファーストを遺憾なく発揮し、リュールを驚かせたのだった。
リュール的にはレディ扱いはしてほしくないのだが。
少し早いが、お昼ご飯にしましょうということになり、広げた敷物の上に座る。
「俺が作りました。よろしければ食べていただきたいのですが」
リュールは侍従に持たせていた、大きなバスケットを開ける。
中には、これでもかとハンバーガーを詰め込んできていた。もちろん1個ずつ薄紙に包んでいる。
「リュール殿の手作りか?」
「はい」
クラウスの問いに返事をしてからリュールは、はたと気がついた。王族は手作りなど口にはしないということを。
いつも危険が伴う立場だ。いくらリュールの身元がしっかりしているからと言っても、それとこれとは話は別だ。
小学生男子にはジャンクフードだよね、自分も食べたいし。と、簡単にリュールは考えてしまっていたのだ。
「申し訳ありません。手作りをお出しするなど浅慮でした」
「私は食べたい」
クラウスが、慌ててバスケットの蓋を閉めようとするリュールの手を止める。
「殿下、お止めになられた方が」
「いや、せっかくリュール殿が作って来てくれたのだ、私は食べたいと思う」
ザッファとクラウスが揉めてしまっている。
「あの、誓ってクラウス殿下のお身体に害する物は入れておりません。ですが、ザッファ様が心配されるのは当たり前のこと。元から皆さんの分も作ってきておりますから、先に皆さんがお食べになってから、殿下に食べて頂くというのはどうでしょうか」
大きなバスケットに大量に入ったハンバーガーを、リュールはザッファに見せる。
基本、王族や貴族は、侍従や護衛などの使用人と一緒に食事をとることはない。それどころか使用人が存在しているとも思っていないのだ。ましてや手作りの食事を渡すことなど考えられない。
しかし、リュールには前世の記憶がある。一緒にピクニックに来たのなら、一緒に食事をするのは当然だ。
「私たちの分ですか?」
案の定、ザッファが驚いている。
ザッファの他に、一緒に来ている騎士は6人。クラウスの世話をするために、侍従が二人、リュールの侍従もいるのだから、総勢12名にもなる。
「ええ、皆さんと一緒に食べると楽しいと思いまして」
実は侍従に持たせていたバスケットは2つある。あまりにも重いので、騎士様に運んでもらっていたのだ。家の侍従は嫁側男子だからな。
「こんなに沢山作ってきてくれたのか、ありがとう。先にザッファ達が食べるならいいだろう?」
クラウスは食べる気マンマンだ。
ザッファや騎士達が無作為にバスケットからハンバーガーを取り出す。全てが同じような包みになっているので、故意に特定のハンバーガーをクラウスに渡すのは難しいと分かる。
「こっ、これはっ」
ハンバーガーを一口食べたザッファが、目を大きく見開く。
「どうしたザッファ」
自分の分をバスケットから取り出し、まだかまだかとザッファからの許可を待っていたクラウスが、ザッファの反応に、困惑気な顔をしている。
「う、旨いです。こんなハンバーガーを初めて食べました」
「私もです」
「滅茶苦茶旨いです」
ザッファどころか、他の騎士や侍従達も賛同する。
「もういいだろう。私も食べるぞっ」
待ちきれなくなったのか、クラウスがハンバーガーにかぶりつく。
「旨いっ!」
すぐに、パアッと笑顔になった。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
リュールは笑顔で頭を下げる。
ふふん、どうよ。リュールの鼻は高くなる。
このハンバーガーを作るために、リュールは苦労したのだ。それを美味しいと言ってもらえたのだから、嬉しさ倍増だ。
この世界にはハンバーガー用のバンズは有った。ハンバーグもあるし、ケチャップすらある。
ただ1つ無い物。それがマヨネーズだった。
文明が前世よりも発達していないこの世界では、食中毒をよく起こすし、命の危険が伴う。だから、生物を食べる習慣は無い。
もちろん卵も生では食べないから、マヨネーズが発明されてはいなかった。
食中毒の原因として、食べ物を運ぶ手段が馬車しかないので、痛みやすいというのもあるし、冷蔵庫や冷凍庫も無いので保存もきかない。
だが、それよりも衛生管理が緩い。食品の管理が大雑把なのだ。
リュールは、生卵を食べたいがために、ジージャ公爵家が管理している養鶏場の改革を行った。そんなに大掛かりなものではなく、ジージャ公爵家で食べる分だけに手を加えたのだ。
今までの養鶏では、ほぼ放し飼いのような状態で、鶏は何でも食べていた。
毒虫を食べた鶏の卵は、生では食べられないから、管理した餌だけを食べさせるようにした。それに育成状態を衛生的にして、産んだ卵についている糞などは、綺麗に洗い落とすようにさせた。
おかげで、生卵を食べても、お腹をこわすことは無くなった。
生卵が使えるようになったリュールは、試行錯誤をして、酢は無かったがレモンのような果物の果汁を使って、マヨネーズを作ることに成功したのだ。
ただ、卵かけご飯が食べたいがための生卵だったのだが、リュールは米をいまだに見つけ出せてはいない。醤油もだ。
いつか絶対見つけ出してやる。
ハンバーガーにはマヨネーズだよね。
ハンバーガーを口いっぱい頬張って食べているクラウスを見ながら、そう思うリュールなのだった。
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