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4 小さなお茶会②

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悪役令嬢も離れていき、またものリュールだが、お茶会の終了まで、この席に座りっぱなしというのもいかがなものか。
王子様の元へ、わざわざ行こうとは思わないが、このままここに座っていても退屈なだけだ。
リュールは席を立ち、王子様を中心とした人ごみとは逆の方向へと歩き出した。

さすがは王宮というだけあって、庭は美しい花々で溢れているが、残念なことにリュールは、そこまで花好きというわけではない。
「ほう、これはこれは」
花の種類も分からないし、綺麗とは思うがそこまでなので、誰に聞かせるわけでもないのに、どこぞのおっさんのような口だけの感想を述べながら庭の奥へと進んで行く。

いつの間にか、ずいぶんと奥へと入り込んでしまったのか、お茶会の喧騒は聞こえなくなっている。
リュールの目の前には一本の木。それもとても心をくすぐる枝ぶりだ。
まだまだお茶会の終了までには時間があるようなので、ここでリュールはいつもの魔法の訓練をおこなうことにした。
8年後の自立に向けて、時間は有効に使わなければならない。
今日は朝からお茶会の準備のために、何一つ訓練は行えていないのだから。

リュールは魔力を体内で練り上げると両手の先、両足の先だけを魔力で強化する。魔力量の少ないリュールにすれば、身体全体を強化するわけにはいかないのだ。

「よっこらせ」
そのままスルスルと木を登って行く。
前世では田舎育ちだったから、木登りは得意だ。ただ、生まれ変わって身体は小さくなっているし、フリフリのフリル付きのドレスシャツを着せられているから登りづらくはある。
そんなに上の方までにはいかず、座り心地のいい枝に腰掛ける。


「お前は、そんな所で何をしているのだっ!」
人がせっかく気分よく風に吹かれているのに、下から声が聞こえてきた。目線を下げると、兄ダリアスによく似た色味の少年が、こちらを睨みつけている。
金髪碧眼。嫌な予感しかしない。

「木に登っているだけです。お気遣い無く」
一応は言ってみる。

「降りられなくなったのだな、待っていろ。私が助けに行くから」
少年はそう言うと、木に登ろうと近づいてくる。

この少年は金髪碧眼なのだから、王家の血が入っているのは間違いない。だが、この少年がクラウス第2王子かといわれると、リュールには断定できない。
クラウス第2王子のご尊顔は、お茶会開始の時にチラリと見ただけで、リュールの記憶に残ってはいないからだ。
クラウス第2王子以外にも、王族の子どもが茶会に招待されているかもしれない。ダリアスだって金髪碧眼なのだから。

リュールは、そっと心の中で語りかける。
少年よ、君は生まれてこの方、木登りをしたことがあるのかい? 目の前の子どもを助けようと思うことは素晴らしいが、まずは大人に相談するか助けを求めるほうがいいと思うぞ。
考えてもみてごらん、君がこの場所に辿り着いたとして何が出来るのか。
まあ、下手に話しかけて、不敬と取られると面倒だから言わないけど。

一生懸命木に登ろうとしている少年は、とてもナイスガイなのだろう。
リュールが困っていると思い、自分が助けようとしてくれているのだから。残念なことに、少年は木にうまく登ることができないで、足が着くか着かないかの場所でモタモタしてはいるが。

王族(推定)少年には、侍従や護衛などの付き人は、いないのだろうか? いくら王宮の庭とはいえ、不用心すぎる。木の上から辺りを見回してみても、それらしき人影は見えない。
しかたがない、一旦木から降りることにするか。もし少年が怪我でもしたら、家を巻き込むほどの事態になってしまうかもしれないから。

リュールがスルスルと下がって行くと、ここで問題が発生した。少年が木にへばりついているため、これ以上降りられないのだ。
少年はリュールが上から降りてきているのに気づいていないのか、目の前の木にしがみ付くのに必死のようだ。
リュールがこのまま降りて行ったら少年にぶつかってしまう。

これ以上降りるのは無理だと判断したリュールは、木から飛び降りる。両足には身体強化の魔法をかけているから、少々高い所から降りたところで大丈夫だ。ただ、今は足首から下だけの身体強化だったから膝に負担がかかってしまう。両手にかけていた魔法を両膝へと回す。
ずいぶんと魔法をスムーズに使えるようになってきた。

「大丈夫か? 私が間に合わなかったばかりに落ちてしまったのだな」
見事な着地を見せたリュールが目に入らなかったのか、少年は自分の助けが間に合わずに、リュールが木から落ちてしまったと思ってしまったようだ。
やっぱり、とてもいい子だ。

しかし、ここで魔法を使ったから無事だったとか、自分の身体能力が優れているから気にするな、などと、一言たりとも言うことはできない。
なぜならリュールの魔力量はレベル3。平民と同じ魔力量だ。
王侯貴族からすれば、魔力を持っていないのと同じ扱いだ。魔法が使えないと思っているだろう。
リュールの魔力量がどれ位かなんて、この少年は知らないだろうけど。
それでもリュールが魔法を使ったと知られたくない。リュールの使う魔法はオリジナルの魔法なので、知られると面倒だ。
10歳の子どもが自分で魔法を編み出したなど、ありえないのだから。
それに魔法が使えないと思われたまま家を出ていく方が、すんなりと出ていけるだろう。
魔法は、こっそり一人で訓練し、こっそりバレないように使うのが一番いいのだ。


ガシッ。
リュールは少年の両手を自分の両手で包み込む。

「あなた様のおかげで怪我1つすることなく無事でございました。ありがとうございます」
ニッコリと笑ってお礼を述べる。

「あ、いや……」
リュールのきっつい顔に気押されたか、少年は赤い顔をしてモゴモゴと返事をする。

「こんなお茶会の会場から離れた場所に来てしまい、どちらに帰ればいいのか分からなくなり、木に登って戻る場所を探しておりました。そうしたら木から降りることができなくなって困ってしまっていたのです。貴方様のおかげで降りることができました。これで、お茶会の会場に戻ることができます。とても助かりました」
ぺらぺらと少年に口を挟ませることなく捲し立てる。
何とかこの言い訳で、誤魔化されてはくれないだろうか。

「それでは、御前失礼いたします」
リュールは少年の手を離すと、何かを言われる前に走りだす。

「ありがとうございましたぁー」というお礼の言葉が終わる時には、もうその場にリュールはいないのだった。
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