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3 小さなお茶会①

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小さなお茶会は、招待状を貰ってから一月後に開催された。
リュールと兄のダリアスは揃って参加したのだが、お茶会の会場でリュールは一人遠い目をしていた。

母よ。
このきつい吊り目の男児にピンク。それもローズピンクのドレスシャツが似合うと思っているのですか。
母親はリュールを嫁に出す気満々なのだろう。
招待状が届いた時に、興奮した母が言っていた通りの服をリュールは着せられている。
リュールの目の色は鮮やかな赤。髪の色は黒よりの赤。ドレスシャツと被るかぶる。
ぱっと見、赤っぽい塊にしか見えないだろう。

いつもポンヤリの兄ダリアスですら、リュールの姿を一目見て「リューちゃん赤い……」と、絶句していたのだから。
兄よ、いくら11歳とはいえ貴族子息ならば、お世辞の1つぐらい言えるようになっていなければならないぞ。

なぜなのかダリアスはリュールのような奇抜な服を着ていない。
婚約者候補と側近候補の違いなのか? 
婚約者候補だと、ここまで奇抜な格好をして王子様の目に留まる必要があるのか。
まあ、リュールは、こう見えても中身はアラサー経験者。親孝行として、この姿も我慢するとしよう。どうせ王子様に好かれようなどとは思ってもいないのだから。
本日のミッションは王子様に近づかない、関係を持たないだ。
ダリアスには王子の側近になり、将来ジージャ公爵家を背負ってもらわなければならないから、頑張って仲良くなってもらいたい。

お茶会の席は決められていたから、公爵家らしい中央のいい場所に座っているが、それでもリュールは、になっていた。
リュールの吊り目顔が怖がられて皆から避けられたというわけではない。
他の子ども達は、お茶会が始まるやいなや、親に指示されているのか、そそのかされているのか、王子様に突撃しに行ってしまったのだ。
ダリアスは呑気にお菓子を食べようとしていたから、リュールがお尻を叩いて王子様の方へと追いやった。
その結果、リュールの周りには誰一人残ってはいないということだ。


「リュール様、ご機嫌よう」
お菓子も食べ終わり、そろそろ飽きてきたなと感じていると、子ども用の扇で口元を隠した令嬢が声をかけてきた。
この会場の女児は少ない。それでも3~4人はいるようだ。全員が招待主である王子の婚約者候補なのだから、歳はそう違わないはずだ。もちろん高位貴族の令嬢達だろう。

リュールに声をかけてきたのは、黒髪縦ロールドリルをなびかせた令嬢だった。後ろには取り巻きらしき令嬢を二人連れている。
もしかしたら、この会場の女子全員集合かもしれない。
リュールは三人を見て愕然とする。まるでゲームとかラノベに出てくる悪役令嬢アンド取り巻き達そのものだったからだ。随分と幼いけど。

わたくしザーラット伯爵家嫡女イザベラと申しますの。仲良くしてやってくださいましね。リュール様が、おボッチでいらしたから、思わず声をかけてしまいましたのよ。オーホッホッホ」
イザベラは、幼いながらに高飛車笑いをして、リュールをディスってくる。

もしかしたらジージャ公爵家の次男であるリュールは、周りの皆からすれば、最有力の婚約者候補に見えているのかもしれない。
リュールが魔力量レベル3だということは、家族と申請している王家ぐらいしか知らないことだから、この悪役令嬢モドキちゃんは先制しにきたのだろう。

いや凹むわ。
何が悲しくて女児からライバル認定されなきゃならないんだよ。
周りから見ても俺は嫁側なのかよ。このドレスシャツがいけないのか? 派手なドレスの令嬢よりも目立ってしまっているけど。

リュールも伊達に公爵令息をしているわけではない。貴族家の情報は、それなりに頭に入っている。
ザーラット伯爵家は、領地は狭いが商売を手広く営んでいる家だ。それも商売は軌道に乗っており、随分と裕福だと聞く。イザベラが身にまとっているドレスも、とても高価そうだ。
その上祖父が宰相をしている。国王陛下の右腕と言われている人物だ。

「心配していただいて、ありがとうございます。もちろん楽しんでおります。イザベラ様は、あちらに行かれなくてもよろしいのですか?」
リュールは、優雅な仕草でクラウス第2王子の方へと手を差し向ける。

惜しい。
リュールは思ってしまう。ものすごく惜しいと。
この短い間の係りだけで、イザベラは素晴らしい悪役令嬢だと分かる。
幼いのに見事な縦ロールドリルをなびかせ、黒曜石のような黒い瞳はキッチリと吊り上がっている。
一歩下がってイザベラに追従する取り巻き達も、ちゃんと自分の立場を弁えて、リュールを馬鹿にするような視線を送って来ている。ナイスな人選だ。

イザベラが、爵位の低い者から高位の者に声をかけてはいけないという礼儀を知らなかったり、少々言葉使いがおかしな所はあるが、まだまだ10歳。これからどうとでもなっていくだろう。
とても素晴らしい悪役令嬢候補だ。

ただ一つ。いかんせんイザベラは伯爵令嬢だから爵位が低すぎる。
王家に嫁ぐのは伯爵家だとギリギリだ。祖父が宰相職に就いているから何とかいけるかというところだろう。
悪役令嬢たるもの、周りが手をこまねいて、ただ見ているだけしかできない状況を作ることができる爵位バックボーンが必要なのだ。
伯爵程度だと、王子の取り巻きやヒロインの友人達の方が高い爵位の場合がある。メインイベントの断罪前に排除されてしまう可能性があるのだ。
最高位の爵位と王子の婚約者という立場。それを持つ者が王道の悪役令嬢になりえるのだ。
まあ、立場的にはリュールが一番悪役令嬢(?)としては適しているな。公爵家の息子だし、目も吊り上がっているから。縦ロールにはしていないけど。
端から王子の婚約者になる気もないし、なることもないだろうけど。

「まあ、リュール様ったら、内気でいらっしゃるのね。色々とお喋りしたかったのに残念ですわ。それではごきげんよう」
言い返しもしないリュールのことを、取るに足らない相手だと判断したのか、イザベラは薄笑いしながら踵を返す。取り巻き達もリュールに頭一つ下げずにイザベラの後を追う。

悪役令嬢とは、かくあるべき。
イザベラを見ていると、物語に出てくる悪役令嬢そのものだと思ってしまう。
流石だと感心してしまうリュールなのだった。
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