3 / 67
3 小さなお茶会①
しおりを挟む小さなお茶会は、招待状を貰ってから一月後に開催された。
リュールと兄のダリアスは揃って参加したのだが、お茶会の会場でリュールは一人遠い目をしていた。
母よ。
このきつい吊り目の男児にピンク。それもローズピンクのドレスシャツが似合うと思っているのですか。
母親はリュールを嫁に出す気満々なのだろう。
招待状が届いた時に、興奮した母が言っていた通りの服をリュールは着せられている。
リュールの目の色は鮮やかな赤。髪の色は黒よりの赤。ドレスシャツと被るかぶる。
ぱっと見、赤っぽい塊にしか見えないだろう。
いつもポンヤリの兄ダリアスですら、リュールの姿を一目見て「リューちゃん赤い……」と、絶句していたのだから。
兄よ、いくら11歳とはいえ貴族子息ならば、お世辞の1つぐらい言えるようになっていなければならないぞ。
なぜなのかダリアスはリュールのような奇抜な服を着ていない。
婚約者候補と側近候補の違いなのか?
婚約者候補だと、ここまで奇抜な格好をして王子様の目に留まる必要があるのか。
まあ、リュールは、こう見えても中身はアラサー経験者。親孝行として、この姿も我慢するとしよう。どうせ王子様に好かれようなどとは思ってもいないのだから。
本日のミッションは王子様に近づかない、関係を持たないだ。
ダリアスには王子の側近になり、将来ジージャ公爵家を背負ってもらわなければならないから、頑張って仲良くなってもらいたい。
お茶会の席は決められていたから、公爵家らしい中央のいい場所に座っているが、それでもリュールは、ぼっちになっていた。
リュールの吊り目顔が怖がられて皆から避けられたというわけではない。
他の子ども達は、お茶会が始まるやいなや、親に指示されているのか、そそのかされているのか、王子様に突撃しに行ってしまったのだ。
ダリアスは呑気にお菓子を食べようとしていたから、リュールがお尻を叩いて王子様の方へと追いやった。
その結果、リュールの周りには誰一人残ってはいないということだ。
「リュール様、ご機嫌よう」
お菓子も食べ終わり、そろそろ飽きてきたなと感じていると、子ども用の扇で口元を隠した令嬢が声をかけてきた。
この会場の女児は少ない。それでも3~4人はいるようだ。全員が招待主である王子の婚約者候補なのだから、歳はそう違わないはずだ。もちろん高位貴族の令嬢達だろう。
リュールに声をかけてきたのは、黒髪縦ロールをなびかせた令嬢だった。後ろには取り巻きらしき令嬢を二人連れている。
もしかしたら、この会場の女子全員集合かもしれない。
リュールは三人を見て愕然とする。まるでゲームとかラノベに出てくる悪役令嬢アンド取り巻き達そのものだったからだ。随分と幼いけど。
「私ザーラット伯爵家嫡女イザベラと申しますの。仲良くしてやってくださいましね。リュール様が、おボッチでいらしたから、思わず声をかけてしまいましたのよ。オーホッホッホ」
イザベラは、幼いながらに高飛車笑いをして、リュールをディスってくる。
もしかしたらジージャ公爵家の次男であるリュールは、周りの皆からすれば、最有力の婚約者候補に見えているのかもしれない。
リュールが魔力量レベル3だということは、家族と申請している王家ぐらいしか知らないことだから、この悪役令嬢モドキちゃんは先制しにきたのだろう。
いや凹むわ。
何が悲しくて女児からライバル認定されなきゃならないんだよ。
周りから見ても俺は嫁側なのかよ。このドレスシャツがいけないのか? 派手なドレスの令嬢よりも目立ってしまっているけど。
リュールも伊達に公爵令息をしているわけではない。貴族家の情報は、それなりに頭に入っている。
ザーラット伯爵家は、領地は狭いが商売を手広く営んでいる家だ。それも商売は軌道に乗っており、随分と裕福だと聞く。イザベラが身にまとっているドレスも、とても高価そうだ。
その上祖父が宰相をしている。国王陛下の右腕と言われている人物だ。
「心配していただいて、ありがとうございます。もちろん楽しんでおります。イザベラ様は、あちらに行かれなくてもよろしいのですか?」
リュールは、優雅な仕草でクラウス第2王子の方へと手を差し向ける。
惜しい。
リュールは思ってしまう。ものすごく惜しいと。
この短い間の係りだけで、イザベラは素晴らしい悪役令嬢だと分かる。
幼いのに見事な縦ロールをなびかせ、黒曜石のような黒い瞳はキッチリと吊り上がっている。
一歩下がってイザベラに追従する取り巻き達も、ちゃんと自分の立場を弁えて、リュールを馬鹿にするような視線を送って来ている。ナイスな人選だ。
イザベラが、爵位の低い者から高位の者に声をかけてはいけないという礼儀を知らなかったり、少々言葉使いがおかしな所はあるが、まだまだ10歳。これからどうとでもなっていくだろう。
とても素晴らしい悪役令嬢候補だ。
ただ一つ。いかんせんイザベラは伯爵令嬢だから爵位が低すぎる。
王家に嫁ぐのは伯爵家だとギリギリだ。祖父が宰相職に就いているから何とかいけるかというところだろう。
悪役令嬢たるもの、周りが手をこまねいて、ただ見ているだけしかできない状況を作ることができる爵位が必要なのだ。
伯爵程度だと、王子の取り巻きやヒロインの友人達の方が高い爵位の場合がある。メインイベントの断罪前に排除されてしまう可能性があるのだ。
最高位の爵位と王子の婚約者という立場。それを持つ者が王道の悪役令嬢になりえるのだ。
まあ、立場的にはリュールが一番悪役令嬢(?)としては適しているな。公爵家の息子だし、目も吊り上がっているから。縦ロールにはしていないけど。
端から王子の婚約者になる気もないし、なることもないだろうけど。
「まあ、リュール様ったら、内気でいらっしゃるのね。色々とお喋りしたかったのに残念ですわ。それではごきげんよう」
言い返しもしないリュールのことを、取るに足らない相手だと判断したのか、イザベラは薄笑いしながら踵を返す。取り巻き達もリュールに頭一つ下げずにイザベラの後を追う。
悪役令嬢とは、かくあるべき。
イザベラを見ていると、物語に出てくる悪役令嬢そのものだと思ってしまう。
流石だと感心してしまうリュールなのだった。
34
お気に入りに追加
480
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる