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51. クレア、ドラ○もんになる①

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クレアの手元には、1つのワッベンがある。
丸く縁取りされたソレは、ジンギシャール国の国旗と同じく、上は青、中央は白、下は緑で色分けされており、中央にクマのモチーフが刺繍されている。
ライオネル殿下親衛隊の隊員章だ。

ライオネルはクマが好きだということで、このデザインを用いられているのだが、このクマ、どこかで見たことがあるような…
なんだろう、この既視感。
噂では、ライオネルの宝物のハンカチを見たジュリエッタが作製を指示したとされている。

このワッペンをドレスの胸か胸より下の脇腹あたりに付けることが、隊員の証明となる。
勿論、クレアもワッペンを付けることは、やぶさかではない。

ただ、この世界には安全ピンもなければ、手芸で使われるホックも無い。
ドレスに簡易的とはいえ、縫い付けないといけないのだ。

ようするに、ドレスを着替えるたびに、ワッペンを取って、また新しいドレスに縫い付けるということだ。
簡単に2、3か所縫い止めるだけとはいえ、地味に面倒くさい。

高位貴族のお嬢様たちは、自分付きの侍女を連れて入学しているので、そんな手間のことなど、気付きもしないだろう。
しかし、クレアは単身で入寮しているのだ。自分でワッペンをいちいち縫い付け、またいちいち外さなければならない。

今日も今日とて、ワッペンを縫い付けないといけないのだが、朝から忙しく、まだワッペンを縫い付けてはいない。ソーイングセットと共にポケットに入れっぱなしだ。

なぜなら、今日は有力な親衛隊情報が入ってきているのだ。
ライオネルが午後の授業で、校庭において体育の授業を受けるという、垂涎物すいぜんものの情報をゲットしたのだ。

クレアは狙っている、獲物に襲い掛かる肉食獣のように、遥か彼方の獲物を見つける猛禽類のように。
渇望しているのだ、ライオネルに近づくことを。
護衛騎士や側近達の隙を突き、ライオネルの近くに行きたい。
そして、声をかけたい。
クレアのことに気づいてほしい。

ライオネルに家族のクレアがいることを知ってほしいのだ。

だからこそ、午後の授業が始まる随分前、昼休みが始まるとすぐに、校庭が良く見渡せて、ダッシュで校庭にいるライオネルの元まで行けそうな場所をさがして、ウロウロしているのだ。

護衛騎士の立ち位置や、側近達の場所も確認しなければならない。
クレアはそんなに足が速くない。
クレアの行動に気づいた護衛騎士をかいくぐり、ライオネルの元へ行く為に、どんな作戦を考えるべきか。
そのためには、どこにスタンバイするべきか、熟考するクレアだった。





ライオネルの側近の1人、ジュリアーノ=ジュライナは今、1人の女生徒を探していた。
クレア=ハートレイ男爵令嬢。
茶色の髪にこげ茶の瞳。上級学年に在籍している女生徒だ。
外見は見たことはないが、彼女のことは良く知っている。

殿下に纏わり付く、あのピンク頭の姉だ。
できれば、あのピンク頭の姉妹になど関わりあいたくは無いのだが、友人のジェイナイド=ライウスに頼まれたのだ。

なんでもジェイナイドの婚約者であるアイリーン嬢がクレア嬢に紅茶をかけたらしい。
それも、手が滑ったなどではなく、わざとだ。
何人もの前で行われたことで、言い逃れはできない。
いくら身分の違いがあるとはいえ、理不尽なことをしていいという訳ではない。

すぐにジェイナイドは、クレア嬢に詫びの品として、ドレスを届けたのだが、クレア嬢から返品されてしまった。
曰く、アイリーンとジェイナイドは、まだ婚姻関係にない他人である。
アイリーンの家からは、正式な謝罪を受けているので、関係のないジェイナイドから弁償の品を貰ういわれはない。と、いうことらしい。

まあ、そういわれれば、まっとうなのだが、なぜかジェイナイドが落ち込んでいる。
聞けばジェイナイドは、自分の瞳の色のドレスを贈ったらしい。

驚きだ。
今迄、勉強一筋で、色恋には一切興味を示さなかった、あのジェイナイドがだ。
婚約者に対しても、さして関心を示さず、公式行事の時しかアイリーン嬢をエスコートせず、周りから説教をされていた、あのジェイナイドが、自分からアプローチをするなんて、考えられなかった。

あのピンク頭の姉だというのだから、そうとうの美人かもしれない。
アイリーン嬢も美しい令嬢だが、それ以上なのだろう。

だが、あのピンク頭の姉だ。性格はピンク頭と同じで、碌でもないのだろう。
ジェイナイドは、クレア嬢にそそのかされたのだ。
恋にウブなジェイナイドは、クレア嬢の手練手管にのぼせ上ってしまい、そのためにアイリーン嬢は、逆上して、クレア嬢に紅茶をかけてしまったのだろう。
アイリーン嬢も哀れだな…

アイリーン嬢の醜態は、瞬く間に学園内に広がったといっていい。
すでに学園内で知らない者はいないだろう。
学園内の噂では、ジェイナイドとクレア嬢の関わりを知る者はいないため、アイリーン嬢がお茶会で、作法のなっていない女生徒に怒って紅茶をかけた。となっている。
アイリーン嬢は、現在寮の自室で謹慎中だ。

この現状の中、アイリーン嬢の婚約者であるジェイナイドが、クレア嬢と会うことはできない。
周りから何を言われるか判らないし、どんな噂を立てられるか判らないからだ。
そこで、ジュリアーノはジェイナイドから頼まれたのだ、クレア嬢に、ジェイナイドからの詫びを伝えて欲しいと。

いい迷惑だが、友人の頼みを断るわけにもいかない。
しかし、いい機会だ。
クレア嬢に会って、その性根を見極めてやる。
ウブなジェイナイドなら騙せるだろうが、俺はそうはいかない。
クレア嬢の態度如何では、ジェイナイドから遠ざける。いや、クレア嬢自体を学園から追い出す方がいいだろう。
公爵家の力を持ってすれば、男爵家令嬢を学園から追い出すことなど、簡単なことだ。

こうしてジュリアーノは現在クレアを探しているのだった。

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