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11 高橋視点②

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「高橋。賭けをしようか」
泣きたいのを必死で堪えているような顔をしたミル。
俺の “好き” が信じられないから賭けをすると。

「今の名前じゃないよ。俺の前世の名前。お前のクラスメートだった俺の名前」
そう聞かれて答えが出なかった。

出会ってすぐにミルに名前を聞いたことがあったが、ミルは現在の名前しか答えなかった。
ミルの前世が誰だったのか、ミルに会った時から俺は何度も思い出そうとした。
ミルの話しからすると、俺とミルは宇志元高校2年B組のクラスメート。

俺の前世の記憶があるのは、高校2年生の後半まで。
クラスメートの数は31人。
男女混合だったが、ミルの前世が男性だったのか女性だったのかは分からない。
全員の顔は思い出せる。
だが、そこまで仲が良くなかったヤツの細かい所までは、思い出せないというか、興味がなかったから知らない。

ミルが俺に与えた猶予は10日間。
31人を一人ずつ思い浮かべていく。
特に仲の良かったクラスメートは6人。いつも一緒に過ごしていて、昼休みや休日もよく一緒に遊んだ。
だが、その6人の中にミルはいない。
6人の中にミルがいたら、癖や話し方、考え方ですぐに分かったはずだ。

ミルの面影を求めて、記憶の中にあるクラスメートとの外見を比べようとして、ふっ、と笑いが漏れる。
ミルはこの国にいる人族の中でも一般的な、こげ茶の髪に薄茶色の瞳をしている。前世の日本人とは違う顔形。
自分自身が前世とは比べられないほどに様変わりしているのに、外見など今さらだ。
クラスメートの誰なのかが分からずに焦りが湧いてくる。

ポツリ。と1つの記憶が浮き上がる。
1人のクラスメートの記憶。
大人しくて、いつも窓際に一人座っていたクラスメート。
友達とはいえない関係。朝の挨拶をするぐらい。

ミルとそのクラスメートが重なる。
だが、そのクラスメートとミルはあまりにも雰囲気が違う。
クルクルと表情が変わって、口数が多くて言葉使いが悪い。その上すぐに手が出るミル。
控えめで、挨拶しても小さな声でしか返してくれなかったクラスメート。
余りにも違う。
それなのに、なぜかそのクラスメートのことが気にかかる。
そのクラスメートばかりを思い浮かべてしまう。

1度名前を間違えたら、ミルの心は2度と開かないだろう。
俺が自分を認めて欲しくて自分を見て欲しいとミルに願ったように、ミルも自分自身を俺に見つけて欲しいと願っているのだろう。

あのすがるような瞳。
前世を憶えているからこその孤独。
俺がミルを手放せないと思っているように、ミルは俺から離れられなくなることを恐怖しているのだろう。
一生離す気はないが。


「陛下、少しよろしいでしょうか」
私室の椅子に座り込み、考え込んでいる俺に、ミル付きにしているアルバンが声をかけてきた。

「どうした、何かあったか」
アルバンには、その日のミルの行動や様子を事細かに報告するように申し付けている。

「ミル様に字を教えて差し上げてもよろしいでしょうか」
「字を?」
「無聊をお慰めしたくて、本や遊戯道具をご用意しましょうかと、お声をかけさせていただきましたところ、本には非常に興味を持たれたようでしたが……」
アルバンは言いにくそうに、いったん言葉を切る。

「どうした?」
「たぶん、字がお読みになれないのではないかと」
「文盲か」
この国の識字率は低い。
特に人族の生活水準は低い。文字が読める読めないではなく、教育自体を受けたことがないのだろう。

「本をとても読みたそうにされていたのです。とても残念そうな顔をされていて。もし宜しければ私達で字を教えて差し上げたいのですが」
「そうか……。そうだな、家庭教師を付けて勉強をさせるか。それがいいだろう。勉強には慣れていないだろうから、少しずつ加減を見てやってくれ」
「畏まりました。」
アルバンは嬉しそうに首肯する。
ミルのことを気に入っているのだろう。

「ああ、家庭教師は何人か付けていいが、若い男や女は駄目だ。いや、中年もいかん。勉強中は教師と二人きりにさせるな。それから……」
「心得ております。私の方で適任の者を選ばせていただきます。陛下の御心を煩わせることのないよう、注意いたします」
アルバンは、さも分かっているというように頭を下げる。
国王の話しの腰を折るなど、不敬と思わないのか?

「まあ、いいだろう。引き続きミルには、欲しいと言ったものを揃えてやってくれ。それとこちらにも紙を持ってきてくれ」
「畏まりました。どのような紙を用意いたしましょうか」
「そうだな、紙は4、50……。いや、失敗してもいいように100枚頼む。それと同じサイズの厚紙も一緒に。こっちは数枚でいい」
アルバンは頭を下げると部屋を出ていく。

アルバンの話を聞いて、あの大人しいクラスメートとミルが重なった。
しかし、決定打が欲しい。
俺は、ミルに問いかけてみようと思った。

言葉ではなく――。

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