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罰
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オレの名前はベイカー・カルフォード。この国の騎士団長だ。そして今、生まれて初めて恋をしている。人が聞けばとっかえひっかえ恋人を作っては捨てを繰り返しているお前が何を言っていると正気を疑うだろう。
だが、アルファで騎士団の団長ともなれば掃いて捨てるほど人は寄ってきたし、いちいち断るのも面倒だから付き合っていたに過ぎない。
彼と出会ったのは半年ほど前のある晴れた日だった。オレは巡回中にいつもは通らない広場の前を通りかかった。その時、噴水の縁に腰掛け本を読んでいる人に気がついた。何の気なしに近づいたオレは雷でうたれたような衝撃を受けた。今思えば一目惚れだったのだろう。
早速「あの」と声をかけたオレを視界に捉えた時、彼はまるで長年探していた親の敵にでもあったかのように鋭く睨みつけてきた。
顔が整っていることは自分でもわかっていたし、オレを見て頬を染める人はいても、睨みつけるような人は今までいなかった。それを友人に話すと少し危ない人のように言われたが、あの強い眼差しに惚れたのだと思う。
彼は残念ながら運命の番ではなかったが、そんなものはどうでも良かった。オレは、彼がいい。彼が欲しい。それから、毎日毎日アプローチし続けている。
聞くところによると彼はこの辺りではちょっとした有名人だった。彼は名前をアスウェルといい、噴水の所で本を読むのは彼の日課で、美しい人だから声をかけられるのも珍しくない。だが、誰にも靡かないのだ。だから、誰が彼を落とすのか注目の的であった。
オレはそれを聞いてさらに躍起になって彼を落とすため、贈り物をしたり猛アプローチをしたが全く受け取ってももらえず段々と自信を無くしそうになっていた。だが、オレは根性には定評がある。それはそうだ。根性と家柄がなければ騎士団長などにはなれぬ。
痺れを切らしたオレは直接なぜ受け入れてくれないか本人に理由を聞くことにした。
なぜと問うオレに彼は、
「あなたは運命の番をどう思いますか?」と逆に問いかけてきた。
思わず鼻で笑いそうになった。運命の番など都市伝説にすぎない。あんなくだらないものどうでもいい。
「運命の番などあなたは信じているのか?オレはそんなもの全く信じていない。大体、運命の番を見つけた人はそれまでの恋人や伴侶を捨て番しか見えなくなるという。そんなもの獣ではないか」
すると、どちらかといえば表情に乏しく、いつも表情を変えない彼が突然笑い出した。ひとしきり笑い終えると、
「獣。獣ねぇ。まさにその通りだ。気が合いますね。私もそう思っていますよ。」
初めて笑顔を見せてくれた。よし、この流れならいけるかもしれない。
「だろ。あんなもの信じる奴なんて頭がおかしいとしか思えない。オレは信じもしないし、必ず恋人や伴侶を優先する。だから、もしあなたが運命の番が気になってオレを受け入れてくれないのだとしたら、絶対にオレは大丈夫だと誓える。だから、付き合ってくれないか?君を愛しているんだ。」
そう言うと彼はなぜか一瞬全く表情を失い、その後少しゾッとするような笑顔を浮かべた。
「クククッ。愛している……ね。あなたの口からその言葉を聞けるなんて本当に光栄だ。わかりました。あなたと付き合ってもいいですよ。」
オレはその言葉に心の底から歓喜が込み上げた。
「本当か?本当にオレと付き合ってくれるのか?夢みたいだ。」
「ですが、一つ条件があります。」
「条件?なんだ?なんでも言ってくれ!オレはこう見えて騎士団の団長だからな。大抵のことは叶えられる。」
「簡単なことですよ。誓いの指輪を使っていただきたいのです。万が一運命の番が現れても私を絶対に裏切らない。裏切った場合は…………」
誓いの指輪とは、この国に古くから伝わるもので、通常は国王に忠誠を誓い裏切らないよう兵士達が交わすものだ。
その誓約の中身は自由に決めることができるが破った時の代償は大きい。そんなものを彼が知っていたことにも驚いたが恋人になるのにそのようなものを使う人はいない。
だが、それさえ使えば彼と恋人になれる。迷ったのは一瞬だった。オレはすぐさま国に申請し指輪を手に入れ彼に誓ったのだった。
あれから3年オレたちは今日恋人から夫婦になる。これほどの幸せがあっていいのだろうか?やっと、アスウェルの項を咬みオレのオレだけのものにできる。まだ、朝だというのにもう夜が待ち遠しくて仕方がない。
だが、夜になり待ちわびた彼との交わりは、彼の妖艶な姿や愛らしく啼く声は覚えているのに肝心の項をかんだ瞬間が思い出せない。なんということだ。どうやら興奮し過ぎたようだ。まぁいい。咬んだ跡はくっきり残っていた。これで私のものだ。
そして、とうとうつい先日アスウェルの妊娠がわかった。愛しい彼との子供だ。嬉しくて彼を抱き上げグルグル回ってしまった。
唯一気になるのは妊娠中で情緒不安定なのか、彼はここのところ浮かない顔をしている。まぁ、初めての妊娠なのだしきっと色々あるのだろう。早く産まれてこないか。名前をなんとつけようか?毎日が楽しみで仕方なかった。
それから半年ほど過ぎあと3ヶ月程で出産の日を迎えるというある日。
なんてことだ。なんてことだ。大変なことになった。だが、そう仕方がない。オレのせいではない。オレは悪くない。早くなんとかしなければ、オレは我が家の扉を乱暴に開け放った。
「アスウェル聞いてくれ!」
彼はそれまで編んでいた赤子の着ぐるみをそっと机に置くと、
「なに?ベイカー、運命の番とでも出会った?」
「どうしてそれを!いや、そんなことはどうでもいい。誓いの指輪を破棄してくれ。早くしないとオレは……………」
「………り選ぶんだね」
彼は小声で何事か言った。そして、狂ったように笑いはじめた。
「クククククッ。アハハハハハ。誓いの指輪を破棄だって?するわけないじゃない?やっと、やっとこの日が来た。はぁ、長かった。ハハハハハ。」
オレは何を笑っているのか全くわからなかった。なぜ、破棄してくれないのだ?長かった?何がだ?全くわからない。
だが、運命の番と出会っても裏切らないと誓ったオレはあの指輪を破棄しない限り、運命と結ばれることはできない。もし、このまま彼を捨て運命のところへ行けば代償が発動する。
「アスウェル。何を笑っている。運命と出会ってしまったんだ。仕方がないだろう?オレのせいじゃない。お前が破棄してくれないとオレがどうなるかわかっているじゃないか?オレを愛しているのなら、指輪を破棄して運命の元へと行かせてくれ。」
「ねぇ?ベイカーあなたこそ自分が何言ってるかわかってる?あなたが運命の番を選び私との番関係を解消したらオメガの私はどうなる?まさか知らないとは言わないよね?」
オレは腹が立って仕方がなかった。
「知ってるに決まってるだろう?番を解消されたオメガはそのまま次第に弱って死ぬ。だが、それがどうした?運命だぞ!運命の番を選ぶのが当たり前だろ!」
「当たり前。なるほど、本当に獣だ。運命の番を選ぶなんて獣と同じだと言ったのはあなたじゃない?絶対に大丈夫だからとあなたは誓いの指輪まで使って私と結婚した。だけど、それを破棄して運命の元へと行かせてくれ?笑わせないでくれよ。」
考えを変える様子のない彼の態度に、オレは最後の手段に出ることにした。
「クソッ。お前がそんな態度をとるのなら、オレにも考えがある。オレだけが代償を受けるなんて真っ平だ!お前も道連れにしてやる!」
オレはアスウェルとの番を解消した、つもりだった。だが、
「なぜだ?なぜお前はそんな平気な顔をしている?どういうことだ。ガッ、グアーッ!」その時、代償が発動した。
「なぜって?だってあなたと番ってないもの。幻惑の香を焚きながらのセックスは最高だったでしょ?項を咬む幻想でも見た?クククッ。咬み跡はプロテクターで隠していたけど、すでにあったんです。まぁ、つけたのはある意味あなたですけどね。」
「ガァーッ。体が熱い、熱い。燃える燃えてしまう!グアーッ!」
「アハハハ。燃えろ!燃えろ!燃えてしまえ!」
オレは、最後の力を振り絞り、
「なぜだ?なぜだ?どうして愛しているオレをこんな目に合わせる?」
彼は滂沱の涙を流しながら、
「愛しているのになぜ?と番を解消しようとしたあなたが言うんですか?
私はあなたと結婚するのは2度目なんですよ。前世、私はあなたと結婚し幸せに暮らしていた。私も心から愛していたし、あなたも愛してくれていると思ってました。なのに、突然あなたは運命の番が現れたと言って、番を解消し簡単に私をボロ雑巾のように捨てた。
お腹の中の子供も流産し、狂いながら私はあなたを呪って失意の中死んだ。そんな私を神様はあなたと出会う前の私に時を戻してくれたのです。だけど、なぜか咬み跡は残ったままでした。
現世で私にあなたがまた声をかけてきた時、憎しみが込み上げてきて思わず睨んでしまったけれど、性懲りもなくあなたはまた私にアプローチをしてきた。
でも、憎いあなたともう一度付き合うのはまた不幸になるだけ。そのまま別々の人生を歩んでいこうと憎しみを堪え思っていた。だけど、あなたは私に『愛している』と言った。許せなかった。私にのうのうと愛をささやくあなたが。」
オレはそのまま意識が遠のき、そして、暗闇に閉ざされた。
ドサッと音を立て消し炭のように真っ黒になったベイカーが崩れ落ちる。
「あぁ、もう聞こえてませんね。」
アスウェルは、優しい笑顔を浮かべそっとお腹をなぜると、
「やっと、あなたを産んであげられる。私の大事な赤ちゃん。お父さんがね、男の子ならルネ、女の子ならメリって名前も考えてくれたんだよ。でも、君のお父さん殺しちゃったよ。」
彼は真っ黒になり元の姿が判別もできないベイカーの側にペタッと体の力が抜けたようにしゃがみ込むと、拳を床に打ち付けた。
「…………たのに。愛してたのに。あなたを誰よりも、あなたがいなければ息もできないほど、愛してたのに!どうして、どうしてだよ!なんでまた運命の番を選ぶ!指輪まで使って誓ったというのに!なんでなんだよ!滅びようとも運命の番を選ぶのか!」
「でも、殺しちゃったからどこへも行けないね。これで、本当に私のものだ。永遠に…………。ハハハ。ハハハハハ。あぁぁぁぁぁぁぁぁーっ」
彼の慟哭は一晩中続き、やがて朝になった。
彼は登ってきた朝日を見つめつぶやいた。
「神様、どうして私の時間を戻してくれたのですか?憐れに思ってくれたのではなかったのですか?これではまるで罰じゃないか。」
おわり
だが、アルファで騎士団の団長ともなれば掃いて捨てるほど人は寄ってきたし、いちいち断るのも面倒だから付き合っていたに過ぎない。
彼と出会ったのは半年ほど前のある晴れた日だった。オレは巡回中にいつもは通らない広場の前を通りかかった。その時、噴水の縁に腰掛け本を読んでいる人に気がついた。何の気なしに近づいたオレは雷でうたれたような衝撃を受けた。今思えば一目惚れだったのだろう。
早速「あの」と声をかけたオレを視界に捉えた時、彼はまるで長年探していた親の敵にでもあったかのように鋭く睨みつけてきた。
顔が整っていることは自分でもわかっていたし、オレを見て頬を染める人はいても、睨みつけるような人は今までいなかった。それを友人に話すと少し危ない人のように言われたが、あの強い眼差しに惚れたのだと思う。
彼は残念ながら運命の番ではなかったが、そんなものはどうでも良かった。オレは、彼がいい。彼が欲しい。それから、毎日毎日アプローチし続けている。
聞くところによると彼はこの辺りではちょっとした有名人だった。彼は名前をアスウェルといい、噴水の所で本を読むのは彼の日課で、美しい人だから声をかけられるのも珍しくない。だが、誰にも靡かないのだ。だから、誰が彼を落とすのか注目の的であった。
オレはそれを聞いてさらに躍起になって彼を落とすため、贈り物をしたり猛アプローチをしたが全く受け取ってももらえず段々と自信を無くしそうになっていた。だが、オレは根性には定評がある。それはそうだ。根性と家柄がなければ騎士団長などにはなれぬ。
痺れを切らしたオレは直接なぜ受け入れてくれないか本人に理由を聞くことにした。
なぜと問うオレに彼は、
「あなたは運命の番をどう思いますか?」と逆に問いかけてきた。
思わず鼻で笑いそうになった。運命の番など都市伝説にすぎない。あんなくだらないものどうでもいい。
「運命の番などあなたは信じているのか?オレはそんなもの全く信じていない。大体、運命の番を見つけた人はそれまでの恋人や伴侶を捨て番しか見えなくなるという。そんなもの獣ではないか」
すると、どちらかといえば表情に乏しく、いつも表情を変えない彼が突然笑い出した。ひとしきり笑い終えると、
「獣。獣ねぇ。まさにその通りだ。気が合いますね。私もそう思っていますよ。」
初めて笑顔を見せてくれた。よし、この流れならいけるかもしれない。
「だろ。あんなもの信じる奴なんて頭がおかしいとしか思えない。オレは信じもしないし、必ず恋人や伴侶を優先する。だから、もしあなたが運命の番が気になってオレを受け入れてくれないのだとしたら、絶対にオレは大丈夫だと誓える。だから、付き合ってくれないか?君を愛しているんだ。」
そう言うと彼はなぜか一瞬全く表情を失い、その後少しゾッとするような笑顔を浮かべた。
「クククッ。愛している……ね。あなたの口からその言葉を聞けるなんて本当に光栄だ。わかりました。あなたと付き合ってもいいですよ。」
オレはその言葉に心の底から歓喜が込み上げた。
「本当か?本当にオレと付き合ってくれるのか?夢みたいだ。」
「ですが、一つ条件があります。」
「条件?なんだ?なんでも言ってくれ!オレはこう見えて騎士団の団長だからな。大抵のことは叶えられる。」
「簡単なことですよ。誓いの指輪を使っていただきたいのです。万が一運命の番が現れても私を絶対に裏切らない。裏切った場合は…………」
誓いの指輪とは、この国に古くから伝わるもので、通常は国王に忠誠を誓い裏切らないよう兵士達が交わすものだ。
その誓約の中身は自由に決めることができるが破った時の代償は大きい。そんなものを彼が知っていたことにも驚いたが恋人になるのにそのようなものを使う人はいない。
だが、それさえ使えば彼と恋人になれる。迷ったのは一瞬だった。オレはすぐさま国に申請し指輪を手に入れ彼に誓ったのだった。
あれから3年オレたちは今日恋人から夫婦になる。これほどの幸せがあっていいのだろうか?やっと、アスウェルの項を咬みオレのオレだけのものにできる。まだ、朝だというのにもう夜が待ち遠しくて仕方がない。
だが、夜になり待ちわびた彼との交わりは、彼の妖艶な姿や愛らしく啼く声は覚えているのに肝心の項をかんだ瞬間が思い出せない。なんということだ。どうやら興奮し過ぎたようだ。まぁいい。咬んだ跡はくっきり残っていた。これで私のものだ。
そして、とうとうつい先日アスウェルの妊娠がわかった。愛しい彼との子供だ。嬉しくて彼を抱き上げグルグル回ってしまった。
唯一気になるのは妊娠中で情緒不安定なのか、彼はここのところ浮かない顔をしている。まぁ、初めての妊娠なのだしきっと色々あるのだろう。早く産まれてこないか。名前をなんとつけようか?毎日が楽しみで仕方なかった。
それから半年ほど過ぎあと3ヶ月程で出産の日を迎えるというある日。
なんてことだ。なんてことだ。大変なことになった。だが、そう仕方がない。オレのせいではない。オレは悪くない。早くなんとかしなければ、オレは我が家の扉を乱暴に開け放った。
「アスウェル聞いてくれ!」
彼はそれまで編んでいた赤子の着ぐるみをそっと机に置くと、
「なに?ベイカー、運命の番とでも出会った?」
「どうしてそれを!いや、そんなことはどうでもいい。誓いの指輪を破棄してくれ。早くしないとオレは……………」
「………り選ぶんだね」
彼は小声で何事か言った。そして、狂ったように笑いはじめた。
「クククククッ。アハハハハハ。誓いの指輪を破棄だって?するわけないじゃない?やっと、やっとこの日が来た。はぁ、長かった。ハハハハハ。」
オレは何を笑っているのか全くわからなかった。なぜ、破棄してくれないのだ?長かった?何がだ?全くわからない。
だが、運命の番と出会っても裏切らないと誓ったオレはあの指輪を破棄しない限り、運命と結ばれることはできない。もし、このまま彼を捨て運命のところへ行けば代償が発動する。
「アスウェル。何を笑っている。運命と出会ってしまったんだ。仕方がないだろう?オレのせいじゃない。お前が破棄してくれないとオレがどうなるかわかっているじゃないか?オレを愛しているのなら、指輪を破棄して運命の元へと行かせてくれ。」
「ねぇ?ベイカーあなたこそ自分が何言ってるかわかってる?あなたが運命の番を選び私との番関係を解消したらオメガの私はどうなる?まさか知らないとは言わないよね?」
オレは腹が立って仕方がなかった。
「知ってるに決まってるだろう?番を解消されたオメガはそのまま次第に弱って死ぬ。だが、それがどうした?運命だぞ!運命の番を選ぶのが当たり前だろ!」
「当たり前。なるほど、本当に獣だ。運命の番を選ぶなんて獣と同じだと言ったのはあなたじゃない?絶対に大丈夫だからとあなたは誓いの指輪まで使って私と結婚した。だけど、それを破棄して運命の元へと行かせてくれ?笑わせないでくれよ。」
考えを変える様子のない彼の態度に、オレは最後の手段に出ることにした。
「クソッ。お前がそんな態度をとるのなら、オレにも考えがある。オレだけが代償を受けるなんて真っ平だ!お前も道連れにしてやる!」
オレはアスウェルとの番を解消した、つもりだった。だが、
「なぜだ?なぜお前はそんな平気な顔をしている?どういうことだ。ガッ、グアーッ!」その時、代償が発動した。
「なぜって?だってあなたと番ってないもの。幻惑の香を焚きながらのセックスは最高だったでしょ?項を咬む幻想でも見た?クククッ。咬み跡はプロテクターで隠していたけど、すでにあったんです。まぁ、つけたのはある意味あなたですけどね。」
「ガァーッ。体が熱い、熱い。燃える燃えてしまう!グアーッ!」
「アハハハ。燃えろ!燃えろ!燃えてしまえ!」
オレは、最後の力を振り絞り、
「なぜだ?なぜだ?どうして愛しているオレをこんな目に合わせる?」
彼は滂沱の涙を流しながら、
「愛しているのになぜ?と番を解消しようとしたあなたが言うんですか?
私はあなたと結婚するのは2度目なんですよ。前世、私はあなたと結婚し幸せに暮らしていた。私も心から愛していたし、あなたも愛してくれていると思ってました。なのに、突然あなたは運命の番が現れたと言って、番を解消し簡単に私をボロ雑巾のように捨てた。
お腹の中の子供も流産し、狂いながら私はあなたを呪って失意の中死んだ。そんな私を神様はあなたと出会う前の私に時を戻してくれたのです。だけど、なぜか咬み跡は残ったままでした。
現世で私にあなたがまた声をかけてきた時、憎しみが込み上げてきて思わず睨んでしまったけれど、性懲りもなくあなたはまた私にアプローチをしてきた。
でも、憎いあなたともう一度付き合うのはまた不幸になるだけ。そのまま別々の人生を歩んでいこうと憎しみを堪え思っていた。だけど、あなたは私に『愛している』と言った。許せなかった。私にのうのうと愛をささやくあなたが。」
オレはそのまま意識が遠のき、そして、暗闇に閉ざされた。
ドサッと音を立て消し炭のように真っ黒になったベイカーが崩れ落ちる。
「あぁ、もう聞こえてませんね。」
アスウェルは、優しい笑顔を浮かべそっとお腹をなぜると、
「やっと、あなたを産んであげられる。私の大事な赤ちゃん。お父さんがね、男の子ならルネ、女の子ならメリって名前も考えてくれたんだよ。でも、君のお父さん殺しちゃったよ。」
彼は真っ黒になり元の姿が判別もできないベイカーの側にペタッと体の力が抜けたようにしゃがみ込むと、拳を床に打ち付けた。
「…………たのに。愛してたのに。あなたを誰よりも、あなたがいなければ息もできないほど、愛してたのに!どうして、どうしてだよ!なんでまた運命の番を選ぶ!指輪まで使って誓ったというのに!なんでなんだよ!滅びようとも運命の番を選ぶのか!」
「でも、殺しちゃったからどこへも行けないね。これで、本当に私のものだ。永遠に…………。ハハハ。ハハハハハ。あぁぁぁぁぁぁぁぁーっ」
彼の慟哭は一晩中続き、やがて朝になった。
彼は登ってきた朝日を見つめつぶやいた。
「神様、どうして私の時間を戻してくれたのですか?憐れに思ってくれたのではなかったのですか?これではまるで罰じゃないか。」
おわり
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