いつかは君を

ゆきだるま

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第三話

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女の子との連絡先の交換、それは俺にとって初めてのことで、心を踊らせた。 
もしかしたらすごく仲良くなったりしてなんて、気持ち悪い妄想だって捗った。 

学校で有頂天になり、その妄想を学校の友達に語って聞かせて真面目に嫌がられたりもした。 

家でも一人有頂天になり、今のこの気持を保存したいなどと考え、ノートに作詞したりした。メロディーまでつけた。もちろん次の日ビリビリに破いて燃やした。 

 そんな気持ち悪い生活を送りながらも、俺は一生懸命平井さんとメッセージでやり取りをした。最初は、 

『やあ、何してんの?』 

などというさりげなさを装っているつもりが挙動不審になっている字面のメッセージを送るのに30分かかったりしたが、次第に気兼ねなくやり取りが出来るようになった。 

 それはとても嬉しくも痛ましい時間だったのだろう。彼女が俺の発する言葉に反応してくれるだけで嬉しかった。彼女が俺に言葉をくれるのが嬉しかった。俺が眺めているのはディスプレイ上の文字だ。まるでディスプレイに恋しているかのような恥ずかしさに囚われながらも喜ぶことをやめられなかった。 

 それでも俺は少しずつ進んだ。電話をかけてみたり、一緒に遊ぼうと誘ってみたり。 

 本当によく頑張ったものだ。 

 ……それから数ヶ月がたった。 

 俺と彼女の距離は縮まり、彼女は…… 

「あははは!……俺の……告白は……風とともに!バイク達に!かき消された!?あはは!馬、馬が!いっぱい歩いてる!これ何の意味があるの?バイクのつもりなの?ねえ、どういう意味!?イヒヒ……死ぬ」 

「なあ、もう帰れよ……頼むよ」 
  
 彼女は俺の部屋に入り浸っていた。 

彼女は俺のパソコンデスクをバンバンと叩き、俺のパソコンで俺が中学の時に“RPGをツクレール”というソフトで作ったRPGをプレイしていた。 
  
 俺だって保存したことを忘れていたファイルを、俺がトイレに行っている間に引っ張り出し、帰ってくると勝手にプレイされていた。 

 思春期真っ盛りに、学校ではおとなしくしていたがワルに憧れ、ヤンキー漫画ばかりを読み、深夜のハイテンションに任せて作ったものだ。なぜ消さなかったんだろう。 
とにかくあの時はどうかしていたんだ。今の俺とは関係ないんだ…… 

 というか俺は数ヶ月前こいつと仲良くなることに憧れたが、数ヶ月前の俺に会えるのならば忠告したい。 

『仲良くなるな!』と 

 彼女は平井は俺の言葉を無視し、画面上の馬ひとつひとつにに『話す』コマンドを実行している。缶チューハイを煽りながら。 

ウマ:ヒヒーン 

「ちょっと!ヒヒーンって、どうしたの?急に照れくさくなったの?ぷくく……ウマをバイク扱いするのやめたの?ねえ?ねえ?」 

 はは……楽しそうで何よりだ。そうか、あれは面白いんだ。ああ、俺はいい作品を作ったんだな。そうだよな…… 

「頼むよ、帰ってくれよ……かーちゃんのチューハイ勝手に飲むなよ……俺が怒られるよ……」

 しばらく必死に説得し、平井はやっとゲームをやめてくれた。 

「ねえねえ、さっきのゲームデータコピーしてもいい?家で続きやりたいし」 

 もう言葉が出なかった。恥と怒りと切なさの感情に押しつぶされてしまいそうで、意識を保っているのがやっとだった。消そう、データ、消そう。 

「いやあ、うそうそ!ゴメンゴメン。あんまり暇だったから。でも大丈夫!あんなゲーム作ってたって吉田くんのこと嫌いになったりしないから。ぷぷ……」 

「……もう帰れよ」 

 こいつはこれから先もこのことで俺をいじるのだろうか。嫌だなあ……まだニヤニヤしてるよ。 
 それでも今目の前でカラカラと笑う平井を可愛いと思ってしまっている自分がいる。しかも厄介なことに、こういうふうに遠慮なく女の子に接されることに少し喜びも感じている。本当に家に帰られたら少し残念に思うのだろう。情けない。 

「ゴメンってー、ねぇー」 

 こんなひどい目にあいながらもなんだかんだ毎回彼女を家に上げてしまうのは下心があるからだ。  
 謝りながら俺の肘をつかむ彼女の手は柔らかくてなんだか優しい感じがするんだ。ちょっと嬉しいんだ。情けないんだ…… 

「……っ。まあいいけどさ」 

 異性というのは全くもって厄介なものだ。同性にやられたらぶん殴ってしまうような所業もなんだかんだ許してしまう。ただ、“可愛いから”というだけのことでなんだか怒れなくなってしまうんだ…… 

 そもそもこいつは俺のことをどう思っているのだろう。これで俺に惚れてくれていれば我慢した甲斐もあったというものだが、そうではないのだろう。 
  
 ポテチの青のりで口の周りを汚しながら漫画を読む彼女を眺めながら一人憂いた。 

「あはは!元ネタあった!……バイク達にかき消されてる!っぷ……でもウマはいないね?」 

「もう帰れよ!」


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