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第二章

19. 異母弟がしたいこと *

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 嬲られ始めて、どのくらい時間が経っただろう。
 おそらくそれほど長い時間は経っていないのだろうけど。苦しい時間のいうのはいつだって、時が過ぎるのが遅い。
 神様はいないし、万が一いたとしても、いつだって私には残酷だ。

「ねえ、イリエス兄上。今度、僕の友人に会ってくださいよ」
「ゆ、ゆうじ、ん……? あう、ッ」

 ぐちぐちと絶え間なく玩具で私を攻めながら、グェンダルはいいことを思いついたように提案を投げかける。提案というか、私に拒否権はないのでもはや予定のようなものだけど。

 だがなによりも、彼が紡いだ『友人』という単語に、自然と体が強張った。

「そう、友人です。友人というか、まあ……いずれは『僕の部下』になりますけど」

 グェンダルの友人。そして、いずれは彼の部下となる者。
 そこから意味することを、私は『これまでの経験』から知っている。学園に通うグェンダルの友人は多くいるだろうけれど、私を会わせたい者など限られている。そして、それは私にとって歓迎できるわけもない、ろくな相手でないことも想像できる。

 馬鹿な兄上にはわからないか、と呟きながら、グェンダルは男根を模した玩具で私のなかを執拗に突き回す。
 大人の男性並みの大きさに模されている玩具は、私にとってじつに凶悪だった。裂けた部分は擦れるたびに痛み、めいっぱいに広がった孔はじんじんと痺れている。それなのに、さらに激しく突き動かされて逃れる隙すらない。

「ふふっ。嬉しそうに頬張ってて、すごいなぁ。オメガはやはり淫乱で、こんなことをされても悦がるしか能がないんですね。ははは、イリエス兄上ってば、発情期でもないのに腰なんか振って。雌犬みたいですよ」

 腰が揺れてしまっているのは玩具を抜いてほしいからなのに、グェンダルはそれを「淫乱」と嘲笑い、より深くへと挿入してくるので痛みが増す。

 痛くて苦しい。
 なのに、そのなかで体は必死に快楽を拾い続けている。

 本当に、どうしようもない己の性に涙が浮かぶ。

「それでね、兄上。友人の件ですけど、我が領地を護ってくれる者たちに、褒美を与えたいんです」
「えっ、あっあっ、護って、くれる、もの……? あ、やだ……やだ、それは……それは、や、あうっ」

 苦痛と快楽によって、頭は大して回っていない。けれど、グェンダルの指し示す者たちを私の記憶は憶えていて、私の心が思い出したくないと叫んだところで『かつてあったこと』を否応なしに思い出させてくる。

 私の頭の片隅によぎるのは〈一度目〉の人生で起きた、とある出来事。個人的には事件と言っていい。
 二十二歳のときに私の身に起きた、まったく嬉しくない記憶。

 あの日——はじめて二十二歳になった私は、グェンダルから『誕生日の祝い』を受け取ることになった。悪いことが起きると予想はしていたが、逃れようがなかった。受け取らざるを得なかった。
 その結果、私を甚振る化け物に、グェンダルのが増え、その先には絶望が待ち受けていた。

 今、グェンダルが話している『友人』と、〈一度目〉のグェンダルの『友人』が同一人物なのか、似て非なる者なのかは私には判ぜない。
 だが、どちらにせよマトモな者たちではないのはたしかだ。そして、二十二歳になった私の誕生日の祝いと称して、私を好き勝手に凌辱した者たちと同じ形をした化け物であることも——。

(ああ……やっぱり、そこも似ているんだな。まあ、それもそうか……今世は本当に〈一回目〉とよく似ているのだから。となれば、グェンダルが何らかの形でをしようとするのは道理なのか……。ああ、嫌だな……)

〈一回目〉の人生と似ている今世。ならば、〈一回目〉のときにあった事件が起きるのは、必然なのかもしれない。私が望まずとも。

「グェン、っ……やだ、それは……あう、うぅっ」
「逃げないでくださいよ、兄上」

 かつての事件を思い出して、体は無意識のうちにグェンダルから逃れようとする。けれど、肩も足もがっしりと捕まえられ、抵抗らしい抵抗もできない。

「それに嫌だなんて、我が儘はよくありませんね。僕たちにとっても、領にとっても、彼らは大切な者たちでしょう? そんな彼らを従える者の責務として、良い働きをしたら褒美を授けるのは当然のことです」

 友人であり、いずれグェンダルの部下となる『我が領地を護ってくれる者』とは、デシャルム領付きの騎士団のことだ。

 我が国の騎士団は、大きく分けると三つの種別がある。
 まず一つ目は、王族を守る近衛騎士団。彼らの所属は王宮にあり、騎士団の中で最も誉れ高き者たちだ。王族に近いところで任務にあたるため、実力はもとより見目の麗しさや出自、身辺の綺麗さ、王家への忠誠心なども問われる高潔の騎士である。

 二つ目は、王立騎士団。こちらも管轄は国にあり王宮に属する騎士だが、その任務内容は王族の護衛ではなく国家の防衛と治安維持。つまりは、国を護る戦士たちだ。彼らも近衛騎士団とは異なる立ち位置ではあるものの、近衛騎士団同様に英傑揃い。実力も意思の高さも兼ね備えた、素晴らしい実力者たちによって構成されている。

 そして三つ目は、各領地で編成されている領付きの騎士団。彼らに関しては、領によって扱いも任務も異なる。領地がそれほど広くなければ騎士団というほどの組織を形成していないところもあるが、その多くは領地の治安維持や揉めごとの解決に奔走することが多い。ちなみに王都であれば、王都警邏けいら隊がこれにあたる。

 デシャルムの領地は公爵家ほどではないが、曲がりなりにも侯爵の地位を賜っているのでそれなりの面積がある。そして鉱山を有していることもあって、国にとっては重要な地域の一つだ。
 鉱山は枯れぬうちは、いわば金のなる山。そこに眠る宝を奪おうとする盗賊や、他領他国からの侵入者が一定数いるため、領付きの騎士団を組織していた。領主の父は、自領の利益を損なうのをただ指をくわえて見ているだけというお粗末な統治はしておらず、騎士団には腕に覚えがある者を採用している。実力だけを見れば、近衛騎士団や王立騎士団に引けを取らない者も多い。

 ただし、いくら剣技や体術に優れて、統制がとれている騎士団であっても『はぐれ者』は存在する。我が領の騎士団の全員が、ろくでもない者ばかりで構成されているわけではないはずだが、どこにだって『どうしようもないやつ』は存在してしまうのだ。

 その者たちが今世で言うところのグェンダルの友人。——つまりは、〈一度目〉のときと同じだ。あのときも、グェンダルは彼の友人である騎士たちとともに私をさんざん甚振った。誕生日の祝いと称して。私のためだとのたまって。

 きっと、あのときと同じことを考えているのだろう。
 褒美とは、つまり……。

「彼らがね、オメガを抱いてみたいって言うんですよ。さすがに子をなされるのは困るので最後まではさせませんけど。でも、こういう遊びをさせてあげるくらいなら、いいと思うんですよね。まあ父上たちには怒られそうなんで言いませんが」

 ほら、思ったとおりだ。

「僕はね、兄上にも、兄上ができる方法で貢献していただきたいんですよね」

 グェンダルの話を端的にまとめるならば、日頃の働きの褒美と称して騎士たちに私を輪姦させる、と言っているのだ。〈一度目〉の人生と同じように……。

「いつ会ってもらいましょうか。兄上の希望はあります?」

 一方的に話をしている間も、私の後孔からはぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴っている。

「む、むりっ、やだ、あっ」
「そうですか。兄上も、日頃世話になっている騎士たちへ早くお礼をしたいですよね。それなら、すぐにでも予定を立てましょう。たくさんお礼できるように、いろいろと玩具を用意しますから、楽しみにしていてください」

 私の話など、まったく聞いていない。

(グェンはまだ十五歳だ。なのに……もうこの話をするなんて。早すぎる……)

〈一度目〉の事件当時、私は二十二歳。グェンダルは十九歳。四年も早い。
 似通った人生ではあるけれど、違いはあるらしい。それにしても早すぎると思うけれど。だって、グェンダルはまだ学園に通っている年齢なのに。

「でも今日は、僕相手に啼いてくださいね」

 違いはどこからくるものなのか考えなければいけないのに、苦痛と快楽に頭が塗り潰されていく。

「うあっ、あっ、や……もっ、だめっ、ゆるし、て、ぇっ」
「出そうですか? いいですよ」
「や、あっ、あっ……んん、あぁっ!」

 グェンダルの握る無機質な玩具に体を弄ばれ続けていた私は、ついに白濁を吐き出す。すると、吐精をしたことですべての体力をも吐き出してしまったのか、急激に意識が遠退いていくのを感じた。
 そのなかで、私は〈一度目〉の人生で起きた事件のことを思い出していた。

 思い出したくもないのに、あの出来事はこうして不意に私を苛むのだ。


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