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98話 ゲート
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鏡に触れたブランは力を込め始めたようだ。
力を込めたことで、鏡の中の世界が歪み始めたからだ。
「結城、これで帰れるぞ」
まだ確定していない鏡の中を地べたに座っている八雲が見ながらいう。
その歪みが次第に広がっていく。
帰れる……
何一つ実感がわかなかった。
しかし、その時が刻一刻と迫っている。
「もうすこしじゃ」
ブランがそういった。
本当に帰れる。元の世界に。
「どうした、結城? あまり嬉しそうじゃないな」
「えっ」
迷いが顔に出ているのだろう。
本当に帰っていいのか。
みんなを置いて帰ってしまっていいのだろうか。
そのことが頭の中にめぐっていた。
「気にするな」
しかし八雲は僕の返答など聞くまでもなく、頭の中を読んだように喋る。
「他の連中のことなど考えても仕方ない」
「どうして?」
「皆、死んだだろうからな」
八雲の言葉は衝撃的なものだった。
「み、みんな死んだってどういうこと」
「見てみろ、この城には俺たち以外いない。いや、生きた生命体はと言ったほうが正しいか」
そんなことが分かるのだろうか。僕にはない魔力を使って知ることができるのだろうか。
「見てみろと言っても、君には見えないんだったな。すまない、ボクも結構限界で余裕がないようだ」
地べたに座り込んでいる八雲は僕に誤った。
結界を張り続けていた八雲はずっと働き続けている。余裕がないのも仕方ない。
「いいよ、怒ってないから」
平気なふりをする。確かに怒っているわけではない。
でも、生きた人がいないということにショックを受けているのだ。
みんなが死んだ。その事実だけが僕の心に残り続けている。
「できたぞ」
ブランの声が聞こえてきた。
僕は鏡に近づく。
「これがゲートなの」
鏡の中は歪んでいる。安定した渦を巻いているが、その奥は見通すことができない。
「あぁ、たぶんの」
ブランはいう。たぶん、か……
少し不安にさせることをいう。
「早くせんといつまでこの形が保てるか分らんぞ」
ブランは催促をする。心の準備をする暇すら与えてくれないというのだろうか。
えぇい、迷っていても仕方ない。
僕は鏡の中に足を踏み入れた。
以外にも鏡に吸い込まれるという感じではなく、中に足場ができていた。
足場の先に渦があり、そこに向かう必要があるようだ。
すぐに吸い込まれると思っていたので、少しの間気持ちの余裕ができた。
僕は、ゆっくりを進みだす。
渦の中に吸い込まれるように。足場を確認しつつ、ゆっくりと時間をかけて。
その後ろをブランが続いた。僕の後ろを歩くように。少し疲れた顔をしているのは魔力を消費したためだろう。
ブランの後ろには八雲が付いてくる。八雲の顔にも疲労が伺えた。
今元気なのは僕だけだ。何もできない無能な僕だけ。
涙が出てくるほどの悲しい現実だった。僕一人ではどうすることもできなかったことだろう。
二人には感謝しかない。
そして、渦は次第に近づいてくる。たぶんこの先に進めば取り込まれるというところまできた。
「行こう」
僕は言う。後ろを振り向き二人の顔を確認する。
「うむ」
ブランは返事を返す。
「……」
しかし、八雲は返事をしなかった。
「どうしたの、八雲」
そう尋ねた。疲れて言葉が出せないわけではなかった。
「ボクはここまでだ」
八雲の顔は優しく、そして悲しい顔をしていた。
「どうしてそんなことをいうの?」
「ふ、そのままの意味だ。ボクはここに残る」
どうして八雲がそんなことをいうのか理解できないでいた。
理由が知りたい。到底納得できないからだ。
「何言ってんだ!八雲!!」
今までにない大きな声が僕から発した。
「知っているだろう…ボクは元の世界での暮らしを」
「!?」
八雲は悲しそうにいう。
その言葉の意味は分かっていた。
八雲は決して幸せな生活を元の世界でしていたわけではない。
学校生活は僕と一緒だった。しかし、家ではそうはいかない。八雲の親は酷い人間だった。
母親は亡くなっており、父親と2人暮らし。だが、その父親が酷い奴だった。
ほとんど仕事をしない、酒を朝から飲み、そして、八雲に暴力を振るうのだ。
顔にアザを作って登校することもしばしあった。
力を込めたことで、鏡の中の世界が歪み始めたからだ。
「結城、これで帰れるぞ」
まだ確定していない鏡の中を地べたに座っている八雲が見ながらいう。
その歪みが次第に広がっていく。
帰れる……
何一つ実感がわかなかった。
しかし、その時が刻一刻と迫っている。
「もうすこしじゃ」
ブランがそういった。
本当に帰れる。元の世界に。
「どうした、結城? あまり嬉しそうじゃないな」
「えっ」
迷いが顔に出ているのだろう。
本当に帰っていいのか。
みんなを置いて帰ってしまっていいのだろうか。
そのことが頭の中にめぐっていた。
「気にするな」
しかし八雲は僕の返答など聞くまでもなく、頭の中を読んだように喋る。
「他の連中のことなど考えても仕方ない」
「どうして?」
「皆、死んだだろうからな」
八雲の言葉は衝撃的なものだった。
「み、みんな死んだってどういうこと」
「見てみろ、この城には俺たち以外いない。いや、生きた生命体はと言ったほうが正しいか」
そんなことが分かるのだろうか。僕にはない魔力を使って知ることができるのだろうか。
「見てみろと言っても、君には見えないんだったな。すまない、ボクも結構限界で余裕がないようだ」
地べたに座り込んでいる八雲は僕に誤った。
結界を張り続けていた八雲はずっと働き続けている。余裕がないのも仕方ない。
「いいよ、怒ってないから」
平気なふりをする。確かに怒っているわけではない。
でも、生きた人がいないということにショックを受けているのだ。
みんなが死んだ。その事実だけが僕の心に残り続けている。
「できたぞ」
ブランの声が聞こえてきた。
僕は鏡に近づく。
「これがゲートなの」
鏡の中は歪んでいる。安定した渦を巻いているが、その奥は見通すことができない。
「あぁ、たぶんの」
ブランはいう。たぶん、か……
少し不安にさせることをいう。
「早くせんといつまでこの形が保てるか分らんぞ」
ブランは催促をする。心の準備をする暇すら与えてくれないというのだろうか。
えぇい、迷っていても仕方ない。
僕は鏡の中に足を踏み入れた。
以外にも鏡に吸い込まれるという感じではなく、中に足場ができていた。
足場の先に渦があり、そこに向かう必要があるようだ。
すぐに吸い込まれると思っていたので、少しの間気持ちの余裕ができた。
僕は、ゆっくりを進みだす。
渦の中に吸い込まれるように。足場を確認しつつ、ゆっくりと時間をかけて。
その後ろをブランが続いた。僕の後ろを歩くように。少し疲れた顔をしているのは魔力を消費したためだろう。
ブランの後ろには八雲が付いてくる。八雲の顔にも疲労が伺えた。
今元気なのは僕だけだ。何もできない無能な僕だけ。
涙が出てくるほどの悲しい現実だった。僕一人ではどうすることもできなかったことだろう。
二人には感謝しかない。
そして、渦は次第に近づいてくる。たぶんこの先に進めば取り込まれるというところまできた。
「行こう」
僕は言う。後ろを振り向き二人の顔を確認する。
「うむ」
ブランは返事を返す。
「……」
しかし、八雲は返事をしなかった。
「どうしたの、八雲」
そう尋ねた。疲れて言葉が出せないわけではなかった。
「ボクはここまでだ」
八雲の顔は優しく、そして悲しい顔をしていた。
「どうしてそんなことをいうの?」
「ふ、そのままの意味だ。ボクはここに残る」
どうして八雲がそんなことをいうのか理解できないでいた。
理由が知りたい。到底納得できないからだ。
「何言ってんだ!八雲!!」
今までにない大きな声が僕から発した。
「知っているだろう…ボクは元の世界での暮らしを」
「!?」
八雲は悲しそうにいう。
その言葉の意味は分かっていた。
八雲は決して幸せな生活を元の世界でしていたわけではない。
学校生活は僕と一緒だった。しかし、家ではそうはいかない。八雲の親は酷い人間だった。
母親は亡くなっており、父親と2人暮らし。だが、その父親が酷い奴だった。
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