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96話 煙

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 煙の出る方向に向かって走る僕とブラン。
 城に近づくに連れて、辺りを振動させる程の大きな生き物の鳴き声が響いて来た。
 なんの鳴き声だ。
「この鳴き声は、竜じゃな」
「竜? この世界に竜なんているの?」
「あぁ、おるぞ。でも、普段姿を見る事はない。伝説の生き物じゃ」
 それが、いるって事?
「竜は危険な生き物なの?」
 この世界では危険ではないかもしれない。しかし
「危険じゃ、それもものすごくな。普通の人間では敵わん。竜はとんでもない魔力を保有している生物じゃからな」
「それって、ブランよりも?」
「うむ、わちよりも強いじゃろうな、多分」
 それは一大事ではないか。
 もしも、その竜が城を攻撃しているなら、助かる可能性はほぼ皆無なのでは?
 急いで向かった所で、逃げるのがやっとではないか?
「見えて来たぞ!」
 ブランが言う。
 森を抜けて城の様子が視界に入る。
 そこで目にしたのは、絶望としか呼べない光景だった。
「な、なんだこれ」
 遠くからでも分かる。
 城全体が赤く燃えて、炎に包まれているのが。
 人の姿は見えない。見えるのは燃えている城とその上空を飛ぶ竜の姿。
 黒色の羽で上空を飛ぶ竜は、僕が想像する竜、そのものだった。
「ブラン、どうしよ……」
 燃え盛る城に戻った所で、僕が誰かを助けたりできるとは到底思えなかった。
 城には八雲や勇者の仲間、姫様。
 知り合いの顔が浮かぶ。
 しかし、もう助けられない。それどころか自分が危ない事に恐怖していた。
「そうじゃな……お主はどうしたい?」
 どうしたいって…八雲を助けなくちゃと思う。でも、あんだけ火が回ってしまった建物の中で無事なのか。行ったって死んでたら、僕も危ない。
 でも、八雲は僕が来るのを待っているかもしれない。
 あの八雲なら炎くらいなんとかできてるかもしれない。
 震える足を叩いて、正常に戻す。
「八雲の所に行くよ」
「そうか、ならわちも行こうかの」
 僕は城の八雲の待つ図書館に向かった。
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