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55話 死4

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 王の葬式は終わる気配を見せなかった。
 僕は、列に並ばずに先ほどの柱の陰から、八雲と共に王を弔う人たちを見ていた。

「これはいつ終わるんだ?」

「知らん」

 八雲も飽きている様子だ。

 一時間、二時間がたっても終わらない式は、退屈としか言いようがなかった。
 
 貴族は呪文のような言葉の羅列を行い、それに合わせて、民衆も後を追うように唱えている。

 葬式は退屈で仕方なく、僕はとうとう八雲に昨日の出来事について聞くことにした。
 本来ならば、現場にいたイケメンを待つべきなのだが、葬式は終わる気配もなく解放される気配がないので、時間の有効活用をすることに決めたのだ。

「八雲、そろそろ話してくれないか、先日の事を。僕以外のみんなはどうなったんだ? いや、それよりも僕は洞窟を出た記憶がないんだけど、あの後どうなったの?」

「ん? もう少し待て、と言いたいがアイツ抜きでも問題ないか。ボクの知ることをお前に話してやろう」

「ありがとう、頼むよ」

「ふむ、まずはお前に言うことがある」

「何?」

「お前は昨日というが、実際はもう3日立っている」

「待って、昨日じゃないの? 僕は3日間寝てたというわけ?」

「そうだ。お前があの日洞窟の中で何をしていたのかは知らないが、ボクとあの男は君を助けに洞窟に向かったんだ。そしたら、洞窟の外で倒れている君を見つけた。以上だ」

 端的に話し終えた八雲は、黙ってしまった。
 興味ないのかな。僕が洞窟の中で何していたのか。
 あまりに早く終わってしまったので、僕は八雲に質問した。

「あの出来事の後、何もなかった? また同じ生物が襲ってきたとか、盗賊が襲ってきたとか」

「それは、なかったな。平和そのものだった」

「そっか……」

 ん~、僕もこれ以上聞いても何もなさそうだし、あの出来事の事をこれ以上聞いても何も出てこなそうだ。

「そういえば、八雲は僕たちを襲ってきた生物見てないよね?」

「あぁ、見てないな生きたやつは」

「生きたやつは?」

 まるで生きてないやつなら見たみたいなことを言っているのか?
 そんなわけない。だって洞窟の中で殺したのだから八雲が死体を確認することなどできはしな……そういえば、死体は洞窟の外に飛ばしたんだった。

「死体見てあれが何のか分かった八雲?」

 図書館で本を読んでいる八雲なら知っていてもおかしくないはずだ。
 だが、八雲は頭を横に振る。
 知らないと言っている。

「あれは、見たことない生物だ」

「いや、あれはゴリラだろう。見たことあるよ」

「でかくてゴリラみたいな見た目をしていたが、図鑑には載っていなかった。この世界では存在していない生物ということだ。もしかすると本当にゴリラかもしれないとボクは思っている」

「いや、あれはゴリラじゃないだろう。でかいし」

「確かにでかい。我々の知っているゴリラよりも数倍でかい、キングコングに近いかもしれない。誰かがこの世界に召喚した可能性も考えられる」

「なら、ゴリラか~」

「お前はブレブレだな……」

 八雲は呆れていた。
 あの死体はどうしたのだろう。
 あんな大きなものほっておいたらダメじゃないのかな。環境問題的に。

「あの死体はどうしたの? 調べるために持って帰ってきた?」

「あぁ、持って帰ってきた。貴族がな……」

 それを聞いて、どうして貴族なのと聞きたかった。
 しかし、八雲の表情は暗かった。あまり聞いても良くない返事しか返ってこなそうだ。
 貴族が持って帰ってきたということは、僕たちには調べることもできないという意味になるはずだ。
 八雲が暗い表情をしたのは、そのせいだろう。
 悔しいに違いない。


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