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160 王城到着
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航海は終わりに近づいていた。
目を凝らすと、うっすらと陸が見える。
わたし達が乗っている『星の翼』号は王都管理区の陸地が肉眼で見える所まで来ていた。
今日は天気もよく、風も波も穏やかなので、手のあいている人達が陸地を見に甲板に出てきている。
「いやー、戻ってきちゃったね。何ヶ月ぶりかしら」
「そうじゃの。久しぶりなのじゃ」
わたしとディーネも甲板に出て陸地を見ていた。
ディーネはあいかわらずの無表情だ。
王都を出発する直前はものすごい美女の姿だったディーネだが、今はどこからどう見てもハシビロコウである。
その鋭い目はどのような感情で王都管理区を見ているのだろうか。
「ディーネちゃんは戻ってきたかった?」
「ふむ。なんとも言えないのじゃ。良い思い出も、つらい思い出もある場所なのじゃ」
「そうだよねえ・・・ディーネちゃんはずっと王都にいたんだもんね。わたしはちょこっとしか滞在してないし、慌ただしく逃げ出しちゃったからなー。でも懐かしさはあるよ。ディーネちゃんに出会った場所だしね」
「うむ。ユリとの出会いの地じゃな」
陸を見るディーネの目が細められる。
感慨深いものを感じているのだろうか。
あの時、ディーネは人間に失望して塞ぎ込んでいた。
色々とすったもんだがあったものの、ディーネと心を通わせることができたからこそ、今のわたしがいるわけで、すべての始まりの地であると言っても過言ではない。
・・・お腹を撃ち抜かれて死にかけた甲斐があったよ。
「さてさて、王城はどのへんにあるかな?」
「見えている陸地はまだ王城から遠いですよ」
わたしとディーネの会話に割り込んできたのは王都監察官のシュマーだ。
シュマーも甲板に出てきていたらしい。
「あら、シュマーさん。そうなんですか?」
「ええ。あそこに見えている陸地は王都の東側にある半島ですよ。あの岬の先を抜けた方向が王都の中央です」
「そうなんですか・・・ってことはあれは房総半島か。先端は野島崎ってところね」
「ボウソウ・・・何ですって?」
「いや、こっちの話なので気にしないでください」
王都管理区の形状は日本列島にそっくりな作りをしていて、王城は東京付近にある。
そこから東の半島といえば房総半島になるわけだが、当然ながらここは地球ではないので、その地名が当てはまるはずがない。
「まあ、どのみち王城まではもうすぐです。先ほど魔道具で王都管理区に連絡を入れました。じきに迎えの船が来ることでしょう」
「はあ、そうですか」
シュマーが得意げな表情で教えてくれた。
どうやら王都が近くなったので連絡がつくようになったらしい。
しかしその得意げな表情はすぐに一転し、真面目な顔に戻った。
「・・・勇者殿。私達との馴れ合いもここまでです。この先はもう好き勝手な事はできませんよ。王の命令に絶対に従ってもらいます」
「そうね・・・不本意だけど仕方ないわね。卑怯にも人質を取られてる状況ですしね」
「・・・私からは何も申し上げることはありません。王命に従うのみです」
・・・シュマーさん、変わったよね。
出会った時は、いかにも偉そうにふんぞり返って、わたし達をやりこめようとしていたし、気持ち悪いイヤな笑顔を浮かべてたし、青筋が凄かったし。
別に懐柔したつもりはない。
かと言って卑下した態度で接したわけでもない。
あくまで自然体で、一緒に船旅をしただけだが、一緒にいる時間が取れれば分かり合える部分も出てきたのではないだろうか。
「・・・願わくば、平和的な話し合いで決着が付くことを祈ります」
「ありがとう、シュマーさん。また一緒に麻雀できるといいわね」
「次にやるときには私は強くなっていると思いますよ。覚悟してくださいね」
そう言うとシュマーは一礼して去っていった。
そして入れ替わるようにアドルがやってきた。
どうやらわたしとシュマーのやり取りを近くで見ていたらしい。
シュマーが完全に見えなくなったところで、小声でアドルが言った。
「シュマーさん、昔に比べるとなんか雰囲気が変わったよな。態度が柔らかくなったというかさ」
「うん、わたしもそう思う。味方になったとまでは思わないけどね」
ふふっとアドルに笑いかけると、アドルも釣られて軽く笑った。
アドルの笑顔にほっこりする。
思えばディーネだけではなく、アドルのお陰で王都からの脱出もできたのだ。
王城でアドルに出会っていなければ、わたしはどうなっていただろうか。
・・・たぶん死んでたね。
ディーネもずっと結界に引きこもったままかもしれない。
「わたし・・・アドルに出会えてよかった」
「ん?急にどうした?」
「あー・・・うん。もうすぐ王都に着くと思ったらさ、昔、王都でアドルに会った時のことを急に思い出したの。あれがすべての始まりだったなーって」
「そうだね・・・オレもユリに出会えてよかった」
そう言うとアドルは拳を握り、わたしにむかって軽く腕を伸ばした。
腕につけているミサンガの魔道具が陽の光を軽く反射してキラリと光った。
「出会ったときから誓ったんだ。オレがユリを守ると。そしてこれからも君を守る。必ず一緒に生きて帰ろう。このミサンガに誓うよ」
「うん、頼んだ!」
わたしも手を伸ばし、アドルの拳にわたしの拳を軽く合わせる。
「妾もじゃ」
「わたしのこと忘れてないでしょうね?最近影が薄いんですけど!」
「もちろん、ディーネちゃんもサラちゃんも一緒よ」
ディーネも羽根をバサッと広げて拳に触れる。
いつの間にやら来ていたサラもフワッと宙に浮いて、前脚を拳に軽く乗せた。
「やることやって、みんなで一緒にニューロックに帰ろうね!」
◇
房総半島を超えたあたりで、『星の翼』号の進行方向に大型の船が現れた。
どうやらこれがシュマーの言っていた迎えの軍船らしく、短距離通話にて付いてくるようにと指示された。
『星の翼』号は指示に従い、軍船に先導されて王都管理区へと向かった。
王都の湾内を進み、やがて正面に立派な王城が見えてきた。
・・・そういえば、王城をちゃんと見るのって初めてだね。
召喚されたのは城の中だったし、そのまま王城の港湾施設から必死に脱出したから見る余裕なんてなかったし。
どのみち夜だったから見ようにも見えなかっただろうけど。
先導する軍船は、そのまま王城の真下にある港湾施設へと進んだ。
『星の翼』号もそれにならって進んでいく。
そして港の一角に係留するように指示され、港湾施設の兵士の誘導に従って船を停泊させた。
停泊後、港湾施設のほうから拡声器で拡大された声が聞こえてきた。
『全員船から降りるように!そして指示に従って行動するように!』
それを受け、エリザが艦内放送にて全員に下船するように指示を出す。
シュマーと王都の兵士達を先頭に次々と『星の翼』号から下船していき、全員が港に降り立った。
やがて兵士の集団がやってきて、兵士長らしき人が一歩前に出た。
「監察官殿、叛徒共の護送、ご苦労様でした」
「うむ。あとは任せた」
そしてシュマーと兵士達は港湾施設を抜け、立ち去っていった。
残ったのは『星の翼』号に乗ってきた、王都から召喚令状で呼び出しを受けたわたし達だけだ。
兵士長がわたし達を見回し、指示を出す。
「さて、諸君らにはまず王城に入るための登録をさせてもらう。本人確認のため国民証を見せてもらう。裏側の情報も必要なのではっきりと見せるように。では名前を呼ぶので順に出・・・」
「ちょっと待ってくれ」
兵士長の指示に、アドルが異議を唱えた。
「何だ?逆らうつもりか?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないが、王城に入るための登録に国民証は不要のはずだ」
「本人確認をせずに登録などするはずがないだろう」
「本人確認をおこなうことは別に構わない。だが、それならば国民証の表面だけでいいはずだ」
城の守りを通り抜けるために、個々の登録が必要であることは間違いない。
アドルはその仕組をよく知っている。
何故ならアドルは先王の時代に、王子と仲の良い友人だったため、王城によく遊びに来ていて、城の仕組みや魔道具に詳しくなっていたからだ。
だからこそ、アドルの指摘はもっともだった。
「国民証の裏側まで見せる必要はないだろう。違うか?」
「必要だ。裏面の数字も確認する必要がある」
「そんな事あるわけが・・・」
「登録の仕組みを変更したのですよ」
兵士長に食ってかかるアドルに答えたのは、別の人物だった。
兵士長の後ろから一人の豪華な鎧を着た男がやってきた。
・・・この人、見覚えがある。
最初、わたしに色々と説明をしてくれた人だ。
名前は確か・・・
「フラウスさん?」
「ほう。覚えていてくださいましたか、勇者殿。フラウスです。久しぶりですね」
間違いなく、王の護衛騎士隊長のフラウス、その人だった。
フラウスはわたしに挨拶した後、アドルのほうを向いた。
「今一度いいましょう。登録の仕組みを変えたのですよ」
「仕組みを変えた・・・?」
「その通り。実は以前、王城に賊が入ったことがありましてね。その賊は正式な入城登録をしていないにも関わらず、不当な手段を用いて王城に入り込みました。そのような事態を防ぐために保安対策の強化を行い、入城許可を行う魔道具を改造したのです。そういえばその賊はまだ捕まっておりませんが・・・」
「・・・」
そう言ってフラウスはアドルを凝視する。
アドルは反論することもできず、黙ったままだ。
・・・フラウスさんはあの時、アドルが侵入したことを知っているんだ。
それを理由にここで捕まえることもできるぞ、ということか。
やってくれる!
「・・・国民証に記載されている情報も必要になった理由はそのためです。ご理解いただけましたか?」
「・・・」
「フラウス殿。アドルが失礼した。承知した」
答えられないアドルに変わって、エリザが承諾の声をあげた。
エリザはわたし達を見回し、右手を上げ、指示に従うようにと全員に促した。
わたしたちはしぶしぶながら、全員の国民証を裏面までしっかりと確認し、記録されてしまった。
・・・国民証の番号は例の人体発火の魔道具に関係しているはず。
わたし達の生殺与奪も掴まれてしまった。
目を凝らすと、うっすらと陸が見える。
わたし達が乗っている『星の翼』号は王都管理区の陸地が肉眼で見える所まで来ていた。
今日は天気もよく、風も波も穏やかなので、手のあいている人達が陸地を見に甲板に出てきている。
「いやー、戻ってきちゃったね。何ヶ月ぶりかしら」
「そうじゃの。久しぶりなのじゃ」
わたしとディーネも甲板に出て陸地を見ていた。
ディーネはあいかわらずの無表情だ。
王都を出発する直前はものすごい美女の姿だったディーネだが、今はどこからどう見てもハシビロコウである。
その鋭い目はどのような感情で王都管理区を見ているのだろうか。
「ディーネちゃんは戻ってきたかった?」
「ふむ。なんとも言えないのじゃ。良い思い出も、つらい思い出もある場所なのじゃ」
「そうだよねえ・・・ディーネちゃんはずっと王都にいたんだもんね。わたしはちょこっとしか滞在してないし、慌ただしく逃げ出しちゃったからなー。でも懐かしさはあるよ。ディーネちゃんに出会った場所だしね」
「うむ。ユリとの出会いの地じゃな」
陸を見るディーネの目が細められる。
感慨深いものを感じているのだろうか。
あの時、ディーネは人間に失望して塞ぎ込んでいた。
色々とすったもんだがあったものの、ディーネと心を通わせることができたからこそ、今のわたしがいるわけで、すべての始まりの地であると言っても過言ではない。
・・・お腹を撃ち抜かれて死にかけた甲斐があったよ。
「さてさて、王城はどのへんにあるかな?」
「見えている陸地はまだ王城から遠いですよ」
わたしとディーネの会話に割り込んできたのは王都監察官のシュマーだ。
シュマーも甲板に出てきていたらしい。
「あら、シュマーさん。そうなんですか?」
「ええ。あそこに見えている陸地は王都の東側にある半島ですよ。あの岬の先を抜けた方向が王都の中央です」
「そうなんですか・・・ってことはあれは房総半島か。先端は野島崎ってところね」
「ボウソウ・・・何ですって?」
「いや、こっちの話なので気にしないでください」
王都管理区の形状は日本列島にそっくりな作りをしていて、王城は東京付近にある。
そこから東の半島といえば房総半島になるわけだが、当然ながらここは地球ではないので、その地名が当てはまるはずがない。
「まあ、どのみち王城まではもうすぐです。先ほど魔道具で王都管理区に連絡を入れました。じきに迎えの船が来ることでしょう」
「はあ、そうですか」
シュマーが得意げな表情で教えてくれた。
どうやら王都が近くなったので連絡がつくようになったらしい。
しかしその得意げな表情はすぐに一転し、真面目な顔に戻った。
「・・・勇者殿。私達との馴れ合いもここまでです。この先はもう好き勝手な事はできませんよ。王の命令に絶対に従ってもらいます」
「そうね・・・不本意だけど仕方ないわね。卑怯にも人質を取られてる状況ですしね」
「・・・私からは何も申し上げることはありません。王命に従うのみです」
・・・シュマーさん、変わったよね。
出会った時は、いかにも偉そうにふんぞり返って、わたし達をやりこめようとしていたし、気持ち悪いイヤな笑顔を浮かべてたし、青筋が凄かったし。
別に懐柔したつもりはない。
かと言って卑下した態度で接したわけでもない。
あくまで自然体で、一緒に船旅をしただけだが、一緒にいる時間が取れれば分かり合える部分も出てきたのではないだろうか。
「・・・願わくば、平和的な話し合いで決着が付くことを祈ります」
「ありがとう、シュマーさん。また一緒に麻雀できるといいわね」
「次にやるときには私は強くなっていると思いますよ。覚悟してくださいね」
そう言うとシュマーは一礼して去っていった。
そして入れ替わるようにアドルがやってきた。
どうやらわたしとシュマーのやり取りを近くで見ていたらしい。
シュマーが完全に見えなくなったところで、小声でアドルが言った。
「シュマーさん、昔に比べるとなんか雰囲気が変わったよな。態度が柔らかくなったというかさ」
「うん、わたしもそう思う。味方になったとまでは思わないけどね」
ふふっとアドルに笑いかけると、アドルも釣られて軽く笑った。
アドルの笑顔にほっこりする。
思えばディーネだけではなく、アドルのお陰で王都からの脱出もできたのだ。
王城でアドルに出会っていなければ、わたしはどうなっていただろうか。
・・・たぶん死んでたね。
ディーネもずっと結界に引きこもったままかもしれない。
「わたし・・・アドルに出会えてよかった」
「ん?急にどうした?」
「あー・・・うん。もうすぐ王都に着くと思ったらさ、昔、王都でアドルに会った時のことを急に思い出したの。あれがすべての始まりだったなーって」
「そうだね・・・オレもユリに出会えてよかった」
そう言うとアドルは拳を握り、わたしにむかって軽く腕を伸ばした。
腕につけているミサンガの魔道具が陽の光を軽く反射してキラリと光った。
「出会ったときから誓ったんだ。オレがユリを守ると。そしてこれからも君を守る。必ず一緒に生きて帰ろう。このミサンガに誓うよ」
「うん、頼んだ!」
わたしも手を伸ばし、アドルの拳にわたしの拳を軽く合わせる。
「妾もじゃ」
「わたしのこと忘れてないでしょうね?最近影が薄いんですけど!」
「もちろん、ディーネちゃんもサラちゃんも一緒よ」
ディーネも羽根をバサッと広げて拳に触れる。
いつの間にやら来ていたサラもフワッと宙に浮いて、前脚を拳に軽く乗せた。
「やることやって、みんなで一緒にニューロックに帰ろうね!」
◇
房総半島を超えたあたりで、『星の翼』号の進行方向に大型の船が現れた。
どうやらこれがシュマーの言っていた迎えの軍船らしく、短距離通話にて付いてくるようにと指示された。
『星の翼』号は指示に従い、軍船に先導されて王都管理区へと向かった。
王都の湾内を進み、やがて正面に立派な王城が見えてきた。
・・・そういえば、王城をちゃんと見るのって初めてだね。
召喚されたのは城の中だったし、そのまま王城の港湾施設から必死に脱出したから見る余裕なんてなかったし。
どのみち夜だったから見ようにも見えなかっただろうけど。
先導する軍船は、そのまま王城の真下にある港湾施設へと進んだ。
『星の翼』号もそれにならって進んでいく。
そして港の一角に係留するように指示され、港湾施設の兵士の誘導に従って船を停泊させた。
停泊後、港湾施設のほうから拡声器で拡大された声が聞こえてきた。
『全員船から降りるように!そして指示に従って行動するように!』
それを受け、エリザが艦内放送にて全員に下船するように指示を出す。
シュマーと王都の兵士達を先頭に次々と『星の翼』号から下船していき、全員が港に降り立った。
やがて兵士の集団がやってきて、兵士長らしき人が一歩前に出た。
「監察官殿、叛徒共の護送、ご苦労様でした」
「うむ。あとは任せた」
そしてシュマーと兵士達は港湾施設を抜け、立ち去っていった。
残ったのは『星の翼』号に乗ってきた、王都から召喚令状で呼び出しを受けたわたし達だけだ。
兵士長がわたし達を見回し、指示を出す。
「さて、諸君らにはまず王城に入るための登録をさせてもらう。本人確認のため国民証を見せてもらう。裏側の情報も必要なのではっきりと見せるように。では名前を呼ぶので順に出・・・」
「ちょっと待ってくれ」
兵士長の指示に、アドルが異議を唱えた。
「何だ?逆らうつもりか?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないが、王城に入るための登録に国民証は不要のはずだ」
「本人確認をせずに登録などするはずがないだろう」
「本人確認をおこなうことは別に構わない。だが、それならば国民証の表面だけでいいはずだ」
城の守りを通り抜けるために、個々の登録が必要であることは間違いない。
アドルはその仕組をよく知っている。
何故ならアドルは先王の時代に、王子と仲の良い友人だったため、王城によく遊びに来ていて、城の仕組みや魔道具に詳しくなっていたからだ。
だからこそ、アドルの指摘はもっともだった。
「国民証の裏側まで見せる必要はないだろう。違うか?」
「必要だ。裏面の数字も確認する必要がある」
「そんな事あるわけが・・・」
「登録の仕組みを変更したのですよ」
兵士長に食ってかかるアドルに答えたのは、別の人物だった。
兵士長の後ろから一人の豪華な鎧を着た男がやってきた。
・・・この人、見覚えがある。
最初、わたしに色々と説明をしてくれた人だ。
名前は確か・・・
「フラウスさん?」
「ほう。覚えていてくださいましたか、勇者殿。フラウスです。久しぶりですね」
間違いなく、王の護衛騎士隊長のフラウス、その人だった。
フラウスはわたしに挨拶した後、アドルのほうを向いた。
「今一度いいましょう。登録の仕組みを変えたのですよ」
「仕組みを変えた・・・?」
「その通り。実は以前、王城に賊が入ったことがありましてね。その賊は正式な入城登録をしていないにも関わらず、不当な手段を用いて王城に入り込みました。そのような事態を防ぐために保安対策の強化を行い、入城許可を行う魔道具を改造したのです。そういえばその賊はまだ捕まっておりませんが・・・」
「・・・」
そう言ってフラウスはアドルを凝視する。
アドルは反論することもできず、黙ったままだ。
・・・フラウスさんはあの時、アドルが侵入したことを知っているんだ。
それを理由にここで捕まえることもできるぞ、ということか。
やってくれる!
「・・・国民証に記載されている情報も必要になった理由はそのためです。ご理解いただけましたか?」
「・・・」
「フラウス殿。アドルが失礼した。承知した」
答えられないアドルに変わって、エリザが承諾の声をあげた。
エリザはわたし達を見回し、右手を上げ、指示に従うようにと全員に促した。
わたしたちはしぶしぶながら、全員の国民証を裏面までしっかりと確認し、記録されてしまった。
・・・国民証の番号は例の人体発火の魔道具に関係しているはず。
わたし達の生殺与奪も掴まれてしまった。
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