96 / 206
096 見えない攻撃
しおりを挟む
「ノーラ!ノーラ、大丈夫!?」
「あ、師匠・・・すみません、こんな不甲斐ない姿をお見せするとは」
「そんなのどうでもいいから。一体どうしたの!?」
ノーラに駆け寄り、癒しの魔術をかけようとしたのだが、ノーラはこちらに掌を向けて腕を伸ばし、わたしが近づくのを制した。
「これは私の戦いなのです。わたしは師匠を侮辱したこの精霊様に、一発入れなければならないのです」
そう言ってノーラは口の横から流れる血を腕でグイッと拭くと、立ち上がって土の精霊に向けて構えをとった。
「え、わたしを侮辱?それってどういう・・・」
わたしがノーラに質問を投げきる前に、ノーラは土の精霊に向けてダッシュしていた。
土の精霊は腕を組んだまま動かず、目だけでノーラを追っている。
フッとノーラの姿がブレると、目にも留まらぬ速さで土の精霊の左側に現れた。
・・・ノーラの得意な、身体加速だね。
ノーラは身体加速の魔道具を使い、速度で相手を翻弄する戦い方が得意だ。
ただ加速するだけでなく、加速した後も体の動きを完全にコントロールして打撃を放つ。
熟練した腕がないと体が完全に制御できない、ノーラ得意の戦法だ。
ノーラが右手で土の精霊の腹あたりにフックで打撃を与えようとした瞬間、土の精霊はノーラのいる方向から見て奥側、つまり土の精霊の左手方向に体をずらして避けた。
しかしノーラはその動きを読んでいたのか、打ち出した右手を振り抜く事なく止めると、軽く半歩ほど踏み込んで右手を下ろすと同時に右足のハイキックを土の精霊の顔面に向けて繰り出していた。
しかし、ノーラの攻撃は相手にヒットする事も、ブロックされる事もなかった。
かわりにノーラの顔面あたりで軽い破裂音が発生し、ノーラが吹き飛んでいた。
「ノーラ!」
ノーラの顔の腫れは、おそらくこの攻撃を喰らい続けてきたのだろう。
ノーラは起き上がると、血の混じった唾を吐いた。
「大丈夫です、師匠。今回はガードしましたので・・・」
ノーラは蹴りながら、予め左手で顔面をブロックしていたようだ。
そのため、謎の攻撃の顔面直撃はかろうじて防いでいた。
ノーラを見下ろす土の精霊は、呆れ気味にノーラに声をかけた。
「はあ。いい加減に諦めたら?ワタシに一撃入れるなんて人間には無理よ。分かった?」
「それは残念でしたね・・・私は諦めが悪いのです。それに私は難しい事は分かりません」
ノーラ、それ自慢になっていないから!
でもとりあえず一度止める!
「ちょっと二人とも、一旦やめなさい!一度話を聞かせなさい!」
「しかし師匠、この戦いは・・・」
「これは『師匠命令』です!この意味は分かるわよね?難しくないわよね?」
「はい・・・分かりました」
土の精霊にも一時休戦を受け入れ、ノーラを引き取った。
わたしはノーラを壁にもたれかかるように座らせると、ノーラに癒しの魔術をかけた。
わたしは癒しの魔術も少しは上達したので、ノーラの顔の傷と腫れを引かせるぐらいは楽勝だ。
みるみるうちにノーラは元の綺麗な顔に戻っていった。
治癒をかけている最中に、アドルがわたしの所にやってきた。
「ユリ、目が覚めたんだね。よかったよ」
「うん、アドル。心配かけてごめんね。それより、何があったの?」
治療を終え、ノーラとアドルに話を聞くことにした。
「すみません、師匠。事の発端は、土の精霊とアドル殿のやりとりに私が割り込んだためです」
「いやノーラさん、それはオレも悪いというか・・・」
アドルの歯切れが悪い。
なんとなく事情を察した気もするが、一応説明を聞く。
わたしが先の戦いで気絶した後、土の精霊はカークの館に一緒に来たそうだ。
理由はもちろん、土の精霊がアドルを気に入ったからだ。
アドルとディーネがカークに土の精霊を紹介し、町を守ってくれた恩人である事を説明すると、カークは大歓迎で土の精霊を迎え入れてくれたらしい。
まあ、精霊様を無碍に扱う事などないだろうけど。
そして、わたしが起きない間も、土の精霊はアドルを見つけてはベッタリ密着し、さながら恋人のように振る舞っていたらしい。
「へー、アドル。あんな美人にくっつかれて、さぞ嬉しかったでしょうねえ」
「ユリ、やめてくれ。そんなんじゃない事ぐらい分かるだろう?」
「どうだかねえー」
わたしはつーんとアドルから顔を背けた。
ノーラは苦笑しながら話を続けた。
そんな感じで毎度アドルを構いまくる土の精霊だったが、相手は大精霊様だし、町を守った恩人でもあるし、アドル本人以外は別に何の被害も無いので、皆は生暖かい目でスルーしていたらしい。
アドル自身は困っていたようだが、わたしが起きれば事態が収束するかもしれないし、何ならわたしに任せればいいだろうと考えたそうだ。
「しかし今日、訓練所でアドル殿と訓練をしている時に、土の精霊様は聞き捨てならぬ事を言ったのです」
ノーラは、アドルと格闘練習で「アドルが一発でもノーラに有効打を入れたらアドルの勝ち」という試合をしていた。
アドルの戦闘能力は高いが、ノーラはさらにそれを上回っており、普通の格闘試合ではノーラに全く敵わない。
アドルは過去に一瞬でノーラに組み伏せられた実績もある。
しかし有効打一発だけならばアドルも狙えるし、何よりノーラのための訓練なので、アドルは刃引きの得物も使ってノーラと戦っていた。
「それを見ていた土の精霊が言ったのです」
ー くだらない。まるでお遊戯ね。
ー あなたの師匠はユリなの?師匠がそんなんじゃ弟子のあなたもたかが知れてるわね。
ー やっぱりアドルにはユリよりワタシのほうがお似合いだと思わない?
ー あなたもユリよりワタシに師事しなさい。そんな弱くて頼りない師匠じゃつまらないでしょ?
「それで私は切れました。師匠を馬鹿にされて黙っていられませんでした。それにアドル殿は師匠にとって大切なお方。お二人を引き裂くような言動を取り消させようと思い、土の精霊に試合を挑みました」
「そんなあ、大切な人なんて・・・」
テレテレ半分でノーラの報告を聞き、ディーネにジト目を向けられた。
アドルも照れているのか、そっぽを向いている。
そんな流れで土の精霊と試合をすることになったノーラだが、今度はノーラが土の精霊に一発有効打を与えられればノーラの勝ち、と言うルールで試合は行われていたそうだ。
だが、ノーラは未だに一発も有効打を与えられず、敗北濃厚な状況だった。
「事情と状況はわかったわ。ありがとう、ノーラ」
「いえ、弟子として当然のことです。それに癒しまでしていただき、ありがとうございました。これでまた戦えます。見事一本取ってきますので、見ていてください」
「いえ、ノーラはもう戦わなくていいわ」
「そんな、師匠!なぜ戦わせてくれないのですか!私は弟子失格なのですか!?」
ノーラの悲痛な声を背に、わたしは立ち上がって土の精霊に顔を向けた。
「違うわ、ノーラ。弟子の仇を打つのは師匠の役目。そうでしょう?」
「師匠・・・」
わたしは土の精霊に選手交代を告げた。
「土の精霊さん。今度はわたしが相手よ。その綺麗な顔にゲンコツをくれてやるわ」
「ふふっ。やれるものならやってみなさい」
戦いの前の準備運動がてら、全身のストレッチをしていると、ノーラが近づいてきて、小さな声で言った。
「師匠。見えない攻撃には気を付けてください」
わたしは小さく頷いた。
わたしもノーラの戦いは見ていた。
その時、ノーラは確かに見えない打撃のようなものを食らって倒されていた。
意図していない攻撃は本当に怖い。
少しでも見えていたり気配を感じれば、体が反射的に防衛するが、完全に意識の外からの攻撃は対処が間に合わず、大ダメージを喰らってしまう。
「ノーラはあの攻撃が何か分かった?」
「いえ、残念ながら分かりませんでした。ただ、硬い何かで殴られたようでした。拳や蹴りではない気がします」
「そっか・・・」
ノーラが攻撃を喰らった時、土の精霊はノーモーションだったと思う。
とすると、魔力による何かだろう。
「ねえ、ディーネちゃん、サラちゃん。土の精霊ってどんな魔力特性があるの?見えない攻撃にはどう対処すればいいと思う?」
「そうじゃな。主に物理的な作用が多いかの。物理的な攻撃や防御に長けておる。他にも擬態や変化も得意じゃ。それと土の魔石は素材の造形や錬成の機能として魔石回路に使う事が多いのじゃ」
(見えない攻撃は、正体が分かるまでは魔力を察知して対処なさい。水の防御は常に張っておきなさい)
物理・・・見えない攻撃・・・擬態・・・
マジシャン的な攻撃かな?
「ねえ、まだ?」
痺れを切らした土の精霊に急かされてしまった。
仕方ない、タネはわからないけど、やってみるか・・・
わたしは訓練場の中央で待つ土の精霊の前に立ち、構えをとった。
「一刻の間にワタシに有効打を一発入れられたらユリの勝ちでいいわよ。ワタシが勝ったらアドルを貰うわ」
「わたしが勝ったら、わたし達に協力してもらうわよ。必ずぶっ飛ばしてやるわ」
わたしは水の防御を展開し、先手必勝とばかりに土の精霊に向かって魔力攻撃を撃ち出した。
しかし、土の精霊はわたしの魔力攻撃を魔力障壁のようなものであっさり弾き返した。
土の精霊は腕を組んだまま余裕綽々だ。
・・・でも、承知の上よ!
わたしは魔力攻撃がかわされたと同時に距離を詰め、インファイトの距離で魔力で加速したパンチやキックを繰り出した。
土の精霊はわたしの攻撃を全て避けているが、さらに加速を増したわたしの攻撃に少しついていけなくなりつつあった。
これなら押し切れるかも!
低い体勢から繰り出した掃腿(足払い)をジャンプでかわした土の精霊に向かい、軽く踏み込んで立ち上がりざま側踹腿(横蹴り)を放った。
狙いは腹部。
ヒットすればわたしの勝ち!
ゴン!
「うぐっ!」
わたしは蹴りの途中でよろけて倒れそうになったが、何とか踏みとどまった。
「今のが見えない攻撃・・・」
蹴りを繰り出した直後、わたしの頭は何かに殴られたような衝撃を喰らっていた。
水の防御で頭自体は防御できたけど、衝撃で首がやられるかと思った・・・
「ふふっ。ワタシの攻撃にいつまで耐えられるかしらね。あなたが相手ならばもう少し威力を上げてもいいわね。一刻の間、気絶させてあげるわ」
・・・ひとまず見えない攻撃をなんとかしないと、勝ち筋が見えないね。
わたしは腕を組んだまま余裕の表情を浮かべている土の精霊を見ながら、何か打開策がないか考えを巡らせていた。
「あ、師匠・・・すみません、こんな不甲斐ない姿をお見せするとは」
「そんなのどうでもいいから。一体どうしたの!?」
ノーラに駆け寄り、癒しの魔術をかけようとしたのだが、ノーラはこちらに掌を向けて腕を伸ばし、わたしが近づくのを制した。
「これは私の戦いなのです。わたしは師匠を侮辱したこの精霊様に、一発入れなければならないのです」
そう言ってノーラは口の横から流れる血を腕でグイッと拭くと、立ち上がって土の精霊に向けて構えをとった。
「え、わたしを侮辱?それってどういう・・・」
わたしがノーラに質問を投げきる前に、ノーラは土の精霊に向けてダッシュしていた。
土の精霊は腕を組んだまま動かず、目だけでノーラを追っている。
フッとノーラの姿がブレると、目にも留まらぬ速さで土の精霊の左側に現れた。
・・・ノーラの得意な、身体加速だね。
ノーラは身体加速の魔道具を使い、速度で相手を翻弄する戦い方が得意だ。
ただ加速するだけでなく、加速した後も体の動きを完全にコントロールして打撃を放つ。
熟練した腕がないと体が完全に制御できない、ノーラ得意の戦法だ。
ノーラが右手で土の精霊の腹あたりにフックで打撃を与えようとした瞬間、土の精霊はノーラのいる方向から見て奥側、つまり土の精霊の左手方向に体をずらして避けた。
しかしノーラはその動きを読んでいたのか、打ち出した右手を振り抜く事なく止めると、軽く半歩ほど踏み込んで右手を下ろすと同時に右足のハイキックを土の精霊の顔面に向けて繰り出していた。
しかし、ノーラの攻撃は相手にヒットする事も、ブロックされる事もなかった。
かわりにノーラの顔面あたりで軽い破裂音が発生し、ノーラが吹き飛んでいた。
「ノーラ!」
ノーラの顔の腫れは、おそらくこの攻撃を喰らい続けてきたのだろう。
ノーラは起き上がると、血の混じった唾を吐いた。
「大丈夫です、師匠。今回はガードしましたので・・・」
ノーラは蹴りながら、予め左手で顔面をブロックしていたようだ。
そのため、謎の攻撃の顔面直撃はかろうじて防いでいた。
ノーラを見下ろす土の精霊は、呆れ気味にノーラに声をかけた。
「はあ。いい加減に諦めたら?ワタシに一撃入れるなんて人間には無理よ。分かった?」
「それは残念でしたね・・・私は諦めが悪いのです。それに私は難しい事は分かりません」
ノーラ、それ自慢になっていないから!
でもとりあえず一度止める!
「ちょっと二人とも、一旦やめなさい!一度話を聞かせなさい!」
「しかし師匠、この戦いは・・・」
「これは『師匠命令』です!この意味は分かるわよね?難しくないわよね?」
「はい・・・分かりました」
土の精霊にも一時休戦を受け入れ、ノーラを引き取った。
わたしはノーラを壁にもたれかかるように座らせると、ノーラに癒しの魔術をかけた。
わたしは癒しの魔術も少しは上達したので、ノーラの顔の傷と腫れを引かせるぐらいは楽勝だ。
みるみるうちにノーラは元の綺麗な顔に戻っていった。
治癒をかけている最中に、アドルがわたしの所にやってきた。
「ユリ、目が覚めたんだね。よかったよ」
「うん、アドル。心配かけてごめんね。それより、何があったの?」
治療を終え、ノーラとアドルに話を聞くことにした。
「すみません、師匠。事の発端は、土の精霊とアドル殿のやりとりに私が割り込んだためです」
「いやノーラさん、それはオレも悪いというか・・・」
アドルの歯切れが悪い。
なんとなく事情を察した気もするが、一応説明を聞く。
わたしが先の戦いで気絶した後、土の精霊はカークの館に一緒に来たそうだ。
理由はもちろん、土の精霊がアドルを気に入ったからだ。
アドルとディーネがカークに土の精霊を紹介し、町を守ってくれた恩人である事を説明すると、カークは大歓迎で土の精霊を迎え入れてくれたらしい。
まあ、精霊様を無碍に扱う事などないだろうけど。
そして、わたしが起きない間も、土の精霊はアドルを見つけてはベッタリ密着し、さながら恋人のように振る舞っていたらしい。
「へー、アドル。あんな美人にくっつかれて、さぞ嬉しかったでしょうねえ」
「ユリ、やめてくれ。そんなんじゃない事ぐらい分かるだろう?」
「どうだかねえー」
わたしはつーんとアドルから顔を背けた。
ノーラは苦笑しながら話を続けた。
そんな感じで毎度アドルを構いまくる土の精霊だったが、相手は大精霊様だし、町を守った恩人でもあるし、アドル本人以外は別に何の被害も無いので、皆は生暖かい目でスルーしていたらしい。
アドル自身は困っていたようだが、わたしが起きれば事態が収束するかもしれないし、何ならわたしに任せればいいだろうと考えたそうだ。
「しかし今日、訓練所でアドル殿と訓練をしている時に、土の精霊様は聞き捨てならぬ事を言ったのです」
ノーラは、アドルと格闘練習で「アドルが一発でもノーラに有効打を入れたらアドルの勝ち」という試合をしていた。
アドルの戦闘能力は高いが、ノーラはさらにそれを上回っており、普通の格闘試合ではノーラに全く敵わない。
アドルは過去に一瞬でノーラに組み伏せられた実績もある。
しかし有効打一発だけならばアドルも狙えるし、何よりノーラのための訓練なので、アドルは刃引きの得物も使ってノーラと戦っていた。
「それを見ていた土の精霊が言ったのです」
ー くだらない。まるでお遊戯ね。
ー あなたの師匠はユリなの?師匠がそんなんじゃ弟子のあなたもたかが知れてるわね。
ー やっぱりアドルにはユリよりワタシのほうがお似合いだと思わない?
ー あなたもユリよりワタシに師事しなさい。そんな弱くて頼りない師匠じゃつまらないでしょ?
「それで私は切れました。師匠を馬鹿にされて黙っていられませんでした。それにアドル殿は師匠にとって大切なお方。お二人を引き裂くような言動を取り消させようと思い、土の精霊に試合を挑みました」
「そんなあ、大切な人なんて・・・」
テレテレ半分でノーラの報告を聞き、ディーネにジト目を向けられた。
アドルも照れているのか、そっぽを向いている。
そんな流れで土の精霊と試合をすることになったノーラだが、今度はノーラが土の精霊に一発有効打を与えられればノーラの勝ち、と言うルールで試合は行われていたそうだ。
だが、ノーラは未だに一発も有効打を与えられず、敗北濃厚な状況だった。
「事情と状況はわかったわ。ありがとう、ノーラ」
「いえ、弟子として当然のことです。それに癒しまでしていただき、ありがとうございました。これでまた戦えます。見事一本取ってきますので、見ていてください」
「いえ、ノーラはもう戦わなくていいわ」
「そんな、師匠!なぜ戦わせてくれないのですか!私は弟子失格なのですか!?」
ノーラの悲痛な声を背に、わたしは立ち上がって土の精霊に顔を向けた。
「違うわ、ノーラ。弟子の仇を打つのは師匠の役目。そうでしょう?」
「師匠・・・」
わたしは土の精霊に選手交代を告げた。
「土の精霊さん。今度はわたしが相手よ。その綺麗な顔にゲンコツをくれてやるわ」
「ふふっ。やれるものならやってみなさい」
戦いの前の準備運動がてら、全身のストレッチをしていると、ノーラが近づいてきて、小さな声で言った。
「師匠。見えない攻撃には気を付けてください」
わたしは小さく頷いた。
わたしもノーラの戦いは見ていた。
その時、ノーラは確かに見えない打撃のようなものを食らって倒されていた。
意図していない攻撃は本当に怖い。
少しでも見えていたり気配を感じれば、体が反射的に防衛するが、完全に意識の外からの攻撃は対処が間に合わず、大ダメージを喰らってしまう。
「ノーラはあの攻撃が何か分かった?」
「いえ、残念ながら分かりませんでした。ただ、硬い何かで殴られたようでした。拳や蹴りではない気がします」
「そっか・・・」
ノーラが攻撃を喰らった時、土の精霊はノーモーションだったと思う。
とすると、魔力による何かだろう。
「ねえ、ディーネちゃん、サラちゃん。土の精霊ってどんな魔力特性があるの?見えない攻撃にはどう対処すればいいと思う?」
「そうじゃな。主に物理的な作用が多いかの。物理的な攻撃や防御に長けておる。他にも擬態や変化も得意じゃ。それと土の魔石は素材の造形や錬成の機能として魔石回路に使う事が多いのじゃ」
(見えない攻撃は、正体が分かるまでは魔力を察知して対処なさい。水の防御は常に張っておきなさい)
物理・・・見えない攻撃・・・擬態・・・
マジシャン的な攻撃かな?
「ねえ、まだ?」
痺れを切らした土の精霊に急かされてしまった。
仕方ない、タネはわからないけど、やってみるか・・・
わたしは訓練場の中央で待つ土の精霊の前に立ち、構えをとった。
「一刻の間にワタシに有効打を一発入れられたらユリの勝ちでいいわよ。ワタシが勝ったらアドルを貰うわ」
「わたしが勝ったら、わたし達に協力してもらうわよ。必ずぶっ飛ばしてやるわ」
わたしは水の防御を展開し、先手必勝とばかりに土の精霊に向かって魔力攻撃を撃ち出した。
しかし、土の精霊はわたしの魔力攻撃を魔力障壁のようなものであっさり弾き返した。
土の精霊は腕を組んだまま余裕綽々だ。
・・・でも、承知の上よ!
わたしは魔力攻撃がかわされたと同時に距離を詰め、インファイトの距離で魔力で加速したパンチやキックを繰り出した。
土の精霊はわたしの攻撃を全て避けているが、さらに加速を増したわたしの攻撃に少しついていけなくなりつつあった。
これなら押し切れるかも!
低い体勢から繰り出した掃腿(足払い)をジャンプでかわした土の精霊に向かい、軽く踏み込んで立ち上がりざま側踹腿(横蹴り)を放った。
狙いは腹部。
ヒットすればわたしの勝ち!
ゴン!
「うぐっ!」
わたしは蹴りの途中でよろけて倒れそうになったが、何とか踏みとどまった。
「今のが見えない攻撃・・・」
蹴りを繰り出した直後、わたしの頭は何かに殴られたような衝撃を喰らっていた。
水の防御で頭自体は防御できたけど、衝撃で首がやられるかと思った・・・
「ふふっ。ワタシの攻撃にいつまで耐えられるかしらね。あなたが相手ならばもう少し威力を上げてもいいわね。一刻の間、気絶させてあげるわ」
・・・ひとまず見えない攻撃をなんとかしないと、勝ち筋が見えないね。
わたしは腕を組んだまま余裕の表情を浮かべている土の精霊を見ながら、何か打開策がないか考えを巡らせていた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】ベニアミーナ・チェーヴァの悲劇
佳
恋愛
チェーヴァ家の当主であるフィデンツィオ・チェーヴァは暴君だった。
家族や使用人に、罵声を浴びせ暴力を振るう日々……
チェーヴァ家のベニアミーナは、実母エルミーニアが亡くなってからしばらく、僧院に預けられていたが、数年が経った時にフィデンツィオに連れ戻される。
そして地獄の日々がはじまるのだった。
※復讐物語
※ハッピーエンドではありません。
※ベアトリーチェ・チェンチの、チェンチ家の悲劇を元に物語を書いています。
※史実と異なるところもありますので、完全な歴史小説ではありません。
※ハッピーなことはありません。
※残虐、近親での行為表現もあります。
コメントをいただけるのは嬉しいですが、コメントを読む人のことをよく考えてからご記入いただきますようお願いします。
この一文をご理解いただけない方のコメントは削除させていただきます。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる