ポニーテールの勇者様

相葉和

文字の大きさ
上 下
15 / 206

015 逃走

しおりを挟む
(危ない!逃げよ!)

水中船から放たれたミサイルらしき物体が数発、高速で接近してくる。

「ひいいいいいににににに逃げます逃げます!」

全力クロールで逃げるが、ミサイルの方が圧倒的に速いだろう。
怖くて後ろが見れない。

ミサイルに撃たれた場合の逃げ方?
生まれてこの方、ミサイルに撃たれたことなど無いから知らんわ!
映画で地下とか塹壕に逃げるシーンは見たことあるが、正解かは知らない。
せめて隠れられる場所!・・・あそこだ!

海底に断層のような場所を見つけ、急いで段差の向こう側に身を隠す。
少し深めの堀のような感じになっており、出来るだけ身を小さくして、やり過ごせる事を祈り、待つ。

どうか直撃しませんように!爆発に巻き込まれませんように!

ミサイルは段差のやや手前側に着弾し、轟音と共に付近を吹き飛ばす。
耳がキーンとなるが、どうやら直撃は避けられたようだ。

「助かった・・・」
(すぐに次が飛んで来よう。早く手を打たねば)

段差からそーっと顔を出してミサイルの着弾点を見ると、爆発によって付近の岩石は粉々に散っていた。
ミサイルの破片も散乱し、破裂した砲身や、推進部分に使ったと思われる魔石付きの部品が転がっている。

・・・ミサイルの部品、これ使えないかな?

「精霊さん、そのミサイルの魔石なんだけど・・・」
(ふむふむ。まるごと使えそうじゃな)
「でも、そうすると、わたしの体が・・・」
(なるほど、確かに)
「なので、わたしの周りの水をね・・・」
(其方、面白い事を考えるのう)
突貫で策を練ると、わたしと精霊は準備を始めた。



「うひゃあああああああああああ!」

わたしは、超高速で水の中を進んでいた。

水中船からのミサイル攻撃をかわしたわたし達は、ミサイルの残骸から推進装置っぽいところを回収して、水の精霊に見てもらった。
推進力を生み出す機構は少し調整すれば使えそうな事がわかったので、水の精霊に言われるまま、急いで手直しした。
・・・わたしは手で触れていただけで、水の精霊に丸投げして待ってただけだけど。

手直しを終えて、推進力が発生する方向を確認すると、正面に進むようにガッチリ両手で握る。
そして水の精霊に命じて魔石に魔力を注ぐと、ゆっくりと水中を動き出す。
徐々に魔力の供給量を増やしていって速度を上げるが、あまりに強く引っ張られてはわたしの体が持たない。水の抵抗にも耐えられない。

そこで『わたしの表面に触れている水を出来る限り厚めに、完全固定できないか』と精霊に聞いたところ、短時間なら出来ると言う事なので、命令して固定する。
これで魔石を握った手をしっかり固定でき、向かってくる水の抵抗にも負けず、強く引っ張られても腕が抜ける事はない。ちょっとした水の鎧だ。
水の鎧が剥がれた部分は、水の精霊に命じて、再度補強してもらう。
効果が短時間であっても断続的に使えば良いだけだ。

通常、人の持つ魔力には個人差はあれど、キャパがあるらしい。
普通の人が今のわたしのように魔力を使い続けていてはすぐに枯渇してしまう。
しかし、こちらには大精霊様がついている。
無尽蔵と思わせる魔力を惜しみなく使いまくる。

こうしてわたしは水中船を振り切り、爆速で海域を離脱した。



敵のいた海域を離脱したものの、王都の運河から街に入るのは危険だろうと考え、少し離れた地に向けて水中を移動していた。
いつ壊れてもおかしくない推進装置に負担がかからないように速度は軽めにして、数時間移動を続けた。

「精霊さん、この辺の土地勘とか、あります?」
(水の精霊たるもの、世界の海は妾の庭みたいなものよ)
「はい、海はそうですよね。わたしが聞きたいのは陸地なのですが」
(さあの)
「・・・」

一言で一蹴されたよ。

(妾はあまり陸地には縁が無かったのじゃ。基本的には水の中で生活していたゆえ)
「そうか・・・そうですよね」
(でな、娘よ)
「由里、でいいですよ」

バタバタしてて言う機会が無かったが、名前呼びにしてもらう。
娘や其方呼びで定着するのもなんかアレだし。

(そうか。でな、ユリよ。妾はユリに取り込まれた事で、新しい依代を得る事が出来るようになったであろう?)

そう言えばそんな話をしていた。
可愛い依代を頼む、と言われている。

(せっかくなので、陸上で活動できる依代を考えてみて欲しいのじゃ)
「え、そんな事していいんですか?」

水の精霊なんだし、水から離れては生きていけないの!みたいな事はないのだろうか。

(妾の本領を発揮するには水の中が最適じゃが、別に地上で活動できぬ事はない。それにユリに支配されている以上、陸上での行動が多くなるであろう?)
「そりゃまあ、そうですけど・・・」
(今までの依代は水で形成されていたので、水場から離れにくかっただけなのじゃ。全く、水の精霊だからといって水で形成するとか、創造主の発想は稚拙よのう)

創造主?なんか気になるワードが。

(時にユリよ)
「はい、何ですか?」
(その、かしこまった話し方じゃ。其方の名前をユリと呼ぶ代わりに、妾と話す時はもっと砕けた話し方にしてくれると嬉しいのじゃが。ユリは妾の支配者でもあるのじゃよ?)

立ち位置的には、わたしは水の精霊にとって支配者であり、ご主人様である。でもあからさまにそんな関係でお付き合いしたくない。

「わかったよ。わたしとあなたはお友達だもんね!」
(お友達とな!?・・・よいか、妾はユリに)
「お・と・も・だ・ち・!」
(・・・うむ。心得た)

お友達の命令は絶対である。ん?なんか違う?
だが気にしない。わたしは水の精霊と友達の関係を上手に築いた。たぶん。

(そんなわけでユリよ。地上に上がったら予定通り、魔力の扱い方を教える。魔力の扱い方が分かったら、依代の作り方も教えよう)
「はーい先生、よろしく!」

ついに魔力が使えるようになるんだ。
魔法少女に、私はなる!
ワクワクが止まらず、顔がニヤける。

(ユリよ、今、また、ひらひらした服に変身する少女の魔導師になれるとか考えなかったかの?)
「勘のいい子は嫌いよ!」

そろそろ上陸する事にして、わたし達は陸地に進路を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ベニアミーナ・チェーヴァの悲劇

恋愛
チェーヴァ家の当主であるフィデンツィオ・チェーヴァは暴君だった。 家族や使用人に、罵声を浴びせ暴力を振るう日々…… チェーヴァ家のベニアミーナは、実母エルミーニアが亡くなってからしばらく、僧院に預けられていたが、数年が経った時にフィデンツィオに連れ戻される。 そして地獄の日々がはじまるのだった。 ※復讐物語 ※ハッピーエンドではありません。 ※ベアトリーチェ・チェンチの、チェンチ家の悲劇を元に物語を書いています。 ※史実と異なるところもありますので、完全な歴史小説ではありません。 ※ハッピーなことはありません。 ※残虐、近親での行為表現もあります。 コメントをいただけるのは嬉しいですが、コメントを読む人のことをよく考えてからご記入いただきますようお願いします。 この一文をご理解いただけない方のコメントは削除させていただきます。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

処理中です...