ポニーテールの勇者様

相葉和

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013 契約

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無事に水の精霊の協力を取り付けたので、次はここから出る方法を考えなければならない。
とりあえず解放するんだっけ?

「では、あなたを解放する方法を教えてください」
「うむ。では、早速じゃが、妾を支配する方法を教えよう」

え?支配違う!解放と協力だよ!

「いやいや、わたしはあなたを支配したいのでは無く、協力して欲しいのです。さっきそう言ったはずです!」

わたしのプレゼン、失敗?
仕事をしていた時に、クライアントからの説明をプロジェクトマネージャーがニュアンス違いで受け取ってしまい、全然別物が出来上がってしまった悪夢を思い出した。

「うむ。分かっておる。じゃがの、思ったのじゃが、其方、魔力が無いであろう?」
「はい。無いですけど・・・」
「精霊は、魔力の弱いものとは契約できないのじゃよ。魔力が無いなら論外じゃ」
「そんなあ・・・」

いきなり計画が根本から崩れてしまった。
それなりの魔力がなければ、協力も使役も出来ないらしい。
そういえば王候補の条件にも十分な魔力が必要ってあったっけ。

「其方が言う『開放』は簡単なのじゃ。妾が水の結界を解けば良いだけじゃ」
「あ、そうなんですね」
「しかし、妾だけでは城の結界を越えられないのじゃ。しかしじゃ、結界を抜けられる術者が妾を使役するか、取り込んでしまえば、城の結界も越えれるはずじゃ」

確かに、水の精霊は自力で城の結界から出られなくなったために、ここで自分も結界を張って、引きこもる事にしたのだと言った。

先王が死に、使役の魔道具が失われ、誰にも使役されなくなったから。一人では何も出来なかったから。二度と人の為に使役されたくないと思ったから。

・・・寂しかっただろうな。精霊とは言え、やさぐれるのも無理はない気がする。

「そこで、其方がやるのは妾の『支配』じゃ。支配によって、其方は妾を取り込み、妾に命じて魔力を使う事が出来るようになる」
「なるほど・・・支配するためには魔力は必要ないのですか?」

もしも支配にも魔力が必要ならば、結局支配もできないだろう。イメージ的には使役の最上位っぽい支配の方が、魔力をたくさん使う必要がありそうな気がするんだけど。

「支配は、妾の真の名を知ればよい。真の名を知り、その名を持って契約すればよい」
「そんな簡単な事なんですか?」
「・・・簡単と言ったか。良いか。妾の真の名を知り、支配すると言う事は、妾の生殺与奪を握るばかりではなく、妾の力を好きに振る舞えると言う事じゃ。もしも悪しき者が手に入れたら目も当てられぬ」

・・・それをバルゴがやろうとしていたのか。
考えただけでも恐ろしい。

「でも、それってわたしでも同じ事ですよね?わたしがあなたを私利私欲のために使ったら・・・」
「それこそ何を言っている。其方は自分の星に帰るために、私利私欲のために妾の力を求めたのであろう?」

うう、確かにプレゼンでそう言いました。
言いましたけど、考えていたよりも重い展開に躊躇してしまう。

「妾もそれを承知している。承知した上で、其方に名前を受けて欲しいのじゃ」
「精霊さん・・・」
「それに其方なら、きっと酷い扱いはしないであろう?」
水の精霊がイタズラっぽくウインクする。

・・・水の精霊が覚悟を決めているならば、わたしも覚悟を決めなきゃね。

「分かりました。あなたの真の名を受けます。教えてください」
「うむ。妾の真の名は・・・」

わたしは水の精霊に真の名を教えてもらい、支配の契約を結んだ。



「何も変わった様子は無いのですけど・・・」

水の精霊を支配したものの、何が変わったのかよく分からない。手を開いたり閉じたりしてみるが「力が溢れてくる!」みたいな事もない。

・・・とりあえず何か試してみるか。
よし。わたしに力を分けてくれー!

両手を上げ、元気の素っぽいものを集めるようなイメージをしてみる。

そして、両手の手首を右の脇付近で合わせると、意識を掌に集中する。
指を軽く曲げ、両手は竜の顎の形を意識する。

(今ならきっと出来るはず!高校時代に何度も真似して、いつかはわたしにも出来るんじゃないかと思って密かにトレーニングした、あの技が!)

「はー!!!」

掛け声と共に、両手を前に突き出す。
竜の顎の形は崩さない。
そしてしばしの間、残心する。

しかし何も起こらなかった。

「・・・其方は何をやっているのじゃ?」

水の精霊がジト目でわたしを見ている。

「いや、その、わたしの星ではこうやって魔力を集めたり放出したりする技がありまして・・・」

漫画の中の話だけどね!

「あ!この技は魔力では無く、『気』の技だからうまくいかなかったのかも。緑色の肌の人の技ならあるいは・・・」
「・・・よく分からぬが、たぶん違うと思うのじゃ」

水の精霊は呆れ顔のまま、わたしに近づくと、わたしの頭に手を乗せた。

「妾を取り込め、と命令するが良い」
「取り込め、ですか?」
「そうじゃ。其方には魔力の核がない。妾を取り込み、妾を魔力の核にせよ」

なるほど。水の精霊を体内に取り込んで、魔力を扱えるようにするのか。
確かにそう言っていた気がする。

「分かりましたが、わたしの中に取り込む事で今の水の精霊さんが死んじゃうというか、消滅したりはしませんよね?」
「そんな事にはならぬよ。其方の体に深く依存する事になる故、今のような姿で現れる事はできなくなるが、後で其方が魔力で作った依代を使って顕現する事は可能じゃ。可愛い依代を用意してくれる事を期待しておるよ」

可愛い依代ですか。これは悩むね。
人型では無く動物でもいいのかな?
わたしは哺乳類・爬虫類・鳥類・両生類問わず、動物が大好きだ。田舎育ちのわたしは、虫も台所の黒いアイツ以外は大抵の虫を鷲掴みにできる。
様々な動物を思い浮かべてみる。今すぐ上野動物園に行って参考になる動物を見たい衝動に駆られる。

まあでも、無難に、今の姿に近い形で依代を作ればいいのかな?何にせよ早く魔力の使い方を覚えなければ。

「では行きます・・・わたしに取り込まれなさい!」
「ふふっ。心得た」

水の精霊が楽しそうに微笑むと、手を広げてわたしに近づいてきて、抱擁した。
そして、そのままわたしの体の中を通り抜けるような、何かが侵食して来る感触に襲われる。

うええ、なんか気持ち悪い!
体の中を何かが這いずり回る感じに、わたしは思わずしゃがみ込んだ。
その後はまるで高熱を発した時のように、頭と体がフワフワする感じに襲われる。座ってる事もできず、わたしは倒れ込み、意識を失った。



「あ・・・ここは・・・?」
まだ頭がぼーっとしている。目覚めたものの、直ぐに状況が理解できない。

(やっと起きたか。聞こえるかの?)

徐々に頭が活動を始め、水の精霊を取り込んだ衝撃で意識を失った事を思い出す。

「・・・わたし、どれくらい寝てました?」
(そうじゃな。其方の星の時間感覚で四時間くらいかの)
「わたしの・・・何ですって?」

水の精霊の声が頭の中で響く事に違和感を覚えていたが、それ以上に気になる事を言われ、意識がそちらに向く。

(其方が意識を失っている間、暇だったのでな。其方の記憶から、其方の星の情報を読ませてもらったのじゃ)
「ちょっ!何してるんですか!?」

(そういえば、先程、其方が妙ちきりんな動きで魔力を放とうとしたであろう?若い頃から真剣に研鑽を積んでいたようじゃの。確か技の名は、かめは)
「いやああああああ、やめてえええええ!」

異世界で黒歴史を掘り返されるとは思いもしなかったよ・・・
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