上 下
20 / 26

第20話 ポインセチア城にて

しおりを挟む
 お風呂から上がり、リビングへ向かう。
 良い匂いがして期待が高まった。

「ちょうどお料理ができました。アザレア様、どうぞお席に」
「ありがとうございます、マーガレットさん」

 テーブルには『カリー』が。
 銀のお皿に盛りつけられていて、ご飯の上に土色をしたものがかけられている。へえ、これは不思議。
 席に着き、スプーンを手に取る。

 さっそく口へ運ぶと少し辛さを感じた。でも、とても美味しい。ご飯とよく合う。気づけば、わたしは夢中になって食べていた。

「アザレア様、カリーの方いかがですか?」
「スパイスが効いていてとても美味しいです。ジャガイモなど野菜もたっぷりなのですね」
「ええ、他にもタマネギやニンジンなども使っています。栄養バランスも考えられているんですよ~」

 子供にも人気が出そう。
 この料理はわたしも覚えたいと思った。自分の手でイベリスに食べさせたい。

「あの、マーガレットさん。今度でいいのでカリーの作り方を教えていただけませんか?」
「もちろんですよ~! いつでもおっしゃってください」

 約束をして、わたしは残りのカリーを味わった。
 楽しい食事を終え、マーガレットの淹れてくれた紅茶を楽しむ。そうだ、そろそろマーガレットに言わなければならないことがある。

「ちょっといいですか」
「どうされましたか、アザレア様?」
「実は、イベリスさんから手紙を受け取りました」
「手紙、ですか?」
「はい。彼は今、ポインセチア城にいるみたいです。陛下に呼ばれたのだとか」
「陛下に!? それは……なるほど、そういうことなのですね」
「? マーガレットさん、なにか知っているのですか?」
「いえ、なんでもありません。少なくとも、わたくしは同行しない方がよさそうですね」

 席を立つマーガレット。発言に何か引っかかった。どういう意味だろう。同行しない方がいいって意味も分からないし。
 できれば一緒に来て欲しいと思ったけれど。

 呼び止めてもマーガレットは、遠慮しておきますとキッチンへ行ってしまった。


「……いったい何を隠しているの?」


 ポインセチア城へ向かえば分かるのかな。
 ひとりでちょっと不安だけど、行ってみるしかない。

 お店をマーガレットに任せ、わたしは街へ繰り出した。夜の街を歩くのは初めて。
 夜間ともなると多少治安は悪化する。
 なのでなるべく露店通りを歩いていく。
 ここの道ならまだ人通りもあるし、帝国騎士の警備の目もある。

 歩いていくと、お城へ続く階段が見えてきた。

 家よりも多くの段数があって大変だけど、これを上がらなきゃ。

 必死に階段をのぼり、ついにお城が見えた。

 わぁ……山のようにとても大きい。
 いつも遠くから見えていたけど、間近で見ると迫力があった。警備も厳重で騎士が多く常駐している。

 ぼうっとしていると騎士が向かって来た。


「貴様、何者だ」
「あ、あの……わたしは宮廷錬金術師のアザレアです。アザレア・グラジオラスです。一応、辺境伯の娘ですが……」

「アザレア……さま? こ、こ、これは大変失礼を!! 非礼をお詫びいたします」

 ぺこぺこ何度も謝る騎士。
 わたしの名前を聞いた途端に態度が豹変した。こんなに、かしこまって……どういうこと? しかもお城の中へ案内してくれるみたい。

「あの、騎士さん。わたしはイベリスさんに会いたいのですが。この手紙をもらったんです」
「手紙ですか。少し拝見……ふむ、これは! 分かりました。こ、こちらへ……」

 内容に目を通した騎士の顔は明らかに緊張に変わっていた。しかも震えている? え、なんでそんなにブルブル震えているの?
 イベリスってそんなに怖い人だっけ。

 お城の中は、明るくて舞踏会のように煌びやかだった。レッドカーペットがどこまでも続いている。絵画や甲冑が並び、美術館みたいな様相だった。凄い……。

 これがお城の中!

 田舎娘だったわたしは、お城まで足を運んだことはなかった。初めての経験に心が躍った。いいなぁ、こんな場所に住めたら楽しいだろうな。

 長い通路を歩き続け、やっと部屋に辿り着いた。
 ここがイベリスにいる部屋かな?

「えっと……」
「案内はここまでとなります。この先はひとりで……」
「あ、はい。分かりました」

 最後まで騎士は震えていた。
 そんなに怯えられると、こっちまで不安になるんですけど!

 ゆっくりと前へ進んでいく。

 部屋に入ると、そこは明らかに広くて威厳のある雰囲気が漂っていた。も、もしかして……陛下の部屋では……?

「よくぞ参られた」

 玉座で足を組む男性。
 金の髪、エメラルドグリーンの瞳、ルビーのピアス、サファイアの指輪、トパーズの首飾り――そして、いつもの優しい笑み。

 あの顔は間違いなかった。


「イベリス……さん。どうして玉座に?」
「手紙に書いてあっただろう。皇帝が君に会いたがっていると」
「え……じゃあ、まさか」
「ああ、私こそポインセチア帝国の第九十九皇帝だよ。クリストファー・イベリス・エヴァンス。そう、つまりイベリスはミドルネームさ」

 ゆっくりと歩いてわたしの前に立つイベリス。いつもの丁寧な言葉ではなく、陛下の言葉でそう言った。そっか……そうだったんだ。

「なぜ教えてくれなかったんですか?」
「騙していたつもりはない。私は身分だとかそういうものに囚われたくなかった。純粋にアザレアさんと話したかったし、接したかった。だから、皇帝であることは秘密にしていた」
「そうだったのですね……」

 驚いた。とても驚いた。
 複雑な気持ちがないわけではない。でも、こうして明かしてくれたことが嬉しい。

「ごめんね、アザレアさん。気分を害したのなら謝罪する」
「いえ! ちょっとビックリしちゃっただけです。そ、その……イベリス様」
「いや、様じゃなくていい。いつものように頼む」
「イベリスさん。わたしはこれから……どうすれば?」
「君の活躍は十分すぎるほど目にした。これから、もっと活動しやすいよう全力でサポートする」

 わたしは首を横に振った。

「イベリスさん、これからも今までと同じようにしてくれませんか?」
「しかし……」
「わたしはイベリスさんがいればそれでいいんです」

 そう伝えるとイベリスは微笑んだ。

「アザレアさんには負けました。私は大馬鹿者ですね」
「そんなことはありません。本当のことを知れて嬉しいです。だから、帰りましょう」
「そうですね、我々のお店へ」

 手をぎゅっと握ってくれるイベリス。嬉しくて泣きそうになったけど、わたしは涙を堪えた――つもりだったけど、雫が頬を伝っていた。

 ……ああ、そうか。わたしはあの生活が気に入っていたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...