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第3話 ポーション製造の勝負
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イベリスは、たくさんの書物をテーブルの上に並べていく。
「ポーションの書、植物栽培の書、マテリアルの書、基本料理の書、爆弾製造の書――そして、露店売買の書」
こ、こんなにたくさん教本があるんだ……。あまりに多さにわたしは頭がクラクラした。
「これ、全部覚えるんですか?」
「もちろん。まず錬金術師に転職するには知識が必要です。大丈夫、丁寧に教えますから」
そう言ってもらえて、わたしは少し安心した。そうだよね、ここでがんばらなきゃ、普通の錬金術師にすらなれない。まずは知識をつめこめるだけ頭につめていく。
試しにポーションの書をめくってみると、レッドハーブの調合の仕方だとかいろいろ書かれていた。分量ひとつ間違えるだけで失敗し、爆発するようだった。なにそれ怖い。
「爆発、するんですか?」
「しますよ。気をつけてくださいね」
そんな爽やかな笑みで応えるイベリス。……うそでしょ。
それから、個人授業を受け続ける日々が始まった。
彼の教え方が上手いおかげか、驚くほど知識が蓄えられた。しかも、思ったよりは楽しかった。
最初の三日間だけは地獄ではあったけれど、今はもう辛くはない。
寝る間も惜しんで、わたしはひたすら勉強に励んだ。
勉強のしすぎて疲れたわたしは、久しぶりに部屋を出た。少し歩くとイベリスが現れ、心配そうにわたしの顔を覗き込む。
「あ、あの……イベリスさん」
「顔が疲れていますね、アザレアさん。明日にはもう転職試験ですよ。大丈夫ですか?」
「えっ、もう明日なんですか!? でも、まだ全部読んでないですよ……?」
「単に錬金術師になるなら、ポーションの書、植物栽培の書の内容を覚えれば大丈夫です」
「そ、そうだったのですか……」
「ただ、一気にB級やA級錬金術師を目指すのなら、この前差し上げた教本全てと、更に上級ポーションの書、改造ポーションの書、ホムンクルスの書・全三巻を覚える必要がありますけどね」
そ、そうだったんだ……。
って、そんなにあるの! これ以上は頭が爆発しちゃう!
まずは錬金術師になることを第一に考え、試験を受けた方がいいと感じた。
「分かりました。明日、転職試験を受けたいです」
「良い返事です。まあ、アザレアさんは何度も仮テストを合格していますし、きっと大丈夫ですよ。今日のところは気分転換にポインセチア帝国の街を歩きましょう」
確かに、このところは貸していただいた部屋にこもっていた。そろそろ息が詰まりそうだったし、外の新鮮な空気を吸いたい。
わたしは同意した。
「よろしくお願いします」
「では、さっそく向かいましょう」
邸宅を出て外へ。
のどかな昼下がり、少し歩ければ雑踏であふれていた。相変わらず、大通りに出るとお祭り騒ぎ。毎日がイベントみたい。
「ここはいつも露店街なのですね」
「ええ。錬金術師だけでなく、ダンジョンを攻略している冒険者の露店、鍛冶屋やペットテイマー、トレジャーハンター、食べ物を扱っているお店など様々な露店がありますよ」
言われてみれば、見たことのないアイテムを並べているお店もあった。奇妙な鉱石だとか、原石。モンスターの落としたアイテムとか、収集品。
世の中にはいろんなアイテムがあるんだ。
目移りしていると、裏道へ続く片隅にポツンと露店があった。気になって向かってみると、そこにはローブを深くかぶった店主が。
……とても怪しい。けれど陳列されている品々が錬金術師寄りのアイテムで非常に後ろ髪を引かる。ここで無視してしまえば後悔するような気がしていた。
わたしは思い切って挨拶をしてみる。
「こ、こんにちは」
「おやおや、銀髪の女性とは……これは珍しい。気品あふれるそのオーラ。どこかのご令嬢のように見受けますね」
「分かるんですか?」
「なんとなくですけどね。お隣の爽やかな笑みを浮かべる金髪の男性は――え」
ローブの店主はイベリスの顔を見るなり絶句し、硬直していた。怯えている……? 心配になっているとイベリスが微笑む。
「お久しぶりですね、ランタナ」
「イ、イベリス様……なぜ、このような場所に!」
二人は知り合いらしい。
「弟子である彼女と共に息抜きの散歩ですよ」
「で、弟子ィ!? いつの間に弟子を取られたのですか!」
「紹介はしようと思っていたのです。こちら、辺境伯令嬢のアザレアさん。今は錬金術師を志しており、修行の身。明日には試験を受けられます」
紹介されたので、わたしは改めて名乗った。
「アザレアです。よろしくお願いします」
挨拶をするとランタナはローブを取って、素顔を見せた。……え、女の子?
「……アザレアといいましたね! あなたをイベリス様の弟子だとか認めるわけにはいきません! 勝負してください!!」
「はいっ!?」
いきなり勝負と言われ、わたしは困惑した。
けれどランタナは鋭い眼光でこちらを睨み、勝負、勝負と連呼した。圧力に屈したわたしは、勝負を受け入れることに。って、なんでこんなことに……。
「では決まりです。イベリス様もいいですね!?」
「私は構いませんよ。ですが、アザレアさんはかなり知識をつけています。大丈夫ですか?」
「自分も錬金術師の端くれです。負けません!」
「いや、君は――」
「黙っていてください、イベリス様!」
イベリスが何かを言いかけると大声で遮られていた。いったい何なの?
「どうしましょうか?」
「勝負内容は『ポーション製造』です! 回復力の高いポーションを作り、イベリス様が認めた方が勝ちです!」
「え……実践?」
「当然ですよ。知識は活かすものなので」
えぇ、まさかの製造勝負なんて……。
わたしはまだポーション瓶にすら触れたことないのに。でも、ここで今の自分の力量を試すチャンスだとも思った。
「やってみますね」
「よくぞ引き受けてくれました! では、道具はお貸しするので……よーい、ドン!」
いきなり始まったし!
心の準備がまだ出来ていなかったけど、泣き言は言っていられない。
ポーション瓶と乳鉢の準備は完了。
ハーブの選定をする。赤、緑、青、黄色のハーブがある。この中を使うなら、グリーンハーブが一番回復力が高い。でも、それはランタナも知っているはず。
……そういえば、イベリスが教えてくれたっけ。
複数のハーブを合せると回復量が更に増すって。毒や麻痺の状態異常の回復もしてくれる上級ポーションが作れると。うん、これでいこう。
隣でイベリスが意味有り気にうなずいていた。
これが正解なのか分からないけど、教えて貰ったことをここで活かす。
「ポーションの書、植物栽培の書、マテリアルの書、基本料理の書、爆弾製造の書――そして、露店売買の書」
こ、こんなにたくさん教本があるんだ……。あまりに多さにわたしは頭がクラクラした。
「これ、全部覚えるんですか?」
「もちろん。まず錬金術師に転職するには知識が必要です。大丈夫、丁寧に教えますから」
そう言ってもらえて、わたしは少し安心した。そうだよね、ここでがんばらなきゃ、普通の錬金術師にすらなれない。まずは知識をつめこめるだけ頭につめていく。
試しにポーションの書をめくってみると、レッドハーブの調合の仕方だとかいろいろ書かれていた。分量ひとつ間違えるだけで失敗し、爆発するようだった。なにそれ怖い。
「爆発、するんですか?」
「しますよ。気をつけてくださいね」
そんな爽やかな笑みで応えるイベリス。……うそでしょ。
それから、個人授業を受け続ける日々が始まった。
彼の教え方が上手いおかげか、驚くほど知識が蓄えられた。しかも、思ったよりは楽しかった。
最初の三日間だけは地獄ではあったけれど、今はもう辛くはない。
寝る間も惜しんで、わたしはひたすら勉強に励んだ。
勉強のしすぎて疲れたわたしは、久しぶりに部屋を出た。少し歩くとイベリスが現れ、心配そうにわたしの顔を覗き込む。
「あ、あの……イベリスさん」
「顔が疲れていますね、アザレアさん。明日にはもう転職試験ですよ。大丈夫ですか?」
「えっ、もう明日なんですか!? でも、まだ全部読んでないですよ……?」
「単に錬金術師になるなら、ポーションの書、植物栽培の書の内容を覚えれば大丈夫です」
「そ、そうだったのですか……」
「ただ、一気にB級やA級錬金術師を目指すのなら、この前差し上げた教本全てと、更に上級ポーションの書、改造ポーションの書、ホムンクルスの書・全三巻を覚える必要がありますけどね」
そ、そうだったんだ……。
って、そんなにあるの! これ以上は頭が爆発しちゃう!
まずは錬金術師になることを第一に考え、試験を受けた方がいいと感じた。
「分かりました。明日、転職試験を受けたいです」
「良い返事です。まあ、アザレアさんは何度も仮テストを合格していますし、きっと大丈夫ですよ。今日のところは気分転換にポインセチア帝国の街を歩きましょう」
確かに、このところは貸していただいた部屋にこもっていた。そろそろ息が詰まりそうだったし、外の新鮮な空気を吸いたい。
わたしは同意した。
「よろしくお願いします」
「では、さっそく向かいましょう」
邸宅を出て外へ。
のどかな昼下がり、少し歩ければ雑踏であふれていた。相変わらず、大通りに出るとお祭り騒ぎ。毎日がイベントみたい。
「ここはいつも露店街なのですね」
「ええ。錬金術師だけでなく、ダンジョンを攻略している冒険者の露店、鍛冶屋やペットテイマー、トレジャーハンター、食べ物を扱っているお店など様々な露店がありますよ」
言われてみれば、見たことのないアイテムを並べているお店もあった。奇妙な鉱石だとか、原石。モンスターの落としたアイテムとか、収集品。
世の中にはいろんなアイテムがあるんだ。
目移りしていると、裏道へ続く片隅にポツンと露店があった。気になって向かってみると、そこにはローブを深くかぶった店主が。
……とても怪しい。けれど陳列されている品々が錬金術師寄りのアイテムで非常に後ろ髪を引かる。ここで無視してしまえば後悔するような気がしていた。
わたしは思い切って挨拶をしてみる。
「こ、こんにちは」
「おやおや、銀髪の女性とは……これは珍しい。気品あふれるそのオーラ。どこかのご令嬢のように見受けますね」
「分かるんですか?」
「なんとなくですけどね。お隣の爽やかな笑みを浮かべる金髪の男性は――え」
ローブの店主はイベリスの顔を見るなり絶句し、硬直していた。怯えている……? 心配になっているとイベリスが微笑む。
「お久しぶりですね、ランタナ」
「イ、イベリス様……なぜ、このような場所に!」
二人は知り合いらしい。
「弟子である彼女と共に息抜きの散歩ですよ」
「で、弟子ィ!? いつの間に弟子を取られたのですか!」
「紹介はしようと思っていたのです。こちら、辺境伯令嬢のアザレアさん。今は錬金術師を志しており、修行の身。明日には試験を受けられます」
紹介されたので、わたしは改めて名乗った。
「アザレアです。よろしくお願いします」
挨拶をするとランタナはローブを取って、素顔を見せた。……え、女の子?
「……アザレアといいましたね! あなたをイベリス様の弟子だとか認めるわけにはいきません! 勝負してください!!」
「はいっ!?」
いきなり勝負と言われ、わたしは困惑した。
けれどランタナは鋭い眼光でこちらを睨み、勝負、勝負と連呼した。圧力に屈したわたしは、勝負を受け入れることに。って、なんでこんなことに……。
「では決まりです。イベリス様もいいですね!?」
「私は構いませんよ。ですが、アザレアさんはかなり知識をつけています。大丈夫ですか?」
「自分も錬金術師の端くれです。負けません!」
「いや、君は――」
「黙っていてください、イベリス様!」
イベリスが何かを言いかけると大声で遮られていた。いったい何なの?
「どうしましょうか?」
「勝負内容は『ポーション製造』です! 回復力の高いポーションを作り、イベリス様が認めた方が勝ちです!」
「え……実践?」
「当然ですよ。知識は活かすものなので」
えぇ、まさかの製造勝負なんて……。
わたしはまだポーション瓶にすら触れたことないのに。でも、ここで今の自分の力量を試すチャンスだとも思った。
「やってみますね」
「よくぞ引き受けてくれました! では、道具はお貸しするので……よーい、ドン!」
いきなり始まったし!
心の準備がまだ出来ていなかったけど、泣き言は言っていられない。
ポーション瓶と乳鉢の準備は完了。
ハーブの選定をする。赤、緑、青、黄色のハーブがある。この中を使うなら、グリーンハーブが一番回復力が高い。でも、それはランタナも知っているはず。
……そういえば、イベリスが教えてくれたっけ。
複数のハーブを合せると回復量が更に増すって。毒や麻痺の状態異常の回復もしてくれる上級ポーションが作れると。うん、これでいこう。
隣でイベリスが意味有り気にうなずいていた。
これが正解なのか分からないけど、教えて貰ったことをここで活かす。
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