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料理スキルを持つ剣士

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 空は、闇に染まって桃色の月が出ていた。

 涼しい夜を過ごしていると『囁きの魔石ボイスストーン』が赤く輝き、不思議な音色を奏でた。

「これが呼び出しかな」

 僕は石を手に取って、なんとなく押してみた。
 すると石から声がした。

『やあ、キエルかな』
「う、うん。僕だけど……これが魔石の力か。本当に通話が出来るんだ……凄い」
『驚いているね。そうだとも、これが囁きの魔石ボイスストーンの力さ。噂では、かなり離れた国からでも通話可能らしい』

 それが本当なら、この石があればどんなに離れていても会話が出来るのか。いいね、この石は欲しいなぁ。

「この石って売ってるの?」
『売ってるけど、高いよ。そうだね~、金貨30枚は必要じゃないかな』


 金貨30枚……。
 帝国の貨幣が『レダ』なので『3,000,000レダ』相当。これだけあれば宿屋なんて一ヶ月は余裕で借りれるし、自身をレア装備で固められる額だ。

 そんな高額とは、さすが貴族。

 でも待てよ……僕の『モンスター撃破ボーナス』は『金貨』や『銀貨』も入手できたはず。つまり、スライムとかモンスターを倒しまくれば結構稼げるのかも。


「教えてくれてありがとう、ラル」
『これくらいお安い御用さ。とりあえず、飯にしようぜ。キエル、アイルを連れて食堂に来てくれ。一階だ』


 そこで通信は切れた。
 この魔石は本当に便利だなあ。
 お金に余裕が出来たら買おうかな。


「アイル、ご飯だってさ」
「……むにゃむにゃ」


 疲れたのかベッドで眠っているアイルは、可愛い寝顔を晒していた。……う~ん、これは起こすのが勿体無もったいないな。

 少しの間だけ観察していよう。


 ◆


 僕は、アイルの頬を突いて起こした。


「……はひっ!?」
「おはよう、アイル。後で寝られなくなっちゃうよ」
「へ……ああッ。キエルさん、わたしの寝顔見たんですか!?」
「まあね。でも、可愛かったよ」


「……うぅ」


 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするアイル。いや、本当に良いモノが見れたなぁ。


 ――アイルを連れて食堂へ。


 食堂には、ラルと三姉妹。
 僕とアイルは、長いテーブルの席に着席。豪華な料理を前に、目を白黒させた。いくらなんでも豪勢すぎるよ、これ!


「このお肉とか美味しそうだね」
「キエル、遠慮なく食べてくれ! この俺が作ったからな」
「え!? これ、ラルが作ったの? 貴族なのに? 専属のコックさんとかは?」
「本業は剣士なんだけど、俺の趣味が『料理』なんだ。これでも、料理スキルは『Lv.9』とマックス手前だぜ!」


 す、すご……ラルにそんな特技があったんて。剣士兼料理人って所だろうか。うん、パーティに居てくれるとキャンプとかする時に助かるなあ。


「尊敬するよ」
「いや、それは逆だ」
「?」
「俺はキエルを尊敬している。だって、俺をスライムから助けてくれたじゃないか。俺にとってキエルこそ最高の魔法使いさ」


 そ、そんな風に言われたら照れる。
 僕は初めて褒められて、戸惑った。
 これ、嬉しいって事かな。


「ちょっと、ラル。お料理が冷めてしまいますわよ」
「ああ、ごめん。イオ姉さん。そういうわけで、いただきます!」


 フォークとナイフを手に取って、豪華な料理を楽しんだ。こんな贅沢は始めてだ。


 あまりに美味しくて無心になって、ぱくぱく食べていると、多分、次女のお姉さんが僕の隣の席に来た。

「楽しんでおられますか?」
「え、ええ……確か――」
「エウロパです。ほら、右目の下に“泣きボクロ”があるでしょう。これがチャームポイントですから、これで覚えて下さいね」

 なるほど確かに、エウロパさんには特徴的で可愛らしいホクロがあった。……それと、胸も大きかった。


「は、はい」
「ええ。そういえば、お父様を救って下さってありがとうございました。大聖女様もお救いになられるとは……凄い力を持っているのですね」


 エウロパさんは、僕の首に腕を回してくる。……う、わぁ、綺麗な女性に抱きつかれるの初めてだ……。


「何しているの、エウロパ!」
「そうよ、ずるいわ」

 イオさんとカリストさんも反応を示す。
 ま、まさか……取り合い!?


「良かったな、キエル。姉ちゃん達に、すっかり気に入られているようだぞ」


 ニヤリと笑うラル。
 そうなのかな、僕はよく分からなかった。

 でもなんだか、不穏な空気になりつつある。僕の事で雰囲気を悪くして欲しくない。……ので、ここは公平に。


「お姉さん方、良かったら『じゃんけん』をしてみて下さい。勝者が僕と話しましょう」

「「「じゃんけん??」」」


 どうやら、この国には『じゃんけん』は知られていないらしい。僕は簡単に説明した。


「なるほど、グー、チョキ、パーを出しあうと……簡単ですね」
「公平なゲームです」
「絶対に勝ちます」


 イオさん、エウロパさん、カリストさんがバチバチを火花を散らす。いよいよ、じゃんけんが始まろうとしたのだが……。


「待って下さい!」


 すっくと立ちあがるアイルが、可愛く拳を掲げる。僕らは、何事かとそこへ振り向く。

「どうしたんだ?」
「わたしも『じゃんけん』に参加します! キエルさんと話したいですもん」

 なんと!
 アイルも参戦が決定した。
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