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【230】 死に近しい男
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不気味に揺れる影。
なんだ、コイツ。足音がしていない……気配が限りなく無に近い。まるで死んでいるような、そんな冷たい空気だけを肌に感じる。
「……この屋敷は面白い作りをしていますな。是非とも死体安置所にしたいところです」
コイツが刺客か。
喪服に身を包む男。痩せ細っており、手には黒い薔薇を持っていた。青い眼光が不気味に周囲を見渡す。
「お前、パラセレネに雇われて俺を殺しに来たのか」
「ええ、ピルグリメッジ家の要請で参りました。わざわざ辺境の地・ヘミスフィアから足を運んで来たのですよ、仕事はきちんと熟します。ああ、そうそう……私の名は『デマイズ』。これでもちゃんとした『アンダーテイカー』という職業を持っております。そう、葬儀屋です」
葬儀屋だと?
まさか、そんな死者を供養する立場のヤツが刺客とはな……想定外すぎる。それに、ヤツの気配は異常だ。今まで感じた事のない……冷たい死のようなものを感じる。
アイツは危険だ。
見たことも無い未知の能力を使ってくるだろう。俺の『レベル売買』スキルでどこまで対応出来るか心配だが、今まで幾度となく危機を乗り越えてきた。今回だって。
「俺を阻むというのなら、お前を倒す」
「……フ、フフ。カイト、お前の詳細は聞いています。パラセレネ様に対し、婚約破棄を言い渡し、想いを踏み躙ったそうだな。彼女は傷ついていたぞ……深淵よりも深すぎるショックを受けられ、枕を濡らされていました」
「ふざけんな! 俺がそんな事を言うかよ。逆だ、俺とルナが結んでいる婚約を破棄しろって言ってきたんだよ! それがなんで、そんな話になっているんだ」
やれやれとデマイズは呆れて、黒い薔薇を投げ捨てた。
「理由などどうでもいい。素晴らしい死体を作れるのなら暗殺を請け負うだけです。私の望みは、傷ひとつない綺麗な死体でしてね。この世に芸術を残したいんですよ」
……狂ってやがる。
コイツはネクロフィリアだ。
そりゃ、こんな仕事を引き受けるよな。
もう話をするだけ時間の無駄だ。
「スピカ、安全な場所にいるんだ。ここは俺に任せて逃げるんだ、いいね」
「で、でも……カイトさん」
「いいんだ。俺なら……大丈夫だ」
「申し訳ございません……ご武運を」
頭を下げ、スピカはあの楽園の中へ戻った。そうだな、そっちの方が安全だ。――そして、数秒も立たずに扉は閉まった。
「少女の死体は後でいいでしょう。先に依頼人からの仕事を進めねばなりません。カイト、まずは貴方に安らかな死を」
冷たい感情でデマイズは魔力を籠める。
地面に落ちている黒い薔薇が青いオーラに包まれた。それらは急速に膨張を初め、形をグニャグニャと変える。……嘘だろ、アレが仕掛けだったのか。
やがて、子供ほど身長のある黒い人形が現れた。
「なんだ……?」
「この子は我が傑作『ベリアル』です。これが我が子ですよ、可愛い可愛い、子供。この子を甘く見ない方がいい……おっと、もう遅かった」
「なにを――――うぉあぁぁぁぁあぁッ!?」
油断していると、ベリアルが俺の腹を殴っていた。体が一気に吹っ飛び、赤い扉に激突。幸い、扉は頑丈で破壊される事はなかったが……なんてパンチ力だ。
「言ったでしょう。甘く見ない方がいいと! 因みに、この子は錬金術のホムンクルスを応用したオリジナルモンスター。愛情を込めて育て上げたので、レベルが物凄く高いんです。そうですね……現在は『4800』はあったかと」
「4800か……。なら、たいした事ないな」
「なんだと!? また痛い目を見たいのですか。やってしまいなさい、ベリアル。もちろん、綺麗に殺すのです」
そうか、やっぱりコイツは俺をなるべく傷つけないで殺したいらしい。しかも『レベル売買』の詳細も知らないようだ。多分、スキルの名前くらいは聞かされているだろうが、これは幸いした。
「ええい、面倒だ。コストは無視して一気にいく……! レベル売買スキル発動、レベルダウン開始!!」
「レ、レベルダウンですって!?」
ベリアルとかいう黒人形に手を向け、レベルを下げていく。モンスターのレベルがどんどん下がっていくのが分かる。その分、お金も大量消費しているが、今は構わない。この状況を打破出来るのなら金なんて惜しくないさ。
「レベルダウン完了。これでベリアルは『Lv.1』になった!」
「ば、馬鹿な……そんなハズはない!! ベリアル、もう一度、カイトにボディーブローを入れるのです!!」
デマイズが指示すると、ベリアルはヘニョヘニョと動き出す。明らかに鈍くなっていた。そして、俺の腹にヘニョンとショボイパンチを入れて来た。
逆にベリアルの腕がグニャッと曲がった。
そして、ポテッと倒れた。
「……雑魚になったな」
「ば……馬鹿な!! モンスターのレベルを下げるなど!! それが『レベル売買』スキルというのですか!
なんという妙ちくりんなスキルだ……。まさかレベル操作が可能だったとは思わなかった。パラセレネ様にきちんと能力の内容まで聞いておくべきでした。これは私の失態ですッ!」
悔しそうに歯ぎしりするデマイズ。これで形勢逆転。ここから一気に攻めて、ヤツを倒す。さぁて、ソレイユ……お前の聖剣を借りるぜ。
なんだ、コイツ。足音がしていない……気配が限りなく無に近い。まるで死んでいるような、そんな冷たい空気だけを肌に感じる。
「……この屋敷は面白い作りをしていますな。是非とも死体安置所にしたいところです」
コイツが刺客か。
喪服に身を包む男。痩せ細っており、手には黒い薔薇を持っていた。青い眼光が不気味に周囲を見渡す。
「お前、パラセレネに雇われて俺を殺しに来たのか」
「ええ、ピルグリメッジ家の要請で参りました。わざわざ辺境の地・ヘミスフィアから足を運んで来たのですよ、仕事はきちんと熟します。ああ、そうそう……私の名は『デマイズ』。これでもちゃんとした『アンダーテイカー』という職業を持っております。そう、葬儀屋です」
葬儀屋だと?
まさか、そんな死者を供養する立場のヤツが刺客とはな……想定外すぎる。それに、ヤツの気配は異常だ。今まで感じた事のない……冷たい死のようなものを感じる。
アイツは危険だ。
見たことも無い未知の能力を使ってくるだろう。俺の『レベル売買』スキルでどこまで対応出来るか心配だが、今まで幾度となく危機を乗り越えてきた。今回だって。
「俺を阻むというのなら、お前を倒す」
「……フ、フフ。カイト、お前の詳細は聞いています。パラセレネ様に対し、婚約破棄を言い渡し、想いを踏み躙ったそうだな。彼女は傷ついていたぞ……深淵よりも深すぎるショックを受けられ、枕を濡らされていました」
「ふざけんな! 俺がそんな事を言うかよ。逆だ、俺とルナが結んでいる婚約を破棄しろって言ってきたんだよ! それがなんで、そんな話になっているんだ」
やれやれとデマイズは呆れて、黒い薔薇を投げ捨てた。
「理由などどうでもいい。素晴らしい死体を作れるのなら暗殺を請け負うだけです。私の望みは、傷ひとつない綺麗な死体でしてね。この世に芸術を残したいんですよ」
……狂ってやがる。
コイツはネクロフィリアだ。
そりゃ、こんな仕事を引き受けるよな。
もう話をするだけ時間の無駄だ。
「スピカ、安全な場所にいるんだ。ここは俺に任せて逃げるんだ、いいね」
「で、でも……カイトさん」
「いいんだ。俺なら……大丈夫だ」
「申し訳ございません……ご武運を」
頭を下げ、スピカはあの楽園の中へ戻った。そうだな、そっちの方が安全だ。――そして、数秒も立たずに扉は閉まった。
「少女の死体は後でいいでしょう。先に依頼人からの仕事を進めねばなりません。カイト、まずは貴方に安らかな死を」
冷たい感情でデマイズは魔力を籠める。
地面に落ちている黒い薔薇が青いオーラに包まれた。それらは急速に膨張を初め、形をグニャグニャと変える。……嘘だろ、アレが仕掛けだったのか。
やがて、子供ほど身長のある黒い人形が現れた。
「なんだ……?」
「この子は我が傑作『ベリアル』です。これが我が子ですよ、可愛い可愛い、子供。この子を甘く見ない方がいい……おっと、もう遅かった」
「なにを――――うぉあぁぁぁぁあぁッ!?」
油断していると、ベリアルが俺の腹を殴っていた。体が一気に吹っ飛び、赤い扉に激突。幸い、扉は頑丈で破壊される事はなかったが……なんてパンチ力だ。
「言ったでしょう。甘く見ない方がいいと! 因みに、この子は錬金術のホムンクルスを応用したオリジナルモンスター。愛情を込めて育て上げたので、レベルが物凄く高いんです。そうですね……現在は『4800』はあったかと」
「4800か……。なら、たいした事ないな」
「なんだと!? また痛い目を見たいのですか。やってしまいなさい、ベリアル。もちろん、綺麗に殺すのです」
そうか、やっぱりコイツは俺をなるべく傷つけないで殺したいらしい。しかも『レベル売買』の詳細も知らないようだ。多分、スキルの名前くらいは聞かされているだろうが、これは幸いした。
「ええい、面倒だ。コストは無視して一気にいく……! レベル売買スキル発動、レベルダウン開始!!」
「レ、レベルダウンですって!?」
ベリアルとかいう黒人形に手を向け、レベルを下げていく。モンスターのレベルがどんどん下がっていくのが分かる。その分、お金も大量消費しているが、今は構わない。この状況を打破出来るのなら金なんて惜しくないさ。
「レベルダウン完了。これでベリアルは『Lv.1』になった!」
「ば、馬鹿な……そんなハズはない!! ベリアル、もう一度、カイトにボディーブローを入れるのです!!」
デマイズが指示すると、ベリアルはヘニョヘニョと動き出す。明らかに鈍くなっていた。そして、俺の腹にヘニョンとショボイパンチを入れて来た。
逆にベリアルの腕がグニャッと曲がった。
そして、ポテッと倒れた。
「……雑魚になったな」
「ば……馬鹿な!! モンスターのレベルを下げるなど!! それが『レベル売買』スキルというのですか!
なんという妙ちくりんなスキルだ……。まさかレベル操作が可能だったとは思わなかった。パラセレネ様にきちんと能力の内容まで聞いておくべきでした。これは私の失態ですッ!」
悔しそうに歯ぎしりするデマイズ。これで形勢逆転。ここから一気に攻めて、ヤツを倒す。さぁて、ソレイユ……お前の聖剣を借りるぜ。
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