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【228】 盗聴スキルに注意せよ

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 建物と建物の間に見える太陽が地平線の下に沈む。やがて、夜のとばりが下りてブルームーンが姿を現す。


「……ふぅ」


 全ての取引を終え、ルナに背中や肩を揉んで貰っていた。指圧加減をマスターしたようで、最近のマッサージは絶賛する程に上手かった。


「気持ちよさそうですね、海人様」
「ルナの肩もみは最高さ。マッサージ店を開いたら絶対に繁盛するよ。うん、それもアリかもな」

「そ、そうですか? 嬉しいです。でも、遠慮しておきますね。このマッサージは、海人様専用ですから。その、こう言うのは恥ずかしいのですが……愛情も込めていますので」

 ――わぁ、そんな頬に含羞がんしゅうの色を浮かべながら言われるとは……俺も顔が一気に真っ赤になった。そうだな、このマッサージは俺だけのものだ。



 体をほぐした所で、本題へ戻る。



「……よし、日は落ちたけど時間はまだある」
「行かれるのですか? では、わたしも」

「いや、ルナはイルミネイトの留守番を頼む。もうこんな時間だからな。なぁに、帝国・レッドムーンをちょっと回ってくるだけさ、直ぐ戻る、約束するよ」


 明らかに落ち込むルナに指切りをした。


「絶対ですよ。絶対に絶対ですよ」
「三回も言われるとはな。ああ、絶対だ。必ず戻る。だから、ソレイユとミーティアを頼むよ」

「分かりました。これ以上は、海人様のお邪魔は出来ません。無事を祈っております」


 玄関まで見送られ、俺は手を振った。
 久しぶりに一人になって、帝国を歩き回る。

 なあに、少しパラセレネの家を見てみるだけさ。


 ◆


 少し闇が強い。濃いもやが迷い込み、無造作に漂う。そのせいか少し寒い。そんな僅かな天候の変化があるようだが、まだ夜は深くない。

 中央噴水広場は、冒険者の聖地。やはり、まだそれほどまばらではなく、むしろお祭りに近い騒ぎ。この周辺は、レアアイテムの取引が盛んだ。そういった冒険者が一際目立つ。


「ふむ、露店街も活気があるし、いつも通りだ。……さて、パラセレネの、ピルグリメッジ家か。何処どこだろうな」


 N地区なのは間違いない。
 但し、正確な位置が分からなかった。
 このエリアは、貴族の家なんて沢山あるからな。


 フレッサー商会も通りかかったけど、変化はない。とりあえず、ピルグリメッジ家の場所を聞こうとして、中へ入ろうとしたのだが。


「……!」


 商会の中から少女が出て来て、俺の顔を意外そうに見つめた。


「あ……カイトさん。今からイルミネイトへ向かおうと思っていたのです」

「おお、君は! 朝はどうも」

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。トニー様の助手をやらせて戴いています、スピカと申します」


 ぺこっと丁寧に頭を下げるスピカ。
 ほー、礼儀正しい。

 ミーティアにもこれくらいの落ち着きがあればいいんだがな。いや、あれはれで飾り気のない天真爛漫てんしんらんまんで良いんだけどな。


「ああ、スピカちゃんだったな。ん、俺の店に用があったのかい?」
「ええ、内偵の件です。ほら、パラセレネ・ピルグリメッジを調べろとご命令がありましたから、その結果が出たのですよ」

「仕事早いな! そうか、それを伝えに来ようとして……なんという巡り合わせ。よし、じゃあ、さっそく中で聞こうか」


 だが、スピカは首を横に振った。


「フレッサー商会は危険です。トニー様が仰るには盗聴・・されている可能性があると」

「と、盗聴だって? ……そういえば、あいつ自身が開発した魔導具の中にそんなモンがあったな。それに、そういう盗聴・聞き耳系スキルだって存在する。用心するに越した事はないな」


 納得して、俺は場所を移す提案をした。
 だけど、安全な場所なんてあるのか?


 う~ん……イルミネイトも何か仕掛けられているかもしれないし、商人連合は……ダメだ。あそこは基本的に出入りが自由に出来る。


「このN地区にある『ノイヤール家』の別荘へ向かいます。実は、今そこが私の家なんです」


「え……あの七つの貴族の別荘?」
「そうなんです。ノイヤール家の当主、アムール様によくして戴いているんですよ~。フレッサー商会のお仕事もアムール様から紹介して戴きました」


 ああ、あのアムールか。
 以前、エクリプス家でお世話になっていた時にやって来たな。あの虎系統の獣耳の生やした娘さんか。綺麗な女性ひとだったなぁ……。

「そうか、七つの貴族の別荘ならそう簡単には手を出せないよな」

「ええ、とても安全です。ここからちょっと歩きますけど、付いて来て下さい。それと、尾行に注意してくださいね。ピルグリメッジ家の雇った何者かが動いているようですから」


 マジか。いよいよ刺客とか出てきそうだな。そうとなれば、俺は躊躇ちゅうちょなく『レベル売買』スキルを使って自衛する。もちろん、スピカも守る。


「了解。いざとなれば任せろ」
「ええ、カイトさんの能力については理解しています。トニー様がよく仰っていますからね、もう耳に胼胝たこですよ~」


 からからっと笑うスピカ。
 トニーめ、普段何を話しているんだ!?


 ……とにかく、スピカの話を聞くためにも周囲警戒を怠らず、向かおう――。
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