上 下
224 / 310

【224】 新たなる夜明け

しおりを挟む
 夜明けはまだ闇が強く残っている。
 魔法のような淡紅色が微かに染まっているだけ。最近、俺は早起きな体質になってしまったらしく、必ず早朝に目覚める。


「……またか・・・


 もう毎日だ。日頃の激務やらストレスやら要因は色々とあるのだろうけれど、もう二週間はこの状態が続いていて、いい加減に慣れた頃合いだった。……慣れたくもなかったけどな。


 しかし、今日は丁度良かった。


 レベル売買の仕事が入っていたからだ。本当にグッドタイミングだったので、ソレイユから貰ったお気に入りの紳士服に着替え、顔を洗ったなりなど簡単な身支度を済ませた。そして、俺はこっそりとイルミネイト一階へ向かい――玄関前まで静かに辿り着く。


「ふぅ、良かった。皆にはバレていないようだ。さすがにこの案件は、俺ひとりで済ませたいからな」


 少し特殊な事情があり、今回のレベル売買は密かにやるしか方法がなかった。別にバレても怒られはしないだろうけど、とにかく複雑だった。


 静寂に包まれたイルミネイトを去ろうとして、背を向けた――その時。


「海人様……!」


 いきなり呼び止められ、俺はドキッとして……背後を振り向いた。そこには、着衣を乱したルナの姿があった。呼吸も乱れ、髪型さえもわずかながらにボサボサと乱れていた。


「……ルナ。どうして」

「……はぁ、はぁ。海人様の気配が感じられなくなったので……慌てて追いかけて来たんです。どうして黙って行っちゃうんですか」


 うるうるとルビーのような赤い瞳を揺らすルナは、今にも泣きだしそうだった。……マズイ。そんなつもりは無かったんだけどな。


「これには海よりも深い理由わけが……。ルナ、すまないが……」

「嫌です」

「即答か。そんなに俺を心配してくれるんだな」

「もちろんです。だって、海人様がいなくなったら、わたし……どうやって生きていけば……」


 ルナはこちらへ歩み寄って来るが、メイド服がきちんと収まっていないせいか、ハラリと脱げてしまった。


「うわッ! ルナ、服! 服が!」

「きゃぁ……! そ、その海人様になら見られていいですけど、ここは外ですし……は、恥ずかしいです……」


 だろうね。ここ、玄関前だし、早朝だから人はそんな歩いていないだろうけど! うーん、ルナの柔肌を他人見せるワケにはいかないな。

 俺は急いでルナの元へ。


「ほら、メイド服」

「ありがとうございます、海人様。でも、もう逃がしません」


 がっちり腕をからまれた。
 ……あ、ズルイ。
 俺は見事にルナの戦略にはまったらしい。


「分かった、ルナを置いていかない。一緒に来てくれるかい?」
「はいっ。ぜひ、ご一緒させて下さい」


 そんな良い顔されては、折れるしかなかった。とりあえず、メイド服をきちんと着て貰い、整った所でイルミネイトを後にした。


 ◆


 早朝の帝国・レッドムーンは肌寒い。
 幸い、隣にルナがいて、俺の腕に掴まってくれているので暖かいのが救いだ。心もあたたかいな。

「どこへ向かわれるのですか?」
「フレッサー商会さ。つまり、トニーの所だよ」

 そう、今回は商人の中の商人・トニーからの依頼だった。まさか、親友から『レベル売買』の話を持ち掛けられるとはな。でも、更にそこには深い事情があったのだが。


「トニーさんの所でしたか。最近、魔導具の新開発も凄いですよね。新作製品をたくさん発表され、特許の数も増え続けて、利益も爆増しているとか」


 その通り、トニーは莫大な利益を上げ、世界唯一レベルの売買が出来る俺と肩を並べていた。親友だから、余計に光栄の極みというか――争い甲斐がいがあった。


「そんな親友ライバルからレベル売買の取引だからな。俺も驚いたよ、アイツに今更、レベルが必要だと思えないだろう?」

「そうですね……お金には困っていなさそうですし……。ああ、やっぱりお金をたくさん持っているから命を狙われやすいでしょうし、身の危険を感じているとか。それで、護身の為に強くなっておきたいのでしょうか」


 俺は知っているんだが、この真実をどうルナに落とし込むべきか。きっと、ルナは怒るかもなぁ……。だから、一人で済ませたかったんだけど、もう遅い。


「ま、まあ……到着すれば分かるさ。ルナ、そろそろ腕を離……分かった。頼むから、泣きそうになるのだけはヤメテ……マジで心が痛いから」

「……ごめんなさい。でも、なんだか嫌な予感がするんです」


 うっ……マズイ。
 まさに現実になろうとしている。でも、今更になってルナを追い返すなんて真似も出来なかった。きっと大丈夫。ルナならきっと理解してくれる。


 フレッサー商会に辿り着く。あれから改築を重ね、大きな店になっていた。稼ぎが大きくなると、店も大きくなるわけだ。俺のイルミネイトと良い勝負だな。ウチは、五階建てだけどな。

 こっちは四階建てらしい。


「すぅ、はぁ……」
「海人様?」

「……あはは」


 笑って誤魔化し、俺はフレッサー商会の扉というか、魔導シャッターをノックする。しばらくして、シャッターが自動でが開いた。ブゥゥンと機械的な音がして、上へ収納されていく。無駄にハイテクだなあ。で、トニーが現れた。今日もビッシリ決まった紳士服だ。


「おはようございます、カイト。おや、ルナ様も! ……いいのですか、カイト」

「ああ、もう引き返せん。商談というか……まあ、とにかく始めよう」


「……なんと! 仕方ないですね、さすがに帝国・レッドムーンの皇女様を追い返すなんて人生を棒に振るようなマネは出来ませんし……では、ルナ様もご同行を」


 でしょうね……。
 後は成るように成れって感じだ。俺はルナの手を引いて、フレッサー商会の中へ入った。ああ、どうか……穏便おんびんに済みますように。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。  ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...