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【224】 新たなる夜明け
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夜明けはまだ闇が強く残っている。
魔法のような淡紅色が微かに染まっているだけ。最近、俺は早起きな体質になってしまったらしく、必ず早朝に目覚める。
「……またか」
もう毎日だ。日頃の激務やらストレスやら要因は色々とあるのだろうけれど、もう二週間はこの状態が続いていて、いい加減に慣れた頃合いだった。……慣れたくもなかったけどな。
しかし、今日は丁度良かった。
レベル売買の仕事が入っていたからだ。本当にグッドタイミングだったので、ソレイユから貰ったお気に入りの紳士服に着替え、顔を洗ったなりなど簡単な身支度を済ませた。そして、俺はこっそりとイルミネイト一階へ向かい――玄関前まで静かに辿り着く。
「ふぅ、良かった。皆にはバレていないようだ。さすがにこの案件は、俺ひとりで済ませたいからな」
少し特殊な事情があり、今回のレベル売買は密かにやるしか方法がなかった。別にバレても怒られはしないだろうけど、とにかく複雑だった。
静寂に包まれたイルミネイトを去ろうとして、背を向けた――その時。
「海人様……!」
いきなり呼び止められ、俺はドキッとして……背後を振り向いた。そこには、着衣を乱したルナの姿があった。呼吸も乱れ、髪型さえも僅かながらにボサボサと乱れていた。
「……ルナ。どうして」
「……はぁ、はぁ。海人様の気配が感じられなくなったので……慌てて追いかけて来たんです。どうして黙って行っちゃうんですか」
うるうるとルビーのような赤い瞳を揺らすルナは、今にも泣きだしそうだった。……マズイ。そんなつもりは無かったんだけどな。
「これには海よりも深い理由が……。ルナ、すまないが……」
「嫌です」
「即答か。そんなに俺を心配してくれるんだな」
「もちろんです。だって、海人様がいなくなったら、わたし……どうやって生きていけば……」
ルナはこちらへ歩み寄って来るが、メイド服がきちんと収まっていないせいか、ハラリと脱げてしまった。
「うわッ! ルナ、服! 服が!」
「きゃぁ……! そ、その海人様になら見られていいですけど、ここは外ですし……は、恥ずかしいです……」
だろうね。ここ、玄関前だし、早朝だから人はそんな歩いていないだろうけど! うーん、ルナの柔肌を他人見せるワケにはいかないな。
俺は急いでルナの元へ。
「ほら、メイド服」
「ありがとうございます、海人様。でも、もう逃がしません」
がっちり腕を絡まれた。
……あ、ズルイ。
俺は見事にルナの戦略に嵌ったらしい。
「分かった、ルナを置いていかない。一緒に来てくれるかい?」
「はいっ。ぜひ、ご一緒させて下さい」
そんな良い顔されては、折れるしかなかった。とりあえず、メイド服をきちんと着て貰い、整った所でイルミネイトを後にした。
◆
早朝の帝国・レッドムーンは肌寒い。
幸い、隣にルナがいて、俺の腕に掴まってくれているので暖かいのが救いだ。心もあたたかいな。
「どこへ向かわれるのですか?」
「フレッサー商会さ。つまり、トニーの所だよ」
そう、今回は商人の中の商人・トニーからの依頼だった。まさか、親友から『レベル売買』の話を持ち掛けられるとはな。でも、更にそこには深い事情があったのだが。
「トニーさんの所でしたか。最近、魔導具の新開発も凄いですよね。新作製品をたくさん発表され、特許の数も増え続けて、利益も爆増しているとか」
その通り、トニーは莫大な利益を上げ、世界唯一レベルの売買が出来る俺と肩を並べていた。親友だから、余計に光栄の極みというか――争い甲斐があった。
「そんな親友からレベル売買の取引だからな。俺も驚いたよ、アイツに今更、レベルが必要だと思えないだろう?」
「そうですね……お金には困っていなさそうですし……。ああ、やっぱりお金をたくさん持っているから命を狙われやすいでしょうし、身の危険を感じているとか。それで、護身の為に強くなっておきたいのでしょうか」
俺は知っているんだが、この真実をどうルナに落とし込むべきか。きっと、ルナは怒るかもなぁ……。だから、一人で済ませたかったんだけど、もう遅い。
「ま、まあ……到着すれば分かるさ。ルナ、そろそろ腕を離……分かった。頼むから、泣きそうになるのだけはヤメテ……マジで心が痛いから」
「……ごめんなさい。でも、なんだか嫌な予感がするんです」
うっ……マズイ。
まさに現実になろうとしている。でも、今更になってルナを追い返すなんて真似も出来なかった。きっと大丈夫。ルナならきっと理解してくれる。
フレッサー商会に辿り着く。あれから改築を重ね、大きな店になっていた。稼ぎが大きくなると、店も大きくなるわけだ。俺のイルミネイトと良い勝負だな。ウチは、五階建てだけどな。
こっちは四階建てらしい。
「すぅ、はぁ……」
「海人様?」
「……あはは」
笑って誤魔化し、俺はフレッサー商会の扉というか、魔導シャッターをノックする。しばらくして、シャッターが自動でが開いた。ブゥゥンと機械的な音がして、上へ収納されていく。無駄にハイテクだなあ。で、トニーが現れた。今日もビッシリ決まった紳士服だ。
「おはようございます、カイト。おや、ルナ様も! ……いいのですか、カイト」
「ああ、もう引き返せん。商談というか……まあ、とにかく始めよう」
「……なんと! 仕方ないですね、さすがに帝国・レッドムーンの皇女様を追い返すなんて人生を棒に振るようなマネは出来ませんし……では、ルナ様もご同行を」
でしょうね……。
後は成るように成れって感じだ。俺はルナの手を引いて、フレッサー商会の中へ入った。ああ、どうか……穏便に済みますように。
魔法のような淡紅色が微かに染まっているだけ。最近、俺は早起きな体質になってしまったらしく、必ず早朝に目覚める。
「……またか」
もう毎日だ。日頃の激務やらストレスやら要因は色々とあるのだろうけれど、もう二週間はこの状態が続いていて、いい加減に慣れた頃合いだった。……慣れたくもなかったけどな。
しかし、今日は丁度良かった。
レベル売買の仕事が入っていたからだ。本当にグッドタイミングだったので、ソレイユから貰ったお気に入りの紳士服に着替え、顔を洗ったなりなど簡単な身支度を済ませた。そして、俺はこっそりとイルミネイト一階へ向かい――玄関前まで静かに辿り着く。
「ふぅ、良かった。皆にはバレていないようだ。さすがにこの案件は、俺ひとりで済ませたいからな」
少し特殊な事情があり、今回のレベル売買は密かにやるしか方法がなかった。別にバレても怒られはしないだろうけど、とにかく複雑だった。
静寂に包まれたイルミネイトを去ろうとして、背を向けた――その時。
「海人様……!」
いきなり呼び止められ、俺はドキッとして……背後を振り向いた。そこには、着衣を乱したルナの姿があった。呼吸も乱れ、髪型さえも僅かながらにボサボサと乱れていた。
「……ルナ。どうして」
「……はぁ、はぁ。海人様の気配が感じられなくなったので……慌てて追いかけて来たんです。どうして黙って行っちゃうんですか」
うるうるとルビーのような赤い瞳を揺らすルナは、今にも泣きだしそうだった。……マズイ。そんなつもりは無かったんだけどな。
「これには海よりも深い理由が……。ルナ、すまないが……」
「嫌です」
「即答か。そんなに俺を心配してくれるんだな」
「もちろんです。だって、海人様がいなくなったら、わたし……どうやって生きていけば……」
ルナはこちらへ歩み寄って来るが、メイド服がきちんと収まっていないせいか、ハラリと脱げてしまった。
「うわッ! ルナ、服! 服が!」
「きゃぁ……! そ、その海人様になら見られていいですけど、ここは外ですし……は、恥ずかしいです……」
だろうね。ここ、玄関前だし、早朝だから人はそんな歩いていないだろうけど! うーん、ルナの柔肌を他人見せるワケにはいかないな。
俺は急いでルナの元へ。
「ほら、メイド服」
「ありがとうございます、海人様。でも、もう逃がしません」
がっちり腕を絡まれた。
……あ、ズルイ。
俺は見事にルナの戦略に嵌ったらしい。
「分かった、ルナを置いていかない。一緒に来てくれるかい?」
「はいっ。ぜひ、ご一緒させて下さい」
そんな良い顔されては、折れるしかなかった。とりあえず、メイド服をきちんと着て貰い、整った所でイルミネイトを後にした。
◆
早朝の帝国・レッドムーンは肌寒い。
幸い、隣にルナがいて、俺の腕に掴まってくれているので暖かいのが救いだ。心もあたたかいな。
「どこへ向かわれるのですか?」
「フレッサー商会さ。つまり、トニーの所だよ」
そう、今回は商人の中の商人・トニーからの依頼だった。まさか、親友から『レベル売買』の話を持ち掛けられるとはな。でも、更にそこには深い事情があったのだが。
「トニーさんの所でしたか。最近、魔導具の新開発も凄いですよね。新作製品をたくさん発表され、特許の数も増え続けて、利益も爆増しているとか」
その通り、トニーは莫大な利益を上げ、世界唯一レベルの売買が出来る俺と肩を並べていた。親友だから、余計に光栄の極みというか――争い甲斐があった。
「そんな親友からレベル売買の取引だからな。俺も驚いたよ、アイツに今更、レベルが必要だと思えないだろう?」
「そうですね……お金には困っていなさそうですし……。ああ、やっぱりお金をたくさん持っているから命を狙われやすいでしょうし、身の危険を感じているとか。それで、護身の為に強くなっておきたいのでしょうか」
俺は知っているんだが、この真実をどうルナに落とし込むべきか。きっと、ルナは怒るかもなぁ……。だから、一人で済ませたかったんだけど、もう遅い。
「ま、まあ……到着すれば分かるさ。ルナ、そろそろ腕を離……分かった。頼むから、泣きそうになるのだけはヤメテ……マジで心が痛いから」
「……ごめんなさい。でも、なんだか嫌な予感がするんです」
うっ……マズイ。
まさに現実になろうとしている。でも、今更になってルナを追い返すなんて真似も出来なかった。きっと大丈夫。ルナならきっと理解してくれる。
フレッサー商会に辿り着く。あれから改築を重ね、大きな店になっていた。稼ぎが大きくなると、店も大きくなるわけだ。俺のイルミネイトと良い勝負だな。ウチは、五階建てだけどな。
こっちは四階建てらしい。
「すぅ、はぁ……」
「海人様?」
「……あはは」
笑って誤魔化し、俺はフレッサー商会の扉というか、魔導シャッターをノックする。しばらくして、シャッターが自動でが開いた。ブゥゥンと機械的な音がして、上へ収納されていく。無駄にハイテクだなあ。で、トニーが現れた。今日もビッシリ決まった紳士服だ。
「おはようございます、カイト。おや、ルナ様も! ……いいのですか、カイト」
「ああ、もう引き返せん。商談というか……まあ、とにかく始めよう」
「……なんと! 仕方ないですね、さすがに帝国・レッドムーンの皇女様を追い返すなんて人生を棒に振るようなマネは出来ませんし……では、ルナ様もご同行を」
でしょうね……。
後は成るように成れって感じだ。俺はルナの手を引いて、フレッサー商会の中へ入った。ああ、どうか……穏便に済みますように。
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