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【183】 金髪のエルフ

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 ――映像は途切とぎれた。

「ベルガマスク・セルリアンがけていたとはな……」

 一番許せないのが、ルナの命を狙った事。
 刃物ナイフはあと数センチで腹部をつらぬいていたはず……。しかし、それを上回る速度でノエルが払い除けてくれたので、ルナは命拾いした。

 さすが騎士団長。この前は、その圧倒的な力に恐怖さえ感じたが、味方側だとこうも頼もしい存在になるとはな。心強過ぎて、実家のような安心感があった。

「カイト……」

 胸をでおろしていれば、頬を赤くするミーティアがくすぐったそうにしていた。もぞもぞして、どうしたのやらと手元を見ると、俺は、無意識の内に彼女のお腹をでていたようだ。


「ああ……悪い」
「ううん。いいよ……お兄ちゃんなら」


 切ないエメラルドグリーンの瞳を向けられた。俺は、ミーティアに求められると勘違いしそうになる。これは卑怯ひきょうすぎる……けれど、これはあくまで兄妹としてのスキンシップなのである。他意はない。


「……まったく、ミーティアにはかなわんな」
「えへへ」


 悪戯いたずらっ子のように舌を出し、ミーティアは笑う。俺は誤魔化ごまかすようにして、彼女の手を取り部屋を出た。ソレイユに情報共有しないとな。


 ◆


「――マジ? カイトの疑いが晴れたのね……良かったじゃん」

 飛びつかれて、俺は照れる。
 ソレイユ、最近は普通に抱きついてくるようになったな。


「これでイルミネイトを復活できるな」
「そうね、まさかこんな早く戻れるとは思わなかったけど、嬉しいわ。後はルナを待つだけね。きっとエクリプス家へ来るはずよ。待ちましょう」


 俺はうなずき、同意した。
 そうだ、後はルナを笑顔でむかえるだけ。
 そして、この腕で、手で、彼女を受け止めて抱きしめる。もう二度と離さないように――。


「カイト、ルナの事を考えているわね」

 ソレイユに指摘され、俺は口籠くちごもる。


「……ま、まあな」
「正直でよろしい。でも、ルナが帰ってくるまでは、カイトをひとめしていいのよね?」


「そ、それは……」


 どう反応していいか困っていると、ミーティアがふくれた。


「ソレイユさん、お兄ちゃんを独り占めしていいのは、私だけですっ」

「――ああ、そういえば、気になっていたのよね。ミーティア、あんた、いつの間にカイトをお兄ちゃんにしたのよ。ベッタリじゃない……」

「ずっと前からです。でも、ソレイユさんもカイトと……その……一緒の時間を過ごしたいですもんね」


「あら、貸してくれるの?」
「はい……ちょっと寂しいですけど」
「ごめんね、ミーティア。どうしても二人きりで話がしたいの」


「分かりました。私は、しばらくエクリプス家のお手伝いとかさせて戴きます。お世話になっていますし」


 ミーティアは、頭を下げて食堂を去った。


「……」


「カイト、ミーティアに甘くなりすぎでしょ。まあ、カワイイけどね」
「すまん」

「いいって、あたしもミーティアは好きよ」

 少し沈黙して、ソレイユから手を重ねてきた。自然とにぎり合って……それから、ソレイユは提案した。


「場所を選ばせてあげる」
「場所?」


「ええ、お風呂かあたしの部屋、どっちがいい?」


 ――なんて魅力的な選択肢。つーか、お風呂って、そりゃ男としては嬉しすぎる。しかし、ぶっ倒れる自信もあった。血の海を見るだろうな。


 ソレイユの部屋も見てみたい。
 こっちが健全だが、女の子の部屋に招かれるって事だ。レベルは中々に高い。


「早く。十秒以内ね」


 かしてくるし。
 けど、せっかくのお誘いだ。


「じゃあ……部屋で」
「ヘタレたわね」
「ぐっ……」


 風呂を選択しなかった事に、ソレイユはやや呆れていた。そっちを選んで欲しかったのかよ。


「ウソウソ。じゃあ部屋ね」


 まさかのソレイユの部屋に行く事になった。
 この分だと、エクリプス家には当分来れないだろうし、その機会すら無いかもしれない。であれば、おがんでおきたいか。


 ◆


 彼女ソレイユの部屋の前に到着。
 二階にある大きな部屋。そして、やはり女の子っぽいというか、予想以上に女の子の部屋だった。桃色ピンクだらけ……!


「ソレイユ、お前の髪の毛色並にピンクだな……」
「あ、あたしの趣味よ。いいじゃない……」

 ベッドに腰掛け、頬を朱色にめる。
 ソレイユの乙女な所は、今に始まった事ではない。今のワンピース姿もそうだし、もっと前は弱い所を見せたり……普段の気遣きづかいだってそうだ。枚挙まいきょにいとまがない。


「――で、話ってなんだ?」


 すると、ベッドをぽんぽんと叩くソレイユさん。となりに来いという事らしい。


「分かったよ、ただし、俺をおそうなよ」
「……ッ!」


 まるで図星でしたと言わんばかりの表情。
 嘘だろ?


「なあ、ソレイユ、この際だからハッキリ言うぞ……。俺はルナが――」
「わ、分かっているわよ。あんたの気持ち……でも、一度でいい……一度でいいから、あたしを抱いて」


「――――」


 時が止まった。
 まさか、ソレイユから求められるとは。


 けれど、俺は、それでもルナを愛している。


 ルナの気持ちは裏切れない。


「……ごめんな、ソレイユ」
「――――」


 すっと零れる涙。
 初めてソレイユの泣くところを見た。


「……これが失恋かぁ……。初めて好きになった人に振られるって、こんなにもキツイんだ……。結構くるわね……」


「それでも、俺たちのそばに居てくれると嬉しい」
「ええ、それは安心して。今はちょっと……辛い」

 ここまでショックを受けられるとは思わなかった。本気の本気だったんだな……。


「ソレイユ……」
「――ごめん。あたし、そんなつもり無かったのに……弱い自分は見せないって決めていたのにね。せめて、少し……少しだけこうさせて」


 頭を預けて来る。
 そうだな、せめて。


 ◆


 廊下ろうかを歩いていると、メイド服姿のミーティアがいた。世話しなく働いている所を見ると、本当に手伝いをしているようだ。

頑張がんばっているな、ミーティア」
「カイト、この服どう?」
「すっごく似合っているよ。ルナに匹敵ひってきする可愛さだ」
「えへっ……ありがとう、お兄ちゃん」

 微笑ほほえんでミーティアは仕事へ戻った。
 俺もそろそろ商売を再開したいな。

「でも、その前に」

 このエクリプス家を去る前に、家の中を見ておきたい。そうして歩いて行けば、執事のダンさんやメイド達、トラモントとも遭遇そうぐう、すれ違った。


 ふと気になって庭に出る。


「フラワーガーデンか。綺麗きれいだな」


 その中を進んでいく。どんどん奥へ向かって行けば、花畑の中に少女が横たわっていた。……誰だこの金髪エルフ。


「えっと……」


 どこかで見覚えのあるような……でも、思い出せない。エルフは、身体を起こしこちらを緑の瞳で見つめた。


「ミーティアにそっくりだ……」


 驚くべき事に、金髪といい、緑の瞳といい……顔の輪郭りんかくとかほとんどが瓜二うりふたつだった――。


「お前は……ミーティアではないよな」
「――そのような名ではない。我が名は……そうだな、今はクレセントとしよう」


 彼女はそう名乗った。


「クレセント……」
「久しいな、カイト」

「な、なぜ俺の名を」
「知っているさ。お前は有名だからな」


 有名か。確かに帝国で名は上がったとは思う。でもそれは、あのイルミネイト近辺だけだ。よく分からないが、もしかしてエクリプス家の関係者か。


「この家の者か?」
「それは違うな」


 少女は否定した。


「だったら……」


 その時、青いもやが現れて――、その中から白髪の男が現れた。


「アトモスフィア様、おむかえに参りました」
「うむ……ベルガマスク・セルリアン将軍。お前の力は確かに見届けた――素晴らしい変身スキルと侵入スキルだった。これ程の腕前とはな、褒めて遣わす。しかし、二度目はないだろう」


 ……おい。


「ええ、これっきりでしょうな。今回、派手にオルビスの王の間まで登場しましたからな。次回は守りが厳重となるでしょう。……ところで、この男は?」


 ……ふざけんなよ。


 このエルフが『アトモスフィア』だって!?
 それと……あの白髪はくはつがベルガマスク・セルリアン……ミーティアの映像に居たヤツだ。あの顔は間違いない。


「どうして、忘れていたか分からんけどな……アトモスフィア! お前! お前だったのかよ!」

認識にんしき阻害そがいなど私には容易たやすい事。カイト、一度だけ貴様に問う……『シャロウ』へ戻って来るのだ。お前の『レベル売買』スキルで世界に安定をもたらす。それが、私の望みだ」


 戻って来い……?


 世界に安定を?


「断固として拒否する……!!」
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