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【178】 自由の為に
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「――久しぶりだな、ソレイユ」
凛とした声が仲間の名を言った。
舞い上がる埃の中から銀の鎧が輝き、女騎士が姿を現す。……なんだこの威圧感。只者じゃないぞ。
静かに歩み寄ってくる騎士の顔を見て、ソレイユが即座に反応を示した。
「ノエル騎士団長」
「なっ、あの銀髪の女騎士が?」
俺もその名くらいは知っていた。
共和国の竜騎士数百を一撃で屠る程の力を持つという、帝国最強の騎士。
――騎士の中の騎士だとか。
「後程に破壊した壁の謝罪と弁償をしよう、我が友。だが、あの巨漢は【共和国・ブルームーン】の手先である『シャロウ』のギルドメンバーと見受けたのでな」
だから一撃を与えたと、再び剣を構えるノエル。こいつ、トドメを刺す気か……。
「止めて、ノエル。そのドワーフは『ゾンターク家』の者よ。老聖ジェネラスの息子。だから、そのトラモントは表立ってはいなかった存在だけど、味方なの」
「そうか、老台の。だが、そのドワーフは敵には違いない……少なくともシャロウに、共和国・ブルームーンに忠誠を誓っていた男なのだ。つまり、ブラック卿同様に裏切者よ」
ノエルは剣を突風のように振り下ろし、トラモントの首を刎ねようと――したが、ソレイユが聖剣『マレット』で受け止め、庇った。
……ソレイユ、そこまで彼を。
俺もどちらかと言えば、トラモントを信用しているワケではない。でも、ソレイユが必要を感じているのならば、俺は味方する。
「……ソレイユ、それが其方の答えか!」
「ええ、そうよ。彼は、確かにシャロウのメンバーだった。でもそれは家族の為。彼は……トラモントは娘の為に国を、家を離れ、仕方なくシャロウに加入した。娘の目の治療にパライバトルマリンが必要だったから」
だから、トラモントは家族の為と。
娘の為に必死になっていたとかさ……良い親じゃねえか。
……ああ、今ならその気持ちが分かる。
俺にも妹が出来ちまった。
だから――俺は叫んだ。
「ソレイユ! お前のレベルを上げてやる……レベルアップ!」
俺は右手を翳し、彼女を『Lv.9999』にした。俺が今出来る事なんて、これくらいだ。
「――――――たぁッッ!!!」
ギン、と鈍い音がしてノエルの剣が弾かれ、損壊した。その状況に、嬉しそうにも驚く騎士団長は、軽いバックステップで外へ。なんて身軽な……。たったワンステップであの距離へ……こりゃ本気じゃないな。
「……」
「カイト?」
ミーティアが不思議そうに俺の顔を覗き込むが……構っている余裕はなかった。ソレイユを『Lv.9999』にして、尚あの余裕っぷり。ノエル騎士団長は……バケモンだぞ。
「騎士団長ってのは伊達じゃないらしいな……」
「うん、生ける伝説って呼ばれているし」
「だろうな」
彼女は、これまで何度も戦地へ赴き、国を、騎士達を何度も勝利へ導いた……まさに伝説。その強さは本物。レベルという物差しでは測れない力を持っているんだ。
俺はその強さを知りたいと思った。
いったい、どこからそんな力が――。
戦況を見守っていると、ノエルがつぶやく。
「――――星力解放」
ごうっと赤いオーラが彼女を包む。
これが、星力。
魔力ではない、別の力。
……これは、まるで――。
そして、いつの間にかノエルの手には……『赤い剣』!? しかも、剣というよりは魔力で編んだ緋色の魔剣だ。
――いや、星力《テア》の剣か。
剣が折れたとしても、ノエルの心は絶対に折れないわけか……強すぎる。これが……騎士団長か。
けれど。
「そう……ノエル、本気ってワケ。でもね、あたしは聖剣に、カイトに誓ったの。必ず守るってね! 大好きな人達の為に聖剣を振るうって! 星力解放……」
紅の風が吹いた。
何故だろう、何故か分からないがソレイユの星力は、ノエルと違って優しくて……柔らかくて、でも鋭さがあった。
これじゃあ、彼女そのものじゃないか。
納得して、俺は、ミーティアの手を握って離れる判断を下した。さすがに、トラモントの巨体を運ぶ余裕はないが。そんな俺の表情を読み取ったのか、ミーティアは提案した。
「カイト、トラモントさんを運びたいんだよね」
「分かってくれるのか」
「任せて!」
ミーティアは、宙から大賢者から授かりし杖『インフィニティ』を取り出し、それを巨体に向けた。すると、フワッと浮き上がり、その身体が俺の方へ磁石のように吸い寄せられて来た。
「おぉ、これは」
「私の力だよ。気絶している状態の彼なら運べる」
「頼んだぞ」
「うん」
離れた俺たちを確認するソレイユは、頷いて前を向く。
「――――ノエル! あたしは自由に為に戦う!」
「そうだ。それこそが帝国・レッドムーンの……悲願、宿願、熱望、切望、渇望、そして、私自身の憧憬でもあった」
二人は粛然と剣を構え――、
誉れ高き騎士として堂々と――、
その想いを一撃に――、
「――――――ぁぁぁぁあああッッ!!!」
「あああああぁぁあぁ――――――!!!」
血潮を視た。
灼熱を視た。
交差する赤と赤の疾駆。
これほど鮮烈で、圧倒的な剣閃を俺は見た事がない。それは儚い夢のように刹那ではあったけれど、一点の曇りもない完璧な太刀筋だった。
「――――」
黄金に輝く聖剣が血に燃えていた。
紅炎――プロミネンスが今も聖剣に纏わり、希望を照らす。なんて輝きだよ……まったく、ソレイユのヤツ……やりやがった。
正確に言えば――
「ノエル、あんた……わざと?」
「……ソレイユ、其方こそが自由を示し、世界を照らす『太陽』なのだよ」
ピシッと音を立てる銀の鎧。
割れて地面に落ちた。
俺はもう我慢できなくて、ソレイユの元へ。
「ソレイユ!」
「……カイト。みんな無事のようね、良かった」
「ああ、こっちは何とかな。……それより」
俺はソレイユを庇う様にして、前へ。
「お主が噂の商人か」
「カイトです。ソレイユは、俺の大切な部下でもありましてね。これ以上戦うのなら俺を通して戴きたい」
「……ふっ。面白い男よ。良い上司を持ったなソレイユ」
「…………」
ソレイユは顔を赤くしていた。
それから騎士団長は笑い、背を向けた。
「――私は何も見なかった」
それだけ言い残して、ノエルは静かに立ち去った。……まさか、最初からそのつもりだったのか? でも、壁破壊してるし、わざわざ見極める為に? まさかな、とポリポリ頬を掻いていると、ソレイユが俺の前に。
「カイト、レベルとか庇ってくれたりとか……ありがと、嬉しかったわ」
抱きつかれて、俺は少し焦った。
でもそうか、俺の為に……皆の為に。何よりも自由の為に戦ってくれたのか。あの皇帝陛下も、皇女殿下でさえ『自由』を与え、認めている。
オルビス騎士団で唯一の【一人の軍隊】の称号と特権を持つ女騎士。何故彼女だけが特別なのだろうと思った。それが今なら分かる。
太陽だからだ。
凛とした声が仲間の名を言った。
舞い上がる埃の中から銀の鎧が輝き、女騎士が姿を現す。……なんだこの威圧感。只者じゃないぞ。
静かに歩み寄ってくる騎士の顔を見て、ソレイユが即座に反応を示した。
「ノエル騎士団長」
「なっ、あの銀髪の女騎士が?」
俺もその名くらいは知っていた。
共和国の竜騎士数百を一撃で屠る程の力を持つという、帝国最強の騎士。
――騎士の中の騎士だとか。
「後程に破壊した壁の謝罪と弁償をしよう、我が友。だが、あの巨漢は【共和国・ブルームーン】の手先である『シャロウ』のギルドメンバーと見受けたのでな」
だから一撃を与えたと、再び剣を構えるノエル。こいつ、トドメを刺す気か……。
「止めて、ノエル。そのドワーフは『ゾンターク家』の者よ。老聖ジェネラスの息子。だから、そのトラモントは表立ってはいなかった存在だけど、味方なの」
「そうか、老台の。だが、そのドワーフは敵には違いない……少なくともシャロウに、共和国・ブルームーンに忠誠を誓っていた男なのだ。つまり、ブラック卿同様に裏切者よ」
ノエルは剣を突風のように振り下ろし、トラモントの首を刎ねようと――したが、ソレイユが聖剣『マレット』で受け止め、庇った。
……ソレイユ、そこまで彼を。
俺もどちらかと言えば、トラモントを信用しているワケではない。でも、ソレイユが必要を感じているのならば、俺は味方する。
「……ソレイユ、それが其方の答えか!」
「ええ、そうよ。彼は、確かにシャロウのメンバーだった。でもそれは家族の為。彼は……トラモントは娘の為に国を、家を離れ、仕方なくシャロウに加入した。娘の目の治療にパライバトルマリンが必要だったから」
だから、トラモントは家族の為と。
娘の為に必死になっていたとかさ……良い親じゃねえか。
……ああ、今ならその気持ちが分かる。
俺にも妹が出来ちまった。
だから――俺は叫んだ。
「ソレイユ! お前のレベルを上げてやる……レベルアップ!」
俺は右手を翳し、彼女を『Lv.9999』にした。俺が今出来る事なんて、これくらいだ。
「――――――たぁッッ!!!」
ギン、と鈍い音がしてノエルの剣が弾かれ、損壊した。その状況に、嬉しそうにも驚く騎士団長は、軽いバックステップで外へ。なんて身軽な……。たったワンステップであの距離へ……こりゃ本気じゃないな。
「……」
「カイト?」
ミーティアが不思議そうに俺の顔を覗き込むが……構っている余裕はなかった。ソレイユを『Lv.9999』にして、尚あの余裕っぷり。ノエル騎士団長は……バケモンだぞ。
「騎士団長ってのは伊達じゃないらしいな……」
「うん、生ける伝説って呼ばれているし」
「だろうな」
彼女は、これまで何度も戦地へ赴き、国を、騎士達を何度も勝利へ導いた……まさに伝説。その強さは本物。レベルという物差しでは測れない力を持っているんだ。
俺はその強さを知りたいと思った。
いったい、どこからそんな力が――。
戦況を見守っていると、ノエルがつぶやく。
「――――星力解放」
ごうっと赤いオーラが彼女を包む。
これが、星力。
魔力ではない、別の力。
……これは、まるで――。
そして、いつの間にかノエルの手には……『赤い剣』!? しかも、剣というよりは魔力で編んだ緋色の魔剣だ。
――いや、星力《テア》の剣か。
剣が折れたとしても、ノエルの心は絶対に折れないわけか……強すぎる。これが……騎士団長か。
けれど。
「そう……ノエル、本気ってワケ。でもね、あたしは聖剣に、カイトに誓ったの。必ず守るってね! 大好きな人達の為に聖剣を振るうって! 星力解放……」
紅の風が吹いた。
何故だろう、何故か分からないがソレイユの星力は、ノエルと違って優しくて……柔らかくて、でも鋭さがあった。
これじゃあ、彼女そのものじゃないか。
納得して、俺は、ミーティアの手を握って離れる判断を下した。さすがに、トラモントの巨体を運ぶ余裕はないが。そんな俺の表情を読み取ったのか、ミーティアは提案した。
「カイト、トラモントさんを運びたいんだよね」
「分かってくれるのか」
「任せて!」
ミーティアは、宙から大賢者から授かりし杖『インフィニティ』を取り出し、それを巨体に向けた。すると、フワッと浮き上がり、その身体が俺の方へ磁石のように吸い寄せられて来た。
「おぉ、これは」
「私の力だよ。気絶している状態の彼なら運べる」
「頼んだぞ」
「うん」
離れた俺たちを確認するソレイユは、頷いて前を向く。
「――――ノエル! あたしは自由に為に戦う!」
「そうだ。それこそが帝国・レッドムーンの……悲願、宿願、熱望、切望、渇望、そして、私自身の憧憬でもあった」
二人は粛然と剣を構え――、
誉れ高き騎士として堂々と――、
その想いを一撃に――、
「――――――ぁぁぁぁあああッッ!!!」
「あああああぁぁあぁ――――――!!!」
血潮を視た。
灼熱を視た。
交差する赤と赤の疾駆。
これほど鮮烈で、圧倒的な剣閃を俺は見た事がない。それは儚い夢のように刹那ではあったけれど、一点の曇りもない完璧な太刀筋だった。
「――――」
黄金に輝く聖剣が血に燃えていた。
紅炎――プロミネンスが今も聖剣に纏わり、希望を照らす。なんて輝きだよ……まったく、ソレイユのヤツ……やりやがった。
正確に言えば――
「ノエル、あんた……わざと?」
「……ソレイユ、其方こそが自由を示し、世界を照らす『太陽』なのだよ」
ピシッと音を立てる銀の鎧。
割れて地面に落ちた。
俺はもう我慢できなくて、ソレイユの元へ。
「ソレイユ!」
「……カイト。みんな無事のようね、良かった」
「ああ、こっちは何とかな。……それより」
俺はソレイユを庇う様にして、前へ。
「お主が噂の商人か」
「カイトです。ソレイユは、俺の大切な部下でもありましてね。これ以上戦うのなら俺を通して戴きたい」
「……ふっ。面白い男よ。良い上司を持ったなソレイユ」
「…………」
ソレイユは顔を赤くしていた。
それから騎士団長は笑い、背を向けた。
「――私は何も見なかった」
それだけ言い残して、ノエルは静かに立ち去った。……まさか、最初からそのつもりだったのか? でも、壁破壊してるし、わざわざ見極める為に? まさかな、とポリポリ頬を掻いていると、ソレイユが俺の前に。
「カイト、レベルとか庇ってくれたりとか……ありがと、嬉しかったわ」
抱きつかれて、俺は少し焦った。
でもそうか、俺の為に……皆の為に。何よりも自由の為に戦ってくれたのか。あの皇帝陛下も、皇女殿下でさえ『自由』を与え、認めている。
オルビス騎士団で唯一の【一人の軍隊】の称号と特権を持つ女騎士。何故彼女だけが特別なのだろうと思った。それが今なら分かる。
太陽だからだ。
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