上 下
167 / 308

【167】 大監獄・ベイリービーズ

しおりを挟む
 クラールハイト邸で一泊して――朝方。
 玄関前でソレイユにブラック卿を引き渡した。

「後は任せた、ソレイユ」
「ええ、任されたわ。このブラック卿は国家を……いえ、世界を転覆てんぷくさせようと目論もくろんでいたのだから、相応の罰が待っているでしょうね」

「…………」

 彼に覇気はきはない。

 このまま罪をつぐなって貰う。
 それとミーティアの分も。


 そんなミーティアの姿はない。

 ブラック卿から勘当かんどうを言い渡され、深い悲しみに暮れていた。今は、ルナが一緒に付いてくれている。任せよう。

「じゃあ、行って来る」
「気を付けてな」
「うん、またね」

 特製の微笑みを貰い、俺は元気を貰った。ソレイユの笑みは人間ひといやす効果があるようだな。



 ◆◆◆◆◆◆


 ――後日、ブラック・クラールハイトは『国家反逆罪』の容疑で大監獄・ベイリービーズへ収監しゅうかんされた。


 ベイリービーズ。


 中立国・サテライトの南海にある脱獄不可能・・・・・と呼ばれている大監獄である。その迷宮のような構造があまりに特殊で、パライバトルマリンの『グレートウォール』により堅固けんごであった。それ故、脱獄者も百年間いないと言われていた。


「…………くく、くくくく……」


 収容されたブラック卿は不敵な笑みを浮かべていた。彼はこの瞬間ときを待っていた。そう、計画に抜かりはなく、確実に進んでいたのだ。


「……大監獄・ベイリービーズには【共和国・ブルームーン】のセルリアン家将軍がおる。予定通り、ヤツの隣に収容された……。さあ……始めようではないか……! ベルガマスク・・・・・・!!」


 声高らかにブラック卿は笑った。

 それから、自慢の黒い顎鬚あごひげを引き抜き、それを壁に張り付けた。これが後に世界初の脱獄事件となり、【中立国・サテライト】崩壊を招く事態へと発展した――。


 ◆◆◆◆◆◆



 ソレイユが去った後、入れ替わるようにしてオーロラが現れた。今回の騒動の発端ほったんと言っても過言ではない。

「オーロラ」
「申し訳ございません、カイト様。出過ぎた真似を……ですが、ブラック卿の計画を阻止そしして戴きたかったのです」
「元々、アプレミディ卿に言われてたんだがな」
「でしょうね。私も大賢者様から仰せつかっておりましたから。更に言えば、ブラック卿からもカイト様に関する情報を入手するようにと」


「なんだって……」


「お気を付けて下さい。私にはどうにも、これで終わりではないような気がするのです。どうか、ルナ様をお守り下さい。皇女殿下こそ希望ですから」


 オーロラは一歩下がって一礼すると、背を向けて去った。……もう少し聞きたい事もあったが、また今度にしよう。


 ◆


 クラールハイト邸へ戻って、ルナと合流した。その背後には、少し落ち込んでいるミーティアの姿も。

「もう大丈夫なのか、ミーティア」
「ええ、一日泣いて気が晴れました。これ以上、皆さんにご迷惑をお掛けするわけにはいきません。何よりもカイトに心配をさせたくないですから」

「無理するなよ。いつだって俺を頼っていいんだ」
「はい……」

 あの表情、やっぱりまだ無茶をしているな。でもきっと時間が解決してくれるはずだ。

「ルナ、これからクラールハイトの家はどうなってしまうんだ? まさか追放とか、名そのものが消えてしまうとか……」

「どうでしょうね。名そのものは消えないとは思いますが……こればかりは皇帝陛下のご意思次第としか」

 そうなるよなあ。
 少し心配だ。特にミーティアが。
 この子は俺が守っていかねば。

 そう固く決心していると、ルナが言った。

「帰りましょう、イルミネイトへ」
「そうだな、俺たちの家に帰ろう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...