159 / 310
【159】 メイドとメイド
しおりを挟む
久しぶりに二人で買出しへ行く事になった。この後の夕方には帰って来るであろう、ソレイユとミーティアの為に、豪華な食事を振舞いたいというルナの要望だった。
無論、俺は賛成した。
ルナの手料理は、お店から提供されるものよりも美味くて、好きだ。
彼女を見失わないよう、可能な限り近づく。肩と肩が触れそうになるくらい距離が縮む。
「ルナ、結構な混雑だから、はぐれないよう気を付けて」
「はい……」
――と、油断していれば、ドンとルナが人混みに押されて俺の方へ倒れてくる。俺は地面への衝突はさせまいと光の速さでキャッチ。彼女を支えた。
「大丈夫かい」
「だいじょうぶ……です……」
ふと気づけば、ルナの桜色の唇が目の前にあった……。
「……」
このまま――
いや、人の目もある。
けれど、ルナは、目をそっと閉じた。
こ……これは、いいのか。
いやしかし、複数の人達からジロジロ見られているのだが……ただでさえ、ルナの美貌は目立つからな。どうするべきか激しい葛藤に駆られていると――
「ごめんなさい。人前ですよね……でも、お詫びに」
――ルナは、俺の腕を両手で包んでくれる。なかなかに際どい胸の位置なのだが、ギリギリ接触はしていない? っぽい。たぶん! ドキドキしすぎて分からん……。
「ルナ……」
「これくらいは普通です」
「ふ、普通か……?」
「ええ。先程、カイト様が申されたように、はぐれるわけには参りませんから……」
それは一理あった。
ので、俺はルナに掴まれたまま歩くことにした。……まあ、なんだかルナの顔が幸せそうだから、いっか――。
◆
必要な食材を買って、店を出た。
随分と買い込んだけど、いったい何を作るんだろうなあ……大体、食材の種類とかで想像がつくけど。多分、俺の好物、ハンバーグだ。
「では、イルミネイトへ」
「おう、帰ろうか」
来た道を戻っていく。
寄り道せず、真っすぐ店を目指していた――のだが。噴水前で、見知った顔が現れた。
「御無沙汰しております。ルナ様、カイト様」
メイド長のオーロラ。
艶のある黒髪が眩しく、その上に生えている恐らくホンモノの猫耳が魅力的な少女。ルナの専属メイドらしく、その何たるかもオーロラから学んだとか。以前、イルミネイトを訪ねて来たな。
「こんにちは、オーロラさん」
「……オ、オーロラ」
俺は普通に挨拶を、ルナはかなり微妙に、僅かに顔を顰める。……やっぱり、相手がメイド師匠なだけあり、身体が恐れているんだなあ。随分と辛いメイド修行だったようだし、ちょっとした拒絶反応が出ちゃうんだろうな。
「ルナ様、笑顔です。笑顔を忘れてはなりません」
オーロラから鋭い指摘が入る。
「……そうでした。メイドとしても、お店の接客にしても笑顔は大切です。常に平静を保ち、相手を敬え――ですね」
「ええ、それでこそ究極のメイド足りえるのです。……ところで、カイト様」
「?」
「その大きな買い物袋を見る限り、これからパーティでも開かれるのですか?」
「ああ、それに近いかもな。ルナがソレイユとミーティアに振舞いたいと」
「成程。ルナ様のお料理は私も認める一級品。……ふむ、お邪魔でなければ、私も同席を願いたいです」
なんと! そんな魅力的なお願いをされるとはな。ルナの皇女としての普段を詳しく知っていそうだし、もちろん、オーロラの事も気になっていた。これは良い機会かもしれんぞ。
「ルナ、オーロラさんも招待しよう」
「……ぇ」
あ、ちょっと嫌そう。
ほんの微妙にだけど。
「人数が多い方が楽しいよ」
「分かりました」
ルナは納得するも、オーロラに向き直って忠告するようにこう言った。
「ですが、オーロラ、ひとつ約束して下さい。カイト様を誘惑してはいけませんからねっ」
「……それはどうでしょう。私も年頃の女の子ですから、何かの手違いで間違いが起こってしまうかもしれません」
ニッと上品に微笑むメイド長。……オーロラ、恐るべし。一応、皇女であるルナに遠慮なしか。さすがだな。一歩も引かないその姿勢、身も心も強いな。
無論、俺は賛成した。
ルナの手料理は、お店から提供されるものよりも美味くて、好きだ。
彼女を見失わないよう、可能な限り近づく。肩と肩が触れそうになるくらい距離が縮む。
「ルナ、結構な混雑だから、はぐれないよう気を付けて」
「はい……」
――と、油断していれば、ドンとルナが人混みに押されて俺の方へ倒れてくる。俺は地面への衝突はさせまいと光の速さでキャッチ。彼女を支えた。
「大丈夫かい」
「だいじょうぶ……です……」
ふと気づけば、ルナの桜色の唇が目の前にあった……。
「……」
このまま――
いや、人の目もある。
けれど、ルナは、目をそっと閉じた。
こ……これは、いいのか。
いやしかし、複数の人達からジロジロ見られているのだが……ただでさえ、ルナの美貌は目立つからな。どうするべきか激しい葛藤に駆られていると――
「ごめんなさい。人前ですよね……でも、お詫びに」
――ルナは、俺の腕を両手で包んでくれる。なかなかに際どい胸の位置なのだが、ギリギリ接触はしていない? っぽい。たぶん! ドキドキしすぎて分からん……。
「ルナ……」
「これくらいは普通です」
「ふ、普通か……?」
「ええ。先程、カイト様が申されたように、はぐれるわけには参りませんから……」
それは一理あった。
ので、俺はルナに掴まれたまま歩くことにした。……まあ、なんだかルナの顔が幸せそうだから、いっか――。
◆
必要な食材を買って、店を出た。
随分と買い込んだけど、いったい何を作るんだろうなあ……大体、食材の種類とかで想像がつくけど。多分、俺の好物、ハンバーグだ。
「では、イルミネイトへ」
「おう、帰ろうか」
来た道を戻っていく。
寄り道せず、真っすぐ店を目指していた――のだが。噴水前で、見知った顔が現れた。
「御無沙汰しております。ルナ様、カイト様」
メイド長のオーロラ。
艶のある黒髪が眩しく、その上に生えている恐らくホンモノの猫耳が魅力的な少女。ルナの専属メイドらしく、その何たるかもオーロラから学んだとか。以前、イルミネイトを訪ねて来たな。
「こんにちは、オーロラさん」
「……オ、オーロラ」
俺は普通に挨拶を、ルナはかなり微妙に、僅かに顔を顰める。……やっぱり、相手がメイド師匠なだけあり、身体が恐れているんだなあ。随分と辛いメイド修行だったようだし、ちょっとした拒絶反応が出ちゃうんだろうな。
「ルナ様、笑顔です。笑顔を忘れてはなりません」
オーロラから鋭い指摘が入る。
「……そうでした。メイドとしても、お店の接客にしても笑顔は大切です。常に平静を保ち、相手を敬え――ですね」
「ええ、それでこそ究極のメイド足りえるのです。……ところで、カイト様」
「?」
「その大きな買い物袋を見る限り、これからパーティでも開かれるのですか?」
「ああ、それに近いかもな。ルナがソレイユとミーティアに振舞いたいと」
「成程。ルナ様のお料理は私も認める一級品。……ふむ、お邪魔でなければ、私も同席を願いたいです」
なんと! そんな魅力的なお願いをされるとはな。ルナの皇女としての普段を詳しく知っていそうだし、もちろん、オーロラの事も気になっていた。これは良い機会かもしれんぞ。
「ルナ、オーロラさんも招待しよう」
「……ぇ」
あ、ちょっと嫌そう。
ほんの微妙にだけど。
「人数が多い方が楽しいよ」
「分かりました」
ルナは納得するも、オーロラに向き直って忠告するようにこう言った。
「ですが、オーロラ、ひとつ約束して下さい。カイト様を誘惑してはいけませんからねっ」
「……それはどうでしょう。私も年頃の女の子ですから、何かの手違いで間違いが起こってしまうかもしれません」
ニッと上品に微笑むメイド長。……オーロラ、恐るべし。一応、皇女であるルナに遠慮なしか。さすがだな。一歩も引かないその姿勢、身も心も強いな。
0
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる