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【159】 メイドとメイド

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 久しぶりに二人で買出しへ行く事になった。この後の夕方には帰って来るであろう、ソレイユとミーティアの為に、豪華な食事を振舞いたいというルナの要望だった。


 無論、俺は賛成した。
 ルナの手料理は、お店から提供されるものよりも美味くて、好きだ。


 彼女を見失わないよう、可能な限り近づく。肩と肩が触れそうになるくらい距離が縮む。

「ルナ、結構な混雑だから、はぐれないよう気を付けて」
「はい……」

 ――と、油断していれば、ドンとルナが人混みに押されて俺の方へ倒れてくる。俺は地面への衝突はさせまいと光の速さでキャッチ。彼女を支えた。

「大丈夫かい」
「だいじょうぶ……です……」

 ふと気づけば、ルナの桜色の唇が目の前にあった……。


「……」


 このまま――

 いや、人の目もある。


 けれど、ルナは、目をそっと閉じた。


 こ……これは、いいのか。


 いやしかし、複数の人達からジロジロ見られているのだが……ただでさえ、ルナの美貌は目立つからな。どうするべきか激しい葛藤に駆られていると――


「ごめんなさい。人前ですよね……でも、お詫びに」


 ――ルナは、俺の腕を両手で包んでくれる。なかなかに際どい胸の位置なのだが、ギリギリ接触はしていない? っぽい。たぶん! ドキドキしすぎて分からん……。


「ルナ……」
「これくらいは普通です」
「ふ、普通か……?」
「ええ。先程、カイト様が申されたように、はぐれるわけには参りませんから……」

 それは一理あった。
 ので、俺はルナに掴まれたまま歩くことにした。……まあ、なんだかルナの顔が幸せそうだから、いっか――。


 ◆


 必要な食材を買って、店を出た。
 随分と買い込んだけど、いったい何を作るんだろうなあ……大体、食材の種類とかで想像がつくけど。多分、俺の好物、ハンバーグだ。


「では、イルミネイトへ」
「おう、帰ろうか」


 来た道を戻っていく。
 寄り道せず、真っすぐ店を目指していた――のだが。噴水前で、見知った顔が現れた。

御無沙汰ごぶさたしております。ルナ様、カイト様」


 メイド長のオーロラ。
 つやのある黒髪がまぶしく、その上に生えている恐らくホンモノの猫耳が魅力的な少女。ルナの専属メイドらしく、その何たるかもオーロラから学んだとか。以前、イルミネイトを訪ねて来たな。


「こんにちは、オーロラさん」
「……オ、オーロラ」


 俺は普通に挨拶を、ルナはかなり微妙に、僅かに顔をしかめる。……やっぱり、相手がメイド師匠なだけあり、身体からだが恐れているんだなあ。随分と辛いメイド修行だったようだし、ちょっとした拒絶反応トラウマが出ちゃうんだろうな。


「ルナ様、笑顔です。笑顔を忘れてはなりません」


 オーロラから鋭い指摘が入る。


「……そうでした。メイドとしても、お店の接客にしても笑顔は大切です。常に平静を保ち、相手を敬え――ですね」

「ええ、それでこそ究極のメイド足りえるのです。……ところで、カイト様」
「?」

「その大きな買い物袋を見る限り、これからパーティでも開かれるのですか?」

「ああ、それに近いかもな。ルナがソレイユとミーティアに振舞いたいと」
「成程。ルナ様のお料理は私も認める一級品。……ふむ、お邪魔でなければ、私も同席を願いたいです」


 なんと! そんな魅力的なお願いをされるとはな。ルナの皇女としての普段を詳しく知っていそうだし、もちろん、オーロラの事も気になっていた。これは良い機会かもしれんぞ。


「ルナ、オーロラさんも招待しよう」
「……ぇ」


 あ、ちょっと嫌そう。
 ほんの微妙にだけど。


「人数が多い方が楽しいよ」
「分かりました」


 ルナは納得するも、オーロラに向き直って忠告するようにこう言った。

「ですが、オーロラ、ひとつ約束して下さい。カイト様を誘惑してはいけませんからねっ」

「……それはどうでしょう。私も年頃の女の子ですから、何かの手違いで間違いが起こってしまうかもしれません」


 ニッと上品に微笑むメイド長。……オーロラ、恐るべし。一応、皇女であるルナに遠慮なしか。さすがだな。一歩も引かないその姿勢、身も心も強いな。
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