上 下
144 / 310

【144】 新しいお店

しおりを挟む
 帝国・レッドムーン『N地区』の中央広場へ向かった。進むにつれ、人間ひとの往来も多くなる。大きな建物も密集して、買い物客でにぎわっていた。

 こう人間の波が続くと、迷ってしまうおそれもある。ので、俺は一番背の低く、見失う可能性の高いミーティアを保護する為に手を繋いだ。


「……カイト、その」
「こんな荒波で見失ったら大変だからな。それに、転倒してまれでもしたら、大ケガだぞ」
「ありがと……です」

 嬉しそうにして、ぎゅっと手に力が入る。
 頬が真っ赤だな。


 元エルドラードの建物は、もうぐだ。


 有名なお菓子屋と宝石店、ちょうど武具店も建ち並ぶ、そんな大手ショップに挟まれるようにある建物。少し前までは、そこにギルドがあった。


 エルドラード。


 彼等は『武器商人』ギルド。
 宝剣ソード宝斧アックス宝杖ロッド宝弓ボウ宝槍ランスなど、やたら金ピカな武器を製造し、皇帝陛下に献上けんじょうしていると聞いた。その収入は莫大だったと小耳に挟んだ。

 そして、ギルドメンバーは、なんとたったの三人しかいない。


 ギルドマスターの『オール』。
 メンバーの『ノーブル』と『エーデル』、二人は兄妹だ。


 俺の知っている情報はこれくらいだった。


 だが、追放された。
 まさか、シャロウと手を組んでいたとはな。


 ――さて、到着。


 四人で並んで、その建物を見上げた。


「おぉ」
「大きいです」
「これは驚いたわ」
「立派ですね」


 俺、ルナ、ソレイユ、ミーティアの順に驚く。


 そのイルミネイトとなる建物は、五階建て。
 縦に長く、他の店に勝るとも劣らない頑丈な作り。……多分、木造じゃないぞ。これは、石造。あの巨大塔・オルビスにも使われているローマン・コンクリートだろう。


 耐震性にも優れ、防音も完璧と聞く。


 そんな家は初めてだから、胸が躍るな。


 ミーティアの手を引っ張りながら、店の出入り口へ向かう。この大きな扉、観音開きタイプのフレンチドアこそ、玄関口。これから俺たちが出たり入ったり――お客様を迎える通路になる。


「入ろう」


 ◆


 いきなり大きな階段が俺たちを迎えた。
 二階へ続くレッドカーペット。その幅は人間五人分以上だろうか……なんて広さ。

「まるで貴族の家ね」

 まさに貴族のソレイユがそんな感想を。
 すぐ隣に客室のような部屋がいくつかあった。ミーティアが既に俺から離れ、部屋を探索していた。落ち着きのない……いやでも、この規模の家を見せられては、テンションも上がる。

「カイト! 部屋の数が凄いです! どこも広いし……高級な机や椅子が沢山。便利な魔導具もあっちこっちに」

 これはトニーの趣味だろうな。
 以前のエルドラードの内装とはまるで違っていたからな。そんな風に頭を巡らせていると、ミーティアはどんどん奥へ。二階まで行ってしまった。本当に落ち着きのない。

 ソレイユも「ちょっと行ってくるわ~」と爽やかに二階へ。


 やっぱり、みんな二階が気になるんだな。

 でもなあ、この建物は五階まであるからな。上がっていくのも大変だが、掃除とかも大変だぞ。人手バイトが欲しいかもな。


 そんなわけで、俺とルナの二人きりとなった。


「俺たちも二階へ行くか」
「ええ。そ、その……よろしければ、お手を」

 俺の拳に手を添えてくるルナ。なんだかギコチナイな。あー…、そっか。さっきまでミーティアを引っ張っていたからな。ずっと視線を感じていたけど、ルナだったか。口数も少なかったしな。

「お姫様、お手を」
「ありがとうございます、カイト様」

 ルナの細くて白い手を優しく取って、階段を上がっていく。ゆっくりと上がっていったつもりだったが――突然、ルナが足を滑らせた。

 俺の方にルナが。


「……え、ルナ?」
「ご、ごめんなさい」


 ひょっとして……わざとだろうか。
 もしかして、寂しかったのかな。こうわざとらしいと、ちょっと嬉しいっていうか――あれぇ、なんか抱きつかれたし。


「ルナ!?」


 ふわっとした感触が俺を包む。


「やっとお店が開けますね」
「……そうだな、イルミネイト復活だよ」
「わたしは嬉しいのです。またお店が開けて、みんなと一緒に過ごせる……何よりもカイト様のおそばにいられる事が幸せです」


 それは俺も同じ気持ちだ。
 でも、まだお店はこれからだ。


「ああ。でも、これは小さな一歩だが、大いなる一歩でもある」


 いつしかの、ワンダの言葉だった。
 それを引用した。


 というか、この名言が割と気に入っていた。


 それからルナは顔を近づけて――


 俺の頬にキスを――。



「ここまでのご褒美ですよ」



 ま、まさか……ご褒美ほうびをくれるなんて。
 嬉しすぎる。


 ここまで頑張った甲斐かいがあったな。
 でも、まだこれからだ。



 さあ、始めよう――『レベル売買』を。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。  ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...