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【127】 戦争の兆し

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 ソレイユのススメで喫茶店へ入った。
 有名なお店らしい。

 名前は『エンジョイ』という。

「お洒落しゃれですね~」

 初めて入るルナは喜ぶ。俺も初めてだけどな。
 なんだろう、珈琲コーヒーの渋い香りがした。なるほど、紅茶というよりは珈琲コーヒー専門店というところだろう。マスターの男は眼鏡がんきょうを光らせ、俺たちを出迎えた。

「いらっしゃいませ。……ん、んん!? ソレイユ様ですか!」
「お久しぶり、マスター」
「わわわ……これは失礼を」

 へこへこするおっさんマスター。
 なんだぁ、一見いちげんさんお断り系だったか。あるよなーそういう店。他のお客もこちらをあんまり歓迎していなかったが、ソレイユの顔を見るなり表情を柔らかくしていた。実に分かりやすい連中だ。

「マスター、この商人とメイドとエルフは仲間よ」
「そうでしたか。……む、そのメイドさん……どこかで」

 マスターは、ルナを観察した。
 まあ、ルナはすげぇ可愛いし美しいからな。見惚れもするだろう。だが、これ以上は観察させん! 俺はガードした。

「む……。まあいいでしょう。では奥の席へ」


 ◆


 珈琲コーヒーを注文して待つこと数十分。
 ようやくテーブルにカップが置かれた。月と太陽のデザインが入った明らかに高級なカップ&ソーサーだった。それを手に取り、口につけた。

 おぉ良い香り。ん~、実に俺好み。

 味わい堪能たんのうしていると――
 足を組み、優雅ゆうがにしていたソレイユは、横に立つマスターに質問をしていた。

「ねぇ、マスター。殺人鬼・ディスガイズの事を聞きたいの。なにか有力な情報とかない? なんでもいいの。教えてくれない」

「ああ、あの噂の殺人鬼ですか。残念ながら……」

「そっか、喫茶店なら何か情報があるかなって思ったんだけどね」
「他のお客様からも殺人鬼の情報はこれといって。……ただ、被害者が続出しているとしか……」

 そうなのか。昨晩も何人やられたのだろう。このままでは、どんどん被害者が出てしまう。そうなる前に何とかしてやりたい気持ちもあった。

「ありがとう、マスター」
「いえ……」

 喫茶店のマスターは頭を下げ、カウンターへ戻ろうとした……のだが。

「あの……ソレイユ様」
「?」
「実は……殺人鬼の話はともかくとして……。共和国の件・・・・・は耳に入れられています?」

「共和国……? ブルームーンの事ね。なにかあったの?」

 ソレイユは怪訝けげんな顔をして、マスターに問う。


「近々……戦争を再開するようです」


 そこでガタッと立ち上がるソレイユは、顔色を悪くした。……おいおい、そんな焦るほどの事か。


「また帝国と共和国の『オービット戦争』が…………うそ。一ヶ月前に停戦したばかりじゃない……またなの。また……」

「そんなに狼狽うろたえてどうした、らしくないぞソレイユ。戦争なんて毎度の事じゃないのか。ここ一年で何度も起きてるし」
「そうだけど……くっ。あたし、騎士団へ戻る」
「なっ! 待て、理由わけを話せ」
「確かめなきゃ……」
「確かめるって何を」
「真意を」

 そう言い残し、ソレイユは足早に喫茶店を出て行った。……おいおい、もうちょい詳しい事情を話してくれても良かっただろうに。
 ちなみに、無銭飲食だぞっ。

「……ソレイユ」

 どうしたものか――。
 腕を組み熟慮じゅくりょしていると、沈黙していたルナが静かにカップを置いた。いつもなら冷静に見える彼女が……今は静かに怒っているように見えた。

「……ルナ?」
「カイト様、ソレイユの事はお気になさらず」
「でも」

 俺は追いかけようと立ち上がるが、ルナに止められた。ていうか、背中に抱きつかれてる……!

「いけません」
「どうしてだ……なぜ止める」
「わたしのそばに居て欲しいからです」

 ぎゅっとされ、もう何処かへ行く気も失せた。
 なによりもルナの悲しげな表情を見捨てるとか……死んでも出来るワケねぇ。だから、俺は席へ戻った。

「ごめんな、ルナ。俺はキミのそばにいる」
「……はい」

 見つめ合っていると、ミーティアがわざとらしく『ゲフンゲフン』と咳払いをした。――ので、俺は離れた。

「二人とも~、私もいるのですよ」

「す、すまん」
「ごめんなさい、ミーティアちゃん」

 俺とルナは謝罪した。
 ええい……ソレイユには後で全部聞かせてもらうぞ。アイツは隠し事が多すぎだ。もう次回は、洗いざらい吐いて貰う。


 それにしても――戦争・・か。
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