112 / 309
【112】 帝国・レッドムーン
しおりを挟む
登山を終え、やっと帝国に辿り着いた。
山のような城門を抜け、すぐに周囲からの視線を感じた。その目線は明らかに『ルナ』と『ソレイユ』に向けられており、俺とミーティアは映る価値無し状態だった。ソレイユはともかく、何故にルナまで……?
彼女は『メイド』だろう。
……確かにルナは、そこらにいる女性よりも遥に美人で、なぜあんな森にいたのか分からない程だった。俺はシャロウを追放されてから【中立国・サテライト】近郊の森で倒れ、ルナに拾われた。思い返せば――不思議な出逢いだった。
そして今は【帝国・レッドムーン】である。
俺は再びこの地へ戻って来た。
かつて、この世界に召喚された時もこの場所だった。その記憶だけはあった。別に故郷というわけでもないけれど、懐かしい感情は湧いた。
国の果てまで民家というよりは、邸宅レベルの建物が立ち並ぶ。
宿もあれば、アイテムショップも相当な数が。どこに何があるのか把握するのが難しいほどに乱立している。
銀行、ペットショップ、情報屋、貴金属店、カジノ、風俗店などありとあらゆるお店が網羅されている。逆に存在しない店はないだろう。
ギルドも多く存在するし、その多くが大手。
これだけ建物があるということは、人口も凄まじい。百万人を優に超え、一千万人はいるとかいないとか。あまりに人が多いので、この城門の時点でお祭りような活気に満ちていた。
少し視線を移すだけで騒がしい雑踏。
住民、帝国の騎士、行商人、エルフ、ドワーフ、踊り子、占い師、獣人やペットなどなど――頭がどうかなりそうな程に多種多様の種族が闊歩しまくっていた。
一言に纏めるなら帝国は殷富。
田舎と呼ばれる【セイフの街】とは大違いだな。
「カイト。あんた……あまり驚かないのね。帝国は初めてじゃないっけ?」
俺の前に立ち、なぜかスカートを上品に押さえるソレイユ。……ああ、そっか。風が強いし捲れちゃうかもってコトね。それに、男たちからの視線を独占しているのだ。余計に敏感になるのだろうな。
「昔、シャロウ時代にな」
「ふぅん、そうだったんだ」
「ところでさ、ソレイユ。お前、相変わらずモテモテすぎだろう。男ほぼ全員がお前を見ているぞ。ちょっとだけ女性ファンもいるようだけど。……あと、ルナも熱い視線を浴びているような」
「あたしに可能性を感じないで欲しいわ。あるとしたら……カイトくらいね」
なぜかソレイユは、俺の事を気に入ってくれている。もちろん、悪い気はしない。俺も最初の頃に比べれば、断然彼女が好きになっていた。今では、頼り甲斐のあるお姉さんって感じかな。
「とにかく、宿を取ろう。えっと……あれ、ミーティアは?」
いつの間にか魔法使いの姿がなかった。
無断でどこへ行ったのやら――ん。
キョロキョロ周囲を探すと、ミーティアらしき金髪が見えた。あんな黒混じりのセミロングは彼女にしかいない。
「ミーティア……」
「…………」
背を向けたままで俺の声に反応しない。
誰かと話して……?
「クラールハイトの娘。お前は何故……帝国に戻った。膨大な借金があるのではなかったのかね」
こんな爆竹みたいな喧噪の中、静かに低い声が響いた。これほど鮮明に知覚できるなんて……
なんて重みのある独特な声。
あの風貌からしてご年配。
白髪で、白い顎髭をたくさん蓄えていた。その身なりも明らかに民とは違った。まるで祭服。黒いキャソックはほぼ聖職者のそれ。
どこかの貴族のようでもあった。
――あれ、でも、どこかで見たような。
「アプレミディ卿。ご心配お掛けして申し訳ございません。そのうち挨拶に向かう事もありましょう。またその時に」
「……よかろう。ブラック卿によろしく頼む。――それと少年」
老体は俺をギロリと睨む。
こわ……ていうか、すげぇ貫禄。この爺さん只者じゃないな。目で人間を殺せる者もいるらしいが、この爺さんはその類かもしれない。
「息災のようだな」
それだけを静かに言い残し……
爺さんは背を向けて去った。
「な、なんだったんだアレ」
「詳しい事情は後程にお話します。――それより、カイト。ルナさんとソレイユさんが大変な事になっていますよ」
ミーティアがチラリと別の方向に首を振り、指をさした。その場所には、ルナとソレイユが――いや、取り囲まれていて姿は確認できないけど、とんでもない人だかりが出来てしまい、大騒ぎに。
「おいおい……」
仕方ない。
救出して宿へ向かおう。
山のような城門を抜け、すぐに周囲からの視線を感じた。その目線は明らかに『ルナ』と『ソレイユ』に向けられており、俺とミーティアは映る価値無し状態だった。ソレイユはともかく、何故にルナまで……?
彼女は『メイド』だろう。
……確かにルナは、そこらにいる女性よりも遥に美人で、なぜあんな森にいたのか分からない程だった。俺はシャロウを追放されてから【中立国・サテライト】近郊の森で倒れ、ルナに拾われた。思い返せば――不思議な出逢いだった。
そして今は【帝国・レッドムーン】である。
俺は再びこの地へ戻って来た。
かつて、この世界に召喚された時もこの場所だった。その記憶だけはあった。別に故郷というわけでもないけれど、懐かしい感情は湧いた。
国の果てまで民家というよりは、邸宅レベルの建物が立ち並ぶ。
宿もあれば、アイテムショップも相当な数が。どこに何があるのか把握するのが難しいほどに乱立している。
銀行、ペットショップ、情報屋、貴金属店、カジノ、風俗店などありとあらゆるお店が網羅されている。逆に存在しない店はないだろう。
ギルドも多く存在するし、その多くが大手。
これだけ建物があるということは、人口も凄まじい。百万人を優に超え、一千万人はいるとかいないとか。あまりに人が多いので、この城門の時点でお祭りような活気に満ちていた。
少し視線を移すだけで騒がしい雑踏。
住民、帝国の騎士、行商人、エルフ、ドワーフ、踊り子、占い師、獣人やペットなどなど――頭がどうかなりそうな程に多種多様の種族が闊歩しまくっていた。
一言に纏めるなら帝国は殷富。
田舎と呼ばれる【セイフの街】とは大違いだな。
「カイト。あんた……あまり驚かないのね。帝国は初めてじゃないっけ?」
俺の前に立ち、なぜかスカートを上品に押さえるソレイユ。……ああ、そっか。風が強いし捲れちゃうかもってコトね。それに、男たちからの視線を独占しているのだ。余計に敏感になるのだろうな。
「昔、シャロウ時代にな」
「ふぅん、そうだったんだ」
「ところでさ、ソレイユ。お前、相変わらずモテモテすぎだろう。男ほぼ全員がお前を見ているぞ。ちょっとだけ女性ファンもいるようだけど。……あと、ルナも熱い視線を浴びているような」
「あたしに可能性を感じないで欲しいわ。あるとしたら……カイトくらいね」
なぜかソレイユは、俺の事を気に入ってくれている。もちろん、悪い気はしない。俺も最初の頃に比べれば、断然彼女が好きになっていた。今では、頼り甲斐のあるお姉さんって感じかな。
「とにかく、宿を取ろう。えっと……あれ、ミーティアは?」
いつの間にか魔法使いの姿がなかった。
無断でどこへ行ったのやら――ん。
キョロキョロ周囲を探すと、ミーティアらしき金髪が見えた。あんな黒混じりのセミロングは彼女にしかいない。
「ミーティア……」
「…………」
背を向けたままで俺の声に反応しない。
誰かと話して……?
「クラールハイトの娘。お前は何故……帝国に戻った。膨大な借金があるのではなかったのかね」
こんな爆竹みたいな喧噪の中、静かに低い声が響いた。これほど鮮明に知覚できるなんて……
なんて重みのある独特な声。
あの風貌からしてご年配。
白髪で、白い顎髭をたくさん蓄えていた。その身なりも明らかに民とは違った。まるで祭服。黒いキャソックはほぼ聖職者のそれ。
どこかの貴族のようでもあった。
――あれ、でも、どこかで見たような。
「アプレミディ卿。ご心配お掛けして申し訳ございません。そのうち挨拶に向かう事もありましょう。またその時に」
「……よかろう。ブラック卿によろしく頼む。――それと少年」
老体は俺をギロリと睨む。
こわ……ていうか、すげぇ貫禄。この爺さん只者じゃないな。目で人間を殺せる者もいるらしいが、この爺さんはその類かもしれない。
「息災のようだな」
それだけを静かに言い残し……
爺さんは背を向けて去った。
「な、なんだったんだアレ」
「詳しい事情は後程にお話します。――それより、カイト。ルナさんとソレイユさんが大変な事になっていますよ」
ミーティアがチラリと別の方向に首を振り、指をさした。その場所には、ルナとソレイユが――いや、取り囲まれていて姿は確認できないけど、とんでもない人だかりが出来てしまい、大騒ぎに。
「おいおい……」
仕方ない。
救出して宿へ向かおう。
0
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる