172 / 177
番外編②
しおりを挟む
世界はまだ暗黒時代――魔王に支配されかけていた。
勇者として立ち上がった俺は、最強の大幹部のひとりを追って『地の神国』までやって来ていた。
「……この街か」
街はすでに原型を留めず、荒廃していた。
大幹部の手によって破壊しつくされてしまったのだろう。
倒れている人間も数十人ほど見かけた。
なんて惨たらしい。
「………………人の気配」
無表情のフォースがぽつりとつぶやく。
この凄惨な状況を見て、よほどショックだったようだ。まあ、俺もだが。とくにフォースは、この国にはお世話になっているし、怒りと悲しみに満ちているはずだ。
そんなフォースを背負い、俺は人の気配を追った。
「……む。あそこ、なんか人が集中しているな」
ボロボロの教会跡。
そこでは少人数で結婚式っぽいことをしていた。
いや、多分そうなのだろう。まさか生存者がいるとは、でも良かった。
そんな中で、新郎新婦が悲しげにキスを交わしていた。
……こんな時に。
いや、こんな時だからこそか。
とにかく、俺は近くにいたおばさんに話を聞いてみた。
「……ん? あんた余所者だね。まあいい……どうせこの街はこんなんなっちまった。なにが聞きたいんだい」
「今日が結婚式だったんですね」
「ああ、そうさ。あの二人は今日幸せに結ばれるはずだった……けどね。魔王の幹部だとかが現れて、街はメチャクチャさ。でも、それでも命ってのは紡がれていくものさ。嬉しいことに娘は妊娠していてね」
希望がそこにはあると、おばさんは少し笑顔を見せた。
「そうだったのですね、新しい命に祝福を」
「どこの人か知らないけど、ありがとう」
おばさんは満足げに結婚式を眺めていた。
しかし、背中にいるフォースは、なぜか俺の耳にかぶりついてきた。
「うわぁっ!? フォース! いきなり……くすぐったいだろ」
「……ユメ、不幸中の幸いという言葉があるように、逆も然り。どう見ても、この結婚式には違和感がある。特にあの新郎新婦、震えが凄い。それと、ユメが話していたおばさん……人間じゃない」
そうコソコソと囁いてくるものだから、俺の耳は天国だった……いや、感じている場合じゃないな。
「なんだって……」
「あたしのスキルで、あのおばさんの正体を暴く」
「分かった、頼む」
『エクスポーズ』
緑色の光線がおばさんの首元に当た――――としたところで、いきなり、おばさんはとんでもない動きで回避し、一気に新郎新婦を人質に取った。
「おいおい、ただのババアがする動きじゃねえぞ、ありゃ!! 何者だお前!」
『…………クククククク、まさかこうも早く正体がバレようとはな』
不気味に笑うババアは、姿を一気に変えて大きく膨れ上がった。
「そういうことかよ……お前が大幹部ってことか!!!」
『フハハハハハハハハ……そうだ! 俺は魔王様の大幹部がひとり……『レッドファング』様よ……! この街の破壊は楽しかったぜぇ~…。最後にはその二人と少数の家族を見つけた。幸せそうに結婚式なぞ挙げていたからだ。だから、俺は勇者、貴様を倒すために結婚式を利用してやったのさ……』
「てめぇ!!」
『更に嬉しいことに、ここに妊婦がいるということだ……! このご時世、妊婦はなかなか見つからないからなァ……極上の魂ってわけだ。……クハハハハ!』
赤い影のレッドファングは、大きな腕を伸ばし――花嫁へ襲い掛かった。
「……させるかよ」
俺は瞬時に『闇』を解放し、敵の腕を両断した。
『グガアァァ……!? 貴様、なにをした!! だがな、腕なんて簡単に生えてくる。ほらな……』
両断した腕を再生するレッドファングは、不気味に笑った。
まあ、再生くらいはするわな。
「フォース、ヤツを打ち上げる。ぶっ飛ばせ」
「了解」
『打ち上げるぅ!? 馬鹿が……もう既に貴様の背後は取ったァァァ!!!!』
すでに俺の背後にレッドファングの気配が迫っていた。
鋭い爪で俺を裂こうというのだろう。だが。
俺は指一本だけを武器に、レッドファングに猛接近し、空へ打ち上げた。
『バカナアアアアアアアアアアアアア!!! 人差し指だけでだとおおおおおおお!?』
『――――――スーパーノヴァ』
フォースの大魔法が上空で超爆発を起こし、レッドファングを撃ち滅ぼした。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
・
・
・
雲一つない青空が広がった。
「ふぅ、なんとか倒したな」
「うん。これでやっと……」
もう安心だ――――そう思われたその時。
『――――――バカがァ!!! 新郎である俺はイエローファング様じゃああああ、魔法使い、貴様を喰ってやる!!!!」
新郎がいきなり黄色の影となり、襲い掛かってきた。しかも、フォースに。……嘘だろ、あの新郎も大幹部のひとりだったのか――!!
化けてやがったか……!!
勇者として立ち上がった俺は、最強の大幹部のひとりを追って『地の神国』までやって来ていた。
「……この街か」
街はすでに原型を留めず、荒廃していた。
大幹部の手によって破壊しつくされてしまったのだろう。
倒れている人間も数十人ほど見かけた。
なんて惨たらしい。
「………………人の気配」
無表情のフォースがぽつりとつぶやく。
この凄惨な状況を見て、よほどショックだったようだ。まあ、俺もだが。とくにフォースは、この国にはお世話になっているし、怒りと悲しみに満ちているはずだ。
そんなフォースを背負い、俺は人の気配を追った。
「……む。あそこ、なんか人が集中しているな」
ボロボロの教会跡。
そこでは少人数で結婚式っぽいことをしていた。
いや、多分そうなのだろう。まさか生存者がいるとは、でも良かった。
そんな中で、新郎新婦が悲しげにキスを交わしていた。
……こんな時に。
いや、こんな時だからこそか。
とにかく、俺は近くにいたおばさんに話を聞いてみた。
「……ん? あんた余所者だね。まあいい……どうせこの街はこんなんなっちまった。なにが聞きたいんだい」
「今日が結婚式だったんですね」
「ああ、そうさ。あの二人は今日幸せに結ばれるはずだった……けどね。魔王の幹部だとかが現れて、街はメチャクチャさ。でも、それでも命ってのは紡がれていくものさ。嬉しいことに娘は妊娠していてね」
希望がそこにはあると、おばさんは少し笑顔を見せた。
「そうだったのですね、新しい命に祝福を」
「どこの人か知らないけど、ありがとう」
おばさんは満足げに結婚式を眺めていた。
しかし、背中にいるフォースは、なぜか俺の耳にかぶりついてきた。
「うわぁっ!? フォース! いきなり……くすぐったいだろ」
「……ユメ、不幸中の幸いという言葉があるように、逆も然り。どう見ても、この結婚式には違和感がある。特にあの新郎新婦、震えが凄い。それと、ユメが話していたおばさん……人間じゃない」
そうコソコソと囁いてくるものだから、俺の耳は天国だった……いや、感じている場合じゃないな。
「なんだって……」
「あたしのスキルで、あのおばさんの正体を暴く」
「分かった、頼む」
『エクスポーズ』
緑色の光線がおばさんの首元に当た――――としたところで、いきなり、おばさんはとんでもない動きで回避し、一気に新郎新婦を人質に取った。
「おいおい、ただのババアがする動きじゃねえぞ、ありゃ!! 何者だお前!」
『…………クククククク、まさかこうも早く正体がバレようとはな』
不気味に笑うババアは、姿を一気に変えて大きく膨れ上がった。
「そういうことかよ……お前が大幹部ってことか!!!」
『フハハハハハハハハ……そうだ! 俺は魔王様の大幹部がひとり……『レッドファング』様よ……! この街の破壊は楽しかったぜぇ~…。最後にはその二人と少数の家族を見つけた。幸せそうに結婚式なぞ挙げていたからだ。だから、俺は勇者、貴様を倒すために結婚式を利用してやったのさ……』
「てめぇ!!」
『更に嬉しいことに、ここに妊婦がいるということだ……! このご時世、妊婦はなかなか見つからないからなァ……極上の魂ってわけだ。……クハハハハ!』
赤い影のレッドファングは、大きな腕を伸ばし――花嫁へ襲い掛かった。
「……させるかよ」
俺は瞬時に『闇』を解放し、敵の腕を両断した。
『グガアァァ……!? 貴様、なにをした!! だがな、腕なんて簡単に生えてくる。ほらな……』
両断した腕を再生するレッドファングは、不気味に笑った。
まあ、再生くらいはするわな。
「フォース、ヤツを打ち上げる。ぶっ飛ばせ」
「了解」
『打ち上げるぅ!? 馬鹿が……もう既に貴様の背後は取ったァァァ!!!!』
すでに俺の背後にレッドファングの気配が迫っていた。
鋭い爪で俺を裂こうというのだろう。だが。
俺は指一本だけを武器に、レッドファングに猛接近し、空へ打ち上げた。
『バカナアアアアアアアアアアアアア!!! 人差し指だけでだとおおおおおおお!?』
『――――――スーパーノヴァ』
フォースの大魔法が上空で超爆発を起こし、レッドファングを撃ち滅ぼした。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
・
・
・
雲一つない青空が広がった。
「ふぅ、なんとか倒したな」
「うん。これでやっと……」
もう安心だ――――そう思われたその時。
『――――――バカがァ!!! 新郎である俺はイエローファング様じゃああああ、魔法使い、貴様を喰ってやる!!!!」
新郎がいきなり黄色の影となり、襲い掛かってきた。しかも、フォースに。……嘘だろ、あの新郎も大幹部のひとりだったのか――!!
化けてやがったか……!!
0
お気に入りに追加
321
あなたにおすすめの小説
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる
シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。
※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。
※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。
俺の名はグレイズ。
鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。
ジョブは商人だ。
そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。
だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。
そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。
理由は『巷で流行している』かららしい。
そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。
まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。
まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。
表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。
そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。
一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。
俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。
その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。
本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる