上 下
162 / 177

第162話 小さき魔法使い

しおりを挟む
 異世界・バテンカイトスの平和を取り戻すため、旅を始めて一ヶ月。俺は『地の神国クレド』へ初めて訪れていた。


「緑の多い国だな。そこら中が森だらけだ」


 装備に不安はあったものの――
 闇スキルを極めつつあった。

 闇の覇国アニュスで召喚され、闇の勇者と迎えられたが実感はなかった。それでも、覇王・ナイアルラトホテプとアザトースから闇の全てを教わり、余裕のある旅路を送れていた。闇に感謝しつつも、俺は先を歩く。

 この国には、魔王軍幹部・ブリーブが暗躍していると聞く。火属性の爆発系魔法を使う厄介なヤツで、属性的に相性の良い『地の国』を襲っていると小耳に挟んだ。


「――さて、この森の奥に極魔法使いアルティメットウィザードのマスターグレイスが住んでいると聞いた。彼女に魔王軍の情報を聞き出せればいいんだが」


 地の神国クレドの都で聞き回ると、その魔法使いに聞くのが一番良いと言われ、ここまで歩いて来たのだ。聞いた話によれば、もうすぐ着くっぽいのだが。


「ん、なんか開けた場所に……」


 森の中心辺りだろう。
 見晴らしの良い空間に出たのだが――



『ドォォォォォォォ――――――ッ!!』



 大きな岩が降って来て、それが地面を激しくえぐった。……何事!? と、俺はその岩らしき軌道を追っていく。


「まて、これは岩なんかじゃない。モンスターだ! それでもバカでけぇゴーレム……なんで、こんな所に!」


 巨大なギガント級ゴーレムがそびえ立っていた。巨体を起こし、立つゴーレム。森の巨木を遥かに超え、全長十メートル以上はありそうな体躯たいくだった。


「うそだろ……」


 こんなところにエクストラボスか!?
 あれだけ巨大だと厄介で面倒だが、処理するしかないと――闇を構えたその時。



『――――――スーパーノヴァ!!!』



 上から何か落ちて来て、大爆発を起こした。


「うわぁぁあッ!」


 こ、これは大魔法だ。
 超新星爆発スーパーノヴァか。地の神国クレドの酒場で聞いた話だったが、この世界には指で数える程しかいないという『極魔法使いアルティメットウィザード』という魔法ではない・・・・・・何かを操る者が存在がいるらしい。もちろん魔法も使え、あらゆる魔法と、それ以上の何か・・に精通しているらしく、極めているとか。

 その力は強大で、冒険者が欲しがる存在。

 俺もそう、出来れば仲間にしたいと思っていた。マスターグレイスを迎えられれば、魔王軍討伐も楽になるからな。



「まさか、こんな所にいるとはな」



 恐らく、この破壊的な魔法を放ったのも噂のマスターグレイスだろう。こんな威力の魔法は、本人で間違いないだろう。



 戦況を見守っていると――



 ゴーレムが再び動き出し、右腕を上に振りかぶっていた。動きこそ鈍いが、凄まじい威力だ。対して、空から降ってきた小さな影は、またもや魔法を行使していた。



『ソウルテレキネシス……』



 なんと、あの巨大な右腕の動きを止めた。


「な、なんだあの力……魔法じゃないぞ!」


 ありえんだろ。物理攻撃を止める力?
 どんな能力だよ、それ。ムチャクチャだ。


 それから小さな影……いや、黒髪の女の子は、再び杖を構え――って、杖があったのか。



『スーパーノヴァ!!!』



 と、あの大爆発をゴーレムに叩き落としていた。



『――――――ッァァァァァァァァ』



 強烈な火力にゴーレムの岩のボディがガラガラと崩壊し、瓦礫がれきの山となった。空から落ちて来た小さき魔法使いは、不思議な力で静かに降り立ち、ゴーレムを見上げていた。



「……終わった」



 あの子が……マスターグレイス?
 そうだろうな。
 あんな果てしない魔力、間違いない。

 俺は、女の子に駆け寄ろうとしたのだが――まずいッ、あのゴーレムまだ生きているぞ!



「おい! まだアイツ動くぞ!!」
「……!」


 ゴーレムの左腕が動き出し、黒髪の女の子に襲い掛かった。これは助けるしかないだろう、勇者として!!



『――――――イベントホライゾン!!!』



 究極の闇を放ち、敵ゴーレムの左腕を吹き飛ばした。今度こそ消滅し、パラパラと塵《ちり》となっていく。……ふぅ、危なかったぜ。



「…………」



 少女は驚く素振りも見せず、ただ俺をエメラルドグリーンの瞳で見据みすえ、静かに立ち止まっていた。そんな風に見られると、ちょっと照れるっつーか……。


 そこにいたのは、恐ろしく美形で人形のような美少女だった。あまりに容姿とか完璧なものだから、俺はドキッとした。貴族とか王族にいても、おかしくないレベルだぞ。


 だが、何故、黒シャツ一枚の姿なのだろう。
 白猫の柄が入っていて可愛いけど。


「……キミ、マスターグレイスかい?」
「……」


 うわ、めっちゃ警戒されてる。
 一歩前で出ると、黒髪の少女も一歩退いた。


「ごめんごめん。でも、助けたし、話くらい聞いてくれないか」


 だめだ。
 また一歩退いてしまった。
 人間に慣れていないのか?


「……そうだ、これをやろう」

 俺は地の神国クレドで買っておいた『たい焼き』を差し出した。これで餌付けする作戦ってわけだ。


「……」
「これ、食えるよ。ほら」


 ぱかっと割って中身のクリームを見せた。
 すると、少女は目を輝かせ――ひょいっと俺の手からたい焼きを奪った。……は、早い。


「はぐはぐ……」


 へぇ、こうして食べるところを見れば、可愛いな。こんな小さな子がマスターグレイス? 信じられんな。けど、こんな森で一人で住んでいるって事は、そうなんだろうな。


「なあ、マスターグレイス。魔王軍について教えて欲しいのと……、出来れば仲間になって欲しいんだが」


「……?」

 え、そんな『?』顔されてもなあ。


「違う」
「違う?」


「あたしはマスターじゃない。あたしの名は『フォース』という」
「え、マスターグレイスじゃないの?」
「うん。食べ物はありがとう。でも、あたしが必要じゃないなら帰って」


 ぷいっとフォースは背を向けて、歩き出した。


「ちょ、待ってくれ!」


 おかしいな。食べ物で機嫌をよくしてくれると思ったのだが……うーん。とりあえず、あの小さな背中について行けば良さそうだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...