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第162話 小さき魔法使い
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異世界・バテンカイトスの平和を取り戻すため、旅を始めて一ヶ月。俺は『地の神国』へ初めて訪れていた。
「緑の多い国だな。そこら中が森だらけだ」
装備に不安はあったものの――
闇スキルを極めつつあった。
闇の覇国で召喚され、闇の勇者と迎えられたが実感はなかった。それでも、覇王・ナイアルラトホテプとアザトースから闇の全てを教わり、余裕のある旅路を送れていた。闇に感謝しつつも、俺は先を歩く。
この国には、魔王軍幹部・ブリーブが暗躍していると聞く。火属性の爆発系魔法を使う厄介なヤツで、属性的に相性の良い『地の国』を襲っていると小耳に挟んだ。
「――さて、この森の奥に極魔法使いのマスターグレイスが住んでいると聞いた。彼女に魔王軍の情報を聞き出せればいいんだが」
地の神国の都で聞き回ると、その魔法使いに聞くのが一番良いと言われ、ここまで歩いて来たのだ。聞いた話によれば、もうすぐ着くっぽいのだが。
「ん、なんか開けた場所に……」
森の中心辺りだろう。
見晴らしの良い空間に出たのだが――
『ドォォォォォォォ――――――ッ!!』
大きな岩が降って来て、それが地面を激しく抉った。……何事!? と、俺はその岩らしき軌道を追っていく。
「まて、これは岩なんかじゃない。モンスターだ! それでもバカでけぇゴーレム……なんで、こんな所に!」
巨大なギガント級ゴーレムが聳え立っていた。巨体を起こし、立つゴーレム。森の巨木を遥かに超え、全長十メートル以上はありそうな体躯だった。
「うそだろ……」
こんなところにエクストラボスか!?
あれだけ巨大だと厄介で面倒だが、処理するしかないと――闇を構えたその時。
『――――――スーパーノヴァ!!!』
上から何か落ちて来て、大爆発を起こした。
「うわぁぁあッ!」
こ、これは大魔法だ。
超新星爆発か。地の神国の酒場で聞いた話だったが、この世界には指で数える程しかいないという『極魔法使い』という魔法ではない何かを操る者が存在がいるらしい。もちろん魔法も使え、あらゆる魔法と、それ以上の何かに精通しているらしく、極めているとか。
その力は強大で、冒険者が欲しがる存在。
俺もそう、出来れば仲間にしたいと思っていた。マスターグレイスを迎えられれば、魔王軍討伐も楽になるからな。
「まさか、こんな所にいるとはな」
恐らく、この破壊的な魔法を放ったのも噂のマスターグレイスだろう。こんな威力の魔法は、本人で間違いないだろう。
戦況を見守っていると――
ゴーレムが再び動き出し、右腕を上に振りかぶっていた。動きこそ鈍いが、凄まじい威力だ。対して、空から降ってきた小さな影は、またもや魔法を行使していた。
『ソウルテレキネシス……』
なんと、あの巨大な右腕の動きを止めた。
「な、なんだあの力……魔法じゃないぞ!」
ありえんだろ。物理攻撃を止める力?
どんな能力だよ、それ。ムチャクチャだ。
それから小さな影……いや、黒髪の女の子は、再び杖を構え――って、杖があったのか。
『スーパーノヴァ!!!』
と、あの大爆発をゴーレムに叩き落としていた。
『――――――ッァァァァァァァァ』
強烈な火力にゴーレムの岩のボディがガラガラと崩壊し、瓦礫の山となった。空から落ちて来た小さき魔法使いは、不思議な力で静かに降り立ち、ゴーレムを見上げていた。
「……終わった」
あの子が……マスターグレイス?
そうだろうな。
あんな果てしない魔力、間違いない。
俺は、女の子に駆け寄ろうとしたのだが――まずいッ、あのゴーレムまだ生きているぞ!
「おい! まだアイツ動くぞ!!」
「……!」
ゴーレムの左腕が動き出し、黒髪の女の子に襲い掛かった。これは助けるしかないだろう、勇者として!!
『――――――イベントホライゾン!!!』
究極の闇を放ち、敵ゴーレムの左腕を吹き飛ばした。今度こそ消滅し、パラパラと塵《ちり》となっていく。……ふぅ、危なかったぜ。
「…………」
少女は驚く素振りも見せず、ただ俺をエメラルドグリーンの瞳で見据え、静かに立ち止まっていた。そんな風に見られると、ちょっと照れるっつーか……。
そこにいたのは、恐ろしく美形で人形のような美少女だった。あまりに容姿とか完璧なものだから、俺はドキッとした。貴族とか王族にいても、おかしくないレベルだぞ。
だが、何故、黒シャツ一枚の姿なのだろう。
白猫の柄が入っていて可愛いけど。
「……キミ、マスターグレイスかい?」
「……」
うわ、めっちゃ警戒されてる。
一歩前で出ると、黒髪の少女も一歩退いた。
「ごめんごめん。でも、助けたし、話くらい聞いてくれないか」
だめだ。
また一歩退いてしまった。
人間に慣れていないのか?
「……そうだ、これをやろう」
俺は地の神国で買っておいた『たい焼き』を差し出した。これで餌付けする作戦ってわけだ。
「……」
「これ、食えるよ。ほら」
ぱかっと割って中身のクリームを見せた。
すると、少女は目を輝かせ――ひょいっと俺の手からたい焼きを奪った。……は、早い。
「はぐはぐ……」
へぇ、こうして食べるところを見れば、可愛いな。こんな小さな子がマスターグレイス? 信じられんな。けど、こんな森で一人で住んでいるって事は、そうなんだろうな。
「なあ、マスターグレイス。魔王軍について教えて欲しいのと……、出来れば仲間になって欲しいんだが」
「……?」
え、そんな『?』顔されてもなあ。
「違う」
「違う?」
「あたしはマスターじゃない。あたしの名は『フォース』という」
「え、マスターグレイスじゃないの?」
「うん。食べ物はありがとう。でも、あたしが必要じゃないなら帰って」
ぷいっとフォースは背を向けて、歩き出した。
「ちょ、待ってくれ!」
おかしいな。食べ物で機嫌をよくしてくれると思ったのだが……うーん。とりあえず、あの小さな背中について行けば良さそうだな。
「緑の多い国だな。そこら中が森だらけだ」
装備に不安はあったものの――
闇スキルを極めつつあった。
闇の覇国で召喚され、闇の勇者と迎えられたが実感はなかった。それでも、覇王・ナイアルラトホテプとアザトースから闇の全てを教わり、余裕のある旅路を送れていた。闇に感謝しつつも、俺は先を歩く。
この国には、魔王軍幹部・ブリーブが暗躍していると聞く。火属性の爆発系魔法を使う厄介なヤツで、属性的に相性の良い『地の国』を襲っていると小耳に挟んだ。
「――さて、この森の奥に極魔法使いのマスターグレイスが住んでいると聞いた。彼女に魔王軍の情報を聞き出せればいいんだが」
地の神国の都で聞き回ると、その魔法使いに聞くのが一番良いと言われ、ここまで歩いて来たのだ。聞いた話によれば、もうすぐ着くっぽいのだが。
「ん、なんか開けた場所に……」
森の中心辺りだろう。
見晴らしの良い空間に出たのだが――
『ドォォォォォォォ――――――ッ!!』
大きな岩が降って来て、それが地面を激しく抉った。……何事!? と、俺はその岩らしき軌道を追っていく。
「まて、これは岩なんかじゃない。モンスターだ! それでもバカでけぇゴーレム……なんで、こんな所に!」
巨大なギガント級ゴーレムが聳え立っていた。巨体を起こし、立つゴーレム。森の巨木を遥かに超え、全長十メートル以上はありそうな体躯だった。
「うそだろ……」
こんなところにエクストラボスか!?
あれだけ巨大だと厄介で面倒だが、処理するしかないと――闇を構えたその時。
『――――――スーパーノヴァ!!!』
上から何か落ちて来て、大爆発を起こした。
「うわぁぁあッ!」
こ、これは大魔法だ。
超新星爆発か。地の神国の酒場で聞いた話だったが、この世界には指で数える程しかいないという『極魔法使い』という魔法ではない何かを操る者が存在がいるらしい。もちろん魔法も使え、あらゆる魔法と、それ以上の何かに精通しているらしく、極めているとか。
その力は強大で、冒険者が欲しがる存在。
俺もそう、出来れば仲間にしたいと思っていた。マスターグレイスを迎えられれば、魔王軍討伐も楽になるからな。
「まさか、こんな所にいるとはな」
恐らく、この破壊的な魔法を放ったのも噂のマスターグレイスだろう。こんな威力の魔法は、本人で間違いないだろう。
戦況を見守っていると――
ゴーレムが再び動き出し、右腕を上に振りかぶっていた。動きこそ鈍いが、凄まじい威力だ。対して、空から降ってきた小さな影は、またもや魔法を行使していた。
『ソウルテレキネシス……』
なんと、あの巨大な右腕の動きを止めた。
「な、なんだあの力……魔法じゃないぞ!」
ありえんだろ。物理攻撃を止める力?
どんな能力だよ、それ。ムチャクチャだ。
それから小さな影……いや、黒髪の女の子は、再び杖を構え――って、杖があったのか。
『スーパーノヴァ!!!』
と、あの大爆発をゴーレムに叩き落としていた。
『――――――ッァァァァァァァァ』
強烈な火力にゴーレムの岩のボディがガラガラと崩壊し、瓦礫の山となった。空から落ちて来た小さき魔法使いは、不思議な力で静かに降り立ち、ゴーレムを見上げていた。
「……終わった」
あの子が……マスターグレイス?
そうだろうな。
あんな果てしない魔力、間違いない。
俺は、女の子に駆け寄ろうとしたのだが――まずいッ、あのゴーレムまだ生きているぞ!
「おい! まだアイツ動くぞ!!」
「……!」
ゴーレムの左腕が動き出し、黒髪の女の子に襲い掛かった。これは助けるしかないだろう、勇者として!!
『――――――イベントホライゾン!!!』
究極の闇を放ち、敵ゴーレムの左腕を吹き飛ばした。今度こそ消滅し、パラパラと塵《ちり》となっていく。……ふぅ、危なかったぜ。
「…………」
少女は驚く素振りも見せず、ただ俺をエメラルドグリーンの瞳で見据え、静かに立ち止まっていた。そんな風に見られると、ちょっと照れるっつーか……。
そこにいたのは、恐ろしく美形で人形のような美少女だった。あまりに容姿とか完璧なものだから、俺はドキッとした。貴族とか王族にいても、おかしくないレベルだぞ。
だが、何故、黒シャツ一枚の姿なのだろう。
白猫の柄が入っていて可愛いけど。
「……キミ、マスターグレイスかい?」
「……」
うわ、めっちゃ警戒されてる。
一歩前で出ると、黒髪の少女も一歩退いた。
「ごめんごめん。でも、助けたし、話くらい聞いてくれないか」
だめだ。
また一歩退いてしまった。
人間に慣れていないのか?
「……そうだ、これをやろう」
俺は地の神国で買っておいた『たい焼き』を差し出した。これで餌付けする作戦ってわけだ。
「……」
「これ、食えるよ。ほら」
ぱかっと割って中身のクリームを見せた。
すると、少女は目を輝かせ――ひょいっと俺の手からたい焼きを奪った。……は、早い。
「はぐはぐ……」
へぇ、こうして食べるところを見れば、可愛いな。こんな小さな子がマスターグレイス? 信じられんな。けど、こんな森で一人で住んでいるって事は、そうなんだろうな。
「なあ、マスターグレイス。魔王軍について教えて欲しいのと……、出来れば仲間になって欲しいんだが」
「……?」
え、そんな『?』顔されてもなあ。
「違う」
「違う?」
「あたしはマスターじゃない。あたしの名は『フォース』という」
「え、マスターグレイスじゃないの?」
「うん。食べ物はありがとう。でも、あたしが必要じゃないなら帰って」
ぷいっとフォースは背を向けて、歩き出した。
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