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第158話 古代神殿・トール

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 ネーブルを抱え、背中で呪いを受けた。
 痛みとか不快感はない。そもそも、呪いなんて俺には効くはずもなく。

「フハハハ、これで死の呪いは貴様の肉体をむしばむ! ざまぁみ…………へ」

「なんか、したか?」

 くるっと振り向いて俺は、無事である事を示した。すると、ハービィは「信じられねえ」と目を皿にする。この隙を狙い、俺は反撃に出た。

 右手を突き出し――


『ダークネスアサルト……!』


 闇を穿うがった。


「うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」


 吹っ飛んでいくハービィの体。仲間に激突してボウリングのように転がっていく。かなりのダメージを受けたはず。あの分なら、再起不能だな。


「ネーブル、無事か?」
「助けてくれて……ありがとう、すっごく怖かった……」

 頭を預けてくるネーブルは、震えていた。
 あれだけ睨まれ脅されたんだ、恐怖でしかない。

「ユメ様、ネーブル様もお怪我はありませんか?」
「俺は平気だよ、ゼファ。彼女には、一応、グロリアスヒールを頼む」
「分かりました」

 ゼファにヒールをお願いし、俺はフォースの体を念入りに調べた。先程の網で出血とか打撲とかないか心配になっていた。

「……どこもケガしてないよな」
「うん、だいじょうぶ。ゼファがヒールもしてくれたから、心配しないで。それと、あの一派は強制テレポートし、風の帝国キリエにある騎士団前に転送した。ソウルテレパシーで事情を説明済み。トルネードが何とかしてくれるはず」

「良かった。お前に何かあったら俺は三日は寝れなくなるからな。……ん、そか。トルネードの所にな」

 ちなみに、トルネードってのは風の帝国キリエの騎士長。風の帝王エレイソンの右腕である。事情を知った彼女なら、すぐに彼等を監獄送りにするだろう。

 無事を確認すると、治癒が終わったようで、ネーブルの顔色が良くなっていた。これで『トール』への冒険は続行できそうだな。

「もうこれであのギルドが現れないといいけど……」
「心配すんな。さっきフォースが対処してくれた。あのギルドは、もう娑婆しゃばには出てこないさ」
「それって、監獄送りってこと?」
「そんなとこ」
「えぇ……いつの間に」

 口元を押さえてネーブルは、俺とフォースを交互に見て驚く。なんとか納得しようと状況を飲み込んで、気を取り直していた。こう動揺するのも無理はない。俺たちが他のギルドやパーティとは異質なのだから。

「いこ。日が暮れちゃう」

 てくてくと前を歩くフォースの言う通りだ。ヤツ等でだいぶ時間を食った。日没まではまだ猶予はあるが、ここは迷いの森。 

 とはいえ、フォースの『炯眼けいがん』が導いてくれる。迷う事は、まあ、まずない。

「ゼファ、ネーブル、行こうか」


 ◆


 見事、森を抜けて崖を抜けていくと、トールダンジョン前。古代の神殿のような遺跡があった。

「まるで隠しダンジョンだな」
「不思議な場所ですね、ユメ様。この地点で微量ではありますが、神聖な気配を感じるような……あ、そこに階段がありますね」

 ゼファの指す方向には、確かに下へと続く階段が。地下ダンジョンというわけか。随分と薄暗そうだなと俺は思った。

「ね、ねぇ、ここから危険度上がるのよね」

 居心地悪そうにするネーブルの顔は、緊張一色になっていた。こういう本格的な場所は初めてらしい。

「多分な。モンスターも地上にはいないタイプだろう。気を引き締めていかないと死ぬかもしれん。しかも、地下となると、フォースの大魔法は使えないかも。俺の闇属性魔法も派手にはいかないな」

 そう、地下ということは、下手に暴れると遺跡が崩落してしまう危険性があった。ダンジョンによっては、特殊な障壁バリアが張られている場合がもあるが――この遺跡がその類であるかどうか、それ次第だ。


「中へ入れば分かる」

 先行しようとするフォースを俺は止めた。


「だめだ、フォース。前衛は俺の仕事だ。お前はゼファとネーブルを守るんだ。いいな、約束だぞ」

「……うん、ユメがそう言うのなら従う」


 素直でよろしい。



 ――階段を慎重に降りていく。



「階段までは暗闇らしい、足元に気を付けて」

 みんなに注意を投げて、俺は先を行く。モンスターの気配はない。静かすぎる程だ。

 一歩、また一歩と進んで、階段が終わる。その先には……広い空間が広がっていて、明るさも増した。昼と変わらない。これが地下ダンジョンとは思えない程に視界良好だった。


「明るいな……む、あれは……」
「大きな扉ね。なんか古代の壁画みたい。雷神ライジン・トール……?」


 最後の『トール』をネーブルがつぶやいた瞬間――、扉がゴォォっと物々しい音を立てて開いた。開きやがった。合言葉だったのかよ。


「どうやら、中へ入るしかなさそうだな」


 ここからがダンジョンなのか。
 それとも……?
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