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第151話 婚約破棄

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 ゼファは、教会へ返した。

 直ぐにテレポートして、水の聖国サンクの港へ。


 この国は、夜は冷える。
 闇夜にはぽつんとお月様。

「……」

 寒そうに震えるフォース。
 割と薄着だからな。

 俺は、フォースを抱えて温めた。


「……ユメ」
「寒いだろう」
「うん。ユメ、あったかい」


 宿には戻れない。あの大魔女のオルタ・ハークネスに居場所を知られてしまったしな。そもそも、あの宿屋にオーナーの娘はいなかった・・・・・・・

 戻って来たオーナーによれば「なんのことだい?」と、まったく覚えていない様子だった。つまり、魔女の変化スキルによって操作されていたのだろう。
 言うなれば、記憶の変化とか――かな。


 適当なベンチに座って、フォースを膝の上にして抱えた。小さき魔法使いは、俺の中でコクコクと転寝を。
 こんな猫みたいにされると、可愛くてたまらん。

「フォース、眠たいのか」
「うん……ユメあたたかいから」
「朝までずっと守ってやる。ゆっくり眠れ」
「…………うん」

 安心して、フォースは眠りについた。

「……」

 寝顔可愛すぎだろう……。
 この安眠を邪魔しようと、大魔女オルタ・ハークネスが襲って来ようものなら、俺はヤツを容赦なくぶっ殺す。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇


 ――――朝。

 寒い朝だった。
 俺はずっとフォースを温め続けた。

 自分は平気だった。

 そりゃ眠る方がいいが、フォースを守る方が眠るよりも何百倍も価値があった。だから、睡眠よりも守る方に徹した。
 なんたって、この天使の寝顔は中々見れない。

「……んっ」
「おはよう、フォース。よく寝れたか」
「……うん、ユメの夢を見た」

 開口一番、いきなりダジャレか!

「そりゃ良かったな」
「ユメは寝てないの?」
「まあな。俺は闇だからな、一週間は眠らなくても平気だ」
「…………」

 ちょっと複雑な表情で、フォースはぎゅっとくっ付いてきた。

「ごめんね、ユメ」
「謝る必要はないよ。今日もフォースと一緒に過ごせるなら安いものさ」
「……あんまり、無茶しないでね」

 珍しく、頭撫でていいよって言われたので、俺はそうした。

「えへへ……」

 笑えば可愛いんだよなあ。
 この笑顔の為に、俺は頑張れる。

 世界の為というよりは、この笑顔の為かもしれない。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇


 今日は、ゼファとヨハンの結婚式。
 分かっている。

 邪魔をすれば、大魔女オルタ・ハークネスが王子の魂を喰らうだろう。

 だが、ゼファの気持ちも大切だ。


 彼女は『自由』を求めていた。


 だから――。



「行こう」
「うん」



 魔法使いフォースを肩車して、俺は宮廷教会へ向かった。



 既にざわざわと人だかり。
 賑やかな喧噪。祝い事だから、みんな笑顔に溢れている。祝福する鐘の音。鳴り響く結婚行進曲。



 そして、奥には新郎新婦。


 ゼファは、花嫁衣裳に身を包み――とても、神々しかった。綺麗だ。

 王子の方は、テールコートでビシっと決まっていた。


 近くには、あの占い師……
 いや、大魔女オルタ・ハークネス。


 今まさに結婚式の最中。


 いよいよ誓いの言葉が始まって……


 誓いのキスが――。


 もうそんな場面か。きっとあの大魔女が色々な行程をすっ飛ばして、すぐに結婚を成立させようと、ここまで準備したに違いない。いくらなんでも通常の結婚式と違い、早すぎる。


「させるかよ!!!」

「来たね、小僧!!」


 大魔女オルタ・ハークネスが俺の気配に気づく。


「約束は破られた!! 王子の魂は戴くよ!!」


 掌から王子の魂を召喚した、大魔女。
 そうか、あれが王子の!!


『ソウルテレキネシス!!』


 これは俺のソウルフォース。
 フォースと比べれば、そりゃあ弱っちいが。



「はんっ、この程度の力では止められないよ!!」

「だろうよ、俺のはデコイ! おとりだマヌケ!!」

「な、なんだって!?」


 驚く魔女。


 その隙にヨハンとゼファのキスを止めた。
 俺のソウルテレキネシスが二人の間を裂いた。


「うわっ!?」「きゃっ!!」


 倒れそうになるゼファを支える。


「勇者様……」
「助けに来たぞ」


 ――それから、フォースが敵の攻撃をかわしつつ、超連続テレポートを繰り返して大魔女オルタ・ハークネスへ接近。王子の魂を奪還した。


「おのれええええええええええ!!! よくもよくもぉぉぉぉ!!! これだから、極魔法使いアルティメットウィザードは大嫌いなんだよ!!」


 発狂する魔女。
 ざまぁねぇな。


「……ぼ、僕はいったい。そうだ、結婚式を、ゼファ様との誓いのキスを」


 ぼうと立っていた王子が向かって来るが、俺が止める。

「邪魔だ、小僧! 昨日も邪魔しやがって……その聖女は、僕の婚約者だぞ!」
「お前は、あの占い師……いや、大魔女オルタ・ハークネスに操られていたんだよ」

「違う! 確かにあの魔女には操られていたかもしれない。でも、この想いはホンモノだった……僕は操られていながらも、聖女様が好きになってしまっていた」


 だが、


「ごめんなさい……。わたくしの本心は違うのです。婚約は破棄・・・・・でお願いします」


 ゼファは心苦しそうに断った。

 そう、それこそが彼女の本音であり、意志なのだ。


「ば、ばかな……」


 ガタッと王子は床に膝をつけて、崩れ落ちた。その間にも、大魔女オルタ・ハークネスが恐ろしい姿で接近してきた。


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなあああ!! この役立たずの王子!! 貴様と聖女を結婚させて魂を喰って、この国を支配する計画が台無しだよ!!」

「……やっと正体を現したな、大魔女」

「ああ、私は魔王様の大幹部がひとり……大魔女オルタ・ハークネスで間違いないさ!! いいさ、変化の能力でこの場の信者たちの魂全部食ってやる!! その為の結婚式でもあったのさ……クククク、ハハハハハ!!」

 ニヤニヤと笑うオルタ・ハークネス。
 その顔は恐ろしく、まさしく魔女だった。


「そうかよ。やれるものなら、やってみろ」
「ほう!? いいのかい、全員魂抜かれてオシマイだよ!!」


 ごぉっと赤黒いオーラが放たれる。
 これは変化のスキル。


 それが一気に波のように襲い掛かってくる――!!
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