上 下
101 / 177

第101話 混沌のない世界

しおりを挟む
 白と黒の光が混じり合い、視界を奪った。


 白い光は俺の中へ。

 黒い光はアザトースへ。


「――――――」


 なにが終わり、なにが始まったのか。
 俺にはよく分からなかったけれど、確実な事はひとつあった。

 父さんは、家族の為にあの混沌と契約を交わし、俺たちを救ってくれたのだ。今となってはその詳細までは分らないけど……でも、夢を託されたのは確かだ。

 それだけはまぎれもない事実だ。


 ――視界が戻っていく。


「……」


 そこに父の存在はなかった。
 俺たちをかばい、消滅してしまった……らしい。
 ……もっと話したい事とかあったのにな。


「…………どう、なったの?」
「ネーブル、無事か」
「あ、うん。って、ユメ……あんた、体が元に戻ってる!?」
「父さんのおかげだ」
「と、父さん? ユメのお父さんいたの? どこ!?」
「いや……たった今、俺たちをかばって……」
「そ、そんな……」

 ネーブルは無事そうで良かった。

「ユメ様……これはいったい」
「ゼファ。うん……詳しいことはで話すけど、俺はどうやら生きている。死にかけていた魂も、あの白い光……父さんの分が入ってきて、力が湧き出るほどに戻った」
「よ、良かったです……。もともと、ユメ様の魂は半分でしたから……」

 そう、俺はかつて魔王の大幹部・フヴェルゲルミル戦の時に魂を失いかけた。だが、ゼファの『グロリアスサクリファイス』でなんとか生き永らえた。
 それから俺の力も半減し、闇の力も弱まっていた。


 だが、今は完全に復活・・・・・した。


「ユメ……」
「心配かけたな、フォース」
「ううん、大丈夫。ユメから全てを感じる。とても強力なそのもの・・・・を。もうソウルフォースすら超越しているんだね」

「どうやら、そうらしい。今なら誰にも負ける気はしない」

「勝って。これが無事に終わったら……いっぱいいっぱい愛して」
「昔からの約束・・だからな」


 約束は果たす。必ずな。


「……私はここまで来れて良かった。一度は誤った道を進んでいたかもしれないけど、ユメ、あなたに救われた。ありがとう」

 テスラはそう礼を述べた。

「俺の方こそ、キミが変わってくれて嬉しい。テスラはもう俺の仲間だ。これからも、ついて来てくれ」
「……はいっ!」


 これで本当の最後ラストだ。


 俺はヤツを見た。


「…………あ、ありえん。覇王が、あの男が……我が最強の呪縛から逃れたというのか……。そして、この私の混沌をここまで乱すか…………」


 両手が崩壊しても尚、アザトースは動いた。
 さすが混沌だ。

「……」

「まあいい。少し驚いたが、まだ動ける……ユメ、貴様を喰うまでは諦めんぞ。……仕方あるまい、真の姿になるしかない……」

 そう不快に吐き捨てると――

 果てしないプレッシャーが全体を包んだ。

「…………!!」

 俺以外は地面に伏せてしまっている状況。
 ヤロ……あんなにズタボロなっても、ここまでの力を持つのか。

 人型を捨てたアザトースは、醜いバケモノの姿になった。


『…………』


 それをどう表現していいのか分からない。
 どこか頭でどこか腕なのか、足はあるのか――それすらも分からない。まさに混沌の中の混沌。異常で、異物で、異形だった。


『――――――』


「それがあんたの本当の姿か。……カオスだ」
『…………貴様の夢を奪ってやろう』


 その瞬間、無数のカオスが降り注いできた。

 多すぎるが、今の俺なら余裕だ。



「心配して損したぜ!!! この程度か、アザトース!!!」



 ヤツは弱体化しているが、尚、その力は強い。
 だが、それ以上に俺はヤツの力を上回った。


『――――――ソウルテレキネシス!!!!!』


 すべてのカオスを超強力なソウルフォースによって止め、それを押し返した。


『……バカな!! ぐおおおおおおおおおおッ!!』


 防御の姿勢で、自身のカオスを防いでいた。
 好機。ヤツは防御で精一杯だ。


『アビスイグニッション……!!!』


 しかし、ヤツはいつの間にか上空からもカオスを落としていた。
 あぶねえ、ソウルフォースで読んでいて良かった。

 それを回避はできない。伏せているフォースたちに当たってしまう。
 ならば、これも押し返す!!


『ソウルテレキネシス!!!!』


 カオスは一気に上空に撃ちあがり、宇宙そらへ飛んだ。


『上空のカオスを読むとはな……だが!!』


 アザトースは、俺の背後を取った。早い……!



『――――――カオスボルテックス!!!!!!!!』



 大量の混沌が渦となって襲ってきた。
 なんて規模だ。これは世界さえ吹っ飛ぶレベルだぞ。



「アザトース!!! これで、最後だああああああああああああッ!!!!!」



 戦闘が長引けばこちらが不利になるのも明白だった。
 だからチャンスを、この瞬間ときを待っていた。敵が最強の技を放ってきたその時、俺はそれごとアザトースにぶつける気でいた。


 つまり、ここが絶好のタイミング。
 この機を逃すわけにはいかない。

 さあ、終わりにしよう。


 もうこの世界に混沌は必要ないのだから――――、



『――――――イベントホライゾン!!!!!!!!!!!!!!!』



 …………ありがとう、そして、さようなら。



『………………っガッ!? アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



 ・
 ・
 ・


「………………」



 その概念は消え去った。
 無となったのだ。


 カオスというものが無くなった以上、後の世界がどうなるか分からない。


 でも、きっと大丈夫。
 俺がいる限り、この世界を守り続けるから――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...