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第56話 新たなる同盟
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ギルド『デイブレイク』の本拠地へ向かった。
建物は当然、屋敷。明らかに浮いているのだが、やはりというか何というか。案の定、忍者屋敷っぽい感じだった。
「キャロルの忍者屋敷もすげぇ雰囲気あったけど、こりゃまた別格だな」
「ええ、ここだけ別の世界みたいです……」
「ま、まあ入ろうか」
屋敷に圧倒されつつも、俺とゼファは中へ入った。
◆
大広間に入ると、そこにはギルドメンバーたちが賑やかに会話をしていた。キャロルの姿はないが、副ギルドマスターの『レア』がいた。
「よう、みんな」
「ユメさん! マスターに御用でしょうか。でしたら、今はクエストに出かけていますので、不在ですよ~」
「そっか、でもキャロルではなく、レアに用事があるんだ」
「え、私――ですか」
「そ。ちょっと外で話があるんだ」
「……分かりました。では、皆さん。私はユメさんとお話がありますので、席を空けます。ラージさん、まとめ役をお願いします」
・
・
・
庭に案内された。
そこには松の木や竹などで囲まれていた。大きな鯉池もある。こりゃ、見事な庭だ。本当に、キャロルの趣味全開なんだなと俺は思った。
「ユメさん」
池を覗き、背を向けていたレアは、ぽつりと俺の名を言った。そこに覇気はなく、どこか諦めが見られた。そうか、もう悟っているんだな。これから俺が話そうとしていることを。
「レア……、キミを追い出すつもりはないよ。だって、キミは俺の国のために尽くしてくれているし、なにより、デイブレイクとキャロルを支えてくれている。そんなキミを俺は信用しているよ」
「……ユメ様、やっぱり、レアさんが……」
ゼファも理解したようだ。
いや、ここまで来ればもう察しはつくだろうな。
「私は…………裏切者ですよ。私は許されない存在です。あなた方とは共存できない……倒されるべき敵。魔神ですから」
そうだな。以前はそう思っていた。
魔神は国を襲い、滅ぼそうとする悪鬼羅刹なのかと認識していた。でも、それは違った。彼女は別だった。心があり、人間を思いやる気持ちがあった。
「キミは他とは違う。でも、なんで俺たちの味方を」
「最初はスパイのつもりでした。……でも、ある日に風の帝王の密入国を手伝っていた時……巡回中のキャロルにその場を目撃されてしまったのです。でも……キャロルは分かっていて私を見過ごしてくれたのです。こんなどうしようもない私を庇ってくれたんです。それからも優しくしてもらい……ギルドメンバーも変わらず接してくれて……。あの仲間たちが好きになってしまったんです」
――だから、パラドックスの味方になったと。
「そうか、俺もキミの存在に気付いたときは、乱暴な言い方になはなってしまうけど、潰すか悩んでいた。でもさ、あんな心の底からキャロルを信用しているヤツをどうこう出来なかったんだよ。もし本当にこれからも味方であり続けてくれるのなら、俺は何も言わない」
「ユメさん……。はい……誓います。私は絶対にみんなを裏切りません。ですが、口頭での誓いは信用には足らないかと思います。ですから――」
彼女はいきなり服を脱いだ。
「――――んぉ!? レア、いきなり!?」
ゼファが目隠ししてきたので、途中までしか見えなかったけど。
「ユメ様!!」
「いや、あれは……レアが」
「あ、大丈夫ですよ、ゼファさん。背中を見せるだけですから」
「だってさ、ゼファ」
「むぅ~~…」
渋々ゼファは手をどけてくれた。
すると、真っ白な背中が向けられていた。すげぇキレイだ。魔神でも、身体は人間と大差ないんだな。
で、よく見ると刺青があった。それも、かなり禍々しい紫色の。まるで儀式染みた……どこかで見たことがあるぞ。あれは確か――。
魔神・アトラス。
ていうか、他の魔神にも腕とか足にあったな。
「それはなんだ?」
「魔神の刻印です。これを持つ者は魔神と認められ、魔神王の支配下に堕ちることになります。ですから、この『呪い』を解かねば、私はいつか操られてしまう。……でも、呪いを断ち切る方法もあるんです。しかも、かなり意外な方法で」
「へぇ、そんな裏技があったとはな」
「ユメ、あなたのご親族には『魔王』がおられますよね」
「ああ……いるけど」
「魔王の血を戴ければ、この呪いは解けるのです。一滴でも構いません。戴ければ、この呪いは消えてなくなる」
「なっ……なんだって!?」
まさか――『魔王の血』が魔神の呪いを解除する……!?
意外すぎる……。
しかし、なにがどうなって解除するだか? 同じ魔の者だから、化学反応とか起きそうにないけどな……いや、同じではないのか。
「お察しの通り。ユメさんが倒されたディオネ……彼女によると、魔王と魔神を組み合わせると呪いが解除され、『悪夢』が生まれると言っていました。だから、その方法なら――」
「だ、だめだ……! その悪夢……『ナイトメア』こそ、この前戦ったあのクリーチャーのことだぞ。だから、その方法は無理そうだな」
「そ、そうでしたか……」
「でも落ち込むことはない。もしかしたらなんだけど、こっちの案件で解決できるかもしれない」
「え?」
「アトリを探せばもしかしたら……」
ヒルデは言っていた。
魔神の秘密があると。
その秘密が『魔神の弱点』とか『呪い解除』だとすれば……。
「レア、誓いは十分だ。キミの気持ちは分かったし、俺も信じる。だから、握手でどうかな」
「……分かりました。その、ちょっと怖いですけれど」
「安心するといい。俺は闇だ」
すっと手を出し、握手を求めた。
すると、レアはゆっくりと手を重ね、握り返してきた。
魔神と握手、すごい光景になった。
「ありがとう。それとユメさん、私と個人的な同盟を結んで戴けませんか。やはり、どう取り繕うとも私は魔神。ですから、どんな形であれ契約を交わしたいのです」
「分かったよ、レア。キミがそう言うのならこちらもお願いしたい」
握手を交わしていると――
『ドロ~~~~~~~~~ン!!』
急に煙幕のようなものが小規模で爆発し、煙の中から人間が現れた。
「うわ、びっくりした……って、キャロル!」
「マ、マスター!?」
「ただいま帰還しました!! ……おや、ユメにゼファ様、それとレアではありませんか。こんなところで……散歩?」
「いや、話をしていただけだ。キャロルの方こそ何処へ行っていたんだ」
「ああ~、それなんですが『同盟』の話をしてきました」
「へ…………。同盟?」
「はい、同盟です。『火の大国』、『水の聖国』から招待されたので、国の副管理者として行って参りました」
「いつの間に!」
「いやぁ、ユメはその時、『地の神国』へ行かれていたので、仕方なく私が行ったのです」
「そうだったか。そりゃスマン。で、その内容は?」
「あちらから手を組みたいと、お願いされました」
「へぇ~。そりゃ面白いことなってきたな」
「それと、『風の帝国』もです」
「む……? なんだって?」
「帰りに風の帝王に遭遇し、『風の帝国』からもお願いされました」
あの帝王、まだ諦めてなかったのかーーーい!!!
……けど、三国から同盟の申し出か――。
こりゃスゲェことになってきたぞ。
建物は当然、屋敷。明らかに浮いているのだが、やはりというか何というか。案の定、忍者屋敷っぽい感じだった。
「キャロルの忍者屋敷もすげぇ雰囲気あったけど、こりゃまた別格だな」
「ええ、ここだけ別の世界みたいです……」
「ま、まあ入ろうか」
屋敷に圧倒されつつも、俺とゼファは中へ入った。
◆
大広間に入ると、そこにはギルドメンバーたちが賑やかに会話をしていた。キャロルの姿はないが、副ギルドマスターの『レア』がいた。
「よう、みんな」
「ユメさん! マスターに御用でしょうか。でしたら、今はクエストに出かけていますので、不在ですよ~」
「そっか、でもキャロルではなく、レアに用事があるんだ」
「え、私――ですか」
「そ。ちょっと外で話があるんだ」
「……分かりました。では、皆さん。私はユメさんとお話がありますので、席を空けます。ラージさん、まとめ役をお願いします」
・
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庭に案内された。
そこには松の木や竹などで囲まれていた。大きな鯉池もある。こりゃ、見事な庭だ。本当に、キャロルの趣味全開なんだなと俺は思った。
「ユメさん」
池を覗き、背を向けていたレアは、ぽつりと俺の名を言った。そこに覇気はなく、どこか諦めが見られた。そうか、もう悟っているんだな。これから俺が話そうとしていることを。
「レア……、キミを追い出すつもりはないよ。だって、キミは俺の国のために尽くしてくれているし、なにより、デイブレイクとキャロルを支えてくれている。そんなキミを俺は信用しているよ」
「……ユメ様、やっぱり、レアさんが……」
ゼファも理解したようだ。
いや、ここまで来ればもう察しはつくだろうな。
「私は…………裏切者ですよ。私は許されない存在です。あなた方とは共存できない……倒されるべき敵。魔神ですから」
そうだな。以前はそう思っていた。
魔神は国を襲い、滅ぼそうとする悪鬼羅刹なのかと認識していた。でも、それは違った。彼女は別だった。心があり、人間を思いやる気持ちがあった。
「キミは他とは違う。でも、なんで俺たちの味方を」
「最初はスパイのつもりでした。……でも、ある日に風の帝王の密入国を手伝っていた時……巡回中のキャロルにその場を目撃されてしまったのです。でも……キャロルは分かっていて私を見過ごしてくれたのです。こんなどうしようもない私を庇ってくれたんです。それからも優しくしてもらい……ギルドメンバーも変わらず接してくれて……。あの仲間たちが好きになってしまったんです」
――だから、パラドックスの味方になったと。
「そうか、俺もキミの存在に気付いたときは、乱暴な言い方になはなってしまうけど、潰すか悩んでいた。でもさ、あんな心の底からキャロルを信用しているヤツをどうこう出来なかったんだよ。もし本当にこれからも味方であり続けてくれるのなら、俺は何も言わない」
「ユメさん……。はい……誓います。私は絶対にみんなを裏切りません。ですが、口頭での誓いは信用には足らないかと思います。ですから――」
彼女はいきなり服を脱いだ。
「――――んぉ!? レア、いきなり!?」
ゼファが目隠ししてきたので、途中までしか見えなかったけど。
「ユメ様!!」
「いや、あれは……レアが」
「あ、大丈夫ですよ、ゼファさん。背中を見せるだけですから」
「だってさ、ゼファ」
「むぅ~~…」
渋々ゼファは手をどけてくれた。
すると、真っ白な背中が向けられていた。すげぇキレイだ。魔神でも、身体は人間と大差ないんだな。
で、よく見ると刺青があった。それも、かなり禍々しい紫色の。まるで儀式染みた……どこかで見たことがあるぞ。あれは確か――。
魔神・アトラス。
ていうか、他の魔神にも腕とか足にあったな。
「それはなんだ?」
「魔神の刻印です。これを持つ者は魔神と認められ、魔神王の支配下に堕ちることになります。ですから、この『呪い』を解かねば、私はいつか操られてしまう。……でも、呪いを断ち切る方法もあるんです。しかも、かなり意外な方法で」
「へぇ、そんな裏技があったとはな」
「ユメ、あなたのご親族には『魔王』がおられますよね」
「ああ……いるけど」
「魔王の血を戴ければ、この呪いは解けるのです。一滴でも構いません。戴ければ、この呪いは消えてなくなる」
「なっ……なんだって!?」
まさか――『魔王の血』が魔神の呪いを解除する……!?
意外すぎる……。
しかし、なにがどうなって解除するだか? 同じ魔の者だから、化学反応とか起きそうにないけどな……いや、同じではないのか。
「お察しの通り。ユメさんが倒されたディオネ……彼女によると、魔王と魔神を組み合わせると呪いが解除され、『悪夢』が生まれると言っていました。だから、その方法なら――」
「だ、だめだ……! その悪夢……『ナイトメア』こそ、この前戦ったあのクリーチャーのことだぞ。だから、その方法は無理そうだな」
「そ、そうでしたか……」
「でも落ち込むことはない。もしかしたらなんだけど、こっちの案件で解決できるかもしれない」
「え?」
「アトリを探せばもしかしたら……」
ヒルデは言っていた。
魔神の秘密があると。
その秘密が『魔神の弱点』とか『呪い解除』だとすれば……。
「レア、誓いは十分だ。キミの気持ちは分かったし、俺も信じる。だから、握手でどうかな」
「……分かりました。その、ちょっと怖いですけれど」
「安心するといい。俺は闇だ」
すっと手を出し、握手を求めた。
すると、レアはゆっくりと手を重ね、握り返してきた。
魔神と握手、すごい光景になった。
「ありがとう。それとユメさん、私と個人的な同盟を結んで戴けませんか。やはり、どう取り繕うとも私は魔神。ですから、どんな形であれ契約を交わしたいのです」
「分かったよ、レア。キミがそう言うのならこちらもお願いしたい」
握手を交わしていると――
『ドロ~~~~~~~~~ン!!』
急に煙幕のようなものが小規模で爆発し、煙の中から人間が現れた。
「うわ、びっくりした……って、キャロル!」
「マ、マスター!?」
「ただいま帰還しました!! ……おや、ユメにゼファ様、それとレアではありませんか。こんなところで……散歩?」
「いや、話をしていただけだ。キャロルの方こそ何処へ行っていたんだ」
「ああ~、それなんですが『同盟』の話をしてきました」
「へ…………。同盟?」
「はい、同盟です。『火の大国』、『水の聖国』から招待されたので、国の副管理者として行って参りました」
「いつの間に!」
「いやぁ、ユメはその時、『地の神国』へ行かれていたので、仕方なく私が行ったのです」
「そうだったか。そりゃスマン。で、その内容は?」
「あちらから手を組みたいと、お願いされました」
「へぇ~。そりゃ面白いことなってきたな」
「それと、『風の帝国』もです」
「む……? なんだって?」
「帰りに風の帝王に遭遇し、『風の帝国』からもお願いされました」
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