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第53話 魂と心

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 悪夢は消え去った。
 千体いたナイトメア、カッシーニ、そして、ディオネは跡形もなく消滅。魔神の気配が無くなったし、その痕跡こんせきすらない。つまり――

 俺たちは勝利したのだ。

「勝った……」

 そう俺がつぶやくと、国の方角から――


「「「「「うおぉぉおおおおぉおぉぉぉぉぉぉおおおおぉおおぉおぉぉ!!!!!」」」」」


 大歓声があがった。

「今防音を切っています。この勝利の為に……!」
「すげぇよ、キャロル。よくやってくれた! お前は本当に優秀だよ。さすが、デイブレイクのギルドマスターだ」
「いえいえ、私は当然のことをしたまでです!」

 ニッと笑うキャロルは、顔を赤くして微笑んだ。

 これでパラドックスの力が世の中に知れ渡ったはず。もう不用意に襲ってくる連中も現れないだろう。あの魔神共でさえ。

 勝利の余韻よいんに浸っていると、

「ユメ様! フォースちゃんが……!」

 ゼファが慌てた様子で叫んだ。

「フォース……!?」
「急に倒れて……身体がまるで消えていくみたいに……」

「…………」

 ウソだろ……。
 フォースの身体が消えかけている……そんな。ニカイア女帝の助力があって、負担は減っていたはずなのに。やはり、かなり無理をして……。

「……フォース、どうして……」
「スキルとソウルフォースを同時に使ったから…………無茶しすぎたみたい。……ごめんね、ユメ」
「ダメだ……消えるな、フォース! 俺との約束はどうするんだよ!?」
「約束は必ず守るよ。あたしが消えても、ソウルフォースと共にある……から」

 まずい…………フォースの手が足が……消えていく。

 このままでは……。

 させるかよ。俺の魂を分け与えてでも、彼女を助ける。

「だめです、ユメ様」
「止めるな、ゼファ」
「ユメ様の魂は半分しかないのですよ。それ以上、無茶をしたら死んでしまいますよ!?」
「だけど……これしか助ける方法がないのなら……俺は……」

 ネーブルが俺の肩に手を置いた。
 ただ静かに、真っすぐ俺を見つめていた。

「……わたしもフォースを見捨てるつもりはないよ。ユメ、わたしの魂を使って。以前、言っていたよね、ソウルフォースは誰しもが持つものだって。だったら、わたしだって微力かもしれないけど、力になれるかも」

「ネーブル……」

 嬉しいことだが、しかし、一歩間違えればネーブルも消える。それほどに、ソウルフォースの扱いは至難の業であり、絶妙なバランス加減でなければならない。極魔法使いアルティメットウィザードでようやく使いこなせるようになるくらい、それほど繊細せいんさいなのだ。

 だから……。

 やっぱり、俺しかいないよな。……ああ、でもいいさ、フォースを生き永らえさせられるのなら、後悔なんてない。彼女は俺にとってかけがえのない存在だから。


 決意を固めた時だった。


『ユメよ、お主の力ではフォースは助けられん』


 懐かしい声が響いた。

「こ、この声はまさか……師匠マスターか!?」

 周囲を見渡すが、それらしい人影はなかった。声だけ……?

『どこを見ておる。ここじゃ、ここ』
「ここ?」

 ちょうど、フィラデルフィアとニカイアのいる場所だ。


「フィじゃないよな……。すると……ん!?」


 ニカイア女帝の姿がグニャリと変わっていく。

 ……ま、まさか。


「……まったく」
「え……ウソ。ニカイア女帝ってマスターだったのか!?」
「いや、それは違う。ニカイアは私の。だから、ソウルフォースを通してさきほどはニカイアの姿となっていた。ややこしいが、そういうことじゃ」

 どういうことだよ!?

「私たち姉妹はお主同様、特別でね。存在を共有できるのだ。そもそも、ソウルフォースはバランスであり、魂、そして心の力でもある。このような事は造作もない」
「な、なんだかよく分からないけど、フォースを助けてくれるんだよな、マスター!」

「うむ。フォースは、弟子である前に、私にとっても大切な存在じゃ」

 腰を下ろすと、グレイスはフォースの頬に触れて目蓋まぶたを閉じた。
 すると、すぐに緑豊かな心癒される力があふれてきた。それは、みんなにも視認できるほど、大きく、川のように流れていた。

 これが、マスターのソウルフォース。

 こんな間近で、しかも本気なのは初めてだ。

 なんて暖かい。みんなの心まで穏やかになっているようだった。

「……これでよい。今は深い眠りについておるが、三日もすれば目を覚ますじゃろうて。ほれ、身体は元に戻った」

 マスターの言う通り、フォースの消えかけていた身体が元に戻っていた。浅かった呼吸も普通になっている。……良かった。

「ありがとう、マスター」
「いや、当然のことじゃ。……ただ、気を付けい。まだ魔神はおるからな」
「分かった。肝に銘じておく。って、マスター、もう行くのか?」
「うむ……残念じゃが、上位の魔神はまだ現存しておる。噂に聞いたが、お主の家族――魔王が捕らえられたと聞いた。あのディオネとかいう魔神が実験に使っていたようじゃが、今は別の場所に移されたようじゃな」
「な、なんだって……メイか!? 姉ちゃんか!? 母さんか!?」

「…………全員じゃ」

 ……それを聞いて、俺はかつてないショックを受けた。
 妹も姉も母も……魔神に捕らえられた……?

 ウソだ。あの最強の魔王たちが。

「どうして……」
「それはフィラデルフィア女王が情報を持っておる。詳しくは彼女に聞くとよい。ともかく、私は一旦帰るのでな。フォースによろしく伝えておいてくれ」

「ああ……。いろいろありがとう」

 師匠マスターは、最後までフォースの身を案じていた。深い眠りにつくフォースを親のように見つめながら、グレイスはワープスキルで去った。
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