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第45話 神国女帝

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 やっと分かった。この女性ひとの正体が。
 俺が名前を言う前に、彼女は名乗った。

「私の名は『ニカイア』といいます。地の神国クレドの神様としてまつられております。その由縁ゆえんはご存じかとお思いですが、この温泉ですね」

 ニカイアは、お湯を両手ですくい上げた。
 知ってる。温泉大好きの女帝は、ソウルフォースで伝説を残したんだ。

「意外だったな。こんなところに地の神国クレドの女帝がいるなんてな。しかも、こんなキレイな女の人だったとはなぁ……。てか、初っ端一緒にお風呂入ってるって、何がどうなってこうなったんだか」
「ふふ。これはきっとソウルフォースの導きです。彼ら・・が私とあなたを引き合わせたのでしょう」

 彼ら・・――それは、師匠マスターの口癖でもあった。結局、半端者の俺にはそれが誰なのか、何処どこにいるのかすら分からなかったけど。

 とにかく。

「事情は分かったよ。でもさ、女帝がひとりでウロウロしていていいのかよ。やべぇ魔神が国に入り込んでいるんだぞ。悠長ゆうちょうに温泉に入っていていいのか?」
「もちろん、魔神は倒します。でも、私ひとりの力では不可能です。なので、あなたの力をお借りたい。世界の中心に国を持つ、あなたの」

「なんだ、知っていたのか。……それとも、心を読んだ?」
「いえ、心は読んでおりません。実は、あなたのことはマスターグレイスから少しですが聞きました。ここへ来る前に」

 そういうことか。
 まぁ、そうだよな。地の神国クレドだったら、まず師匠マスターを頼るわな。でもきっと、グレイスは俺を勝手に推薦すいせんしたに違いない。

 でなければ、こうして彼女と出会うはずなんてないんだから。

「ここへは偶然ですよ」
「う、今のは読んだのか」
「ええ。今のは読みました」

 迂闊うかつな思考はできんな。

「俺の力か。こんな俺でよければ協力したいけど、ただ……」
「ただ?」
「パラドックスは、光の天国ベネディと同盟を組んでいるからな。勝手に協力関係になっていいものか……」

 勝手に他国と同盟を結べば、フィを怒らせそうである。

「なるほど。それなら心配ありませんよ。私とフィラデルフィア女王は友好的です。むしろ、同盟関係に近い。ただ正式な同盟関係にはなかっただけです。ユメさん、あなたの力があれば、我々、地の神国クレド光の天国ベネディ――そして、あなたのパラドックスは最強の同盟となりましょう。如何いかがですか?」

 悪い話じゃない。
 同盟の規模が多くなれば、それだけお互いを支え合うことが出来る。俺が欲しかった壁強化の材料『エクサダイト』も、もしかしたら。

「分かった。悪い話じゃないし、魔神を倒したいという目的は一合致している。それに……ニカイア女帝と一緒に温泉に入れたからな、ここで断るとかないよな」
「ありがとう。これでこの地の神国クレドにも希望が見えてきました。どうか、良しなに」

 微笑むニカイアは、握手を求めてきた――ので、俺はそれにこころよく応えた。これで地の神国クレドと同盟関係となった。

「それでは私は一度、都へ帰ります」

 と、ニカイアは立ち上がっ――――たぁ!?

 ま、丸見えなんだが……。羞恥心しゅうちしんとかないのかな。

「ああ、そうそう。洞窟どうくつ・ヴァニタス・ヴァニタートゥムを目指しておられるのですよね」

 言ってないが、心を読まられたらしい。
 って、洞窟、そんな長ったらしい名前だったのかよ。

「通称・ヴァニタスを目指すなら、これを――」

 ずいっと手渡されたそれは『金色の髑髏ゴールドスカル』だった。
 あまりにリアルでゾっとした。

「うわっ! 悪趣味なアイテムだなっ……ホンモノか?」
「これは、通常では手に入らない闇のアイテムです。ヴァニタスは、このアイテムがなければまず見つけれません。なぜなら、洞窟はない・・からです」

「な、ない?」

「あったとしても、それは、がらんどう・・・・・なのですよ」

「ど、どういう意味だ?」
「つまり、空虚ということですね。洞窟の中身は空っぽ――閉ざされた闇しかないでしょう。だから、これが必要なのです。これこそダンジョンへ入るための鍵です」

 不気味だが、俺はそれを受け取った。
 けど、これでようやく洞窟へ入れそうだな。そして、エクサダイトを大量確保できれば、俺の国・パラドックスの壁はより強固に――いや、完璧になるだろう。


 ◆


 ニカイアは行ってしまった。

 別れた直後、優しい顔のフォースが現れたが……おや。
 あんな砕けた表情は珍しいというか、ウルトラレアだな。

「どうした」
「ユメ。地の神国クレドを守ってくれるんだね」
「フォースには全てお見通しってわけか。そ、この国と手を組んだ」
「すき……♡」

 この国――地の神国クレドは、フォースの故郷。だからきっと、俺が女帝と手を組んだことが嬉しいのだ。俺もフォースの笑顔が見れて嬉しい――なんてな。


 ◆


 みんなと合流し、いよいよ洞窟ダンジョン『ヴァニタス』を目指した。……というか、金色の髑髏ゴールドスカルが反応を示している。もう近いのかもしれない。
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