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第41話 戻れと言われても

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 風の帝王から『戻ってこい』の不幸の手紙ラブコールは続いた。
 でもそんなことはどうでもいい。裏切ったのは帝王ヤツだ。だから無視だ。

 それよりも、俺の国は闇属性が付与された壁――『ダークウォール』によって囲まれ、守られている。しかし、それには耐久値が存在し、モンスターやクリーチャーから殴られ、ダメージを受ければ当然、いつしかは壊れてしまう完璧とはいえない盾だった。

 ので、日々強化や修復をする必要がある。

 これが大量の材料を消費し、金も湯水のごとく消えていった。このままではマズイ。これ以上、同盟国である光の天国ベネディに迷惑は掛けられない。

「……となると、う~~~ん」
「ユメ、悩んでる?」

 つぶらな深緑の瞳でこちらを見るフォースは、俺のうざの上を満喫していた。体を揺らし、機嫌が良さそうだ。……最近、温泉に入る頻度が多いせいか、いつもよりも良い匂いがした。いや、元からしていたけど。
 そして、つやのある黒髪はゼファの手が加えられて、三つ編みが生えていた。

 へぇ、ショートカットの三つ編みか。似合うな。って、そりゃいいや。

「うん。壁の強化をしたいなって」
「壁」
「そ、壁。ほら、魔神のクリーチャーが度々襲ってくるだろう。というか、毎日だな。このままだと壁は壊され、侵略されちまう。けどな、必要な材料や金が膨大すぎて……維持がなぁ」

「抱っこ」

「……ふぇ? ちゃんと聞いていたか、フォース」
「うん、聞いてた。抱っこして」

 と言いつつも、フォースはよじ登ってきた。
 なんだか、子供をあやすような状態だ。ちょっと照れくさい。

「これでいいか」
「テレポートする」
「テ、テレポート? って、うわっ!!」


 ◆


 気づけば、別の場所にいた。
 畳が広がり、生け花や大きな筆で書かれた文字が飾られてたり、庭には大きな池。なんだこの和風の屋敷。……ん、ここってまさか。

「キャロルの忍者屋敷」
「そういうことか。キャロルに聞いてみろってことか」

「はい! 私ならここに!!」
「わぁぁっ!? いつの間にいたんだ、お前!」

 ビックリした……すでに背後にキャロルがいた。珍しく忍者姿で。

「私、忍びですからね。気配遮断けはいしゃだんなど容易たやすいことです。……それで、ユメはどうして我が家へ? なにかご用件があるのですか」
「あ、ああ……壁についてな」
「壁……ふむ、長くなりそうですね。お茶をどうぞ」

 スッとお茶を出すキャロル。速い……てか、どこから出した!?
 用意がいいというか何というか。

「へぇ、うまいな」
玉露ぎょくろです」

 高級茶のアレか。初めて飲んだな。

「で、本題なんだが……」
「壁ですね。分かりました。それでは……地の神国クレドが良いでしょう」
「ほお、なぜそこなんだ」
「エクサダイトをご存じですよね。ほら、武器とか防具を精錬するときに必要なアイテムです」
「ああ、あれな。でもあれは、そんな大量にれるものじゃないだろう。希少性があるだけでなく、どの国も欲しがっているからな」
「ええ、普通は無理です。ですが、地の神国クレドにある洞窟ダンジョンには、エクサダイトを大量に落とすモンスターがいるのですよ」

「へえ! そりゃすげえ、そんなダンジョンがあったなんて知らなかったぞ」

「それもそのはずですよ。たどり着くには、エクストラボスを倒さなければなりませんからね。だから、誰も近寄らなかったんです」

 そういうことか。だったら、楽勝だ。

「でも、気を付けて下さい。そこのボス、かなり強いみたいですよ」
「へーきへーき。俺のパーティなら負けんよ」
「そうですね。ユメならきっと……あ、そういえば、ブリュンヒルデさんの件はどうなされるつもりです?」

「その件か。もちろん、彼女の姉・アトリも探すよ。任せろ」
「良かった」
「ん? どういうことだ」
「ええ、実は……アトリさんが地の神国クレドで目撃されたという情報も入ったのです」
「なんだって!?」
「忍びはこの世界のどこにでもいますから、情報は常に耳に入ってきます。確かな情報なので、ぜひ壁とアトリさんの件をよろしくお願いします」

 そりゃ朗報だ。
 両方ともいっぺんに進められるというのなら、ありがたい。


 ◆


 忍者屋敷を後にした。
 もちろん、テレポートで帰還だ。

「おかえり」
「ただいま、ネーブル。ゼファも」
「はい、おかりなさいませ」

 ネーブルはペディキュアをほどこしていた。足の爪に丁寧に黒色を塗っている。へぇ、器用だな。

「ん、気になる?」
「なぜ黒なのかなっと」
「誰かさんの色だから」

 だ、誰かさんねぇ~…誰だろうな。

「と、とにかく……ネーブル、ゼファ。地の神国クレドへ行くぞ」

「了解」「了解しました」

 二人とも素直に返事をした。

「おいおい、まだ何も事情を話していないぞ」
「いいよ、大体は分かる。壁とアトリさんでしょ」
「なぜ分かった」

 ネーブルも俺の心が読めるのか!?

「ユメの顔に書いてあったから」
「へ? 俺の顔? ん? うそ?」

 気になって鏡を見るが、書いてあるはずがない。

「ふふっ、真に受けているユメ可愛い」

 そうネーブルはからかうようにして、背後から抱きついてきた。……す、すごいモチモチの感触がっ。そんな状態で耳打ちが。

「……ここ最近見られなかった魔神の動きが活発になっているわ。メイちゃんが言っていたけど、魔界に大規模な地殻変動ちかくへんどうがあったらしい。なにかの前兆かもね……」

 ほう、魔界・・にね。
 宇宙そらに魔神の根城があるから関係は薄いはず。だけど、それは気になるな。魔界ではいったい何が起きているのだろうか。
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