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第40話 防衛値・限界突破

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 あとでネーブルから教えて貰ったのだが、パラドックスの防衛値は限界突破・・・・してしまったらしい。いや、していた。

 防衛値の最大『9999』を突破することは、本来は不可能。しかし、なんの奇跡か『12000』という驚きの数値まで上がっていた。それを見たとき、俺は「ああ、このおかげでネーブルたちは合流出来たんだな」と納得した。

 あの覇王との決戦の時、かなりの危機的状況であった。

 でも、圧倒的な防衛力がモンスターを駆逐したのだ。だから、あのタイミングで国中のみんなが集まってこれた。ちなみに、いきなりみんなが現れたのは師匠マスターの、グレイスの『超ワープ』スキルのおかげだ。
 あんな大人数を一気にワープさせるなんて、さすがである。


 ――とまぁ、ここまで情報整理していると、いよいよ頭に血が上ってきた。俺はなぜか全身をロープでグルグル巻きに縛られ、ほどよい木に宙吊りになっていた。

「どうしてこうなった……」
「だって、こうしないとユメが連れ去られちゃうんだもん」
「だからってなぁ、ネーブルよ」

 宙吊りになっている俺を、ネーブル、ゼファ、フォースが見ていた。
 さきほど、国中の若い娘さんが俺に殺到したからだ。デートやら求婚やらいろんな申し込みがあった。う~む、困った。俺の体はひとつしかない。

 なんて、考えていると――。

「あの~、突然で申し訳ないですが、お邪魔します」
「うわっ、誰!?」

「私は『ブリュンヒルデ』と申します。長ったらしいので『ヒルデ』とお呼びください」

 ネーブルの背後に少女が立っていた。
 それも、とびっきりの美少女。あれ、こんな娘いたっけなぁ? あんな可愛い容姿なら忘れるはずがないのだが。

「で、そのヒルデさんが俺の家に何の用だい」
「ええ、その……あの、逆さまで苦しくないんですか? ユメさん」
「ああぁ、忘れていたよ。さすがにもういいだろう」

 俺はロープを筋力だけで破った。

「わぁ、すごいですね。あの覇王を倒しただけはあります」
「それで用件は?」
「……はい。実は、その、アトリ……姉が昨晩、失踪したのです」
「行方不明なのか。それとも昨日の戦いに巻き込まれたか……」

「いえ、昨日の戦いは関係ありません。姉は睡眠時遊行症すいみんじゆうこうしょうなのです。ですから、今この国にいるのかすら分かりません」

「なにそれ~?」

 魔法で遊んでいたフォースがちょっと興味を示した。

「夢遊病な。寝ているにも関わらず体が勝手に動くんだよ」
「ふーん……あたしはねむーい」

 本当に眠そうに欠伸あくびをするフォース。おいおい、お前はロングスリーパーだろう。毎日10時間寝ている怠け者魔法使いである。今のあの眠気は『ナルコレプシー』かもしれんな。

「すでに寝落ちしているフォースは置いておくとして……。分かったよ、ヒルデさん。力にはなるよ」
「ほ、本当ですか!? 嬉しいですっ! 私ひとりでは、もうどうしたらよいか分からなくて……本当にありがとうございます」

「いいよ。この国の住人である以上は、誰であろうと助ける。それが俺の責務だ」

 この前の戦いでは、みんなの力にも助けられた。
 だから、お互い様ってわけだ。

 うんうんと納得していると、ゼファが口を開いた。

「あの」
「ん、どしたの」
「いえ、ユメ様でなく……ヒルデ様。あの、失礼ですが、お姉様のことだけではありませんよね」

 全てを見透かしたかのような聖なる瞳がヒルデを捉えていた。あんな風に見られたら、俺は嬉しいねっ。

「……はい。助けてもらってから言うつもりでしたが、実は……姉は魔神のある秘密・・・・を知ってしまったんです」

「なに!? 魔神のある秘密? そりゃ、気になるな」
「姉を見つけ出して戴ければお教えします。ですから、お願いです。どうか、姉を」
「よし、分かった。その魔神の秘密とやらも気になるし、まずは国中を探してみるか。となると、ヒルデさん。ちょっと握手してもらえる?」

「え……はい」

 恐る恐る手を差し出すヒルデ。
 彼女の手は百戦錬磨ひゃくせんれんまの勇者あるいは戦士のような、そんな力ある手をしていた。これは……只者じゃないな。この少女。

 そっと握り、俺は目を閉じた。

 ソウルフォースにバランスの全てを集中させ、過去イテ現在ミサ未来エストを繋いだ。なるほどね、ある程度は読み取れた。


 あとは、国を繋ぐだけ。

 俺は空いている片方の手を地面に押し当てた。

 そうして、彼女の姉・アトリの存在を感じ取った……のだが。


「いないか。この国にはいない」
「え……それで分かるんですか、ユメさん」
「まあね。となると、国外に出たか……はーん。大方、風の帝王の使った裏ルートで出て行ったか……。そろそろ、泳がしていた魔神を潰すか」

「ユメ、やるのね」

 黙って事の成り行きを見守っていたネーブルは、真剣な顔で俺を見た。そりゃいいんだが……。

「ああ、もう裏切者は分っているしな。てか、ネーブルよ、そのミニスカメイド服気に入ったのか。今朝からずっとそれだな」
「……う。だって、ユメが好きそうだったから……」
「嫌いではない。むしろ、しばらくはそのままでいて欲しい。……おっといかん、つい欲望が。ネーブルのメイドは後で堪能するとして、ヒルデさん。とりあえず、捜索クエストを受けるとしよう。報酬として、魔神の秘密は必ず教えてくれ」

「もちろんです。……では、私は一度、家へ帰りますね」

 ぺこっと頭を下げて、ヒルデは去った。
 ……姿勢がよくて礼儀正しく、武士道精神のようなものすら感じた。いや、間違いなく彼女は『戦士』である。ソウルフォースで見て取れたあの輝かしい栄光。

 今度、キャロルにヒルデの武勇伝を聞いてみるとしよう。


 ◆ ◆ ◆


 魔神王・サトゥルヌスは不気味に笑っていた。
 世界が混沌に落ちかけていたが、ある闇使いによって阻止されたからだ。混沌は、魔神王を利用していたようだが、魔神王は自分こそが混沌を利用してやったのだと――所詮は、多元宇宙マルチバースすら理解していない下等生物なのだと吐き捨てた。


『――――我が魔神たちよ、今こそ世界を破壊し、支配するのだ」


 【Einsアインス】ミマス
 【Zweiツヴァイ】エンケラドゥス
 【Dreiドライ】テティス
 【Vierフィーア】ディオネ
 【Funfフンフ】???


 1~5番目の魔神が一斉に飛び出した。


 しかし、魔神王は知らなかった。
 この時、魔神よりも恐ろしい第三の敵が現れようとしていたのだ。


 世界に、全てに裏切られた悪夢・・が動き出す。
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