上 下
39 / 177

第39話 楽園

しおりを挟む
 星が落ちてきそうだった。
 エメラルドグリーンのオーロラがかごとなって、星を揺らしているようにも見えた。あの幻想的な光と同等の瞳が俺をずっと見ていた。

「……フォース。俺じっと見つめてくれるのは嬉しいけど、その、なんだ……そう密着されるとね、動けないっていうか。いや、嬉しいけどね」

 ただ、問題なのはバスタオル一枚なこと。
 かなり危ういけど、それはネーブルやゼファも一緒だし、まあいつもの光景といえば、いつもの光景。すっかり慣れた。

 しかし、こうも身を委ねる形で密着されるのは初めてかもしれない。さすがの俺もドキドキして、心拍数もかなり上昇していた。

「…………」

 小さな魔法使いは何も答えなかった。
 ただ瞳で「ずっとこうしていたい」と訴えてくるだけだった。ので、俺は仕方なく、そうしていた。まあいいか、ネーブルは屋根に飛び乗って星を眺めているし、ゼファは隣で酒を楽しんでいた。

「ユメ様。ご一献いっこんどうぞ」
「……ありがとう。こんな星空の下で飲む酒は最高だなぁ」
「そうですね~。ここは他の国と違って、夜空が素晴らしいです。ですから、ずっとこの国を存続させていくべきですよ。ねぇ、フォースちゃん」

 こくっとうなずくフォースは、やっと口を開いた。

「まだ魔神は残ってる。この国を守るためにあたしも頑張る」
「はい、わたくしも全力でお守り致します。……ですので、フォースちゃん。そろそろ、ユメ様を――」
「ゼファもこっちに来ればいいよ」

 と、フォースはゼファを手招きなさった。

 え……。

「ちょ、ゼファ! マジ!?」
「……フォースちゃんばかりズルいですから、わたくしもっ」

 あのウルトラナイスバディのゼファが密着してきた。俺の腕が大きな胸によって挟まれ、包まれ、形を変えていた。……ばいんばいんと。

「…………っおう!? ゼ、ゼファ……そそそそそれは、いくらなんでも大胆つーか、やばいって……! うわぁ……」
「ふふっ、あとお耳を拝借はいしゃくしますね……」

 ゼファの顔が接近してくると、俺の右耳をはむっとしてくれた。

 うあぁ…………なんて破壊力だ。どうかなりそうってか、もうどうかなっている。このまま死んでもいいかも。そう思えるほどに、ぞくぞくっとしてびくびくっとした。

 負けじとフォースも今度は、俺の左耳をはむっと、あの小さな口で挟んできた。……それはやばいって!! あんな小さくて桜色の唇ではむはむされたら、俺は……俺は。

「………………う」

 顔が熱い。
 いや、全身が熱い……。

 ていうか、なんでどうして、こうなった。

 右にゼファ、左にフォース。
 二人が俺の耳をはむはむ~~~~~~~~~~~~~!!!!!


 そこで俺は頭が真っ白になって――――気を失った。


 ◆


 意識を取り戻すと、ベッドの上にいた。

「俺の部屋か……う、頭が痛い」

 気を失っていたらしい。
 なにがあったっけ。とても素晴らしい楽園で過ごしていたような気がするが……なぜか思い出せない。一時的な記憶障害だろうか。それとも夢?

「ユメ」
「あれ、この声はネーブルか……って、うわっ! 下着姿で隣に寝てるし」
「あははは……ごめんごめん。ほら、今日はわたしと寝るって約束だったし」
「ああ、そりゃそうか。分かった。じゃ一緒に寝よっか」

「うん。あとね、一応言っておくけど~ちなみにこれ、パジャマだから」

 嘘だろ……。
 そんな下着も同然なパジャマがあってたまるか……!

 まあ、いいか。


 やれやれとネーブルと視線を合わせていると、なぜかニヤリと笑っていた。


「ん、どうした、ネーブル」
「……はい、これ」
「へ……これって、うわっ!! これ、お前のパジャマじゃ……あれ、てことは、今は……む!?」
「えへへ……」

 えへへ、じゃない。
 俺の掌には、ネーブルのパジャマ・・・・上下セットが乗っかっていた。大事なことなのでもう一度。これはパジャマである。

 つまり、今のネーブルは……。


「見たら怒るからね」


 とか言いつつも、ネーブルは密着してきた。
 柑橘かんきつ系のサッパリした良い匂い。薄っすら見える健康的な肉体。ひとつも欠点はなく、ただただ見ほれるほどに美しい。どうしたら、あんなキュっと引き締まった体になるのだろうか。まさに女性の神秘。あとなんといっても、ゼファの胸を超える巨乳なのである。必然的にそちらへ目が向けられてしまうワケでして――。

「ばか……」
「仕方ないだろう。この至近距離だし」
「そ、そうだよね。ユメだってそういうの興味あるよね」
「そういうのってなんだよ」
「う、うるさい……。大体、ユメはどーしてわたしもだけど、フォースやゼファに手を出さないのよ。す、少しくらいいのよ……触るくらい」

「いやいや、触ろうとすると怒るじゃん。ネーブルは胸、フォースはお尻、ゼファは……なんか聖女で触りづらいし、なんかこう禁断つーか、あえて逆鱗に触れたいのだけど、触れられない切なさ……分からないかなぁ」

「なにそれ……」

 理解できないと、ネーブルは少し引き気味だった。

「ま、今のでも十分嬉しいよ。生まれたままのネーブルと一緒に寝られるとかさ、今日が初めてだし……これでもかなり緊張しているんだぜ」
「そ、そうみたいね。心音が凄いし……わたしもだけど」

「と、とにかく寝るか。……あとな、隣より上に覆いかぶさるようにしてくれる方が嬉しいけどな。それくらいいだろ?」

「う、うえ!? …………分かった。でも、ヘンなところ触らないでよね」
「ああ、それは約束する」

 ゴソゴソとネーブルは動き出し、上になった。

 顔が良く見える。

 美しい体も。



 今宵は良い夢・・・が見れそうだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...